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アリシアとセレスがおっさんのところに来てから1ヶ月が経った。

二人とも段々とここでの暮らしに慣れてきたようで、表情が柔らかくなってきように思える。

あれからアリシアに「魔王に無事を連絡しなくて良いのか?」と聞いたところ、「妾の魔力では念話をそんなに遠距離までとばせないのじゃ」と言ったので、「おっさんが念話スキルを習得して、アリシアの魔力を増幅しようか?」と提案したら、「そんなこともできるのじゃ? もう驚くのも疲れたのじゃ・・・」と漏らしていた。

そんなに驚くことかね。あとで聞いたところ、魔力増幅自体は一般的な技術だが他人の魔力に波長を合わせて増幅することは、かなりの高等技術らしい。

おっさんが魔力増幅して魔王に連絡は取れたので、アリシアは自分達の無事を伝えた。魔王は非常に安堵して胸を撫で下ろしたようだった。魔王からはアリシア達以外の護衛対象が無事であったこと、上層部の裏切り者で尻尾を掴んだ何人かを処分したことが伝えられた。その際におっさんからついでに「次におっさんを厄介ごとに巻き込んだら魔国の敵に回るかもしれないから、肝に銘じておいてね♪」と、伝えたら念話ごしに物凄い勢いで謝罪されました。釘を刺したから、もうおっさんを当てにすることはないだろう。最後に温水洗浄便座の話をしようとしたので、念話を一方的に切断してやった。

この1ヶ月の変化としては、アリシアが洗濯物を畳めるようになり料理に挑戦し始めた。何故だか知らないが家事スキルの習得に意欲を見せている。

セレスはおっさんが元の世界で小学校の頃に使用していた、うろ覚えの教科書を参考に作った書籍でお勉強を頑張っている。

そして一番の変化と言えば、おっさんの早朝トレーニングにアリシアが参加を申し出できたことだ。もちろん秒で却下しましたよ。何でって? だって熊師匠をはじめとする森の猛者達とコミュニケーションが上手くとれないイコールおっさんが教えるという流れになるじゃん。おっさん人にものを教えるの苦手だし、まだそんなレベルに達していません。

それでもしつこく食らいついてくるので、熊師匠に助けを求めたら「魔法での中遠距離戦ならノーライフキングに相談してみたら?」と助言を頂けたので、ノーライフキング先生に相談してみたら「暇潰し程度になら構わない。ただしやる気がなさそうならすぐにやめる」とおっしゃった。

アリシアにそのまま伝えたところ、ノーライフキング先生のところに行き「よろしくお願いしますなのじゃ」と頭を下げていた。

で、何故おっさんの横で髪をアップに纏めてジャージ姿で入念なストレッチをしているのかというと、ノーライフキング先生から「魔法に頼ることは悪いことではない。しかし体が貧弱すぎる。まずは体を鍛えてある程度の近接戦闘にも耐えられるようにしろ」と言われたそうだ。

なのでここ1ヶ月は筋トレ広場でウサちゃんズに混じって、一緒に筋トレをしている。

初日に身体強化魔法を使用したので「身体強化魔法は禁止だよ。己の肉体を鍛えて地力を上げるのが目的なんだから」と言ったら、「そんななのじゃ・・・」と嘆いて絶望的な表情で膝から崩れ落ちていた。

初日は5㎞のランニングにへばり、腕立て、腹筋、背筋、スクワットをそれぞれ10回くらいしか出来ずにダウンしていた。

「初日からこれで明日以降大丈夫なのか?」と思ったが、翌日以降は筋肉痛に苦しみながらも徐々に馴れていきこなせる回数も増えていった。その間一度も弱音も愚痴も吐かずに黙々と頑張っている様子を見ていたウサちゃんズの女性人が、途中から色々とアドバイスをしてくれるようになり徐々に受け入れられていった。今では自重のトレーニングだけでなく、器具を使用したトレーニングや手加減してもらっての組手なども行っている。

1ヶ月でここに来た当初より見るからに体の切れが良くなった。着々と成果が出ているようだ。そうさ、筋肉は決して裏切らない!

この頃から早朝~午前中は筋トレと家事スキル向上、午後はノーライフキング先生の魔術指導にカリキュラムが変わった。コミュニケーションが取れるのか心配だったが、何とかなっているようだ。 

ちなみに、おっさんがノーライフキング先生に教わる日はアリシアは自主練になる。おっさんとは教わっている内容が異なるためだ。

おっさんとアリシアが早朝トレーニングをしている間は、セレスは朝早いためもちろん眠っている。それに虎鉄も小雪も朝練に行ってしまうので必然的に一人になってしまう。そのことをセレスに説明したら、くまのぬいぐるみを強く抱き締めて「だいじょうぶなのです。ひとりはなれてるのです」と言われてしまった。その際アリシアが複雑そうな顔をしたのをよく覚えている。

これは一人にしない方が良いと感じたが、早朝トレーニングに一緒に連れていくワケにもいかないし。どうしたものかと考えていると、熊師匠がやってきておもむろにセレスを抱っこした。

「わあ~おっきなくましゃん、こんにちはなのです」

セレスの表情が一気に明るくなった。

「熊師匠、どうかしましたか?」

「ぐぅあ~ぐぁ」

「え、それは助かりますが流石にそこまでご迷惑をお掛けするわけには・・・」

「ぐぁ~ぐぁぐぅ」

「わかりました。では、御言葉に甘えさせて頂きます。ありがとうございます」

おっさんが頭を下げてお礼を言うと、内容を理解していないはずのアリシアも何故かおっさんの横で頭を下げていた。さらにはセレスも「ありがとうごじゃいます」と熊師匠にお礼を述べていた。

あとでアリシアに熊師匠とのやり取りの内容について聞かれたので、説明した。

要約するとおっさん達が朝練している間、セレスの面倒を熊師匠をはじめとする森の猛者の方々が交代でみてくれるということだ。日替わりで最強のボディーガードがつくようなものだ。

アリシアは最初は不安そうだったが、熊師匠や森の猛者の方々になつくセレスの姿を見てお願いすることに納得したようだった。

ちなみに今日のセレスの相手をしてくれているのは、デュラハンのデュラちゃんだ。

デュラちゃんは首なしの 騎士である。片手に自らの首を持ち、首のもとあった付け根からは煙のようなオーラがでている。赤黒い鎧を全身に身に付け、片手に持った頭部もフルフェイスで覆われている。故におっさんはお尊顔を拝見したことがない。

デュラちゃんは身長165~170㎝くらいの女の子である。どうして女の子だとわかるかって? 鎧の胸部が膨らんでいたからです。

デュラちゃんはおっさんの剣術の指南役でもある。デュラちゃん的にはおっさんもにっと剣を使用して欲しいらしく、おっさんが斧ばかり使っていると首からのオーラの色が変わり悲しみをこれでもかというくらい全面に出してくる。

なので最近は 剣の使用頻度が増加気味だ。そろそろおっさん専用の剣を真面目に作らないとな~流石に間に合わせのものでは耐えられなくなってきた。

お互いに入念なストレッチを終えて、それぞれの筋トレメニューをこなすため別れる。

「またねなのじゃ!」

アリシアは元気よくおっさんに挨拶をして、さっそくランニングを始めた。なんか訓練を始めてから、アリシアが若返っていくような気がするんだが・・・勘違いか?

まあ、おっさんには関係ないか。おっさんも朝練に集中しないと。重要なのは筋肉との対話だ。筋肉の声に耳を傾けるんだ。そして感じろ。

筋肉と対話しているうちに、組手前のアップの役割もある筋トレが終了した。

軽く伸びをして体をほぐして、筋トレ広場の開けた場所に足を進める。

そこにはおっさんの好敵手が座禅をして、精神統一をしている最中だった。

おっさんの気配に気がついた好敵手が、座禅をやめて立ち上がる。

おっさんの方に体を向ける好敵手。

その姿は普通のウサちゃんズより少し大きめの体躯、金色の体毛、そして額から生えた黒い螺旋状の角。

彼がおっさんの好敵手ことアルミラージのアルくんです。アルくんはウサちゃんズの一個体が進化した姿だ。つい一週間前に組手の後にいきなり進化したのだ。

おっさんと組手をするウサちゃんズは毎回違う個体だった。しかしいつの頃からか毎回同じ相手になっていた。理由は定かではないがおっさんに何か通じるものがあったのか、はたまた対抗心か。どちらにせよ今では良きライバルだ。

向かい合って礼をする。アルくんとの組手は魔法禁止で真に己の肉体のみでの勝負だ。この一瞬だけは燃えてくるぜ。おっさんのキャラじゃないけどね。

先手必勝。前方に思いきり踏み込んで右腕から渾身のストレートを放つ。アルくんも全く同じことを考えていたようで、二人の右拳が激突する。大きな破裂音の数秒後周囲に猛烈な衝撃波が発生する。

拳を合わせた状態から前方でお互いの手を組んで、力比べをする。

力が拮抗しているため二人ともその場から動かないが、周囲には力の力場が発生しているため地面に亀裂がはしり始める。

だが拮抗は崩れていく。おっさんが徐々に後ろに下がっていく。はい、完全に力負けですね。

お互い両手が使えないので、おっさんは右足でアルくんの顎を狙う。

アルくんは組んでいた両手を解き、ステップバックで回避して、おっさんの軸足になっている左足にローキックをかましてくる。おっさん回避不能。

ここは素直に食らうしかないな。軸足を払われ空中に無防備に浮くおっさん。その腹にアルくんが掌底を放つ。腹筋に力を入れろ!

「ドゴンっ」という重低音が響き渡り、数十メートル吹っ飛ばされ木に激突する。

「かはっ、げほ」

これは内蔵がやられたかな? 肋骨も何本かいったな。超速再生に頼りたくはないが、こればかりは仕方がない。動けるようになること優先だ。

回復が完了したので元の位置までゆっくりと戻る。

アルくんが仁王立ちして待っている。お待た~せっ!

一気に距離を詰めて右腕を振りかぶって顔面を狙う。アルくんがガードの姿勢をみせるがそっちはフェイントだよ。右腕の動作を途中でキャンセルして、左にステップしてボディを穿つ。

アルくんがくの字に折れ曲がる。続けて同じ箇所にもう一撃お見舞いする。更に体が折れ曲がり空中で無防備になる。

「さっきのお返しだ!」

体を回転させてバックハンドブローを食らわす。さっきのおっさんよろしく同じように吹っ飛んでいく。

ざま~。年を重ねても大人気ないおっさんです。

アルくんが戻ってくる間に呼吸を整える。いつでも動けるように神経を研ぎ澄ます。

アルくんがゆっくりと戻ってくる。おっさんの前まで戻ってくると自分の肩の土埃を払うように片手で「ぱしぱし」とはたく。ほとんどダメージなしですか。

向かい合うとステップを踏み始め、構えて互いに自分の迎撃体制を整える。

ジリジリと距離が詰まっていく。アルくんの左肩がわずかに動き出した瞬間に、おっさんが先に左のジャブを放つ。

体を沈めてかわすアルくん。今度はアルくんが左を放つ。そこからは左の差し合いだ。

互いに一発も当たらない。しばらく続くかと思われた攻防はアルくんの飛び膝蹴りで終わりを告げる。

とっさに両手を前に組んでガードしたが、アルくんはガードの上からお構いなしに蹴り込んできた。

ガードを崩されおっさんの上半身が後ろに倒れる。もちろん追撃にくるアルくん。だが、そうは問屋が卸さないっと。倒れながら半身を捻り左手を地面につきその反動を利用して下から右の蹴りを放つ。

これは流石に予想外だったらしく、綺麗にアルくんの顔面をとらえた。アルくんの頬骨を砕く感触を感じる。手応えあり!

アルくんがたたらを踏んだ。ようやくダメージらしいダメージが入ったな。

しかしすぐにアルくんの頬から煙が出始める。超速再生とは異なる超自然回復。もう怪我が治りかけている。進化したことでさらに回復能力が向上したな。厄介な。

「コキコキ」と首を鳴らし、口をパクパクしている。どうやら完治したようだ。

「ぷうぷう」

アルくんが「きいたぜ!」みたいな感じで 自らの鼻を親指で弾く。

気を抜いていていたワケではないが、一瞬で懐に入られ右組の状態になる。おっさんの体勢が前方に崩される。おっさんの内腿をアルくんの内腿が跳ねあげる。そしてそのまま投げられる。

ここにきてまさかの柔道技「内股」を繰り出してくるとは・・・恐るべし。

投げられている最中にそんなことを考えながら、見事に投げ飛ばされる。

ちなみにこの世界での格闘戦では主に打撃系の攻撃方法が主流で、投げ技や絞め技はあまり知られていなかった。

ある日おっさんがウサちゃんズに投げ技や絞め技を披露すると、物凄い興味を持ちすぐに吸収して己のものとしていった。 今では格闘戦に遺憾なく取り入れています。

投げ飛ばした流れでおっさんの上腕部を両脚に挟んで固定しようとしている。まさか腕挫十字固を決めようとか考えていませんか? アルくんが「ニヤリ」と笑った。冗談じゃない。

とっさに両足を開き回転させて遠心力を発生させる。ブレイクダンスのウインドミルのような動きでアルくんを吹き飛ばす。

お互いすぐに立ち上がり、ハイキックを放つ。両者のハイキックがぶつかり合い衝撃波が周囲に広がる。足を下げて次の攻撃に移ろうとすると、アルくんが先に正拳突きを打ち込んでくる。体勢が悪いので肩で受け止める。 衝撃で少し後退するがそれ以上の勢いで前方に踏み込んで、アルくんの胸板に水平チョップを決めてやる。やられたらやり返す。

もちろんそれはアルくんも同様ですぐさま左のジャブを放つ。おっさんはスウェーでかわそうとすると、直前で左のジャブが止まり右のストレートが飛んでくる。

スウェーではかわしきれないので左腕で払うがその間にもさらに間合いを詰められ、左のショートアッパーを顎にもらってしまう。

「ゴキっ」という骨が砕ける音がした。だがおっさんもただ顎にもらったワケではない。ショートアッパーが顎に直撃する刹那に、リバーブローを入れてやった。

互いに攻撃は入ったが、おっさんのリバーブローはとっさに打ったので入りが浅く威力不足だ。故にアルくんの方が立ち直りが早い。しかもおっさんは顎にもらったため脳が揺れてまだ体が動かない。

先に体勢を立て直したアルくんがおっさんの背後に回り、腰を両腕でクラッチする。

あーこれフィニッシュするつもりだよ。いまだに頭がクラクラしているから抵抗できない。終わったかも。

アルくんはおっさんを後方へと反り投げ、ブリッジして固めた。いわゆる「ジャーマン・スープレックス」だ。まともに食らいました。おっさんもうヘトヘトです。

幻聴か・・・どこからかレフェリーのカウントが聞こえる。

「ワン、トゥー、スリー!」、「カンカンカンカン!」高らかにゴングが打ち鳴らされる。

これも幻聴・・・じゃない。観戦しているウサちゃんズがゴングを鳴らしているよ。さらには観戦中のウサちゃんのズ中から数人がやかんとタオルを持ってこちらにやってくる。ねえ、そのゴングとやかんはどこから入手してきたの? おっさん作った記憶ないんだけど。

渡されたやかんの中には適度に冷えた水が入っていたので、ありがたく頂くことにする。

「ゴクゴク」。あ~美味い。水が体に染み渡る。横にいるアルくんにもやかんを渡すと、良い飲みっぷりでがぶ飲みしていた。タオルで汗を拭いて、持ってきてくれたウサちゃんズにお礼を言う。

さて、傷も癒え体力も回復したので立ち上がろうとするとアルくんが手を差しのべてくれた。

御言葉に甘えてその手を掴んで、地面に座りっぱなしのおっさんを引き上げてもらう。あんがと。

もしおっさんが池の中に水没していたら、道連れにしてやるのに。

立ち上がって向かい合うとお互いの肩を軽く叩きあい、健闘を称えあう。

「またおっさんの敗北か・・・そろそろ一勝くらいはしたいな」

「ぷうぷう」

「でもダメージはくらったよ?」みたいに自分の砕かれた頬を指差す。

「無防備な状態で直撃してやっとじゃん。もっと普通の攻防戦で少しでもダメージを食らわせてみたいよ」

おっさんが愚痴兼希望を言うと、アルくんは顔の前で人差し指を左右に振り「100年早いよ♪」みたいに意地悪な笑みをした。クソ~いつか目にもの見せてやる。

二人でストレッチをして体をクールダウンして、浴場に汗を流しに行こうと前を歩くアルくんの背中を見ておっさんは閃いた。ふふふ、チャ~ンス。

アルくんの背後に細心の注意を払い近づき、脇の下をコチョコチョしてやった。

「§‰℃¥¢@+〒Ω※!」

アルくんが声にならない悲鳴をあげる。おっさんしてやったり。

そのまま浴場まで全力で逃げる。後ろから微妙に怒ったアルくんが追いかけてくる。

おっさんとウサギの追いかけっこ。

今日もおっさんの日常は平穏です。


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