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21.5 -side アリシア-

奈落の樹海から帰還してからはや半年、ヒューマン国との戦争は今は均衡状態が続いておる。だがそれは勇者が投入される以前の話じゃ。勇者の実力がどの程度のものかは皆目検討がつかぬが、奈落の樹海にいるおっさん殿クラスであることはないと思いたい。じゃが、常に最悪を想定して対応策を考えておくことは大切じゃ。

ヒューマン国に潜んでいる密偵からの報告によると、召喚された勇者は4人。いずれも年若い者達らしいのじゃ。密偵からの情報から推測すると、おっさん殿と同じように比較的争いがない世界から召喚されたようじゃ。さらに剣や魔法が存在しない世界だったらしいのじゃ。

勇者の成長速度、所持しているスキルがどれ程のものか分からぬが、おっさん殿と同じく争いごとのない世界から召喚されたとするなら、色々と付け入る隙はある。極限状態での命のやり取りをしたことがないあまちゃんなら、戦闘時に致命的な隙も生まれやすいじゃろう。目の前で命乞いなんてしようものなら、かなりの起死回生の効果を期待できるじゃろう。そしておそらく政治的なやり取りにも疎いじゃろうから、成長前の今なら楽に始末できる。まあ、話し合いが可能ならしたいところじゃが、召喚元のヒューマン国の王族達が妾達との接触を許さんじゃろうしな・・・あ~考えすぎて頭が痛いのじゃ。そのうち知恵熱でも出るのではないじゃろうか? 「妾は参謀でもなんでもないのじゃ~」と、部屋の窓を開け放ち外に向かって叫ぶと、眼下の王城の使用人と兵士達が一斉にこちらを向き「またか」と言う表情をする。何人かの妾の熱烈なファン達が「そうですね~!」と大きな声で返答してくれる。返答に感謝して手を振る。妾はファンを大事にするのじゃ。

数ヵ月前から計画していた、魔国の膿を少しでも減らすために立案した「囮作戦」をいよいよ実行に移す日が近づいてきた。本当はフリだけで実行に移す気はさらさらなかったのじゃが・・・あの貴族や大臣の豚どもが余計なことを言いおったからに。

な~にが「自分達の子供も避難させろ。万が一のために王族だけでなく我々の高貴な血筋も残すのだ!」じゃ。高貴な血筋じゃなくて薄汚い血筋じゃろうが。国の利権と自分の立場にすがるクズどもの分際でなのじゃ! 自室の椅子を八つ当たりで蹴ったら足の小指が~なのじゃ。むう・・・最近悪いことばかりなのじゃ。もっと良いこともあって欲しいのじゃ。

魔国から要人の子供達を避難させる当日、今回は流石の妾も大人モードの姿で行動するのじゃ。貴族や大臣達がつけた護衛の中に何人裏切り者の息のかかったヤツがおるのかわからん状況じゃ、常に周囲に神経をはっておかねばなのじゃ。しかし作戦立案組だとしても、妾はこれでも年長者じゃからもう少し労って欲しいのじゃ。

避難は魔国の上層部しか知らんため国を出発するのは深夜、それも隠し通路の1つからじゃ。子供達が親と抱き合って別れの挨拶をしておる。下手をすればこれが今生の別れになるかもしれんのじゃから、当然じゃな。なのじゃが、あのバカものが! 娘の出発を見送りに来んのか。妾の隣でまだ幼いセレスがぬいぐるみを抱き締めながら、眠そうに目をこすっている。いくら魔王や王妃、魔大使という立場があるとはいえ囮として不安な娘の心情をもっと理解し心配しろなのじゃ。そんなことを考えていると服を引っ張られる。

「ありしあ、わたしはだいじょうぶだよ」

妾の顔を笑顔で見てそう言うセレス。また、無理に笑顔を作っておるな。全くこの子は・・・

膝をおってセレスを抱き締める。

「そうじゃの。妾とセレスが一緒なら最強なのじゃ」

そう声をかけて頭を撫でる。

セレスは赤子の頃から妾が面倒をみておった。両親や兄が立場上、多忙だったため妾が常にセレスの側におった。

赤子の頃は大人モードで面倒をみて、ある程度成長してきたら省エネモードの子供の姿になり一緒に遊んだ。セレスは妾が育ててきたようなものじゃ。故に見送りに来ないあやつらに珍しく怒りが湧く。

ふーふー落ちつくのじゃ妾。この作戦が無事に成功したら、あのバカどもの脳天に拳骨を落としてやるのじゃ。

事前に物資を詰めた魔法袋を持ち、子供達にローブを被ってもらう。敵から誰が誰だかわからなくするためじゃ。敵の最大のターゲットはセレスじゃろうから、少しでも目を欺くためじゃ。

出発して数刻でヒューマンの部隊に捕捉された。

「捕捉されたと言うよりは、これはむしろ待ち伏せされたが正しいじゃろうな」

子供達を守りながら敵を迎撃する。通常なら目の前の敵だけに集中して背中は味方に任せれば良いのじゃが、今回はその味方の中にも敵がおるようなものじゃから、流石にきついのじゃ。

何本目かのマジックポーションを一気飲みして周囲を見ると、気づけば妾とセレスだけ分断されてしまった。やはり目的は魔王の娘であるセレスか。

他の者達は最後に見たとき、魔国方面に向かっておったからおそらく大丈夫じゃろう。敵の大部分はここにおるしな。自虐的な笑みをしながら、眼前の敵に魔法を放つ。

爆炎が晴れるとそこには多少のダメージしか負っていない敵の姿があった。

「ほとんどダメージが通っておらんのう。流石は対魔法装甲じゃな。妾にとっては天敵そのものじゃな」

妾の得意な攻撃手段に対する対抗策に、多人数による包囲と長時間戦闘による消耗戦。意地でもセレスを確保するという作戦じゃな。敵の本気具合が色濃く滲み出ておるな。

軽口もこの辺りでやめて、今後の方針を考えねばな。セレスに防御結界を張りつつ自身に身体強化魔法。

セレスを抱えて移動しつつも敵への対処。流石にこれを長時間続けるのは無理じゃな。

この距離から魔国に戻ることは不可能じゃな。かといって避難予定じゃった獣人国方面に行きたいが、そちらの退路にもおそらく待ち伏せがおるじゃろうしな。

敵の数は減らぬが、妾のマジックポーションはどんどん減っていくと。マジックバッグにある残り本数も心もとないのじゃ・・・どうしたものかのう。

敵に退路を絶たれ一方向に誘導されていく。打開策が浮かばないまま敵からの絶え間ない攻撃にさらされ、徐々に疲弊していくなか誘導され追い詰められて辿り着いた場所は意外な場所じゃった。

「ここは・・・奈落の樹海か? これほど近くに来ていたのに気づかなかったのじゃ。ふふ、余裕がない証拠じゃな。半年前におっさん殿に出会うまでは恐怖の代名詞のような場所じゃったか、今は何故か懐かしいのう」

疲弊してきた影響か、結界の精度が下がってきておる。そう言えば敵兵の矢が肩に命中しておったな。セレスを守ることを優先するあまり、すっかり忘れておったわ。

自分の肩に刺さっている矢を力任せに引き抜く。その際、激痛で声が漏れそうになるが唇を噛んでこらえ治癒魔法で回復する。

矢に毒物が塗られておらんかったのが、今日唯一の幸運じゃな。

「ありしあ、だいじょうぶ?」

矢を抜いた時の苦悶の表情を見ていたセレスが、涙目で妾を見つめている。

「大丈夫じゃよ。妾を誰だと思っておる?」

セレスに笑みを向けて余裕がありそうな雰囲気で答える。実際は余裕がない妾自身への鼓舞だったりするのじゃが、セレスには内緒じゃ。

気がつくと奈落の樹海の入り口に到着していた。目の前には奈落の樹海、背後にはヒューマンの部隊。

敵は妾を追い詰めたつもりなのじゃろうが、妾からしたらお主達も下手をしたら国ごと消滅される可能性があるのじゃぞと内心ほくそ笑む。ここで騒ぎを起こして樹海の深層のおっさん殿の平穏を邪魔してみろ、最悪の場合全ての国が滅ぶことになるのじゃぞ。

そんなこととは露知らず、ジリジリと妾達を包囲するヒューマン達。残りのマジックポーションはとうとう最後の1本。

瞳を閉じて思考する。ここでこやつらに捕らえられるくらいなら、一か八か賭けにでるのじゃ。

最後のマジックポーションを一気に飲み干す。もう妾のお腹は水分でタップンタップンなのじゃ。

残りの全魔力をこの一撃にこめる。妾の魔法攻撃に対応するために、対魔法装甲を全身に纏った部隊がさらに盾を構えて万全の防御姿勢で前面に展開する。

そんな敵にはお構いなしに妾は最大の攻撃魔法を放ち、対魔法装甲ごと蒸発消滅させる。

妾達を包囲していた敵兵が今の一撃で全て消え去る。全身の魔力を使いきったため、極度の倦怠感が襲ってくる。何とか膝に力を入れて周囲の索敵を行う。どうやら今のところ増援部隊が来る気配はない。

セレスがふらつく妾を心配して抱きついてくる。「大丈夫じゃ」と頭を撫でる。

後続部隊が来る前に、何とかしておっさん殿に連絡を取らねばならんのじゃ。しかしおっさん殿との対話を一歩でも間違えば、竜の逆鱗に触れるようなものじゃ。妾達の生命だけではなく魔国まで危険にさらしかねない。これは本当に賭けじゃ。

妾自身に渇を入れて奈落の樹海の入り口から「おっさん殿~!」と、あらん限りの声で呼び掛ける。

しばらくしてもおっさん殿からの反応はない。これは賭けに負けたかのう。

おっさん殿を呼んだのに、背後からヒューマンの増援部隊がきたようじゃ。しかもあの部隊は・・・厄介なヤツがきよったな。今日は完全な厄日じゃな。

妾達の前でその部隊が馬の足を止めた。先頭の馬から一人の男が降りてこちらに向かってくる。

「おやおや~妙なところに妙な奴がいるな~」

その男はニヤつきながら、白々しいことをぬかしおった。

「全くじゃ。まさか今回の作戦の陣頭指揮を貴様がとっておるとはな。アレス・ギルバート」

妾はわざと生理的嫌悪を隠さず、物凄く嫌そうな顔をしてやる。

「まあ、上からの命令だからねえ~嫌々でもやるさ~一応軍人だしね~」

この独特の話し方、腹が立つのじゃ。しかし実力は確かじゃ。万全の状態ならいざ知らず、消耗している今の状態では勝率はかなり低いのう。

「さて、それじゃあ魔王の娘を貰おうか~ああ、勘違いしないでくれ~俺は幼女には全く興味はないよ~どちらかと言えば~アリシア、あんたの方に興味があるかな~」

妾の体を上から下まで舐め回すように視姦してくる。ふん、全くどの種族の男も結局は女を性欲の捌け口にしか見ておらぬな。ヘドが出るのじゃ。

セレスだけでも何とか逃がそうと模索していると、背後から緊張感をぶち壊す場違いな声が聞こえた。

「えーと、そちらさんの話しは終わりましたか? それで森の入り口でおっさんのことを近所迷惑を顧みずに大声で連呼してた人は誰ですか?」

声がした方に目を向けると、半年前に奈落の樹海で出会ったおっさん殿と魔狼が立っていた。

「おっさん殿・・・」

つい嬉しくなって声をかけようとしたが、おっさん殿達に異常な違和感を感じた。

なんじゃ? この異常なまでの力の高まりは。半年前とは比べ物にならぬ。それに身に付けているものが変わっておる。半年前は部屋着のようなラフな服だったはずじゃのに、今身に付けている装備は明らかに戦闘するためのものじゃ。そして最大の違和感の正体は「甘さ」が消えていることじゃ。

半年前に出会った当初は妾達に対する警戒心は持っていたようじゃが、それでも初対面の魔族を自宅に招き入れたりと警戒心が稀薄で平和ボケしている一面があった。レベル差が大きかったせいかもしれぬが、それでも命のやり取りの経験値はこちらが上じゃったから、まだ何とか付け入る隙があった。

しかし目の前のおっさん殿から感じる印象は半年前とはまるで違う。常時戦場を自然体でやっておる。

これは誤算じゃ。それも大誤算じゃ。

半年前のおっさん殿になら情に訴える作戦が通用したかもしれぬが、今のおっさん殿には確実に通用せぬ。一体この半年間に何があったと言うのじゃ。

おっさん殿は半年前「おっさんを厄介ごとや面倒ごとに故意に巻き込んだりしたら、敵として処理するよ」と妾達に脅しをかけた。

「命のやり取りを知らぬ小僧が何を言うか」と思うたが、あの一瞬だけは背筋に悪寒が走ったのをよく覚えているのじゃ。あのとき脅しは本物の殺意を孕んでおった。

おっさん殿は自分の平穏を維持するためになら、いかに甘ちゃんで平和ボケしていても一切の躊躇なく異物を排除する人間だとあのとき思い知らされた。

それでも妾達がこの現状を脱するには、おっさん殿の助力が不可欠じゃ。覚悟を決めるのじゃ、妾。

「おっさん殿!」

妾が勇気を出しておっさん殿に呼び掛ける。

「あなたどなた?」

え、もしかして妾のこと忘れている? ああ、そうじゃ。ボンキュッボンの大人モードじゃから誰だか分からぬのだな、きっとそうに違いのじゃ。

どうにか思い出してくれたようじゃが、「ろりばばあ」とはどういう意味じゃ? 意味は分からぬが何となく良い意味ではないことは分かるのじゃ。

おっさん殿とそんなやり取りをしていると、アレス・ギルバートが話に割って入ってきたがおっさん殿は意に介していないようじゃ。おっさん殿を妾の関係者と認識したヒューマンどもが包囲の陣形をしようとしたが、それは叶わなかった。自分達の隊長の頭部が突如弾け飛んだからだ。

妾を含むこの場にいる全員が何が起こったかのか理解できなかった。

それもそうじゃ、おっさん殿は殺気も闘気も魔力すら発しておらんかった。それどころか攻撃に移る仕草すらしておらぬ。一体どういうことじゃ?

この時の攻撃について後に質問したところ「指弾を射っただけだよ。こう親指をグッとしてパンって」と説明された。仮にもヒューマン国で名の知れた男が「グッとしてパンっ」でその命に幕を閉じるとはな・・・敵じゃが妾ですら哀れにに思うのじゃ。

その後も驚きの連続じゃった。おっさん殿の両サイドに控えていた魔狼が同時に遠吠えをしたかと思うと、おっさん殿を包囲しようとしていたヒューマン達が体の内部から爆発し、たたの肉塊に変わった。

この攻撃についても後で教えてもらったのじゃが、正直よくわからんかったのじゃ。

妾達を包囲していたヒューマン達も、おっさん殿の指弾であっさり全滅した。そしてこの場に残されたのは妾達だけ。一応助けてもらったと解釈して良いのじゃろうか?

敵兵がいなくなったので、妾達がここに来た経緯と何故おっさん殿を呼んでいたのかを説明した。

妾の話を聞いたおっさん殿は案の定、妾達に快い感情を持たなかったようじゃ。それどころか僅かながら殺気を向けてきておる。

半年前とは比べ物にならない悪寒に襲われる。それはセレスも例外ではなく顔面蒼白で震えておる。それでも歯を食いしばり、今妾にできる精一杯のことをする。

膝をつき地面に額をつけてお願いする。妾にできることは誠意をみせることしかできんのじゃ。

そんな妾の姿を見たセレスが同じように膝をつき、ぬいぐるみと一緒に地面に額をつけ「おねがいしましゅ」と言った。

おそらくこの行為の意味をセレスはきちんと理解しておらんじゃろう。それでも今はこの行為が必要だと幼いながらに本能的に感じたのじゃろう。

幼いセレスにまでこんなことをさせてしまった。

この作戦の立案に賛成し実行した妾自身の考えの浅はかさへの嫌悪感、「大丈夫じゃ!」とセレスに言っておきながら最後まで守れなかった無力感と悔しさ。

そんな感情が身体中を這いずり回っていく。目の前が歪んでいく。

そんな妾達を見ておっさん殿も流石に哀れに思ったのか、話だけは聞いてくれると譲歩してくれた。

この場所だと色々と都合が悪いので、深層のおっさん殿の家に移動することになった。ただし神熊を含む猛者達の許可が得られたらという条件付きで。

妾達を立たせて土汚れを「クリーン」で綺麗にし、周囲の警戒に魔狼を残し「じゃあ、許可が下りるか確認してくる」と言い残し視界からおっさん殿の姿が消える。

「消えた!? まさか瞬間移動か!?」

おっさん殿はこんな高度な魔法も身に付けておるのか。では、先程気配なく現れたのは瞬間移動してきたからか。

そもそも瞬間移動を会得しておる者を長い人生ではじめて見たのじゃ。

おっさん殿が深層に行っている間、妾はセレスに謝罪する。

「大丈夫じゃ!」と言っておきながら結果としてセレスを危険にさらすどころか、それ以上の酷い事態になっておったかもしれんのじゃ。いくら相手が幼いからといって謝って許されるものではない。

妾の謝罪に対してセレスは「セレスはだいじょうぶだよ。ありしあはだいじょうぶ?」と、ぬいぐるみを胸に抱き首をコテンと倒して逆に妾の心配をする。この異常な状況下で他人の心配が出来るとはのう、本当に強い子じゃ。それに引き換え妾ときたら・・・益々惨めな気持ちになるのう。

「妾は・・・とりあえず大丈夫じゃ。心配してくれてありがとうなのじゃ」

セレスを胸に抱き締めてそう告げる。実際は妾自身に自己暗示をかける意味合いの方が強いかもしれんのう。

しばらくすると魔狼が一方向に勢いよく駆けていった。どうやらおっさん殿が戻ってきたようじゃ。神熊達から許しは得られたのじゃろうか・・・

「深層に来ても良いってさ」

おっさん殿が言った言葉の意味を理解した瞬間、おっさん殿に詰め寄り心の底からお礼をのべていた。肩の荷が下りた気がした。

セレスが妾の元にやって来て、笑顔で口を開いた。

「よかったの、ありしあ。しゃいきんげんきなかったの。でもいまはげんきなの」

セレスの言葉を聞いて極度の緊張状態から解放されたせいか、目から涙が流れ始めた。

ここ何百年涙など流しておらんかったせいか、妾の意思とは関係なく止めどなく涙が溢れてくる。

どうにかして涙を止めようと奮闘していると、頭に温もりを感じた。おっさん殿が妾の頭を撫で撫でしているではないか。

この年齢になってからの撫で撫では物凄く恥ずかしいのじゃ。羞恥で自分の顔が耳まで赤くなっていくのがわかる。涙は止まらんし、顔は暑いし、えーい撫で撫でをやめるのじゃ!

撫で撫でをやめさせようと抵抗するのじゃが、レベル差がありすぎてびくともせんのじゃ。

何故撫で撫でをするのかおっさん殿に問うと「何となく? いまはこの行為が必要な気がしてね。いいから黙って撫で撫でされてなさい」と言われたのじゃ。

おっさん殿が撫で撫でをやめる気がないのがわかり、これ以上抵抗しても無駄なので大人しくされるがままになるのじゃ。

・・・頭を誰かに撫でられるなど子供の頃以来じゃな。妾は魔国でかなりの古参じゃから、こんな風に誰かに優しくされたり心配される立場ではないからのう。なんか木っ端ずかしいのじゃ。

しかし・・・たまには悪くないかもしれんのじゃ。

おっさん殿に撫で撫でされているうちに、いつの間にか涙は止まっていた。

隣ではセレスが自分も撫で撫でしろとおっさん殿にせがんでいる。ついにはおっさん殿が根負けして結局撫で撫でしていたのが、何故か面白かった。

それからは怒濤の展開じゃった。瞬間移動で深層のおっさん殿の家に連れていってもらい、神熊とノーライフキングに紹介された。今まで生きてきた中で一番緊張した自己紹介じゃった。

その後、セレスと一緒に入浴することを進められたがその途中でセレスが神熊に抱っこされたときには肝が冷えたのじゃ。しかし神熊は子供の相手に馴れておるのか、上手にセレスの相手をしておった。そしてセレスの気が済むタイミングを見計らって妾達の方に戻るように背中を押してくれたのじゃ。獰猛な見た目に反してかなり優しいのじゃ。おっさん殿が尊敬する気持ちが少し理解できたのじゃ。

気を取り直して風呂場に向かい扉を開けると余計な装飾がなく、簡素ながら機能的な空間が広がっていた。これが異世界のお風呂なのか?

この世界では個人宅に風呂場など、余程の大富豪くらいしか持っておらぬが異世界ではこの規模の風呂場は各家にあると聞かされて驚愕した。風呂場にある備品の使い方を一通り教えてもらい入浴する。

自身とセレスの体を「ぼでぃーそーぷ」なるもので洗う。驚くほど泡立ちが良くセレスがはしゃいでおった。「しゃんぷーとりんす」とやらも使ってみたが最高じゃった。痛んでいた髪が滑らかになったのじゃ。しかも香りも良いときておる。

半年前に魔王が温水洗浄便座にえらくご執心じゃったのを笑っておったが、このお風呂用品各種は魔国に戻った後も是非欲しいのじや。髪に悩む女性が一度これを使ったら、もう戻れんのじゃ。

「ああそうだ、風呂上がりにこれを顔に塗っておくと肌の調子が良くなるよ」とおっさん殿に 渡された「けしょうすい」も最高じゃった。お肌の調子が良くなったのが自分自身で実感できる程じゃ。これも要キープじゃな。

それにしてもおっさん殿がいた世界は美容に気をつかう世界なのじゃろうか? だとしたら妾達女性陣にとっては素晴らしい世界なのじゃ。羨ましいのじゃ~!

お風呂から上がると脱衣場には「せんぷうき」とやらが置いてある。内部の羽が回転して風を発生させているようじゃ。湯上がりの火照った体を冷ましてくれる。風魔法で似たようなことはできるが、わざわざ風呂上がりの火照り軽減には使おうとは思わないのじゃ。

何となく回転している羽に「あ~」と声を発せねばならぬ使命感のようなものにかられ、衝動的に回転している羽に声をぶつけてみる。発した声が回転する羽に当たりぶれたようになったので、セレスにも進めてみると、余程面白かったようでしばらく「あ~」とやっておった。

髪を乾かす「どらいやー」なるものもあったが、これは魔法で乾かした方が早いので今回は使用しなかった。

体の水気をタオルで丁寧に拭き取り、おっさん殿が用意してくれた服に袖を通すとその肌触りに驚愕した。さらにはいくつかの「シワ防止」、「抗菌」などの機能的なエンチャントが付与されているようじゃ。

「あの一瞬でこれ程の代物を作ったと言うのか? 魔力量も驚きじゃがおっさん殿のスキル構成は一体どうなっておるのじゃ? そもそもどれだけのスキルを会得しておるのか・・・もし敵に回られたら終わりじゃな」

こんな些細なところでも、おっさん殿の恐ろしさを再認識させられるのじゃ。

服を着終わったので洗面台に置いてある「はぶらし」と「はみがきこ」に手を伸ばす。

「おっさん殿の世界ではこれで歯を磨くのか。この毛先の部分にはみがきこ(?)をつけるのじゃな・・・面妖な」チューブから「ニュルっ」と出して毛先の部分にのせる。妾のものとは異なりセレスのはみがきこは子供用の味らしい。

はぶらしを口に入れた直後は異物が入ったため、少しえずいてしまったが馴れると意外と磨きやすかった。はみがきこもはじめは薬草の苦味のような味に感じたが、段々と癖になりそうな味に感じてくるのじゃ。

歯磨きが終わり、一度セレスと一緒に口をゆすぐ。

「歯磨きが終わった後にマウスウォッシュで口をゆすぐとよりサッパリするよ」とおっさん殿が言っておったので、恐る恐る容器を手に取る。

「中身の液体の色が水色なのじゃが・・・これは口に含んで大丈夫なのじゃろうか?」

躊躇いはあったが、好奇心の方が勝ったので意を決して口に含む。

「ん~!」

口の中が痛い! というか染みるのじゃ。これは毒ではないのか? 頑張って耐えてしばらく口の中でブクブクしてから吐き出す。

「・・・あれ? 意外と気持ち良いかもしれんのじゃ」

これも馴れればどうということはない。おっさん殿の言った通りスッキリするのじゃ。

ちなみにセレスの方は低刺激タイプ(?)じゃったようで、染みないタイプだったようじゃ。

風呂場からリビングに戻ると、なんとも言えない良い匂いがしてきた。どうやらおっさん殿が昼食を作っているようじゃ。

妾達に気づいたおっさん殿が椅子に座って待つようにと言って、テーブルに変わった容器に入った飲み物を置く。これを飲んで待っているように言われたが・・・またしても未知との遭遇じゃ。

妾が容器を突っついて「むむむ・・・」と唸っていると、セレスが器用に容器の蓋を開けて、中の薄い黄色の液体を飲んだ。セレスや、もう少し警戒心を持つことを覚えるのじゃ。

「つめたくてあま~い♪ ありしあこれおいしいよ」

おっさん殿が妾達に毒物なんぞ盛る理由がないのは明白じゃがな。妾も湯上がりで喉が乾いていたので、容器に口をつける。

「む、これは!」と思ったが、そのまま「ゴクゴク」と一気飲みしてしまった。隣を見るとセレスが空になった自分の容器を見つめていた。

あまりの上手さに全部飲んでしまった。警戒心がないのは妾も同じじゃな。

空になった容器を見つめていると、昼食ができたようでおっさん殿が料理をみんなの前に置いていく。

「はんばーがー」という異世界の料理らしい。丸いパンで具材を挟んでおるのか。シンプルな料理じゃな。

みんなの前に料理が行き渡るとおっさん殿が胸の前で手を合わせて「いただきます」と言った。

神熊をはじめとする者達全員が同じ動作をしてから、食事を始めた。

おっさん殿の元いた世界の習慣じゃろうか? ここは妾達もやっておこう。

セレスと一緒に胸の前で手を合わせて「いただきます」と言って食事を始める。

ナイフとフォークを探したのじゃが、どこにもない。不思議に思いおっさん殿の方を見ると手掴みで食べておる。妾が困惑していると気づいたおっさん殿が「ハンバーガは基本的に手掴みで食べるんだよ。まあ、大きかったり具材の関係でナイフとかフォークを使う場合もあるけどね。ナイフとフォークを用意しようか?」と提案してくれたが、丁重に断り両手で持ってかぶりついた。

「美味しいのじゃ」

作戦中の食事が携帯食料ばかりじゃったことを差し引いても、これは上手いのじゃ。

見た目は何てことのない料理じゃが、美味しいし、お腹にたまりそうなのじゃ。

「これおいしいね、ありしあ♪」

隣ではセレスが口許にソースをベッタリとつけてニコニコしておる。おっさん殿から拭くものを貰い、口許を拭いてやる。

食事が終わり一休みしたところで、改めて妾達が奈落の樹海に来た経緯を詳しく説明した。

その際アレス・ギルバートが行方不明になったことで、ヒューマンの捜索部隊が奈落の樹海付近を彷徨くようになることを、おっさん殿は懸念していた。

奈落の樹海に足を踏み入れることは、まずないだろうがおっさん殿にしてみればやはり面倒なのだろう。

妾が面倒ごとばかり持ち込んだことに対して、改めて謝罪し落ち込んでいると「全くもって本当に迷惑なことだよ。厄介ごとがまた増えそうだ」と辛辣なことを言われてしまった。普通に落ち込むのじゃ。

「長話しすぎたな。時間も時間だし、そろそろ夕食の準備をしようと思うのだけど何が食べたい?」

「え?」

「今夜の夕食のメニューの話だよ。なにかリクエストはある?」

いきなりの話題転換についていけずに、思考停止状になる妾。

「あの・・・怒ってないのじゃ?」

てっきり物凄く怒っていると思っておった妾は、面食らってしまった。

「別に。最終的にあんた達を助ける判断を下したのはおっさん自身なわけだから、自業自得でしょ。一応首を突っ込んだ者の責任としてある程度の面倒はみるつもりだから、少しは肩の力を抜きなよ」

おっさんの言葉を聞いた妾は「あ~」と気の抜けた声を出してテーブルにつき伏したのじゃ。まあ、実際に気が抜けたのは事実じゃがな。

おっさん殿に聞こえるか聞こえないかの声量で、つき伏したままの状態で小声で「ありがとうなのじゃ・・・」とお礼を言ったのじゃ。おっさん殿の聴力なら確実に聞こえておったじゃろうが。

「で、夕食のリクエストは?」

ここで話をぶった切ったのは、おっさん殿なりの優しさなのじゃろう。食べたいものか・・・

「肉が食べたいのじゃ。逃走中は携帯食料ばかりで味気なかったのじゃ。ガッツリしたものが食べたいのじゃ」

普通に遠慮なく食べたいものを言ってしまったのじゃ。本当に気が抜けたようじゃな、妾。

「じゃあ、ハンバーグなんてどう?」

「はんばーぐ? それはどんな料理じゃ?」

「はんばーぐ」とは一体どんな料理なのじゃろう? 「はんばーがー」と響きが似ているのじゃが、親戚みたいな料理なのじゃ?

「とにかく肉料理だよ」

おっさん殿の説明が簡素過ぎる。これはまさか・・・

「説明するのが面倒で諦めたじゃろう」

「ん? 気のせいじゃない?」

図星じゃな、図星じゃろう! 

おっさん殿がエプロンをしてキッチンに向かうので、ただ座っているのもなんなので手伝いを申し出る。「料理は大丈夫だから洗濯物をしまってもらってもいいかな?」

洗濯物の取り込みをお願いされたので「任せるのじゃ」と、椅子から勢いよく立ち上がって玄関に向かっていきながら「ようやく少しは恩返しが出来るのじゃ」と思ったのもつかの間、おっさん殿から非情なことを言われる。

「取り込むついでに畳んでおいてくれると助かるな~」

妾の動きが一瞬で凍りつく。なんじゃと・・・洗濯物を畳むじゃと! く、それは・・・

「もしかして洗濯物を畳むのは苦手かい?」

おっさん殿が少し面白がった声音で、妾に問いかけてくる。

「だだ大丈夫じゃ。わらわら妾だって少しは家事の心得はあるのじゃ」

ううう、強がってはみたものの妾は昔から家事全般が大の苦手じゃった。じゃが、頼まれたからには死力を尽くして洗濯物の取り込みを完遂するのじゃ。

「じゃあ、よろしく」

「わかったのじゃ」

気合いを入れて洗濯物を回収して、妾なりに全力で畳んでみたのじゃ。結果は・・・ダメだったのじゃ。結局おっさん殿が畳直すことになったのじゃ。ううう、情けないのじゃ。あとでおっさん殿に畳み方を教えてもらえることになったので、すぐに覚えてここにいる間は少しでも役に立てるようになるのじゃ。

夕食の「はんばーぐ」とやらは丸い形の肉料理じゃった。これは「はんばーがー」とは異なりナイフとフォークで食べるようじゃ。

「ご飯が良い? それともパンにする?」とおっさん殿に聞かれたが、「ご飯」とやらがわからないので今回はパンにしてもらったのじゃ。おっさん殿の皿にのっている白い粒がご飯なのか? 穀物らしいのじゃが、あまりに未知のもの過ぎてチャレンジ出来んのじゃ。これは次の機会に持ち越しじゃ。

メインの肉料理「はんばーぐ」をナイフで半分に切ると、断面から大量の肉汁が滴りでてきたのじゃ。思わす「ゴクンっ」と唾を飲んでしまったのじゃ。これは妾の知っているどの肉料理とも違うのじゃ。

「肉を一度細かく切って同じく細かく切った野菜と混ぜてから、丸い形にして焼いたのか」

多くの肉料理は適当な大きさに切って焼くのが一般的じゃが、ここまで細かく切ったものは見たことがないのじゃ。

適当な大きさに切ってフォークで刺して口に運ぶ。 肉汁が「ジュワ~」として野菜が「シャキシャキ」しておる。新食感で美味しい肉料理なのじゃ。

パクパクと食べながら、間にパンを挟む。この「でみぐらすそーす」とやらもパンに良く合うのじゃ。

横を見るとセレスも美味しそうに「はんばーぐ」を口に運んでいる。また口許がソースでベタベタなのじゃ。

じゃが苦手な野菜には手をつけておらぬ。セレスは野菜が大の苦手じゃからな~

しばらく皿に残った野菜とにらめっこしていたが、ついにニンジンにフォークを刺して口に運んだ。

いつもと同じように目を瞑って耐えるような表情をしたかと思うと、目をパチクリして驚きながらモグモグと口を動かし始めた。ゴクンっと飲み込んだ後に「あまいおやさい?」と不思議そうに首を傾げていた。

野菜が甘いじゃと? 半信半疑で妾もニンジンを口に運ぶ。確かに甘いのじゃ。これは一体どんな調理法なんじゃ? これなら野菜が苦手な子供達も食べられるのではないか。むむ・・・これも魔国に戻る前に教えて貰いたいのじゃ。

夕食を食べて後は、ソファーに体を預けてゆ~くりしたのじゃ。思えばこの家に来てようやく落ち着けた感じがするのじゃ。お腹も膨れて睡魔に襲われコクリコクリとしておると、いつの間にかおっさん殿達も就寝時間のようでみんな寝支度を始めていた。

妾とセレスにもちゃんと部屋が割り当てられた。ベッドに横になったセレスがすぐに寝息をたて始めた。

思えば文句も言わずに幼いセレスはこの作戦に参加していた。敵に囲まれているときも、妾に抱き抱えながらの長距離移動にも耐えておった。顔にも口にも出さなかったが、かなり疲れていたに違いないのじゃ。

セレスに毛布をかけてから、覚悟を決めて部屋を出ておっさん殿の部屋に向かう。

おっさん殿の部屋の扉の前で深く深呼吸をして、心を落ち着かせる。頑張るのじゃ、妾。

部屋から光が漏れているので、おっさん殿はまだ起きているようじゃ。

扉をノックをしようとすると、中から「鍵なら空いているよ」と声がした。

部屋に入るとおっさん殿がベッドを後ろにして立っておった。

「こんな夜更けに何かよう? もしかして夜這いに来たとか?」

冗談のつもりなのじゃろう。じゃが、妾の方は本気じゃ。

「そうじゃ・・・」

そう宣言して身に付けていた衣服を脱ぎ、一糸纏わぬ姿になる。

裸なぞ生まれてこのかた誰にも見せたことなぞないのじゃ。

裸になった妾の体におっさん殿の視線が注がれるのがわかるのじゃ。う~滅茶苦茶恥ずかしいのじゃ。誰かとまじまじと比較したことがないからわからんのじゃが、何も変なところはないじゃろうな。恥ずかしさから一転、今度は不安に苛まれる。

いつもは自信満々に「ボンキュッボンのナイスバデイ」とか言っておるが、妾の体はおっさん殿を興奮させられるじゃろうか。 

おっさん殿が妾のすぐ側まで近づいてくる。緊張感がピークなのじゃ。

「一体なんのつもりだい? 冗談ならもう少しユーモアを持たさないと、人によっては勘違いされるよ」

真剣な表情でそい問いかけてくる。

「冗談ではないのじゃ。妾を抱いて欲しいのじゃ・・・」

そう言い放っておっさんに抱きつき胸を押し付けつつ、色っぽく見つめる。

お色気作戦で流石のおっさん殿も妾を抱きたくなるじゃろう。

「てい!」

「あ、痛!」

いきなり頭を叩かれたのじゃ。無防備かつノーガードで食らったので、激痛に頭を押さえて悶絶したのじゃ。

「いきなり何をするのじゃ!」

これから「あは~ん」な状況になるかと思われたところで、頭を叩かれたのでつい大きな声を出してしまったのじゃ。

「それはこっちの台詞だ。子供は夜更かししてないで早く寝なさい」

「妾は子供じゃないのじゃ!」

今度は子供扱いされたのじゃ。失礼な! 妾の方がおっさん殿より遥かに年上じゃ!

「で、何で夜這いなんてしようとしたの? もしかして発情期?」

若干呆れが入った表情で言われたのしゃ。むむむ、妾の気も知らないで好き勝手言いおって。

「違うわい! その・・・妾達はおっさん殿に迷惑ばかりかけておる」

正直な話し、迷惑ばかりかけておるから結構気が引けておるのじゃ。

「妾達をここにおいてくれるのは助かるのじゃが、おっさん殿には何のメリットもないのじゃ。じゃからせめてもの償いに妾の体をと思ったのじゃ。これでも妾は生娘じゃ。その・・・誰の手垢もついてはおらぬ。存分に抱いてくれなのじゃ 」

これまで生きてきた中で一番の勇気と決意を振り絞って、そう言ったのじゃが・・・おっさん殿の反応はまたもや予想外のものじゃった。またしても頭を叩きおったのじゃ。

「痛いのじゃ! また殴ったのじゃ!」

「殴るなんて人聞きの悪い、これはチョップというのだ」

殴るのとチョップとやらの違いはわからんが、結局妾の頭を2回も叩いておるではないか。

「はあ~あのね、自己犠牲の精神はあまり感心できないな。結局それってただの自己満足だよ。アリシアがおっさんに抱かれたからここにいることができます。そんなことをセレスに面と向かって言えるかい? 例え言わなくともあの子は聡い子だから、アリシアの些細な変化にすぐに気づくと思うよ。そうなったら気まずくなるよ。そんな雰囲気はおっさんは御免こうむるよ」

そう言いながら落ちている妾の服を拾って渡してくる。さらにおっさん殿はこう続けた。

「それとね、もっと自分を大事にしなさい。処女なら尚更そういう行為は好きな人とした方が良いよ。古くさい考えかもしれないけど、後で高確率で後悔するよ。いくら長く生きているからってアリシアは女の子なんだから、肩の力を抜いてもう少し心にゆとりを持つことをオススメするよ。まあ、難しいとは思うけど」

そう言うとおっさん殿は妾の肩に自分の服をかけて、昼間のように妾の頭を撫でてきた。心なしか昼間より優しい感じがするのじゃ。

それにおっさん殿は今なんと言った? かなり年上の妾に対して「女の子」じゃと? この容姿のせいなのか? 妾の種族は年齢を重ねても見た目の容姿は、最も最善とされた状態が維持される。つまり見た目の容姿と年齢が一致しないのじゃ。故に若いと勘違いされやすいのじゃ。おっさん殿もその類いかのう。しかし「女の子」か・・・何百年ぶりじゃろうな、女性扱いされたのは。その、なんじゃ・・・胸がドキドキするのじゃ。

「女の子・・・はう~」

それにおっさんに頭を撫でられて顔が赤くなって、体温が上昇するのが妾自身でわかるのじゃ。

相変わらず妾の心の内などお構いなしに、おっさん殿は言葉を続ける。

「とにかく今日は何も考えずに体を休めなさい。セレスを守りながらの長距離移動戦闘でかなり消耗してるだろう? 今後のことは明日考えればいいじゃん」

妾の頭の撫で撫でを終了したおっさん殿の提案を了承して、渡されていた自分の服を着る。

おっさん殿曰く「体が冷えたらよくないだろう」だそうじゃ。何だかんだ言っておっさん殿は妾達のことを気にかけてくれるのじゃ。

妾が服を着終わるとおっさん殿が後ろから妾の肩を押して、部屋の外に押していく。そして後ろから「今日はとにかく寝る。わかった?」と優しく諭される。

久しぶりに女の子扱いされたのが恥ずかしく、そして嬉しくて頭の中がパニック状態じゃったので素直に従った。

「わかったのじゃ・・・」

いまだに体温上昇中で赤い顔でパニック状態で返事をする。割り当てられた部屋に足を進めていると背後から「おやすみ。良い夢を」と、おっさん殿が就寝前の最後の言葉をかけてくれた。

ボーッとした状態で部屋の扉を開けて、ベッドに腰を下ろす。

物音でセレスの目が覚めてしまったようで、目を擦りながらボーッとした状態で妾を見つめてこういった。

「ありしあどうしたの? おかをがあかいよ。おねつがあるの?」

やっぱり妾の顔は赤いのか。気のせいではなかったのじゃ。また恥ずかしさが込み上げてきたのじゃ。

「ななな、何でもないのじゃ! 起こしてしまってすまないのう。ほれ、心配ないからおやすみするのじ

ゃ」

セレスの頭を撫で撫でして再びベッドに横にして、寝かしつけるとすぐに寝息が聞こえだす。

「ふう・・・妾も寝るとするのじゃ。今日は色んなことがありすぎて疲れたのじゃ」

ベッドに横になり毛布を頭まですっぽり被る。じゃが先ほどのおっさん殿とのやり取りを思い出してベッドの上を「あう~」と言いながらコロコロと左右に転がってしまう。今思い返すと妾メチャクチャ恥ずかしいことをしてきたのじゃな。異性の前で全裸になって誘惑失敗、しかも年下に諭されて女の子扱いされるという・・・あ~妾の人生で最大の羞恥なのじゃ。妾、もうお嫁にいけないのじゃ。

妾がベッドで悶絶している間も、おっさん殿宅での初日は過ぎていくのじゃ。





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