21
おっさん宅に瞬間移動で到着。
「ただいま~」
玄関で靴を脱ぐようにアリシアと幼女に言って、二人に「クリーン」をかけて一応綺麗にする。清潔感は大事だよ。
リビングに足を進めるといまだに検討中のノーライフキング先生とスケルトン達、熊師匠がいらっしゃった。さて、嫌なことはさっさと済まそう。
「みなさん、この二人が先程相談した魔族二人です。お手柔らかお願いします」
そう言って二人をおっさんの前に引きずり出す。さあ、緊張の自己紹介をするが良い。
目尻が少し赤いアリシアは微妙に震えている。口を開きたいのだが緊張で金魚のようにパクパク状態だ。
ふふふ。おっさんの日々平穏を妨害した報いを受けるが良い。
「セレスです。4さいです。よろしくおねがいしましゅ」
物怖じせずにお辞儀をして自己紹介する幼女。子供は怖いもの知らずだね。
「アリシアじゃ。よろしくお願いするのじゃ」
遅れてお辞儀をする。オイコラ、「じゃ」じゃねーよ。今はキャラの個性より熊師匠達への敬意と礼節を重視しろや。追い出すぞ。
熊師匠とノーライフキング先生、スケルトン達は「よろしく」という感じに片手を上げて応対してそれぞれの日常に戻る。
挨拶が終了したのでおっさんは昼食の準備をしないと。その前にスキル「アイテムクリエイション」で二人の服を作って渡す。それも今着ている服と瓜二つのものを。まあ、材質はおっさん製作の方が良いけどね。下着に関してはうろ覚えの知識で作ったから多少の不便は多目に見てくれ。
「とりあえず昼食の準備をしている間に風呂にでも入ってきなよ。魔法で綺麗にしても気分的に風呂に入った方が落ち着くしさ」
滅多に使用しない自宅の風呂の機能説明をするために、風呂場に連れていこうとすると幼女が来ない。
どうしたのかと思い後ろを振り返ると、何とソファーで寛ぐ熊師匠の目の前に立ってキラキラした目で熊師匠を見つめているではないか。
「おっきなくましゃん」
胸に抱いているくまのぬいぐるみと見比べながら、物凄い嬉しそうな表情をしている。
隣ではオロオロしておっさんと熊師匠へと交互に視線を移動するアリシアの姿。
おそらく熊師匠に触りたいのだろう。落ち着きなくウズウズして見える。
幼女を視界におさめた熊師匠はその大きな両手で幼女を優しく包むように掴み、自分の太ももの上に座らせ頭を撫で撫でした。
「わあ~くましゃん、しゃわってもいいの?」
幼女は満面の笑みで熊師匠の胸に抱きついて、恍惚の表情を浮かべている。流石は熊師匠。子供の相手も余裕でこなす。まあ、ぬいぐるみのチョイスで分かるように熊好きに悪いヤツはいない。おっさんの主観だけど。
しばらくすると熊師匠が幼女を抱き上げ床に下ろし、おっさんの方に行くように背を軽く押す。
熊師匠の行動を理解した幼女はトテトテとおっさんとアリシアの元へとやってくる。途中で後ろを振り返ると「くましゃん、またね」と元気良く手を振った。熊師匠も手を振ってあげている。寛大な熊師匠、素敵です。
幼女が来たので風呂場に移動して、改めて色々と説明する。お湯はりスイッチを押すと一瞬で浴槽がお湯で満たされる。こういうところは魔法の力を応用しているので、魔法様様である。
風呂ついでに歯ブラシとマウスウォッシュを渡して使い方を説明する。もちろん幼女のマウスウォッシュは低刺激タイプだ。
昼食を作る前に1つ重要な案件を片付けなければ。トイレに子供用の温水洗浄便座を作るだけですけどね。幼女が便器にはまったら大変だ。
リビングに戻ってエプロンをして昼食の準備をする。
「これから昼食を作りますけど、みなさん何かリクエストはありますか?」
リクエストを受け付けるとノーライフキング先生から「ハンバーガー」のお声がかかったので、今日の昼食はハンバーガーに決定。
パテ、卵、レタス、チーズ、ベーコンを冷蔵庫から出してパンを焼く前に下準備をしておく。おっさん結構作り置きするタイプかつ予備がないと落ち着かない性格だから、冷蔵庫の中身は常に満杯です。
フライパンでそれぞれの食材を焼いていく。あ、換気扇回さないと。
卵は後でパンに乗せやすいように、セルクルで丸く焼く。
焼き終わったものは保温しておく。そして最後にパンを焼いていく。何故最後にパンを焼くかって? 何か違う作業をしているうちに焦げるからだよ。焼きすぎたパンを見て何度悲しい思いをしたことか。
パンから香ばしい匂いがし始めた頃、お風呂から二人が帰ってきた。
体から湯気が出ている。温まったようで何よりだ。
「もう少しで昼食ができるから、そこのテーブルの椅子に座って待っていてくれ」
2つのコップにフルーツ牛乳をついで二人の前に置く。あ、子供用の椅子を作り忘れていた。パッと目の前で作ると、アリシアが滅茶苦茶驚いていた。え、驚くことあった?
おっさんの背後で「チン」っと音がしたので、パンの焼け具合を確認する。セーフ。
焼けたパンにそれぞれ材料を挟んでいく。とりあえず一人ハンバーガー2つで。1つ目はオーソドックスにパテ、チーズ、レタスに少し甘めのトマトソース。2つ目はパテ、チーズ、レタス、ベーコン、卵を挟んだボリューミータイプ。付け合わせのスープはオニオンスープ。みなさんできましたよ~
いつからいたのか虎鉄と小雪がおっさんの足元で涎を垂らしている。
今日は人数が多いから作るのに少し時間がかかってしまった。全員の前に料理を置いて手を合わせて・・・
「お待たせしました。それではいただきます」
おっさんの合図で全員がハンバーガーにかぶりつき始める。アリシアと幼女は始めてみる食べ物に困惑していたが、食べ方を教えて一口食べたら無言でバクバクと食べ進め二つとも平らげた。幼女もお腹が空いていたのか、結構な量だったはずだが完食した。
食べ終わったお皿を回収して、面倒くさくなるまえに洗ってしまう。
テーブルで食後のお茶を飲みながら聞きたくはないが本題に入る。
「ところで、何で森の入り口でヒューマンの男達に襲われかけてたの?」
おっさんからこの話題を振ったのが余程意外だったのか、アリシアはキョトンとした表情になった。
「意外じゃな・・・おっさん殿の方からその話を振ってくるとは。てっきり何も聞かずにいるかと思うておったのじゃが」
「できれば聞きたくはないけれど、すでにあんた達を自宅に招き入れた時点で不本意ながらそちらの事情に片足を突っ込んだようなものだからねえ・・・せめてこれ以上厄介ごとが舞い込まないように、対策を練るうえである程度の情報は必要だからね」
思わず本音がポロポロ出てしまう。
「容赦のない物言いじゃのう。まあ、おっさん殿からしたら妾達は厄介ごとでしかないのか・・・」
なんか微妙にショックを受けている模様。いやだって実際そうだからねえ~
「妾達が森の入り口におったのは、おっさん殿に助けてもらうためじゃ」
「オイコラ、はなから巻き込むことを前提で来やがったのか。よし、とりあえず一発殴らせろ」
指を組んでポキポキならすと、アリシアはあたふたし始めた。
「落ち着いてくれなのじゃ。おっさん殿に殴られたら妾の命がここで潰えてしまうではないか!」
チっ、あとでせめてデコピンしてやる。話の続きを促すためにどうぞと手でジェスチャーをする。
「1ヶ月前、魔国に対してヒューマン国「シャングリラ」が正式に宣戦布告したのじゃ。おそらく勇者を召喚して国全体が勢いずいているこの時が好機とみたのじゃろう。勇者の実力がどの程度のものかはわからぬが、仮にも勇者じゃからな。魔国としては最大限の警戒をしているのじゃ」
勇者ねえ・・・おっさんとは永遠に無縁の存在であってほしいものだ。
「外の情勢はわかった。で、何でおっさんに助けを求めに来た?」
「実はじゃな、ここ1ヶ月でヒューマンの部隊と交戦しているうちに妙なことに気がついたのじゃ。高確率でこちらの部隊が待ち伏せをくらい、さらに予めこちらの戦術を知っているかのような装備で対応してくるのじゃ。一度や二度ならまだしも何度も続けば偶然では済まされないじゃろう」
「それは確実に内部に内通者か裏切り者がいるからだろうな。それもかなり中枢にな」
どこの組織も上層部はドス黒くてゴタゴタしいてるんだな。あ~やだやだ。
「妾もそう思い裏切り者を炙り出すための策を考えたのじゃ。簡潔に言えば餌を用意するのじゃ、それも極上の」
それを聞いてピンっときた。合理的だが中々えげつない方法だ。
「つまりその幼女、魔王の娘を囮にしたわけか。確かに敵からしたら極上の餌だな。随分と思いきったことをしたものだな。それによく魔王が納得したな」
一国の王として国のために私情を挟まずに気丈に判断を下したのだろう。実の娘を国のためとはいえ囮に使うとは、ただの温水洗浄便座好きのヤツではなかったんだな。
「納得するわけないじゃろう。嫌だ嫌だと人目も憚らずに暴れまくって息子と王妃、親衛隊達に説得され最終的にはセレス自身が納得したことで魔王も渋々首を縦に振ったのじゃ」
「つまりその幼女は自分が囮になることを理解して了承したと?」
クマのぬいぐるみを膝においてリンゴジュースを飲んでいる幼女を見る。本当に囮の意味がわかっているのだろうか?
「その幼女は囮の意味を本当に理解しているのか?」
「セレスはセレスだもん。ようじょじゃないもん」
頬をぷくっと膨らませておっさんに抗議してくる。えーと名前で呼んでほしいということかな?
「セレスちゃんは本当に囮の意味をわかっているのかい?」
「わかってるもん。ちがうもん。セレスだもん」
ちゃん付けも駄目なのな? アリシアの方を見ると苦笑していた。
「セレス、囮って言うのは凄く危ないんだよ。もしかしたら怪我しちゃうかもしれないことなんだよ」
おっさんなりに頑張ってわかりやすく説明してみる。
「うんしってるよ。おとうしゃんたちがいってた。でもアリシアがいっしょだからだいじょうぶなの」
隣に座るアリシアをニコニコしながら見つめている。余程信頼しているのだろう。
セレスが可愛い欠伸をしたと思えば、目がトロンっとなった。どうやらおねむのようだ。
まあ、おっさんの後ろでは虎鉄と小雪が昼寝の準備を始めているくらいだからね。ご飯も食べたし眠くなるよね。
カーペットに横になった虎鉄と小雪に気がついたセレスは、椅子から降りてトコトコと二人に近づいた。
「わんちゃんしゃん。セレスもいっしょにおやすみしてもいい?」
虎鉄と小雪が見たこともないくらいに狼狽している。おっさんの方を見て助けを求めている。珍しいことだ。
「判断は二人に任せるよ」
丸投げしてみる。さて、どうなるかな?
「だめでしゅか?」
段々とセレスが涙目になっていく。
虎鉄と小雪はお互いに見合って小さく口を動かしている。数秒後結論が出たようで「わふ」っと軽く吠えて二人の間を前足でペシペシと叩く。
「いいの? やったー!」
跳び跳ねて喜ぶとすぐに二人の間に寝転んだ。
「モフモフ、あったかい・・・」
余程眠かったのかすぐに寝息をたて始めた。その様子を眺めていた虎鉄と小雪も頭を完全にカーペットに下ろしてお昼寝をし始めた。風邪を引いたら大変なので、3人に毛布をかける。
その様子を見ていたアリシアは優しく微笑んでいた。
「さて話を戻すが、囮作戦はわかったけどそれが何で森に逃げてくることになったわけ?」
普通に考えれば国内かその周辺で作戦を決行して、裏切り者がわかればそいつを拘束して国に戻って作戦成功のはず。
「簡潔に言ってしまえば妾達の考えが甘かったのじゃ。当初の作戦ではこれからさき、ヒューマンが勇者を実戦投入して攻撃をしかけてくる。その際に万が一にも敗北してもうたら魔王の血筋が途絶えてしまう。という名目で最も幼いセレスを安全な場所に一時的に退避させるという嘘の議題を要人が集まる会議であげたのじゃ。そして護衛役には妾が魔王に任命された。すでに裏切り者の目星はついておったから、あとは其奴らの動向を注意深く探れば済む予定だったのじゃが・・・誤算があってな。作戦概要は身辺調査が済んだ魔王が信頼できるメンバーにしか伝えておらんかった。故に事情を知らぬ会議に出席していた大臣や貴族どもが「魔王の娘だけ避難させるのは不公平だ。自分達の子供も避難させろ!」と声を張り上げたのじゃ。言っとることは間違ってはいないから魔王も無下に却下できず、渋々了承したのじゃ」
まあ、そうなるだろうね。いかに国の最高権力者の魔王といえども「勇者が攻めてくるから安全のために自分の娘だけ避難させます」では事情をしらない連中は反発するだろう。かといって周囲の意見を無視して魔王が権力を盾に強行すれば、内部に敵が増えかねない。
「そうなると 護衛が妾だけでは不安だとぬかしおってな、自分の家からも護衛を出すと言い出したのじゃ」
「あーそれで裏切り者として目星をつけていた連中も、護衛という名目で監視役をだしてきたと」
「うむ、その通りじゃ。実際は魔国から避難するつもりはなかったのじゃが、話が大きくなりすぎて避難を実行せざる終えない状況になってしまったのじゃ。最終的に魔国から要人の子供数十名と妾を含む護衛数名で獣人国の王女の隠れ家に匿ってもらう手はずになったのじゃ。しかし魔国を発って数刻でヒューマンの部隊に捕捉されたのじゃ 」
「その時点で国の上層部に裏切り者がいることが確定したわけか」
「そうじゃ。護衛対象がいて尚且つ部隊に裏切り者の息のかかった輩がいる状態での戦闘は、さすがの妾でもかなり疲弊させられるのじゃ 。妾は基本的にセレスの護衛をしていたのじゃが、戦闘を重ねるうちに妾達だけ分断され始めてのう。合流しようと思うたときには既に手遅れじゃった」
「ちなみに分断されたと言ったけど、それは敵にそれとも味方に?」
気になったので聞いてみた。
「両方にじゃよ。裏切り者の息のかかった者達だけではなく、自分達が助かりたい一心で妾達を真の意味で囮にしたのじゃ」
やっぱりな。何となく話の流れでそんな気はしていたけど、みんな自分の命が一番大事だもんね。他人なら犠牲にしても後々心が痛まないし。
「アリシア達以外の連中は結局どうなったの?」
囮にされた方はおっさんの目の前で健在だが、囮にした方はどうなったのか気になるところである。
「 妾達以外の連中はおそらく無事じゃろう。分断された時点でヒューマンの部隊の大半が妾達を標的に絞っておったからのう。最初から敵の狙いは魔王の娘だったのじゃろう。護衛の中に何人裏切り者の息のかかった者がいたかは定かではないが、最後に護衛対象達を見たときは魔国方面に撤退しておったからおそらくは無事に魔国に戻れたじゃろう。最大の標的である極上のエサは罠にかかったわけじゃしな」
確かに護衛対象を全員捕縛できれば後々ことを優位に運べるが、欲をかいて一番重要なエサに逃げられたら目も当てられない。
「しかしいくらセレスを守りながらの戦闘とはいえ、アリシアは結構強いだろうから何とかなったんじゃないか?」
ロリババア状態ならいざ知らず大人モードの実力なら、森の入り口にいた連中くらいなら余裕だと思うのだが。
「普通の兵士なら何とかなったじゃろうが、ヒューマンどもは対妾専用装備、「対魔法装甲装備」で全身を防御して尚且つ数的有利を利用して絶えず一定の距離から遠距離攻撃をし続けてきたのじゃ」
「持久戦を強いて、あんたが消耗するのを待った」
「そうじゃ。妾の攻撃スタイルである魔法攻撃をしても「対魔法装甲装備」の上からでは100%のダメージは入らないのじゃ。入ってもいいとこ50~60%くらいじゃな。そのうえで持久戦じゃ、流石の妾も分が悪くなってな・・・一握りの可能性にかけてこの森にまで逃げてきたのじゃ」
なるほど。だから森の入り口で見たときにあんなに消耗していたのか。
「さらに運の悪いことに「アレス・ギルバート」、あやつが直々に出向いてくるとは予想外じゃった。ヒューマンがどれだけ今回の作戦に本気だったのかわかる人選じゃ」
「誰それ?」
おっさんの質問にアリシアは「はあ~」とため息をついた。
「おっさん殿が最初に頭を吹き飛ばした男じゃよ。ヒューマンの国、それも騎士団内ではかなりの有名人なんじゃがやはり知らんか」
呆れた表情をしながら「知るわけないか・・・」と、一人で自己完結している。
知るわけないでしょう。外の世界に興味がないのだから。
「あれでもかなりの実力者なんじゃぞ」
「あの程度で? 指弾で死んだんだぞ」
は! 意図せずにオヤジギャグが完成してしまった。よしよし順調におっさんの道を突き進んでいるな。
「まあ、おっさん殿からしたら羽虫程度の存在かもしれんが、この世界では結構な力の持ち主だったのじゃよ」
「森の入り口についてからは、おっさん殿の知っての通りじゃ」
なるほどなるほど。これは少し不味いな。
「1つ確認したいことがあるんだが、アリシア達を追ってきたヒューマンの部隊はあれで全部だったのか?」
おっさんと虎鉄に小雪の3人の気配察知に反応はなかったから、大丈夫だとは思うが。
「おっさん殿が惨殺した連中で全員じゃよ。それ以外の連中は妾が道中で始末した」
なんで自分だけ「始末」でおっさんは「惨殺」なんだよ。表現に悪意を感じるのはわざとか、コラ!
「それともう1つ、おっさんが殺した「アキレスケン・ハルバート」とかいうやつは有名人ということだが、失踪した場合は捜索隊とかは出されるのか?」
「そうじゃな・・・あやつは有名人じゃ。じゃがそれ以上にあやつは国の表沙汰にできない汚れ仕事専門じゃったから、上層部にとって国の内外に知られたくない情報を知り過ぎておるからな。生死がわかるまでは血眼になって探すじゃろうな。それと「アレス・ギルバート」じゃからな」
うーん、死体を完全に火葬したのは失敗だったかな。捜索が長引くな。
「アリシア、あんた達の逃げてきた経路は敵方に知られているのか?」
「部隊を全滅させたから詳細までは知られてはおらぬはずじゃ。じゃが妾達以外の護衛対象を追っていった敵の部隊には向かった方向くらいの情報は知らされているかもしれんのじゃ」
森に一直線に向かってきたわけではないだろうが、いずれはこの森にも捜索の手が及ぶ可能性があるな。まあ、森の中にまでは入ってこないと思うけど。
おっさんが「むう・・・」と唸りながら難しい顔をしていると、目の前のアリシアが申し訳なさそうな表情で俯いていた。
「おっさん殿。今更ながら本当に巻き込んで申し訳ないのじゃ。しかし妾達は・・・」
「全くもって本当に迷惑なことだよ。厄介ごとがまた増えそうだ」
「ううう・・・」
アリシアが小さくなり、俯きながら少し震えていた。
「長話しすぎたな。時間も時間だし、そろそろ夕食の準備をしようと思うのだけど何が食べたい?」
「え?」
キョトンとした顔でおっさんを見るアリシア。
「今夜の夕食のメニューの話だよ。なにかリクエストはある?」
おっさんのいきなりの話題転換についていけずに、思考停止状態のようだ。
「あの・・・怒ってないのじゃ?」
「別に。最終的にあんた達を助ける判断を下したのはおっさん自身なわけだから、自業自得でしょ。一応首を突っ込んだ者の責任としてある程度の面倒はみるつもりだから、少しは肩の力を抜きなよ」
おっさんの言葉を聞いて「あ~」とアリシアはテーブルにつき伏した。緊張状態解除?
つき伏したままの状態で小声で「ありがとうなのじゃ・・・」と漏らしていた。
「で、夕食のリクエストは?」
「肉が食べたいのじゃ。逃走中は携帯食料ばかりで味気なかったのじゃ。ガッツリしたものが食べたいのじゃ」
肉か・・・セレスもいることだしここはハンバーグなんてどうだろうか?
「じゃあ、ハンバーグなんてどう?」
「はんばーぐ? それはどんな食べ物じゃ?」
異世界にはハンバーグはないのだろうか? いざ説明しろと言われると困るな。
「とにかく肉料理だよ」
「説明するのが面倒で諦めたじゃろう」
「ん? 気のせいじゃない?」
熊師匠達にも夕食のメニューを伝えて、エプロンをしてさっそく準備にはいる。
「妾にも何か手伝えることはあるのじゃ?」
失礼ながら見た目で判断するに、アリシアの料理スキルは期待できそうにない。不慮の事故を防ぐためにここは安全策をとろう。
「料理は大丈夫だから洗濯物をしまってもらってもいいかな?」
窓の外に干してある洗濯物を指差してお願いする。
「任せるのじゃ」
椅子から勢いよく立ち上がって玄関に向かっていく背中に声をかける。
「取り込むついでに畳んでおいてくれると助かるな~」
玄関で靴を履いていたアリシアの背中が「ビクッ」と反応した。この反応はまさか・・・
「もしかして洗濯物を畳むのは苦手かい?」
「だだ大丈夫じゃ。わらわら妾だって少しは家事の心得はあるのじゃ」
返事が明らかに大丈夫そうじゃなく思えるのだが、やらせてみるか。
「じゃあ、よろしく」
「わかったのじゃ」
ちなみに後でおっさんがチェックしたところ、やっぱり家事全般が苦手なようでした。
夕食のハンバーグは熊師匠をはじめみなさんに好評で、アリシアとセレスは最初は見た目に戸惑っていたが昼食の時と同じで一口食べたらがっついて食べていました。
セレスは子供らしく付け合わせの野菜が苦手な様子だったが、ニンジンのグラッセを食べて「あまいおやさい?」と不思議そうに首を傾げていた。野菜が食べられてよかった。栄養バランスは大事!
夕食後は何事もなく平穏に進み風呂に入って歯を磨き、寝巻きに着替えて自室のベッドに虎鉄と小雪共々ダイブをかんこうしようとしたが、部屋の外に気配を感じたのでお預け状態になった。
「鍵なら空いているよ」
おっさんが声をかけると扉がゆっくりと開き、アリシアが入ってきた。
「こんな夜更けに何かよう? もしかして夜這いに来たとか?」
30歳過ぎてから急に口からセクハラ紛いの発言がよく出るようになるんだよな。
「そうじゃ・・・」
そういうとアリシアは身に付けていた衣服を脱ぎ、一糸纏わぬ姿になった。
あれ~冗談のつもりで言ったのに、この人なんでおっさんの目の前で裸になってるの? 露出狂? はたまた痴女の類いか?
目の前に晒されたアリシアの体に自然に視線がいってしまう。おっさんも健全な男子ですかね。仕方ないのです!
大きく形の良い胸、美しくくびれたウエスト、女性らしい丸みをおびたお尻。本人の言うようにまさに「ボンキュッボン」である。
20代の頃のおっさんならすぐに欲情して飛びかかっていただろう。しかしおっさんは30代半ば、もうそんなにガッツクこともない。ふ、すでに枯れているのだよ。
アリシアに手が届く距離まで近づき、彼女に真意を問いただす。
「一体なんのつもりだい? 冗談ならもう少しユーモアを持たさないと、人によっては勘違いされるよ」
一応正論らしいことをのべてみる。
「冗談ではないのじゃ。妾を抱いて欲しいのじゃ・・・」
おっさんに抱きつきその柔らかな体を押し付け、色っぽく見つめてくる。
ふむ、アリシアはヴァンパイアだからおっさんの血液が欲しいのかな? それとも「魅了」にでもかけるつもりかな? まあ、これ以上考えていても仕方がないのでとりあえず・・・
「てい!」
「あ、痛!」
アリシアの脳天にチョップをかましてやった。目の前で裸の女性が頭を押さえて悶絶している。かなりシュールな光景だ。
「いきなり何をするのじゃ!」
「それはこっちの台詞だ。子供は夜更かししてないで早く寝なさい」
「妾は子供じゃないのじゃ!」
イベントごとの類いはもう間に合っているから、明日にしてくれないかな。おっさん歳のせいか地味に疲れているんだよ。
「で、何で夜這いなんてしようとしたの? もしかして発情期?」
「違うわい! その・・・妾達はおっさん殿に迷惑ばかりかけておる」
うんうん、そうだね。自覚あったんだ。
「妾達をここにおいてくれるのは助かるのじゃが、おっさん殿には何のメリットもないのじゃ。じゃからせめてもの償いに妾の体をと思ったのじゃ。これでも妾は生娘じゃ。その・・・誰の手垢もついてはおらぬ。存分に抱いてくれなのじゃ 」
もう一発脳天にチョップをしてやった。
「痛いのじゃ! また殴ったのじゃ!」
「殴るなんて人聞きの悪い、これはチョップというのだ」
何が悲しくて全裸の美女と漫才みたいなことをしないといけないんだ。
「はあ~あのね、自己犠牲の精神はあまり感心できないな。結局それってただの自己満足だよ。アリシアがおっさんに抱かれたからここにいることができます。そんなことをセレスに面と向かって言えるかい? 例え言わなくともあの子は聡い子だから、アリシアの些細な変化にすぐに気づくと思うよ。そうなったら気まずくなるよ。そんな雰囲気はおっさんは御免こうむるよ」
落ちている彼女の服を拾って渡す。
「それとね、もっと自分を大事にしなさい。処女なら尚更そういう行為は好きな人とした方が良いよ。古くさい考えかもしれないけど、後で高確率で後悔するよ。いくら長く生きているからってアリシアは女の子なんだから、肩の力を抜いてもう少し心にゆとりを持つことをオススメするよ。まあ、難しいとは思うけど」
おっさん的な助言(?)をしながら椅子にかけてあった自分のガウンをアリシアにかけて、頭を今回はできるだけ優しく撫でる。ロリババアは色々と心労が多そうだからな。
「女の子・・・はう~」
おっさんに頭を撫でられて耳まで真っ赤になっていく。まるでゆでダコみたいだな。
「とにかく今日は何も考えずに体を休めなさい。セレスを守りながらの長距離移動戦闘でかなり消耗してるだろう? 今後のことは明日考えればいいじゃん」
おっさんが撫でるのをやめてそう提案すると、アリシアはゆっくりと頷いた。
「はい、納得したらまず服を着る。体が冷えたらよくないだろう」
アリシアがそそくさと服を着はじめる。逆ストリップ的な光景がおっさんの眼前で繰り広げられています。眼福です。
服を着終わったアリシアの肩を、後ろから押して部屋の外に誘導していく。
「今日はとにかく寝る。わかった?」
「わかったのじゃ・・・」
いまだに赤い顔で素直に返事をする。
「おやすみ。良い夢を」
セレスのいる部屋に向かったのを確認してから、自室の扉を閉める。
「はあ~これでようやく寝られる」
ベッドに改めてダイブして先に寝ている虎鉄と小雪に声をかける。
「狸寝入りはバレてるぞ~」
「わふ~」
「あ、バレてました?」みたいな感じで頭を起こして、おっさんの方を見てくる。
「あんなやり取り、見ていても面白くないでしょう?」
「わふ?」、「そんなことないよ」みたいにおどけた返事をする。
さては君たち、団地妻の昼の事情とか好きなタイプだな。
「まあ、いいや。寝ましょう。おっさんもう疲れたわ」
毛布をめくると二人がベッドに飛び乗り、枕に頭をのせて横になる。二人とも枕を当たり前のように使えるようになったな。良いんだか悪いんだか。
おっさんもベッドに横になり、二人に「おやすみ」と声をかけて部屋の電気を消す。
「はあ~長くて濃い一日だったな。願わくば明日からは日々平穏でありますように」
瞼を閉じ、意識を暗闇に落とす。
「おやすみ・・・」
ようやくおっさんの一日は終わりを迎えた。




