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「奈落の樹海に来た目的も達成できて思わぬ収穫もあったことだし、そろそろおいとまするのじゃ。それにあまり国を留守にしておくのは不味いであろう?」

おっさんの「そろそろ帰ってオーラ」を唯一感じ取ったロリババアがナイスアシストをしてくれた。流石は年齢不詳! こういう時は頼りになる。

「そうだな情勢も不安定になりつつある、国に帰ってより念密な対策を考えねばな」

魔王が立った! これでようやく帰ってくれそうだ。

「おっさん殿、申し訳ないが帰る前にトイレを貸してもらえるだろうか?」

どうぞどうぞ、ごゆっくり。

すれ違い様に小声で「帰る前にもう一度あの温水洗浄便座を体感しなくては・・・」と呟いていた。

どれだけ気に入っているのだか。

他の面々も帰り支度を始めたところでディーヴァさんがソワソワしていた。トイレかな? そう思っているとディーヴァさんの視線がテーブルの上の残ったお菓子に注がれていた。もしかして・・・

「よろしければお土産にお菓子でも包みましょうか? テーブルのお菓子も余らせるのも勿体ないので。いかがですか?」

「是非お願いします!」

ディーヴァさんが凄い勢いで身を乗り出して即答した。が、すぐにハッとして赤面して身を引いた。

やっぱりお菓子が気になっていたのか。異世界のスイーツ事情はわからないけどお菓子が好きな女性はどこの世界でも多いのかな? とりあえず人数分のお土産(?)的なものを用意していると、魔王が満面の笑顔で戻ってきた。うん、よかったね。

「シンの野郎は結局起きなかったな。どんだけのダメージもらったんだ?」

ルーさんが呆れつつ意識が戻らないシンを担いだ。

「意識が戻らん方が逆に良かったかもしれんのじゃ」

ロリババアが何故か神妙な表情で呟いた。

「そうですね。折角まとまった話をぶち壊した挙げ句に、我々全員の生命が失われる可能性になりかねません」

ディーヴァさんが酷く冷めた顔でお土産のお菓子を大事そうに抱えながら言い放った。

「シンには悪いが今回ばかりは皆の意見に同意せざる負えんな。根は結構良い子なんだがな」

まるで息子を見るような慈しみのある表情でシンを見ている魔王、まさか隠し子か!?

「魔王様はシンを甘やかしすぎです。お互いに立場があるのですからもう少し厳しく接して下さらないと困ります」

ディーヴァさんが語気を強めて魔王に進言している、お土産のお菓子を大事そうに抱きしめながら。

議論している魔王達を尻目におっさんは先程から疑問に思っていることを聞いてみた。

「ところで皆さん、どうやって帰るつもりなんですか?」

誰もが動きを止め、場に静寂が訪れた。

実はおっさんはずっと疑問だった。奇跡的に深層のおっさんの自宅まで辿り着いた魔王一行がどうやってこの森から出ていくのか。

動き出したかと思えばオロオロして、みんなで集まってどうしようと連呼し始めた。

その時「カチャン」という音がしたので振り返ってみると、ここまで無関心だった熊師匠が愛用の湯のみテーブルに置き、立ち上がってこちらに向かってきた。

熊師匠が動き出しただけで魔王達はガクブル状態である。そんなことは意に介さずおっさんの近くに熊師匠が来て「ぐぅあ~」と言った。

「え、本当ですか熊師匠。お手を煩わせることになるのですが、よろしいのでしょうか?」

「ぐぅあ」

やっぱり熊師匠は凄いお方だ。マジで尊敬する。

熊師匠は一足さきにログハウスの外に出ていった。その様子を見ていた魔王がおっさんの近くに来て恐る恐る今のやり取りの内容について質問してきたので説明してあげた。

「自力で帰れないことは想定済みだ。俺はこの森の全域を把握している。魔国に一番近い森の浅瀬まで瞬間移動で送ろう」と仰っていたのだよ。

そう説明すると魔王一行は顎が外れそうなくらい大口を開けて驚いていた。

というワケであとは熊師匠についていって下さい。皆さんサヨウナラ(⌒0⌒)/~~ おっさんが満面の笑顔で送り出したら魔王一行が必死におっさんにしがみついてきた。 え、何? 一緒に来て欲しい、何で?

「送って頂けるのは非常に助かるのだが、神熊殿と我々だけにするのは少し困るというか・・・」

魔王一行が何とも言えない表情でおっさんの同行を懇願してきた。そんなに熊師匠が怖いのかな? 熊師匠は結構優しいと思うけど。

熊師匠をお待たせするのは忍びないので、おっさんも同行することにする。あ、虎鉄と小雪はお留守番ね。あ~もうそんなにムスくれた顔しない。さっきの約束通りこの人達送ったら遊ぶからさ。

「ホント仕方ないな~」とニンマリした顔をして愛用の座布団の上で丸まって座った。く、確信犯め。まあ、ご理解頂いて感謝です。

魔王一行とログハウスの外に出ると、熊師匠は空に顔を向けて鼻をヒクヒクさせていた。雨の匂いでもするのかな?

「お待たせしました熊師匠」

大きな後ろ姿にそう声をかけると振り向いて気にするなという感じに「ぐぅあ」と言ってくれた。

熊師匠の周囲に集まると足元に見たことがない魔方陣が現れ輝きだした。これが転移魔方陣か、おっさんにも習得できるかな?

徐々に光が強くなり目の前が真っ白になりあまりの光量に思わず目を閉じてしまう。次に目を開けると視界に映ったものは、どこまでも続く平原だった。振り返って後ろを見てみるとそこには森があった。

目を閉じていた時間は一瞬だったはずだ。本当に一瞬で景色が変わった。これが瞬間移動か、実際に体感すると何とも言えない不思議な感覚だな。

魔王達も始めての体験らしく、周囲を見渡しながら興奮を隠せない模様。

そんなおっさん達とは対照的に熊師匠は空に顔を向けて鼻をヒクヒクさせる平常運転です。

落ち着いたところで魔王達とようやくお別れです。さようなら(⌒0⌒)/~~ え、もっと感慨とかはないのかって? いや、ホント厄介ごとは早くお帰りください。

一応形式上、一人一人と別れの挨拶を交わし送り出した。急いで魔国に戻ると宣言していた通り、かなりのスピードで平原を駆けていった。もう彼らの姿が指先くらいのサイズになって、とうとう見えなくなった。

そういえばこの世界に来てから始めて森以外の景色を見たな。平原ね、魔王の話だとこの先が魔国にあたる場所か。この先にまだ見ぬ世界が広がっているのか・・・このまま一歩を踏み出せば新しい世界での冒険の始まりか・・・

踏み出しませんけどね、絶対。冒険なんてことは若者のすることで、おっさんとは無縁のものです。

何が悲しくて異世界に来てまで危ない橋を渡らないといけないのか。「石橋を叩いて渡る」、そんなものでは生ぬるい。まず一度橋を破壊して土壌を調査し、鉄筋コンクリートで基礎から作り直す。橋を作り終えたらいきなり自分では渡らずに、実験台として少なくとも10人渡らせて安全性の最終確認をしてから渡る。それくらい念には念を入れるべきだ。

未知への冒険心なんてものは20代後半までだ。30歳の大台に乗ったらどっしりと地面に根を下ろし足元も固め、確実な安定感を求めるようになる。精神、心の安定が第一。

故にまだ見ぬ世界になんて興味ありません。関わりたくありません。魔王一行よ、二度と来るな~!

さて、自宅に帰りますか。熊師匠、帰りもお願いしてもよろしいでしょうか?

「ぐぅあ~」

任せておけという感じに一声鳴いて、先程と同じ魔方陣が地面に現れる。再び瞬間移動体験です。実は瞬間移動するとき一瞬股間がフワッとします。未知の浮遊体験。

目を開けると見慣れた我が家に到着です。熊師匠ありがとうございました。御礼というわではないのですが、よろしければ昼食を食べていきませんか? まあ、これから作るので少しお時間を頂くことになりますが。どうでしょうか?

「ぐぅあぐぅあ」

わかりました。ではご要望にお答えして昼食は親子丼にしましょう。もちろん味噌汁と漬け物もありますよ。

自宅のログハウスに足を進めながら、ふと考えた。奇跡的であっても自宅付近に不審者が辿り着いたのは見過ごせない事実だ。もう少し自宅周辺の防犯を考えないといけないな。ひとまずトラップ各種でも仕掛けておこう。

おっさんも不審者の気配に気づけなかったのは良くないな。今回は虎鉄と小雪が発見して対応してくれたけど、次はどうなるかわからない。このスローライフを守るためにおっさん自身もっと強くならないと。

そのためにはもっと鍛練を重ねないと。決意を新たに隣を歩いている熊師匠に相談すると「ぐぅあー?」と鳴いておっさんの顔を覗きこんだ。まるで「本気かい? 今までよりキツい鍛練になるけど、覚悟はあるかい?」と聞かれているようだ。

熊師匠に「覚悟はあります、お願いします」と伝えると、熊師匠はおっさんの肩に手を置いて「ぐぅあー」と「じゃあ、明日から厳しくいくからな」という感じで一声鳴いた。

はい、日々平穏のためにおっさんはこれだけは頑張ります。そして次の日からおっさんのより厳しい鍛練の日々が始まった。で、覚悟はしていたが早くも後悔し始めると同時にある疑問が頭に浮かんだ。あれ、おっさん微妙にスローライフから道を踏み外してないか? 

ちなみにこの日は昼食を食べたあと、虎鉄と小雪との約束通り倒れるまで遊びましたとさ。 


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