真摯な対応
ベルギーの両親との温かいテレビ電話を終え、スマホを置いたアンドレは、再びキリッと引き締まった表情を作った。
「よし……気を取り直して、おままごとを再開するぞ!」
その力強い返事に、メイン講師であるエマが「やったー! 続きをやるよー!」とパチパチと可愛い手を叩いて喜ぶ。
イザベルは優しく微笑みながら、弟の肩にそっと手を置いた。
「アンドレ、さっきのやり取り、すごくよかったわよ。緊張するのは当たり前やし、むしろそれだけ真剣や証拠やからええねん。それに、キリンさんやヘビさんの厳戒な監査を通して、私には見えへんかった真上からの角度や、心拍数の揺れまでしっかりチェックできとるからね。自信持ちいな」
「うん、ありがとう、姉ちゃん! キリンとヘビのハードルが高すぎたおかげで、本番は少し気が楽になりそうだよ……」
アンドレが苦笑しながら言うと、イザベルは真剣なトーンで続ける。
「本番で一番大切なのはな、緊張して頭が真っ白になったとしても、自分が『相手に何を一番伝えたいか』を思い出すことや。言葉が多少ぎこちなくたって、真剣な気持ちさえまっすぐぶつければ、セシルちゃんのお父様やお兄様だってちゃーんと受け止めてくれるからね」
アドバイスを胸に刻んだアンドレは、再びエマが動かすぬいぐるみたちに向き直り、家族対応のシミュレーションの続きを始めた。
今度は、セシルのお兄さん役(演じるクロード)からの「将来の進路や勉強についての質問」に対する受け答えの練習だ。
「――それで、君は将来、うちの妹とどうなりたいと考えているのかね?」
クロード演じるお兄さんの少し意地悪な、しかし愛情の篭った問いかけに対し、アンドレは昨日クロードから教わった「男としての誠実な意思表示」を思い出し、背筋を伸ばしてハッキリと答えた。
「はい。僕は今、自分の将来の目標に向けてしっかりと勉強しています。セシルさんとはお互いに高め合える関係でありたいし、彼女のことを心から大切にしていきたいと思っています!」
その堂々とした返答に、クマさん(父親役)のクロードも「……ふん、まぁ悪くない返事だな」と満足そうに頷く。ゾウさん役のエマも「よく言ったわ、アンドレ君!」と大きく鼻を振って褒めてくれた。
家族への対応の次は、いよいよ「セシルと一緒に勉強する際の距離の取り方」の練習へと移る。
アルパカのぬいぐるみ(セシル役)を机の上にちょこんと置き、アンドレはその隣に椅子を引いて座る。
「さて、ここからが一番大事なポイントやで」
イザベルが教官の顔に戻り、スッと手を出して説明する。
「勉強を教える時、近すぎず遠すぎずの絶妙な距離感を保つこと。あまりにベタベタしすぎたらお父様やお兄様の雷が落ちるし、逆に遠すぎたら『本当に教える気あるんか?』って突っ込まれる。教科書を一緒に覗き込みつつ、相手のプライベートスペースに配慮したスマートな距離感やね。さあ、やってみぃ」
アンドレはごくりと唾を飲み込み、アルパカ(セシル)に向かって優しく声をかける。
「えっと……セシル、ここの数学の解き方なんだけどさ、こうやって公式を当てはめると分かりやすいんだよ。ほら、ここを見てごらん」
近すぎず、かといって遠すぎない絶妙な距離を保ちながら、優しく教科書を指し示して説明するアンドレ。
その様子を、キリン役のイザベルが上からじっと見下ろし、ヘビ役のイザベルが足元で「……ふむ、距離感よし、声のトーンも優しくて合格点やな」と判定を下す。
アルパカを動かしているエマも、「うん! セシルお姉ちゃん、きっとおじちゃんの教え方にドキドキしちゃうよ!」と満面の笑みで太鼓判を押した。
家族全員総出の愛ある特訓とシュールなおままごとは、土曜日の本番に向けて、アンドレの中に確かな自信と温かな勇気をしっかりと植え付けていくのであった。




