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リヨンの高校生たちの群像劇  作者: Red Baron
イザベルお姉さんのマナー講座(中編)
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おままごと兼マナー講座と両親からの励ましの言葉

「それじゃあ、これより『セシルちゃんご家族ご訪問シミュレーション』を開始するで! メイン講師のエマちゃん、よろしくね!」

イザベルの元気な合図とともに、壮大でシュールなおままごと兼マナー講座が幕を開けた。

まずは、イザベルから事前にしっかり教わった通り、アンドレは居住まいを正して部屋に入り、しっかりと挨拶をしてから、心を込めて選んだパティスリーの手土産を差し出す。

――ここから先は、エマが動かすぬいぐるみたちによる演技指導(尋問)の始まりだった。


セシルの父親役と兄役を器用に切り替えながら演じるクロードが、まずは父親として低いトーンで口を開く。

クマ(父親):「……フン。うちの可愛いセシルに勉強を教えにくるだと? どうせ勉強なんて口実で、何か別の下心があるんと違うか……?」

(※しかも、このクマさん、大好物のハチミツが入った壺を後ろにこっそり隠しながら睨みつけている)

その少し意地悪な質問に対し、アンドレはクロードから教わったアドバイス――「誠実な姿勢を見せること」をしっかりと心に思い出し、まっすぐ前を向いてハッキリと答えた。

「いいえ、お父さん。僕はセシルさんと真剣にテスト勉強を教え合っています。もちろん、ご家族の皆様にご心配をおかけしないよう、常に誠実な態度で接することを誓います!」

アンドレの誠実な返答に、今度は母親役のゾウさん(演じるエマ)が、パタパタと鼻を揺らしながらビシッと窘める。

ゾウ(母親):「ちょっと、あなた! そんなに怖い顔をして脅かさないの! それにあなた、また後ろにハチミツの壺を隠しているでしょう? もう、そんなことばっかりして……アンドレ君、気にしなくていいからね。いらっしゃい、よく来てくれたわねぇ」

エマの可愛らしいお母さんボイスに、アンドレは内心ホッと胸をなで下ろす。


続いて、セシルのお兄さんであるコック役のキツネ(演じるクロード)が、鋭い視線を向けて料理の話題で揺さぶりをかけてくる。

キツネ(兄):「ほう、誠実ねぇ。ところで君、料理の基本はわかっているのかい? 妹を養うには、まず胃袋を掴むセンスが必要だが……君の得意料理は何だ?」

すかさず、お兄さんの彼女であるパティシエール役のウサギが、小さなおままごとの皿に乗ったお菓子を差し出す。

ウサギ(彼女):「まぁまぁ、お兄さん、そんなに意地悪言わないの。ほら、まずはこれでも食べて落ち着いて?」

アンドレは出されたお菓子(ふり)を上品に受け取り、笑顔で口プッシュ(食べるふり)して感想を述べた。

「ありがとうございます……! 外側はサクッとしていて、中のクリームの甘さが上品で……すごく美味しいです!」


緊張した面持ちでセシルの両親や家族と談笑しているアンドレ。その時、突然、足元からスルリと一匹の影が忍び寄る。

ペット役であるネコのぬいぐるみを手に持ったエマが、アンドレの足元から音もなく這い上がり……

「にゃあ……(すりすり)」

「っ!?」

不意を突かれたアンドレは、思わず声を呑んで固まります。ネコはそのままズカズカとアンドレの膝の上へと陣取り、丸くなりました。


背後から、監査役であるイザベルの冷静な声が飛ぶ。イザベルは手にキリンとヘビのぬいぐるみを持ってアンドレにアドバイスをする。

キリン:「アンドレ、動かないこと。急に驚かせるとネコちゃんが警戒します。」

ヘビ:「そう、そのまま優しく背中を撫でて。目線はご家族とネコちゃんを交互に、余裕のあるところを見せるのです」


(イザベルのアドバイス通り、アンドレは呼吸を整え、ぎこちないながらもネコを優しく撫で始めました。その姿を温かい目で見ていたご家族役が、次々に口を開きます。

クマ(父親):「ほう……我が家のあの人見知りのネコが、初対面のアンドレ君の膝に自分から乗るとはね。君、よほど動物に好かれる穏やかな気質の持ち主と見える。素晴らしいことだ」


ゾウ(母親):「本当ねえ。優しさが自然と仕草にじみ出ている証拠だわ。うちの子も、あなたのような方に囲まれて暮らせたら安心ねぇ」


キツネ(兄):「いやあ、大したもんだ。うちの暴れん坊をこうも一発で骨抜きにするとは、お見それしたよ」


ウサギ(彼女):「ねえ、すごく似合ってる! ネコちゃんもすっかり安心しきってる顔をしてるわ。見ているこっちまで癒やされちゃう」


そして、向かいに座るセシル役のアルパカも、キラキラとした目を向けて称賛の言葉をそえる。


アルパカ(セシル役):「アンドレ、すごいわ……! どんな状況でも慌てず、こうして動物にも優しく接できるなんて、本当に自慢のパートナーよ」


そんな微笑ましくもカオスなおままごとが繰り広げられている最中も、イザベルによる容赦ない「監査」はしっかりと行われていた。

頭を異様に高く掲げたキリン(イザベルの声)が、「……首の角度よし。視線の位置、少しキョドっているけれど許容範囲だね」と上空から厳しくチェックし、足元ではヘビ(これまたイザベルの声)が「シュルシュル……顎の振動で心拍数の上昇を感知……アンドレ君、緊張しすぎだよ!」と鋭く指摘を入れる。

しかも、イザベルは監査役としての厳しい目を光らせながら、同時にスマホを片手に、このシュールで微笑ましい弟と娘の特訓風景をパシャパシャと動画で撮影していた。


(ふふっ、この可愛い姿、ベルギーの父さんと母さんにも絶対見せてあげよっと!)

イザベルはニヤリと悪戯っぽく笑うと、撮影した動画にメッセージを添えて、そのまま実家の両親へと送信した。

――『【メッセージ】アンドレ、好きな女の子のお家へのご挨拶に向けて、おままごとで特訓中!』


送信してから数分後。

突然、リビングに響き渡るアンドレのスマートフォンからの着信音。画面を見ると、なんとベルギーの実家の両親からのビデオ通話だった。

「えっ……!?」

慌てて電話に出ると、画面の向こうには、心配そうな顔をした父親と母親の姿が映し出されていた。

父親が、故郷のワロン訛りを強めて怒ったような、しかし焦ったような口調でまくし立てる。

「おい、アンドレ! さっきイザベルから送られてきたあの動画とメッセージは何や! お前、リヨンで一体どんな不純異性交遊をしとるんや!」

「ち、違うよ父さん! 土曜日にその子の家で一緒にテスト勉強をするから、その時に彼女のご家族にご挨拶に行くだけだって!」

アンドレが慌ててワロン訛りで弁解すると、今度は母親が呆れたように「あなた、少し落ち着きなさいよ」と父親を窘めた。

しかし父親は「お前は黙っとれ、これは男同士の問題や!」と鼻息を荒くする。

「いいか、アンドレ! その子の家に挨拶に行くということは、当然そこにはご家族がおるということやろ? 娘を持つ父親っていうのはな、身内以外の男に対しては鬼のように厳しい生き物なんやからな、気を抜いたらあかんで!」


その父親の剣幕を、画面の横からひょっこり顔を出したクロードが爽やかな笑顔で遮った。

「お義父さん、お久しぶりです。大丈夫ですよ、ご安心ください。昨日、僕がアンドレ君に『父親とお兄様の心理』というものを徹底的にレクチャーしておきましたから。今もまさに、その実践に向けて家族総出で練習しているところです」

画面の向こうの父親は「おお、クロード君か! 久しぶりやな。君がそこまで言うなら安心やけど……って、待てい!! 今、お兄様もって言わなかったか!?」と再び青ざめる。

「父親だけでも難関やというのに、お兄様もいるだと!? アンドレ、軽い気持ちで行ったら一巻の終わりやぞ! ランベール家の男として、恥じないようにしっかり挨拶してくるんやで!」


電話の向こうで父親が激しく気合を入れると、今度は母親が優しく穏やかなトーンで画面に語りかけた。

「アンドレ、土曜日は緊張するやろうけど、あんたなら大丈夫やからね。しっかり頑張ってくるんやよ。それと……イザベルもクロードさんも、いつもアンドレの面倒を見てくれて本当にありがとうね。……クロードさん、あの子のこと、引き続きどうぞよろしくお願いします」

その温かい言葉に、イザベルとクロードは、

「母さん、ウチに任しとき! アンドレを立派な男にしたるから!!」

「はい、お義母さん。任せてください」

と頼もしく微笑み合った。


その時、画面の端からトコトコとエマが歩いてきて、テレビ電話の画面を覗き込んだ。

「はじめまして! エマ・モローだよ!」

エマにとっては(物心ついてからは)初めて画面越しに対面する、ベルギーにいる祖父母への元気な自己紹介だった。

画面に突如現れた天使のように可愛い孫娘の姿に、父親は一瞬でメロメロになり、「お、おお……! エマやないか……! わしや、お前のじいじや……!」とさっきまでの厳格な父親の面影はどこへやら、一気に声が裏返ってデレデレになってしまった。

母親も「まぁ、エマちゃん……! 赤ちゃんの時以来やね、すっかりお姉ちゃんになって……ほんまに可愛いわぁ」と目を細めて愛でる。


すっかり祖父母のハートを射止めたエマは、画面に向かってニコッと笑いかけた。

「ねえ、じいじ、ばあば! アンドレおじちゃん、すっごくかっこいいんだよ!」

孫娘のその一言に、離れたベルギーにいる祖父母の心は完全に打ち抜かれた。

父親は目をうるうるさせながら、「そうかそうか、エマがそう言うなら、アンドレは世界一かっこいい自慢の叔父さんやな! アンドレ、お前は我が家の誇りや、土曜日は絶対に成功させてこい!」と、さっきとは別の意味で涙を流しながら力強く激励した。

母親も「エマちゃんがそう言ってくれるなら、アンドレは百人力やね。しっかりやるんやよ、アンドレ」と優しく背中を押す。


すっかり雰囲気が和んだところで、祖父母は名残惜しそうにしながらもこう告げた。

「いやぁ、画面越しでもこんなに可愛いんやから、やっぱり直接会いたくなってきたなぁ……。近いうちに、みんなでエマちゃんに会いに行きたいもんやわぁ」

そう言って、笑い声に包まれながらビデオ通話は温かい雰囲気の中でプツリと終了した。

スマホの画面が暗くなると、リビングにはドッと心地よい疲労感と、土曜日に向けた確かな自信が満ちるのであった。

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