特訓の成果
プジョー308GTが自宅のガレージに静かに滑り込み、エンジンが穏やかに停止した。
車から降りたイザベルは、かけていたサングラスをスッと外すと、胸ポケットに大切にしまっておいたルイ手製の「革製のバラ」を取り出し、車内の見えやすい場所にそっと飾り付けた。シックな車内に温かみのある手作りのアクセントがよく映える。
家に入ると、すでに仕事を終えて普段着にくつろいでいたクロードと、元気いっぱいのエマが「おかえりなさい!」と玄関まで出迎えてくれた。
イザベルが先に軽やかに玄関へと上がり、それに続いたアンドレは、靴を脱ぐ前にしっかりと背筋を伸ばした。
「ただいま戻りました。クロード義兄さん、エマ」
そうハッキリと挨拶をしてから綺麗な一礼をし、器用に靴を脱ぐと、後ろを向いてしゃがみ込むのではなく、斜めに向いた姿勢のまま綺麗に手で自分の靴を揃えて見せた。
その一連の美しい動作を目の当たりにしたイザベルは、パッと顔を輝かせて両手を叩いた。
「合格よ、アンドレ――!! 昨日の今日やのに、教えたことがもう体に完全に染みついとるやんか……! お姉ちゃん、感動して涙が出そうやわぁ!」
さらに、足元でトコトコと駆け寄ってきたエマも、「すごーい! おじちゃん、かっこいい!」と満面の笑みで叔父を褒め称える。
クロードも穏やかな笑みを浮かべながら、大きく頷いて絶賛した。
「いや本当に、訪問した時の靴の揃え方としては完璧な美しさだよ、アンドレ君。実は昨日ね、イザベルから『昨日の玄関の上がり方』について聞かされたんだけど……『もし私が向こうのご家族の立場だったら、あんな無礼な男は一発で玄関から追い出すわ!』って怒るくらい、最初は全然できていなかったって聞いてね」
クロードは茶目っ気たっぷりにウインクをしながら続けた。
「でも、昨日のスパルタ指導が見事に功を奏したみたいだね。本当によく頑張ったな、アンドレ君」
義兄からの温かい賛辞を受け、アンドレは「はぁ……本当によかったぁ……」と、昨日の地獄のような(しかし愛のある)特訓の苦労が報われた安堵感に包まれるのであった。




