お菓子選びのセンス
パティスリーに向かったアンドレの話です。
イザベルから手渡されたお菓子代の温もりを手のひらに感じながら、アンドレはカランコロンと心地よい音を立ててパティスリーの自動ドアをくぐった。
店内には、バターとバニラの芳醇で甘やかな香りがふわりと満ちていて、それだけで胸が高鳴る。ガラスのショーケースの中や美しく飾られた棚には、色とりどりのマカロンやタルト、そして何種類もの上品な焼き菓子の詰め合わせがずらりと並んでいた。
(……ええと、姉ちゃんの教官モードの指示を思い出せよ)
アンドレは心の中で気を引き締め、教わった条件を頭の中で一つずつ復習する。
「季節感、素材の繊細さ、そして日持ちや切り分けやすさへの配慮――パッケージも華美すぎず、品格のあるもの、か」
ショーケースの前を行ったり来たりしながら、アンドレは真剣な表情で目を皿のようにして商品を見つめた。
秋の深まりを感じさせる栗やカボチャを使った季節限定のサブレも魅力的だったが、初対面であるセシルの家族(特に食に厳しい料理人の兄やパティシエール志望の恋人がいる家族)へ持っていくことを考えると、あまり奇を衒いすぎない方がいいかもしれない。
しばらく棚の端から端までじっくりと吟味した末、アンドレの視線はある一角に釘付けになった。
それは、フランス産の発酵バターをふんだんに使用した「ブルターニュ風厚焼きサブレ(ガレット・ブルトンヌ)」と、香ばしいアーモンドの香りが引き立つ「フィナンシェ」、そして木苺の酸味がアクセントになった「ミニタルトレット」が美しく並べられた、上品なクラシック調の紺色のボックスに入った焼き菓子詰め合わせだった。
パッケージは過度に派手ではなく、落ち着いたネイビーの色合いに控えめな金色の箔押しが施されていて、いかにも知的で洗練された気品を感じさせる。日持ちも十分で、個包装になっており切り分けや取り分けの心配もない。
(これだ……! これなら、素材の味も確かだし、季節感を抑えつつ上品で文句なしのはずだ!)
アンドレは心の中で小さくガッツポーズをすると、ショーケースの向こう側に立っていたパティシエに声をかけた。
「あの、すいません……この焼き菓子の詰め合わせを一つお願いします」
「はい、かしこまりました。大切な方への贈り物ですか?」と店員が柔らかく微笑む。
「あ、はい! 土曜日に……その、友達の家にお邪魔するので、そのご家族の方にお礼を…」
少し照れくさそうに答えると、店員は「素敵ですね。きっと喜ばれますよ」と手際よく綺麗にリボンをかけて箱を包装し、紙袋に入れてくれた。
イザベルから預かったお金でしっかりと支払いを済ませ、アンドレは重みと確かな手応えのある紙袋を丁寧に両手で持ってパティスリーを後にした。
車に戻る足取りは、先ほどまでの緊張が嘘のように軽やかで、誇らしげな笑みが自然とこぼれていたのであった。




