下のきょうだいを心配する、上のきょうだいの本音
「そういえばさ、義兄さんとのマナー講座の続きなんだけどね」
赤のプジョー308GTが街路をスムーズに進む中、助手席のアンドレがふと思い出したように話を続けた。
「お兄様の心理について聞いたけど、『僕にはお兄さんがいるんだけど、あんまり過保護なタイプじゃなかった。だから正直、妹を心配するお兄ちゃんの気持ちはあんまりよく分からないんだよねぇ』って言ってたよ」
それを聞いたイザベルは、ふっとハンドルを切りながら懐かしそうに目を細めた。
「あぁ、そういえば私がクロードの実家に初めて挨拶に行った時、お義兄さんから『うちの弟のこと、よろしく頼むな』って、すごく穏やかに声をかけてもらったのを思い出したわぁ」
「でね、俺がこの間セシルから聞いた話を義兄さんに話したんだよ」
アンドレは、セシルが以前に語ってくれたエピソードを回想した。
――セシルは最初、お兄さんに彼女ができたと聞いた時、小さい頃からずっと一緒にいてくれた大好きなお兄ちゃんを「よその女の人に取られてしまったような気持」がして、正直すごく嫌だったこと。だけど、アンドレと出会って仲良くなっていくうちに、自分自身のその時の気持ちがよく分かるようになり、今では「お兄ちゃんには心から幸せになってほしい」と心から思えるようになったこと――。
その話をじっくり聞いたクロードの推測を、アンドレはイザベルに伝えた。
「義兄さんが言うにはね、『イザベルの言う通り、彼女のお兄様は、父親の次かそれ以上に手強い難関かもしれない。だけど、決して恐れる必要はない』って言ってたんだ。その理由が、『自分に恋人ができた時の妹の気持ちを、お兄さん自身が痛いほどよく知っているからだ』って」
イザベルは静かに聞き入る。
「お父様と同様に、最初はものすごく身構えたり、厳しい態度をとってくるかもしれない。だけどそれは父親の時にも話したが、君に対する敵意なんかじゃないんだ。『妹には、自分と同じように(あるいはそれ以上に)素敵なパートナーを見つけて幸せになってほしい』という、お兄さんとしての深い愛情の裏返しなんだよって。子供の頃からずっと可愛い妹の面倒を見てきた大切な存在だからこそ、彼女のパートナーとなる男のことをめちゃくちゃ厳しく見定めると思う、って義兄さんは言ってたよ」
アンドレの言葉を最後まで聞いたイザベルは、深くうなずきながら柔らかく微笑んだ。
「……うん、クロードの言う通りだわ。お兄様のその気持ち、なんだかすごくよく分かる気がする」
イザベルは少し遠くの景色を見るように、優しいトーンで語り始めた。
「私もね、セシルちゃんと実際に会うまでは、『どんな子なのかしら……うちのアンドレにふさわしい素敵な子やろか……』って、正直すごく心配だったのよ。可愛い弟の傍にいる女の子がどんな子なのか、気が気じゃないっていうか……お姉ちゃんとしては、やっぱり心配になっちゃうものだもの」
ルームミラー越しにイザベルがちらりとアンドレに温かい視線を送る。
「せやけど、実際にセシルちゃんと会ってみたら、本当に優しくて可愛らしくて、めちゃくちゃ素敵な子やったやん? だから、お兄様も最初は心配したりヤキモチを焼いたりするかもしれんけど、きっとすぐにセシルちゃんの選んだ人やったら安心して、温かく迎えてくれるようになるわぁ。そのためにあんたもちゃんとせなあかんで!!」
車内の空気がふんわりと温かな家族の優しさに包まれる中、プジョー308GTは目的地のパティスリーの駐車場へと静かに滑り込んでいくのであった。
皆さんはイザベルとフレデリックの気持ちはどう思いましたか?
二人ともすごい似ていますね。小さいきょうだいを育ててきたというところが笑




