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リヨンの高校生たちの群像劇  作者: Red Baron
イザベルお姉さんのマナー講座(中編)
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噂と実際に会って感じたギャップ

掲示板を確認するために教室を飛び出したクロエ、エロワーズ、ジュリエットの3人は、廊下の壁に貼り出された用紙の前に足を止めた。

そこには、前回の定期テストの学年順位と、体力測定の各種目結果および学年男女別の順位が詳細に掲示されていた。セコンデ(高校1年)の並びの中から、彼女たちが探していた名前を見つける。

「ベアトリス・ロシュフォール……あったわ!」

指し示された場所には、定期テストで学年7位という抜群の成績が記されており、さらに体力測定の項目では学年女子の総合1位を獲得していることが明記されていた。ほとんどの測定種目で男子の平均と同等かそれ以上の記録を出しているその数字の凄まじさに、3人は目を見張る。

「テストの成績が優秀なだけでなく、運動神経も学年トップですの……!」とクロエが感嘆の声を漏らし、エロワーズは「まさに、完璧な『文武両道』という言葉が似合うわね」と頷(うなづ)く。ジュリエットも「今度、どうやって勉強やトレーニングを両立させているのか、ぜひお話を聞いてみたくなっちゃったわ」と目を輝かせた。


その時、背後からふわりと明るい声が降ってきた。

「なになに、あたしの話をしてたのかな~?」

「ひゃっ!?」

驚いた3人が慌てて振り返ると、そこにはスラリとした長身に、アッシュブロンドのロングヘアを揺らし、ディープブルーとバイオレットの美しいオッドアイを輝かせた女子生徒が立っていた。

エロワーズとジュリエットは息を呑み、クロエの耳元に小声でささやいた。「クロエ、この人よ……!」

不意を突かれたクロエだったが、すぐに気を取り直し、お嬢様らしく上品に微笑みながら自己紹介をした。

「ごきげんよう。わたくし、クロエ・ド・モンフォールと申しますの」

それに続いてエロワーズとジュリエットも「私はエロワーズ・ベルナール」「私はジュリエット・ロランよ。私とエロワーズは学生寮で暮らしていて、あなたの噂はいつも聞いていたの」と挨拶を交わす。

すると彼女は、フランクで明るい笑顔を浮かべて両手を軽く振った。

「やっほ~! あたしはベアトリス・ロシュフォール。よろしくね!」

噂の本人があまりにも気さくに話しかけてきたため、クロエは少し目を丸くしながらも、「エロワーズたちから伺いましたけれど……あなたは勉強やスポーツだけでなく、ファッションにも非常にお詳しいそうですね?」と尋ねた。

「あ、それ? ファッション雑誌を見るのはあたしの趣味の一つだよ~」とベアトリスはケラケラと笑う。

すかさずジュリエットが「他にどんな趣味があるの?」と興味津々で問いかけると、ベアトリスは指を折りながら答えた。

「うーん、オカルトや法律、犯罪心理学にプロファイリング、あと裁縫や料理くらいかな~。まあ、料理はまだ全然やったことないけどね!」とおどけて見せる。

カジュアルで親しみやすい話し方をしているにもかかわらず、中身は驚異的な文武両道に加え、マニアックで幅広い多趣味の数々。その大きなギャップに、3人はただただ圧倒されて驚くしかなかった。


「あの……実はわたくしたち、これからの人生に向けて『大人の女性になるための勉強』をしていて、近々その研究会を立ち上げる予定なのですの。それで、エロワーズたちからあなたのお話を伺って、ぜひ掲示板を拝見しに……」

クロエが少し気恥ずかしそうに説明すると、ベアトリスは手をパタパタと振った。

「いやいや、あたしなんて文武両道になんてほど遠いよ~。テストだってまだ7位程度だし、体力測定だって日々のトレーニングの延長みたいなもんだしね」と謙遜する。

そしてベアトリスは、ふと思い出したように話題を変えた。

「そういえばさ、大人のお姉さんと言えば、昨日校門のところに赤いプジョー308GTに乗ったすごく綺麗な人が迎えに来てたけど、あれ見た~?」

「見たわよ!」とジュリエットが即座に答え、エロワーズが続ける。

「私たち、まさにその人を見て感銘を受けて、『大人の女性になるための勉強会』を立ち上げようと思い立ったのよ」

クロエも上品に頷きながら、「名前はまだ決めておりませんけれど、わたくしどももあの方のような素敵なレディに近づけるよう、日々研鑽(さん)を積むつもりですわ」と微笑んだ。

それを聞いたベアトリスは「そっか! ちなみにその人って、どんな人なの?」と興味深そうに首を傾げた。

エロワーズが「私たちのクラスメイトのお姉様なのよ」と説明すると、クロエが補足する。

「お名前はアンドレ・ランベール君と仰います。確か、あなたも寮で暮らしていましたわよね?」


ベアトリスは「その人の名前はまだ聞いたことないな~」と首をかしげる。


「今日と明日の放課後も、彼のお姉様が迎えにいらっしゃる予定ですので、もしお時間がある日があれば、お姉様から『大人の女性』についてのお話を一緒に伺えないかと思って……。もちろん、あなたにも後から色々と教えていただきたいですわ!」

クロエの言葉に、ベアトリスは楽しそうに目を細めた。

「へえ、そのアンドレ・ランベール君のお姉さんね! 面白そうじゃん。もし研究会の名前が決まったら、あたしにも興味あるしぜひ仲間に入れてよ! ……っと、そろそろ次の授業の準備があるから、またね~!」

明るく手を振ると、ベアトリスは軽やかな足取りで去っていっていった。


その背中を見送りながら、クロエは先ほどまで耳にしていたベアトリスの「優秀な優等生」という噂と、目の前で見たフランクで庶民的な話し方との間にある大きなギャップを反芻(すう)していた。

しかし、彼女が纏(まと)う圧倒的な姿勢の美しさや、言葉の端々に滲み出る高い教養は、一朝一夕で身につくものではない――それは、自分自身も名家の育ちとして厳しく躾けられてきたクロエだからこそ、痛いほどよく分かることだった。


一方で、エロワーズとジュリエットもベアトリスについて語り合う。

「さっきも言ったけど、彼女が教室で同級生と話しているところをよく見かけるのよね。女子と仲が良いだけじゃなくて、男子ともまったく気負わずにすごく対等に話しているんだから」

「そうそう! 時には男子顔負けの、スポーツの戦術論とか機械の話みたいな、男同士で盛り上がるような話題も普通に混ざって話したりするのよ」

彼女たちの知る「上品なお嬢様像」とはどこか違い、話し方やノリが驚くほど庶民的でフランクなベアトリス。そんな彼女の姿を思い浮かべながら、エロワーズとジュリエットが首をかしげると、クロエは優雅に微笑んでこう返した。


「ふふ、驚かされたけれど……それもまた、彼女の大きな魅力の一つではないかしら」

クロエは背筋をスッと伸ばし、上品な笑みを湛えながら二人に向き直った。

「身分や性別、あるいは話すときのトーンがどうであれ、自分の軸をしっかりと持ち、これほどまでに文武両道で知的好奇心が旺盛な方なんて、そうそういらっしゃるものではありませんわ。型に嵌まったお嬢様だけがすべてではありませんし、むしろ飾らない気さくさがあるからこそ、周囲の誰もが自然と惹きつけられるのでしょうね。……わたくし、彼女のことも含めて、この研究会を絶対に素晴らしいものにしてみせますわ!」

クロエの瞳には、新たな出会いへの感銘と、次なる目標に向けた強い意欲が輝いていた。

久しぶりに登場した噂のベアトリス・ロシュフォール。

彼女について知りたい方は過去のエピソードも参照してください。

いつか、アンドレたちとも対面させるエピソードを作ろうかなと考えています。

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