兄の心理
クロードの父親としての本音を聞いたあと、アンドレはふと思い出し、身を乗り出して尋ねた。
「そういえばクロード義兄さん、以前お兄さんがいらっしゃるって言ってましたよね? お兄さんから見て、セシルのお兄さんのような『妹を持つ兄の心理』ってどういうものなんでしょうか?」
それを聞いたクロードは、「お兄様の心理か……」と少し考え込み、苦笑いを浮かべた。
「うーん、正直に言うと、僕自身は弟の立場の人間だから、セシルさんのお兄さんとは少しタイプが違うかもしれないな。うちの兄はそこまで過保護でも心配性でもなかったからね。僕がイザベルと結婚の挨拶に行った時も、『弟をよろしくお願いします』って逆にイザベルに頼み込むくらい喜んでくれていたし……まあ、参考にならないかもしれないな」
そう言ってから、クロードは真剣な眼差しになり、アンドレに向き直った。
「でも、アンドレ君。セシルさんからお兄様について何か聞いていないかい? 君が持っているその情報をもとに、男の視点から推測してあげよう」
アンドレはこれまでにセシルから聞いた話を思い出し、整理して答えた。
「えっと……セシルは小さい頃からずっと面倒を見てくれた優しいお兄ちゃんだって言ってました。今はプロのコックをやっていて、家の料理も作ることが多くて料理がすごく上手なんです。それと……確かセシルが言っていたんですが、お兄ちゃんに彼女ができた時は、最初は『お兄ちゃんを取られちゃうみたいで嫌だった』って少し寂しく思っていたみたいです。でも、ちょうどリセに入学して俺と仲良くなったあたりから、その気持ちもすっかりなくなって、今は応援しているって言ってました」
その話を聞いたクロードは、ゆっくりとうなずきながら分析を始めた。
「なるほど……そのエピソードを聞く限り、セシルちゃんのお兄様は、妹さんのことを心から大切に愛している素晴らしいお兄さんだね。お父様に次ぐ、いや、場合によっては一番の難関かもしれないな」
「えっ、やっぱり手強いですか……?」とアンドレが身構えると、クロードは優しく微笑んで首を振った。
「いや、恐れる必要はないさ。よく考えてごらん。お兄様自身も、かつて自分に恋人ができた時、妹のセシルさんが『お兄ちゃんを取られるようで嫌だ』と複雑な気持ちを抱いた――その『身内への強い独占欲や寂しさ』を自分でも体験しているんだ。だからこそ、妹と仲良くしている君に対処する時は、お父様と同様にピリッと身構えてしまうかもしれない」
クロードは紅茶のカップを置き、力強く言った。
「しかしそれはね、さっきの父親の心理でも話したが、君に対する敵意というよりも、『妹には、自分と同じように――いや、それ以上に、心から大切にしてくれる素敵なパートナーを見つけてほしい』という、深い愛情の裏返しなんだよ。彼自身も妹を愛しているからこそ、君の誠意や本気度を厳しく見極めようとするはずだ」
義兄のその的確で温かいアドバイスを聞いた瞬間、アンドレの胸につかえていた不安や緊張がスッと霧のように晴れていった。
「……そっか。お兄様も、セシルを大事に想うからこそ厳しくなるんだ……。それを知っていれば、ただ怖がるんじゃなくて、ちゃんと誠意を持って向き合えばいいんだって分かります!」
クロードの言葉によって、セシルの家族と対面することへの恐怖心は消え去り、代わりにしっかりとリスペクトを持って向き合おうという確かな「自信」が、アンドレの胸の内にしっかりと宿るのであった。




