パーソナル・スペース
テーブルマナーの特訓をひとしきり終えると、イザベルはスパルタ教官の表情を引き締め、さらに踏み込んだ重要な指導へと移った。
「よし、次は『勉強する際の距離感』についての指導や。セシルちゃんと一緒に勉強する時、教える側になる場合と教わる側になる場合の2つのパターンがあるはずやね。それぞれの『正しい座る場所と距離』についてしっかり頭に叩き込みなさい」
イザベルはテーブルの椅子を使いながら、それぞれのパターンを実演交じりで解説し始めた。
パターン1:アンドレがセシルに勉強を「教える」場合
「まずは、普段学校でやっているように、あんたがセシルちゃんに理数科目を教える立場の時や。この場合、絶対にやってはいけないのは『正面に向かい合ってベッタリと密着すること』や!」
アンドレが「え、向かい合っちゃダメなの?」と聞くと、イザベルは鋭く首を振った。
「あかん! 狭い空間や部屋で真正面に向かい合うと、物理的な距離が近すぎて相手にプレッシャーを与えてしまうし、何より傍から見たら『距離感が近すぎる不審な男子高校生』に見えてしまう。お父様やお兄様に見つかったら一発レッドカードやで!」
「じゃあ、どこに座ればいいんだよ?」と尋ねるアンドレに、イザベルは的確なポジションを指示した。
「正解は、『セシルちゃんの斜め後ろ』、あるいは『隣に座る場合は、こぶし二つ分(約15〜20センチ)の適切なパーソナルスペースを空けて並ぶこと』や。斜め後ろからノートを覗き込む形なら、相手に威圧感を与えず、かつ自然な姿勢で教えることができる。これがスマートな教え方の基本やね」
パターン2:アンドレがセシルに勉強を「教わる」場合
続いて、イザベルはもう一つのパターンを解説した。
「逆に、セシルちゃんから苦手な文系科目を『教わる』立場の時はどうするか。この時も注意が必要や」
イザベルはアンドレの横に立ち、実演しながら説明を続ける。
「この場合は、セシルちゃんの邪魔にならないよう、『彼女の利き腕の反対側、つまり左側に控えめに寄り添うように座る』のが鉄則や。教わる立場だからといって、机に突っ伏したり、相手のスペースにグイグイ身体を乗り出すのは絶対にNG!」
「常に『教えてもらう立場としての謙虚な姿勢』を忘れず、相手が書きやすいようにノートの角度やスペースに気を配る。その気遣いこそが、好感度を生む最高のテクニックなんやで」
イザベルのきめ細やかで徹底的なシミュレーション指導を聞きながら、アンドレは「なるほど……教える時と教わる時で、そんなに座る位置や距離感の気配りが違うんだな」と深く感心し、本番で絶対に失敗しないよう頭の中でしっかりとイメージトレーニングを行うのであった。




