鉄の掟
水曜日の朝、澄んだ秋晴れの光が差し込む教室で、ルイは待ちきれない様子でアンドレの席に駆け寄ってきた。
「ようアンドレ! いよいよ今日だな。セシルとの買い物デートの調子はどうだ?」
朝一番からニヤニヤと笑いかけるルイに、アンドレは「デートじゃないって言ってるだろ」と苦笑しながら答えた。
「ちゃんと寮に外出願を出してきたよ。夕方には戻る予定だ。うちの寮は規則が厳しくて、遅くても19時までには戻らなきゃいけないんだ」
「えー、19時かよ。じゃあ買い物したあと、そのままセシルをお前の寮の部屋に連れてってまったり……とかはしないわけ?」
ルイのおどけた提案に、アンドレは慌てて両手を振って強く否定した。
「冗談でもそんなこと言うなよ! 連れていけるわけないだろ。うちの学生寮はそういう規律に関してめちゃくちゃ厳しいんだ」
その会話が聞こえていたのか、教科書を整理していたマリアが冷静な声で口を挟んだ。
「そういえば、うちの系列校のルイ・ル=グランの学生寮でも、異性を建物に入れるのは完全に禁止で、破ったら一発で退学処分になるって噂を聞いたことがあるわ」
「た、退学!? マジかよ……そりゃ絶対にバレないように忍び込まなきゃ……」
顔を引きつらせてビビるルイに、アンドレは首を横に振った。
「いや、バレないようにとかそういう問題じゃないから。寮に入った最初の日、先輩からきつく釘を刺されたんだ。『絶対に女子を寮の建物に入れるな。過去に女子を部屋に連れ込んだのが見つかって、本当に退学になった奴がいるぞ』って。それに建物の中じゃ、男子と女子が立ち止まって話すことすらタブー視されてるんだ。だからセシルと勉強するときもずっと教室を使ってたし、今日の午後も学校を出てから外で待ち合わせる約束にしてる」
「うわ……寮生活って自由そうに見えて、想像以上に厳しいんだな……」
実家暮らしのルイが心底驚いて肩をすくめたちょうどその時、「おはよう、みんな!」とセシルが登校してきた。明るい挨拶とともに輪に加わる。
セシルも以前アンドレから寮の厳しい規則について聞いていたため、アンドレが部屋に誰も呼べない事情はしっかりと理解していた。
「おはよう、アンドレ。今日の午後、予定通りで大丈夫?」
「ああ、もちろん。俺、文系科目が苦手だからさ……特にフランス語と歴史・地理の分かりやすい参考書をセシルに選んでもらおうと思って。本屋を見たあと、少しカフェにでも寄ろうか」
「うん! 私に任せて。分かりやすい解説が載ってるやつ、一緒に探そうね」
楽しそうに午後の予定を話す二人を前に、ルイとマリアは示し合わせたように顔を見合わせ、「へえー、お楽しみに」「充実した午後になるといいわね」と言わんばかりの温かいからかい交じりの笑みを浮かべていた。




