失敗は成功のもと
よし、それじゃあ今教えた流れを実際にやってみせるんや。外に出て、最初からやり直し!
アンドレは一度外に出ると、深呼吸をしてから再び玄関のインターホンを押した。ドアが開く。目の前には、教官の顔に戻ったイザベルが立っている。
「こんにちは、アンドレ・ランベールです。今日はお招きいただいてありがとうございます――」
言葉の途中で、アンドレはつい癖でペコペコとお辞儀をしてしまった。さらに、靴を脱いだ後、いつも寮に入る時の癖で足先で器用に靴を揃えようとした瞬間――。
「ピシャッ!」
イザベルが丸めたマナー教本で、アンドレの眉間をピシャリと突いた。
「やり直し!! 全然合格に達してへん! 今すぐ靴を履いて、もう一回玄関の外に戻りなさい!」
車に戻るわけにはいかないので、アンドレは慌てて靴を履き直し、玄関の外へ出た。
「何がダメだったか分かるか?」と腕を組むイザベルに、アンドレは「えっと……途中で頭を下げちゃったのと、足で靴を揃えたこと?」とおそるおそる答えた。
「その通りや。挨拶の途中で頭を下げるのは、自信がなさそうに見えるし言葉が途切れて聞き取りにくい。そして一番あかんのは、靴を脱いで揃える時の作法や!」
イザベルは厳しいトーンで続ける。
「もし私がお兄様の立場だったら、『なんだこの男は、我が家を舐めているのか? 玄関先で足を使って靴を片付けるなんて、妹を預けられないな』って思うわ。いいか、出迎えてくれた家族に対する敬意が動作の端々に表れるんや!」
「わかった、もう一回やる!」
アンドレは気を取り直し、再びインターホンを押した。
ドアが開き、二度目の挑戦が始まる。
「こんにちは、アンドレ・ランベールです。今日はお招きいただいてありがとうございます」
今度は挨拶の言葉を最後までしっかりと述べた。よし、完璧に言い切った――そう思った瞬間、ペコリと頭を下げた。
そして靴を脱ぎ、手で揃えようとパッと後ろを振り返った瞬間――。
「バシッ!」
今度は容赦なく、アンドレのお尻にマナー教本がヒットした。
「痛っ! なんだよ姉ちゃん、急に叩くことないだろ!」とアンドレが叫ぶと、イザベルは鬼のような形相で言い放った。
「 出迎えてくれたご家族に対して、背中を向けてさらにお尻を突き出すなんて言語道断や! 私がお兄様の立場だったら、今のは間違いなく『おい、うちの両親と僕の前でなんだその無礼な態度は! 出ていけ!』って即座に追い返してるわ!」
イザベルは呆れたようにため息をつき、手本を見せた。
「靴を揃える時はな、決して相手に背中やお尻を向けず、きちんと正面を向いたまま優しくしゃがんで、両手で丁寧に揃えるの。そうすれば、仕草そのものが美しく見えて、家族の方々にも誠実さが伝わるんや。……ほら、もう一回やり直し!」
何度もダメ出しを食らい、体がバキバキになりながらも、アンドレは弱音を吐かなかった。
大好きなセシルのため、そして週末に最高の笑顔を見せるため――アンドレはめげずに、再び玄関の外へと向かうのであった。




