マナーとは形ではなく、心で示すもの
翌日の火曜日の放課後。
アンドレ・ランベールは緊張した面持ちで学生寮の事務室のドアを軽く二度叩いた。
「失礼します」
そう言って中に入ると、そこには男子寮舎監であるルフェーヴル先生の姿があった。きれいに整えられた髪に、筋骨隆々とした逞しい体躯。生徒たちからは恐れを込めて「鬼教官」とあだ名されているが、その厳格な態度の裏側には常に生徒一人ひとりの事情や成長を真摯に思いやる温かさが備わっている男性教師だ。
パソコンの画面から目を離し、ルフェーヴルはがっしりとした腕を組んでアンドレに向き直った。
「ん、ランベールか。どうした、浮かない顔をして」
「あの、先生……。外泊届を出しに来ました」
アンドレはポケットから一枚の用紙を取り出し、デスクの上にそっと置いた。
「水曜日から日曜日まで、姉の家に泊まります。来週の月曜日には寮に戻ります」
「ほう、水曜から日曜までか。珍しいな、何か家族の用事でもできたのか?」
ルフェーヴルが怪訝そうに眉をひそめると、アンドレは気まずそうに頬をかきながら、昨日の出来事をぽつりぽつりと語り始めた。
「実は……昨日、クラスの女子の家に土曜日勉強会に招待されて……それで姉に電話したら、女子の家にも行ったことがないのかって呆れられて……気づいたら、水曜日から姉の家でみっちりマナーを教わることになっていたんです……」
それを聞いたルフェーヴルは、はじめは驚いたように目を見開いたが、すぐにふっとフランクな笑みを浮かべ、大きな手で自分のあごをさすった。
「なるほどな。お姉さんは、君に恥をかかせたくない、大切な機会を成功させてほしいからこそ、そうやって厳しくも動いてくれたんだろうな。いいお姉さんじゃないか」
「はい……ありがたいんですけど、なんだか今から緊張してしまって……」
縮み上がるアンドレを見て、ルフェーヴルは分厚い胸を軽く張り、落ち着いた低い声で諭すように言った。
「ランベール、あまり気負うことはない。まぁ、最低限の礼儀作法を知っておくに越したことはないがね……。だが、忘れるな。マナーの本質というのは、形の美しさや手順の正しさだけにあるわけじゃない。一番大切なのは、『相手を敬う心』だ。目の前の人間を思いやり、感謝する気持ちがあれば、自然と態度は相手に伝わるものだ。お姉さんの特訓でしっかり学んでこい」
その力強くも温かいアドバイスに、アンドレの胸に広がっていた不安の霧がすっと晴れていくのを感じた。
「はい! ありがとうございます、先生。しっかり学んできます!」
アンドレは背筋を伸ばし、深く一礼して事務室を後にするのであった。
マナーについて皆さんはどう考えていますか?




