姉の指導
プツン、と通話が切れたスマートフォンを握りしめ、「よし、完璧なノートを作るわよ……!」と一人で鼻息を荒くしているイザベル。
その時、ソファでエマと一緒に動物図鑑を読んでいたクロードが、図鑑をそっと閉じてイザベルの方へと近づいてきた。
クロード: 「おや、お疲れ様イザベル。ずいぶんと大きな声を出していたね。リビングのこちらまで君の気迫が伝わってきたよ。エマなんて、びっくりして図鑑を見る目が丸くなっていたくらいだ」
エマ: 「ママ、お顔がすっごくおこってる……。アンドレおじちゃん、何か悪いことしたの?」
娘の不安そうな目に見つめられ、イザベルはハッと my フォームに返った。慌てて表情を緩め、エマの頭を優しく撫でる。
イザベル: 「ごめんなさいね、エマ。怒っていたわけじゃないのよ。ちょっと、アンドレおじちゃんに大事な『気合』を入れていただけ。ね? クロード」
クロード: 「ふふ、やっぱり今のはアンドレ君だったんだね。彼にそこまで熱を上げて指導するなんて珍しいじゃないか。リヨンでの寮生活で、何かやらかしてしまったのかい?」
イザベル: 「それがね、クロード、聞いてちょうだい! やらかしたんじゃなくて、これからやらかしそうなのよ! さっきアンドレから電話があって、来週の土曜日に、セシルちゃんのご実家に招待されたんですって!」
クロード: 「ほう、セシルさんのご自宅に? それは……彼にとっては大ニュースだね」
イザベル: 「そうなのよ! 自宅に招かれるなんて、最高にチャンスじゃない? なのにあの子、女子の家に招待されるのが初めてだからって、お作法も何も知らないまま突撃しようとしていたのよ! 手土産の選び方も、挨拶の仕方も、ケーキの食べ方の処理も、何一つ分かっていないの!」
クロード: 「ははは、なるほど。それで君の『保護者』としての血が騒いでしまったわけだ」
イザベル: 「当然でしょう? 今は私はモロー家の人間とはいえ、元はランベールよ。そんな状態のアンドレをセシルちゃんのご家族に会わせたら、ランベール家の名が廃るわ! それに何より、アンドレが恥をかいてセシルちゃんに嫌われたら可哀想じゃない。だから私、水曜日の午後にリヨンまで車で迎えに行って、週末まで我が家で徹底的に叩き込むことにしたわ!」
エマ: 「わーい! アンドレおじちゃんがお家にくるの? エマ、おじちゃんと一緒にあそびたい!」
イザベル: 「(申し訳なさそうな表情に変わり、エマの目線に合わせてしゃがみ込みながら)明後日はごめんね、エマ。アンドレおじちゃんはママから大事なお勉強を教わりに来るの。だから、明後日は遊ぶことができないと思うの……ごめんなさいね」
エマ: 「そっかぁ……。お勉強、がんばるなら、エマ応援する!」
クロード: 「いい子だね、エマ。よし、そうと決まれば今日の夕飯は僕が作るよ。イザベルはさっそくノートの準備にとりかかるといい。……でも、夜更かしもほどほどにね」
イザベル: 「ありがとう、クロード。本当に助かるわ。……さあ、今夜はランベール家の誇りにかけて、最高のカリキュラムを作り上げるわよ!」




