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リヨンの高校生たちの群像劇  作者: Red Baron
都市伝説の真実
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すれ違いが生む解釈

「ありがとうございます」と頭を上げたイザベルは、引き締まった表情で二人の先生に向き直った。

「今後、同じ間違いを起こさないためにも、この機会に寮の規則について改めて詳しく説明していただけないでしょうか? 実は、9月の入寮説明会に出席したかったのですが、娘の育児に追われてしまい、母に代わりに行ってもらったのです。それに、私自身は学生寮というものがどういう場所なのかよく分かっていなくて……」


イザベルのその言葉に、モルヴァン先生とルフェーブル先生は温かくうなずいた。

「もちろんです、モローさん。ご不明な点がございましたら、何でもお尋ねください」

ルフェーブル先生が手元の引き出しから一冊の小冊子を取り出し、イザベルに差し出した。表紙には『ルイ・ル=グラン高等学校リヨン分校 寮生規則ハンドブック』と記されている。イザベルは両手でそれを受け取った。


冊子を開いたイザベルに向かって、モルヴァン先生が老眼鏡をかけて落ち着いたトーンで説明を始めた。

「では、基本的な規則についていくつかご説明しましょう。先ほどもお話ししましたが、寮では原則として、あらゆる行動に事前の届け出が必要です。これを怠ると、処罰の対象となってしまいます」


モルヴァン先生は指を折りながら挙げていく。

「まずは『外出届』です。これはその名の通り、日中に寮の外へ出る際に必要なものです。原則として、門限である遅くとも19時までには寮に戻らなければなりません」


続いて、モルヴァン先生は少し真剣な表情を強めた。

「次に『外泊届』です。これは、週末や休祝日などに寮の外で一夜を過ごす場合の届け出となります。ただし、これにはいくつかの厳格な制限やルールがあります」


イザベルは冊子のページをめくりながら尋ねた。

「制限というのは……先ほどおっしゃっていた、無断外泊のほかに何かあるのでしょうか?」

「ええ。これは寮単体の規則というよりも、学校全体の校則に関わる部分なのですが……」とモルヴァン先生は前置きし、こう続けた。

「本校では、未成年である生徒同士の私的な外泊は、一切認めていません」


「生徒同士の……ですか?」とイザベルが問うと、ルフェーブル先生が補足するように低い声で説明した。

「例えば、生徒同士が友人の家に泊まりに行ったり、保護者の不在な場所で一晩を過ごしたりすることですね。未成年者同士だけで夜を明かすとなれば、思わぬトラブルや、予期せぬ非行に巻き込まれるリスクが高まります。学校側としては、そうした危険から生徒を守る責任がありますから、厳しく禁じているのです」


モルヴァン先生がその言葉を引き継いだ。

「もちろん、今回のように責任の取れる成人であるご家族や親族の元に宿泊する場合は問題ありません。ただ、それも事前にしっかりとした届け出と確認が取れていればこその話です」


イザベルは納得したようにうなずき、手元のハンドブックをしっかりと握りしめた。


「それからもう一つ」と、モルヴァン先生はハンドブックの特定のページを開くよう促した。

「日曜日にランベール君にもお話ししたのですが、ハンドブックの第17条を確認していただけますか?」


イザベルは言われるがままにページをめくり、該当の条文に目を走らせた。そこには『保護者等の定義』と太字で記されていた。

――保護者等とは、親権者または後見人のほか、成人した親族(兄、姉、祖父母、おじ、おばなど)……。


その文字を見た瞬間、イザベルはハッとして息を呑んだ。

(……あっ)

これまでアンドレが「親以外に頼ったら規則違反になると思い込んでいた」のは、まさにこの定義を「親だけ」だと勘違いしていたからなのだと、ここでようやく腑に落ちたのだ。


モルヴァン先生はイザベルの表情を見て、静かにうなずいた。

「お気づきになりましたね。はい、当校の規則では、保護者といえば親御さんだけを指すわけではありません。成人した親族――例えばあなたのようなお兄様やお姉様、祖父母、あるいはおじやおばなども含まれます。さらに第3項に記載されている通り、親族以外であっても、学校側が特別に認めた人物や機関なども『保護者等』として定義しているのです」


さらにモルヴァンは、なぜそこまで範囲を広くしているのか理由を付け加えた。

「ご存じの通り、このリヨン分校の寮生は、遠方や海外から通っている生徒がたくさんいます。もちろん、ご両親にもそれぞれの都合やお仕事があります。もし保護者の定義を『親だけ』に限定してしまえば、何か緊急事態が起きたときに連絡が遅れ、問題が大きくなってからようやく発覚してしまうという危険性があります。それに、ご家庭の事情によっては頼れる親族が近くにいない生徒もいる。そんなとき、親以外に頼ることを一律で禁止してしまっては、必要な外泊の許可すら出すことができなくなってしまうのです。そうした様々な背景や生徒の安全を考慮し、保護者の定義をあえて広く設けているのですよ」


その説明を聞いて、男らしく腕を組んでいたルフェーヴル先生が、少し苦笑いをしながら補足した。

「実を言いますとね、モローさん。これはランベール君一人に限った話ではなく、この『保護者の定義は親だけだ』と勘違いして一人で抱え込んでしまう寮生は、毎年実に多いのです。若い彼らにとっては、規則の文面だけを見てそこまで柔軟に解釈するのは、少し難しかったのかもしれませんね」


それを聞いたイザベルは、驚きと、どこかホッとしたような複雑な笑みを浮かべながら、ゆっくりと顔を上げた。

「……そうだったのですね。アンドレも、きっと親以外に頼ることはルール違反だと、頑なに思い込んでしまっていたんだわ……。あの子が勝手に動いてしまった背景には、そんな誤解もあったのですね」


イザベルは、胸のつかえがまた一つすっきりと消えていくのを感じた。しかし同時に、ロビーで見かけた光景に関するもう一つの疑問が、彼女の頭の中で明確な形を取り始めていた。

――規則と保護者の定義についてはよく分かった。でも、もう一つ、どうしても確かめておかなければならないことがある。


イザベルは背筋を少し伸ばし、真剣なまなざしでモルヴァン寮長とルフェーブル舎監を見据えた。

「先生方、もう一つ……どうしても気になっていたことがあるのですが、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」

学校側が求めていることと生徒側が思っていることでここまでギャップがあることは驚きであります。

ルールを理解してわからなかったら作った人に聞くということが大事な回だと思いました。

次回はいよいよあの都市伝説の謎が解明されます!!

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