醜い争奪戦と冷たい現実
詳しい経緯はまだ聞いていないものの、ひとまずアンドレに何の処罰も下されなかったことを知り、セシル、ルイ、マリアの三人は心の底から胸を撫で下ろした。
落ち着きを取り戻したところで、三人はクラスメイトたちが先ほどから大騒ぎしている例の二枚の写真を覗き込んだ。
土曜日にイザベルとエマに対面していたセシルは、写真を見るなり思わずふふっと口元を緩める。
(土曜日に会った時も優しかったけれど……エマちゃんとぬいぐるみで遊んでいるアンドレ、本当に楽しそう。学校では絶対に見せない、完全に『優しい叔父さん』の顔をしてる)
一方、初めて写真を目にしたルイは、目を皿のようにして画面に食いついた。
「うわっ、なんだこの美人……! めちゃくちゃスタイルいいじゃん! 一体誰なんだよ!?」
隣から覗き込んだマリアも、知的な灰色の瞳を細めて感心したように呟く。
「座っているから正確には分からないけれど、スラリとして背も高そうね。それに、一緒に写っている女の子もぬいぐるみたちも本当に愛らしいわ」
二人の反応に、アンドレは少し気恥ずかしそうに頭を掻いた。
「俺の姉ちゃんと、その娘……つまり、俺の姪っ子だよ」
その瞬間、ルイの目が爛々と輝いた。彼はすかさずアンドレの肩を組み、ビシッと親指を立ててみせる。
「おいおいアンドレ! こんな絶世の美女でスタイル抜群のお姉さんがいたなんて聞いてねぇぞ! 頼む、俺に紹介してくれ! 俺がお前の『義理の兄貴』になってやるからよ!」
すると、周りで聞き耳を立てていた男子生徒たちが一斉に割って入ってきた。
「おいルイ、抜け駆けすんじゃねえ!」
「お義兄さんになるのは俺だ! アンドレ、俺を弟にしてくれ……いや、俺をお前の義兄にしてくれ!」
教室の後方で、突如として不毛な「姉の争奪戦」が勃発した。
騒ぎ立てる男子たちを見かねて、アンドレは冷ややかな目を向け、容赦なく現実を突きつけた。
「……無理。姉ちゃん、とっくに結婚してるから」
「「「えええええええっ!?」」」
教室に男子生徒たちの絶望の叫びがこだました。
その情けない姿に、マリアをはじめとする女子生徒たちから、冷ややかな視線と呆れ果てたツッコミが一斉に浴びせられる。
「馬鹿ね……あんな素敵な大人の女性が、下心丸出しの男子高校生を相手にするわけないでしょ」
「そもそも小さな子どもがいるってことは、そういうことでしょ? 少しは考えなさいよ」
「身の程をわきまえなさい、身の程を!」
男子たちが頭を抱えて崩れ落ちる中、一人の女子生徒が優雅な足取りでアンドレの元へと歩み寄ってきた。
完璧に整えられた見事な金髪の縦ロールを揺らすクラスメイト、クロエ・ド・モンフォールだった。地元の有力会社の社長令嬢として校内で有名な存在だった。彼女の背後には、艶やかな黒髪のワンレン・ボブが印象的なエロワーズ・ベルナールと、明るいハニーブラウンの髪をお団子にまとめたジュリエット・ロランの二人が控えている。マリアとも時折知的な会話を交わすグループだ。
「おはよう、ランベール君」
「あ……モンフォールさん、おはよう」
クロエたち三人組もまた、写真に写るイザベルの自立した大人の魅力と洗練されたかっこよさに、同じ女性として純粋な憧れを抱いた様子で画面を見つめていた。
すると、いまだに「俺の儚い恋が……」とうなだれているルイを見かねて、マリアがため息をついた。
「アンドレ、もう一度二枚目の写真を見せてあげて」
アンドレがソファーの写真を画面に呼び出すと、マリアは男子たちを指差して告げた。
「あんたたち、お姉さんの『手元』をよく見てみなさいよ」
すかさずクロエが、扇子を広げるような優雅な仕草でアンドレに頼む。
「ランベール君、よろしければお姉様のお手元をズームアップしていただけますかしら?」
「あ、うん……」
アンドレが言われた通り、ソファーの背もたれに添えられたイザベルの左手をピンチアウトして拡大する。
ルイをはじめとする男子生徒たちが画面を凝視した――その左手の薬指には、上品で美しい指輪がしっかりと輝いていた。
「うわああああっ! 本当だ、指輪してるーーーッ!!」
男子生徒たちは完全にトドメを刺され、机に突っ伏して悶絶した。
その決定的な証拠を前に、女子生徒たちからの容赦のない追撃が飛ぶ。
「本当に頭の中がガキなんだから! なんで最初に指輪にすら気づかないのよ!」
「綺麗な女性を見た途端、鼻の下を伸ばして観察力ゼロになるのね」
「そんなくだらない妄想で騒いでる暇があるなら、次のテストの対策でも考えなさい!」
容赦ない正論で一喝された男子たちと、すっかりいつもの調子を取り戻した賑やかな教室の様子に、セシルとアンドレは顔を見合わせて思わず苦笑いを浮かべた。
皆さんの学校のクラスメイトはどんな雰囲気でしたか?




