月曜日の朝、安心と笑顔に包まれて
アンドレの身を案じながら、セシル、ルイ、マリアの三人はルイ・ル=グラン高校リヨン分校の校門をくぐり、急ぎ足で教室へと向かった。
教室の扉を開けた瞬間、三人の視界に飛び込んできたのは、机の周りを何重にも取り囲むクラスメイトたちと、その中心で困惑したように立ち尽くすアンドレの姿だった。
(何があったの……!? まさか、もう処分の話がみんなに知れ渡っちゃったの……!?)
セシルの胸に最悪の予感がよぎり、血の気が引く。
だが、張り詰めたセシルの不安は、次の瞬間に教室を満たした賑やかな歓声によって見事に打ち砕かれた。
「うわ、すっげぇ美人……! アンドレ、これ本当にお前の姉ちゃんかよ!?」
「見て見て、この小さな女の子! 天使みたいに可愛い〜っ!」
「ちょっとアンドレ、周りのぬいぐるみ何体あるの!? クマにキリン、ゾウにアルパカ……キツネやウサギ、ネコにヘビまでいるじゃない!」
「普段あんなに真面目で堅物なランベールが、こんなデレデレした顔でぬいぐるみに囲まれて遊んでるなんて信じられないんだけど!」
クラス中が盛り上がっていたのは、アンドレのスマートフォンの画面に映し出された二枚の写真だった。
一枚目は、アンドレが姪のエマと一緒に、クマ、キリン、ゾウ、アルパカ、キツネ、ウサギ、ネコ、そして長いヘビといった無数の動物のぬいぐるみを車座に並べ、屈託のない笑顔で遊んでいる微笑ましい光景。
もう一枚は、リビングのソファーでエマを真ん中に挟み、姉のイザベルとアンドレの三人で肩を並べて収まった記念写真だった。
男子生徒たちは、画面に映るイザベルの大人びた美貌に釘付けになり、同時に普段のストイックなアンドレからは想像もつかない柔らかな表情に驚きと茶化しの声を上げていた。
「おいおい、姉ちゃんモデルか何かなのかよ!? めちゃくちゃ美人じゃん!」
「ランベールがこんなふにゃけた顔して笑うところ、入学してから初めて見たぞ!」
一方の女子生徒たちは、愛らしいエマと動物たちの可愛らしさに黄色い声を上げ、同時にイザベルの凛とした佇まいに見惚れていた。
「姪っ子ちゃん、ほっぺがモチモチで可愛すぎる〜っ!」
「お姉さん、美人っていうかすごくスタイル良くてかっこいい……! 憧れちゃうな」
「姪っ子ちゃん、ヘビのぬいぐるみまでちゃんと輪に入れてるのが可愛いよね!」
呆気にとられて人だかりを見つめていたセシルたちの前に、人波をかき分けるようにしてアンドレが歩み寄ってきた。ルイと同じくらいの背丈に、暗めのブラウンの髪、そして理知的で落ち着いた灰色がかったヘーゼルの瞳。普段通りの彼がそこにいた。
「あ、みんな、おはよう……」
気まずそうに頭を掻くアンドレに、ルイが真っ先に吹き出しながら詰め寄った。
「よおアンドレ! 教室に入るなり大スターのお出迎えかと思ったぜ! 一体どういう状況なんだよこれ?」
マリアも知的な灰色の瞳を細め、「朝からずいぶんな熱狂ぶりね」と微笑む。
事情を尋ねる三人に、アンドレは息をつきながら説明を始めた。
「実は……昨日、姉ちゃんが家族アルバム用にって写真を何枚か撮ったんだ。それで、昨日寮へ戻る途中の電車の中で、姉ちゃんがその写真をメールで送ってきてくれてさ。今朝教室に着いてから、なんとなくその写真をスマホで眺めていたら、後ろからのぞき込まれちゃって……あっという間にこうなっちゃったんだ」
セシルはその写真に心当たりがなかった。土曜日の夕方、セシルの家の近くにあるサン・ジャン噴水広場で車から降ろしてもらった後に撮影されたものだったからだ。
(お姉さんの家で、あんなに温かい時間を過ごしていたんだ……)
写真の中の幸せそうなアンドレと家族の姿を見て、セシルは胸が温かくなると同時に、一番気がかりだった核心の質問を投げかけた。
「アンドレ……その、朝の事務室での話は……? 処分は、どうなったの……?」
セシルの切実な青い瞳を見つめ返すと、アンドレは安心させるように静かに微笑んだ。
「心配かけて本当にごめん、セシル。……結論から言うと、処罰は一切なかったよ」
「本当にか!?」とルイが目を丸くし、セシルは息を呑んだ。
「ああ。実は昨日の日曜の午後、寮に戻ったら、休みなのに寮長のモルヴァン先生がわざわざ駆けつけてくれてね。土曜日に何があったのか、事情を全部聞いてくれたんだ。先生が言うには、書類上の形式としては確かに『無断外泊』という扱いになってしまうけれど、俺の安全を確保することが最優先だったこと、電車に乗り過ごしたことで門限に間に合う交通手段が物理的になかったこと、実の家族からの連絡があったことから、故意に規則を無視したわけじゃないって判断してもらえたんだ」
その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていたセシルの肩からすうっと力が抜け、青い瞳に安堵の涙がにじんだ。
「……よかった……! 本当に、本当によかった……!」
「な? 俺が言った通りだろ!」ルイが快活に笑い、アンドレの肩をぽんと叩く。「モルヴァン先生もちゃんと話のわかる人で安心したぜ!」
マリアも静かに胸に手を当て、ホッとした表情を浮かべた。
「ええ。理不尽な結果にならなくて本当に安心したわ。正当な理由と大人の適切な連絡があれば、ちゃんと汲み取ってもらえるということね」
教室の喧騒の中、不安に押しつぶされそうだった朝の重苦しさは完全に消え去り、四人の間には穏やかで温かい安堵の空気が広がっていった。




