↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヨンの高校生たちの群像劇  作者: Red Baron
徐々に綻んでいく都市伝説
PR
44/89

真実を話す覚悟

月曜日の朝、アンドレは重い身体を起こして制服に着替え、朝の点呼と食堂へと向かった。慌ただしく朝食を終えた寮生たちが次々と校舎へ向かう中、アンドレは一人、寮の事務室の前へと足を運んだ。


事務室の中には、昨日アンドレと面談を行った寮長のモルヴァン先生、男子寮担当のルフェーヴル先生、そして女子寮担当でありアンドレのクラス担任でもあるジラール先生の三人が揃っていた。モルヴァン先生は老眼鏡を鼻先にかけ、手元の書類に視線を落としている。三人の表情はどれも険しく、室内に張り詰めた空気を漂わせていた。


アンドレが控えめにドアをノックして足を踏み入れると、ルフェーヴル先生が顔を上げた。

「おはよう、ランベール。土曜日のこと、モルヴァン先生から聞いたぞ。大変だったな」

「おはようございます、ランベール君。怪我もなく無事だと顔を見て確認できて、本当に安心しました」

ジラール先生も心配そうに眉を下げて声をかける。


アンドレは頭を下げて挨拶を返すと、モルヴァン先生に向き直った。

「先生、姉に確認しました。火曜日の17時半なら、都合がつくそうです」

「わかりました、ランベール君。その時間で調整しましょう。当日はですね、男子寮担当のルフェーヴル先生にも同席していただく予定です」


その言葉に、アンドレは思わず背筋を凍らせた。ルフェーヴル先生といえば、寮生たちから陰で「鬼教官」と恐れられている存在だ。自分の処遇について厳しい追及を受けるのではないかという恐怖が、一瞬にしてアンドレの胸を締め付ける。


怯えた表情を浮かべたアンドレの様子を見て取ると、ルフェーヴル先生は表情を少し和らげ、静かに口を開いた。

「ランベール、身構える必要はない。俺が同席するのは、昨日の話を聞いて、君が寮の規則についていくつか誤解をしているとわかったからだ。男子寮の担当として、保護者の方にも規則の正確な内容を共有しておきたい。そうすれば今後の余計なトラブルを防げるからな。決して君やご家族を責め立てるための場じゃない。昨日の報告を聞く限り、君は何も規則違反なんてしていないんだからな」

その落ち着いた言葉に、アンドレはようやく胸を撫で下ろした。

「ありがとうございます……失礼します」

報告を終えたアンドレは一礼し、張り詰めていた緊張を解きながら教室へと向かっていった。


アンドレが退室し、ドアが静かに閉まった事務室の机の上には、二枚の書類が並べられていた。

一枚は、昨日モルヴァン先生がアンドレから聞き取った面談のメモ。

もう一枚は、土曜日の外出者名簿だった。そこには「アンドレ・ランベール」の名が記されており、そのちょうど一行上には、端正で凛(りん)とした筆跡で「ベアトリス・ロシュフォール」という名が並んでいた。


モルヴァン先生は老眼鏡を指先で押し上げ、二人の教員に視線を向けた。

「先週の金曜日、ロシュフォールさんが話してくれたように、学生寮の規則について誤った解釈が校内に広まっています。土曜日のランベール君の件も、根底にあるのは全く同じ問題です。彼女が指摘した通り、このまま放置すれば生徒や教員の間だけでなく、保護者をはじめとする外部とも深刻なトラブルに発展しかねません」


「おっしゃる通りです」とルフェーヴル先生は敬語で頷(うなず)き、ジラール先生も厳しい面持ちで同意した。

「校長先生と日程を相談し、職員会議を早急に開いて学校全体で認識を統一する必要がありますね」


「ええ。それから、もう一つあります」

モルヴァン先生は静かに息を吸い込んだ。

「先週金曜日、ロシュフォールさんに約束しましたね。お二人も同席していたのでご存知のはずですが――例の『異性を建物内に入れたら退学』という噂のきっかけとなった、過去の出来事についてです。あれについても、全校生徒にきちんと話す時が来たと考えています」


二人の顔にわずかな動揺が走った。モルヴァン先生は静かに言葉を重ねる。

「確かにあの事件は、学校にとっては公にしたくない、伏せておきたい出来事です。しかし……我々が真実を伝えないまま、ただ表面的な指導や規制を押し通してきた結果として、このような歪んだ誤解が蔓延してしまったのではないでしょうか。隠し続けることが、生徒たちを守ることにはならないのです」


かつては学校の体面を守るために伏せるべきだと考えていたルフェーヴル先生とジラール先生も、今回の事態を目の当たりにし、その痛恨の思いを共有していた。真実を伏せた代償が、生徒たちを不要な混乱と恐怖に巻き込んでいる。

「……分かりました。私も、生徒たちに真実を明かすべきだと思います」

「私も同感です。これ以上、誤解で傷つく生徒を出すわけにはいきません」


二人の覚悟を見届けたモルヴァン先生は、力強く頷いた。

「ありがとうございます。では、職員会議の日程調整を含め、校長先生に相談してまいります」

新章スタートです。

『異性を学生寮に入れたら退学になる』という噂が誕生した事件はどんなものだと思いますか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。