面談の約束
モルヴァン先生との面談を終え、学生寮の自室に戻ったアンドレは、静かにベッドの端へ腰を下ろした。
無断外泊として厳しい処分を受けるものだとばかり思い詰めていただけに、先生の温かく理路整然とした対応には心底救われた。だがそれと同時に、「実の親以外は外泊の引き受けが認められない」という根拠のない噂を鵜呑みにし、分厚い規則集の条文を自分の目で正しく確かめもしなかった己の浅はかさが、じわじわと気恥ずかしく思えてならなかった。
(……ほんま、情けない話やで。ちゃんと条文を読んでへんかったなんて……)
アンドレは一つ大きく深呼吸をすると、ポケットからスマートフォンを取り出し、イザベルの番号をタップした。
数回の呼び出し音の後、すぐに姉の明るい声が返ってきた。家族同士の通話になると、二人の口調は自然と気兼ねのないワロン訛りへと切り替わる。
「もしもし、アンドレ? 無事に寮に着いたんか?」
「あ、姉ちゃん。うん、ちゃんと着いたよ。……それがな、帰ってきてすぐ、寮長のモルヴァン先生がロビーで待ってはってな」
「えっ!? 寮長先生が直々にお出迎えかいな!? ……あんた、まさか怒られてお説教でも食らったんとちゃうやろね!?」
電話口のイザベルの声が途端に尖ったが、アンドレは慌てて手を振るように言葉を返した。
「いや、それが全然ちゃうねん! 先生、休みなのに俺のこと心配してわざわざ来てくれてはってな。事情をぜんぶ正直に話したら、処分やなくて『安全のための正しい判断やった』って納得してくれはったんよ。……それに、外泊の引き受け人は実の親だけやのうて、成人した姉妹でもちゃんと認められとったんや。俺が勝手に規則を勘違いしとっただけで、ほんま恥ずかしいわ……」
「ほら見ぃ! 言うた通りやろ? ちゃんと筋を通して話せば分かってもらえるんよ。……で、何かまだ話があるんか?」
アンドレは少し姿勢を正し、本題を切り出した。
「うん、実はな……モルヴァン先生が『都合が良ければ、一度お姉様とお会いしてお話しできませんか』って言うてはってな。姉ちゃん、いつ頃なら寮に来られそうや?」
「ウチと面談したいって? ……まあ、ウチも9月の説明会には行けてへんかったし、弟がお世話になっとる責任者の方には一度ちゃんとご挨拶せなアカンと思ってたとこやしな。仕事が終わった後なら動けるで。……せやな、明後日の火曜日、夕方の17時半ならリセに着けると思うわ」
「火曜の17時半やな。分かった、明日、先生にそう伝えておくわ」
「頼むで。あんたも今日はゆっくり休んで、明日の授業に備えんさいよ」
「うん、ありがとう姉ちゃん。ほな、またな」
通話を終えてスマートフォンを置いたアンドレは、ふぅと安堵の息を吐き出した。明日の朝、一番にモルヴァン先生へ日程を報告しようと心に決め、机の上の教科書を開くのだった。




