寂しがる姪
身支度を整え、部屋をきれいに片付け終えたアンドレは、荷物を手にリビングへと戻り、姉一家に向き直った。
「姉ちゃん、クロード義兄さん、一晩泊めてもらって本当にありがとうございました。朝ごはんもごちそうさまでした」
礼儀正しく頭を下げるアンドレの服の裾を、エマが名残惜しそうにぎゅっと握りしめた。昨日一日、たっぷり甘えて楽しく遊んでくれた大好きな叔父さんがもう帰ってしまうのだと察し、その瞳にはみるみるうちに涙が浮かんでいく。
「おじちゃん、もういっちゃうの……? エマ、さみしい……まだバイバイしたくない……」
今にも泣き出しそうな娘の小さな背中を、イザベルがしゃがみ込んで優しく抱き寄せた。
「エマ、おじちゃんはね、リセの学生寮に戻って、学校のお勉強をしっかり頑張らないといけないのよ。学生は勉強するのがお仕事なんだから。それにね、しっかり勉強して立派な大人にならないと……セシルちゃんみたいな素敵な女の子にお嫁さんになってもらえないでしょ?」
「ちょ、姉ちゃん……!? なんでエマにそんな余計なこと吹き込むんだよ!」
思わぬ角度からの諭し方に、アンドレは耳まで真っ赤になって慌てふためいた。
そんな大人のやり取りにエマは涙を引っ込め、アンドレを見上げて小さな小指を差し出した。
「おじちゃん、またエマにどうぶつのこといっぱい教えてね! またぜったい一緒にあそぼうね!」
「うん、約束するよ。次はもっと面白い動物の秘密を教えてあげるからね」
アンドレがしゃがんで指切りを交わすと、エマはパッと花が咲いたような笑顔を取り戻した。
立ち上がったイザベルは、ふっと穏やかな笑みを浮かべて弟に告げた。
「次はセシルちゃんや、他の仲の良いお友達も一緒に連れてきていいからね。アンドレがお世話になっている大切な人たちには、姉としてちゃんとご挨拶しておかないといけないもの」
「……うん。分かった。今度、ルイやマリアのことも紹介するよ」
セシルだけでなく、あの個性豊かな仲間たちの顔を思い浮かべ、アンドレは素直に頷いた。
最後にクロードが歩み寄り、アンドレの肩を力強く、温かく叩いた。
「勉強も、寮での共同生活も頑張ってね。実は僕も高校時代はずっと寮生活を送っていたんだ。規律が厳しくて大変なこともあるだろうけれど、困ったことや悩みがあればいつでも相談に乗るからね」
「クロード義兄さん……ありがとうございます! すごく心強いです」
同じ経験を持つ義兄からの温かい励ましに、アンドレは胸の奥が熱くなるのを感じた。
「じゃあ、行ってきます!」
「気をつけてね! 先生への説明、しっかりやるのよ!」
「おじちゃん、バイバーイ!」
玄関先で手を振る三人に見送られ、アンドレは温もりあふれるモロー家を後にした。澄んだ秋の風が心地よく吹き抜ける中、背筋を伸ばし、リセの学生寮へと続く最寄り駅へ向かって力強く歩き出すのだった。
仲良くなった叔父さんがいなくなるエマの寂しさとそんな娘を慰めるためにフォローするイザベル。
イザベルのフォローについてどう思いましたか?




