弟の成長
賑やかな朝食を終えた後、アンドレは自分が使っていた部屋へと戻り、手際よく片付けと掃除を始めていた。
シーツの端をピシッと整えてベッドメイキングをし、脱ぎ散らかしがちだった上着をハンガーに掛け、机の上も綺麗に拭き清めていく。姉の家から、コレージュに登校していた頃は、脱いだ服は放りっぱなしで、イザベルから「片付けなさい!」と雷を落とされてばかりだった。だが、リセへ進学して学生寮に入ってからは、毎朝の点検や厳しい規律が体に染みつき、誰に言われるでもなく自然と体が動くようになっていたのだ。
廊下から弟の後ろ姿をそっと見守っていたイザベルは、その無駄のないキビキビとした動きに目を見張り、胸の中でじんわりと温かいものを感じていた。
(……ほんま、見違えるようにしっかりして。最初は寮に入りたいなんて言い出した時、めちゃくちゃ反対したけど……あの子を信じて寮生活に通わせて良かったんかもしれへんな)
イザベルの脳裏には、入学前の夏、アンドレがリセの学生寮に入りたいと切り出した時の光景が鮮やかに蘇っていた。
当時は「まだ15歳の子を家族の手元から離すなんて早すぎる」「私の家からでも通えるのに、なんでわざわざ厳しい寮なんかに行くの」と頑なに反対していたイザベル。だが、そんな彼女の背中を押し、凝り固まった不安を解きほぐしてくれたのは、家族たちの温かな言葉だった。
ベルギーの実家に電話した時、父は電話口で力強く諭してくれた。
『イザベル、お前はもう自分の家庭を持った立派な「母親」なんや。これからエマの面倒もしっかり見ていかなアカンやろ。アンドレの世話まで全部背負い込もうとしたら、お前が潰れてまうで。弟の成長を信じて、少し手を離すことも姉の役目や』
続いて電話を替わった母も、優しい声でこう言ってくれた。
『心配な気持ちはよう分かるよ。でもな、イザベル。アンドレはな、本当に困った時は意地を張らずにちゃんと自分で「助けて」ってSOSが出せる子なんよ。あんたが思っている以上に、あの子はずっと逞しいんやから』
そして何より、隣にいた夫のクロードが穏やかにイザベルの手を包み込んでくれた。
『イザベル、アンドレ君の気持ちを尊重してあげよう。彼なりに自立したい、自分の力で高校生活に挑戦したいっていう覚悟があるんだよ。もし何かあれば、僕たちの家がすぐ近くにあるんだからさ』
あの時、父さんや母さん、そしてクロードの言う通りにして本当に正解だった――。
9月にリセ・ルイ・ル=グランへ入学してから、わずか数ヶ月。寂しさはもちろんあったけれど、こうして自分の部屋を整え、少しずつ大人の階段を上っていく弟の頼もしい背中を見つめながら、イザベルは心の中で静かに微笑むのだった。
アンドレの成長についてどう感じましたか?




