懐かしい姉の味
「はーい、今行くよ!」
アンドレはエマを膝から降ろすと、その小さな手を引いて立ち上がった。セシルもスカートの裾を軽く整えながら後に続き、三人は香ばしい匂いに誘われるようにリビングのダイニングテーブルへと向かった。
テーブルの上には、イザベルが腕によりをかけて作った温かな家庭料理がずらりと並んでいた。
「セシルちゃんもたくさん食べてね! お口に合うといいけれど」
「ありがとうございます、イザベルさん! すごく美味しそうです……いただきます!」
クロードを囲むように全員が席につき、賑やかな昼食が始まった。
アンドレはスプーンを口に運び、一口味わった瞬間にふっと表情を緩めた。
「……んまっ! やっぱ姉ちゃんのご飯は、なんちゅうか……身体に染み渡るわぁ」
口をついて出たのは、リセの普段の会話では少し抑えている、懐かしいベルギーのワロン訛りの響きだった。
リセに入学したばかりの頃のアンドレは、フランス標準語と異なる自分のワロン訛りに対して強いコンプレックスを抱いていた。ベルギーから来たよそ者として浮いてしまわないか、からかわれはしないかと不安で、言葉を発するときはいつも肩に力が入っていたのだ。
だが、その不安を真っ先に溶かしてくれたのがセシルだった。セシルは最初からアンドレの訛りを変に思うどころか、彼らしい個性として自然に受け入れ、温かく接してくれた。
セシルと親しくなり、それからルイやマリアといったかけがえのないクラスメイトたちと打ち解けていくうちに、アンドレは彼らの前でワロン訛りの言葉が出ても、まったく気に病むことがなくなっていた。今ではその柔らかな訛りこそが、彼の誠実で親しみやすい人柄そのものになっていた。
「アンドレ、本当に美味しそうに食べるね」
セシルがくすくす笑いながら、イザベルの料理を口に運ぶ。
「うん……! 本当にすごく美味しいです、イザベルさん! お肉も柔らかくて、スープの味付けもとっても優しくて……」
「ふふ、嬉しい! 口に合ってよかったわ。セシルちゃん、遠慮せずにおかわりもしてね」
イザベルは満足そうに微笑み、クロードも「イザベルの料理はいつも最高だよ」と誇らしげに頷いた。隣ではエマが小さなスプーンを一生懸命動かしながら、「おいしー!」と声を上げて頬張っている。
温かな笑い声に包まれた食卓は、終始和やかに進んでいった。
お皿が綺麗に空になり、お腹がいっぱいになったところで、アンドレとセシルは顔を見合わせる。
「ごちそうさまでした! 本当に美味しかったです」
二人が揃って感謝を告げると、アンドレがすっきりと背筋を伸ばした。
「さて……それじゃあセシル、約束の勉強を始めようか」
「うん! アンドレ、よろしくお願いします!」
お昼の団らんを終えた二人は、いよいよ今日の目的である勉強の時間を迎えるのだった。
一ヶ月ぶりの実家のご飯は美味しいですよね。
お昼を食べたら勉強に入ります。
どんな勉強会になるのか楽しみにしていてください。
完成次第、投稿します。




