久しぶりに会う可愛い姪と初めて会う叔父さん
「エマ〜、アンドレおじちゃんが来てくれたわよ〜!」
イザベルが奥の部屋に向かって明るい声をかけると、パタパタと小さな足音が近づいてきた。
母親に手を引かれて、トコトコと姿を現したのは、透き通るような美しい金髪を揺らした小さな女の子――エマ(3歳)だった。
エマはリビングにいる見慣れない二人に気づくと、大きな瞳をパチパチと瞬かせ、アンドレをじっと見上げた。
「……アンドレおじちゃん?」
あどけない声で呼ばれた瞬間、アンドレの表情が一気に崩れた。
「エマ……! そうだよ、アンドレおじちゃんだよ!」
アンドレは嬉しさのあまりエマの小さな脇の下に手を入れ、ふわりと高く抱き上げた。
「うわあ……! 大きくなったなぁ、エマ!」
すっかりメロメロになり、全身から愛情があふれ出ているその姿は、完全に優しい『叔父さん』そのものだった。
いつも学校では真面目でクール、どこか大人びているアンドレのそんなデレデレな一面を見たセシルは、(わあ……こんなアンドレ、初めて見た。すごく新鮮……!)と胸を温かくしながら、微笑ましく見つめた。
アンドレは目線を合わせるようにエマを抱っこしながら尋ねた。
「エマ、おじちゃんのこと、覚えてるかい?」
するとエマは、小首をかしげて元気に答えた。
「んーん! でもね、ママが教えてくれたの! ママの弟で、かっこいいおじちゃんが、エマにどうぶつのえほんを持ってきてくれるんだよって!」
「え……あはは、そっかぁ……! 覚えてるわけないよね。でも、ママから聞いて待っててくれたんだ、ありがとう!」
アンドレは一瞬拍子抜けしたように苦笑いしつつも、自分の訪問を楽しみにしてくれていたことが分かって、目尻を下げて嬉しそうにエマの頭を優しく撫でた。
イザベルがくすくす笑いながら口を挟む。
「そうなのよ。『アンドレおじちゃんが絵本買ってくれたよ』って話してからというもの、今日会えるのをずーっと楽しみに指折り数えて待ってたんだから」
そこでエマは、アンドレの隣に立つセシルに気づき、くりくりとした瞳を向けた。
「……だあれ?」
セシルはふわりと膝をついてしゃがみこみ、エマと同じ目線になって優しく微笑みかけた。
「初めまして、エマちゃん。私はセシル・サルヴェールっていうの。アンドレおじちゃんの学校のお友達だよ」
するとエマは、不思議そうにセシルとアンドレを見比べた後、とんでもなく純粋な瞳で尋ねた。
「……おじちゃんの、かのじょ?」
「ふぇっ……!?」
セシルは一瞬にして言葉に詰まり、首元まで真っ赤になった。
(うわぁ……! さっきの玄関での姉ちゃんとのやり取りといい、本当に血は争えないな……母親譲りすぎるだろ……!)
アンドレは天を仰ぎたくなった。
そこへイザベルが、エマの頭を優しくポンポンと叩きながらフォローを入れた。
「エマ、セシルお姉ちゃんはアンドレおじちゃんの学校のお友達で――『まだ』彼女じゃないのよ〜」
「ちょっ……! 姉ちゃん! 『まだ』って何だよ『まだ』って!? 余計な一言を付け足すなよ!」
アンドレは真っ赤になって激しく抗議した。からかい上手の姉に翻弄される弟の姿に、クロードはソファーで苦笑いし、セシルは照れ笑いするしかない。
気を取り直したエマは、二人をお気に入りの自分のプレイルーム(子供部屋)へと嬉しそうに手を引いて案内した。
部屋に入ると、そこには動物が大好きなエマの『お友達』であるぬいぐるみがたくさん並んでいた。
部屋の隅に置かれたヴィンテージ風のトランクの上には、大きなクマと優しげなゾウ、そして綺麗にとぐろを巻いたリアルなヘビのぬいぐるみがちょこんと並んでいる。
そしてエマの小さなベッドの上には、ふかふかの座布団が敷かれた『特等席』があり、そこに丸まるように置かれた白黒のネコが気持ちよさそうに昼寝をしているみたいだった。
「この子はねこちゃん! エマのベッドのとなりでねんねしてるの。すっごく可愛いの!」とエマが得意げに紹介する。
ほかの動物たちも部屋のあちこちにいた。
すらりと首が長いキリンは本棚のすぐ脇に誇らしげに立っており、つぶらな瞳のアルパカは低い木製ローテーブルの足元でおとなしく座っている。もふもふのキツネは小さなキッズチェアの上にちょこんと腰掛け、長い耳のウサギは窓辺のレースカーテンの裾からひょっこり顔を覗かせていた。
「すごいね、エマちゃん! まるで小さな動物園みたい!」
セシルが目を輝かせると、エマは一冊の分厚い動物図鑑を小さな手で抱えて持ってきた。エマは毎日この図鑑を眺めて、部屋のぬいぐるみたちのモデルになった動物の勉強をしているのだという。
アンドレは頼もしい叔父さんらしく胸を張った。
「エマ、おじちゃんはそういう動物や自然の勉強が得意なんだ。わからないことがあったら、なんでも聞いていいよ!」
(ふふっ、アンドレ、理科が得意科目だもんね。頼もしいな)とセシルは心の中で微笑ましく頷く。
エマは目をキラキラと輝かせ、待ってましたとばかりに質問を繰り出した。
「あのね! キリンさんのおくびのホネはいくつあるの? あとね、ゾウさんのおはなはどうして長いの? それから、ヘビさんはあしがないのに、なんでシャーッて歩けるの!?」
3歳児とは思えない鋭い質問の連続に、アンドレは「よし、任せて!」と笑った。
「エマ、あそこのトランクの上にいるゾウさんとヘビ、それに本棚のキリンさんを持ってきてくれるかい?」
「うんっ!」
エマがトコトコと走って3匹のぬいぐるみを持ってくると、アンドレは優しく説明を始めた。
「まずキリンさんだけどね、あんなに首が長いのに、首の骨の数は人間やエマと同じ『7個』なんだよ」
「ええっ!? エマとおんなじなの!?」
エマが目を丸くして自分の首を触ると、セシルも「えっ、あんなに長いのに7個なんだ……!」と感心して声を漏らした。
「そしてゾウさんの鼻が長いのはね、高い木の葉っぱを取ったり、水を吸い上げてシャワーみたいに浴びたり、手みたいに使うためなんだ。ほら、見てごらん」
アンドレはスマートフォンを取り出し、野生のゾウが器用に鼻を使って草をちぎったり水を飲んだりする短い動画を見せた。動画を見た後、アンドレはゾウのぬいぐるみの鼻をぐにゃりと器用に動かして、どうやって使うのかを分かりやすく実演した。
「すごい! おててみたい!」
「最後はヘビさんだね。ヘビは足がないけれど、お腹の筋肉とお腹のウロコを上手に使って、地面を波みたいにくねくね押しながら進むんだよ」
アンドレはヘビが砂や草の上をS字に滑らかに進む動画をエマに見せた後、とぐろを解いたヘビのぬいぐるみを床の上で波打たせるように滑らせてみせた。
「わあぁぁ! くねくね歩いた! すごーい! アンドレおじちゃん、ものしり博士だ!」
新しい知識を知ったエマは大喜びで飛び跳ねた。
「エマちゃん、よかったね! わかりやすくて面白いね」
セシルが顔をほころばせながら言うと、アンドレも満足そうにエマの頭を撫でた。
(……それにしても、エマちゃん、女の子なのにヘビのぬいぐるみをあんなに大事にしてるなんて、ちょっと意外だったな。すごく好奇心旺盛で可愛い!)
セシルが驚き混じりの笑顔で見守っていると、アンドレがふと時計を見上げた。お昼ご飯までには、まだもう少し時間がある。
「じゃあエマ、楽しみに待っててくれた絵本を読もうか」
「えほん! よむー!」
アンドレがリュックサックから色鮮やかな動物の絵本を取り出すと、エマは嬉しそうに駆け寄り、アンドレの膝の上にちょこんと座り込んだ。
そのすぐ隣にはセシルが並んで座る。
「むかしむかし、みどりがいっぱいの森に……」
アンドレの読み聞かせは驚くほど上手だった。穏やかで聞き取りやすい声のトーン、登場する動物たちごとに使い分けられる豊かな感情表現。セシルもアンドレの呼吸に合わせて、「カエルさんがぴょーん!」「かわいいね」と隣から優しく合いの手を入れた。
エマはアンドレの温かい膝の上で、目を輝かせながらすっかり物語の世界に引き込まれていた。
やがて絵本の最後のページをめくり終えた頃、リビングの扉が開き、エプロン姿のイザベルが美味しそうな匂いとともに顔を覗かせた。
「はーい、みんな! お昼ご飯ができたわよ〜!」
一ヶ月ぶりに姪と再会したアンドレと、初めて叔父さんと顔を合わせたエマ。
3歳ですが、質問がすごかったですね(セシルとアンドレの関係を聞いたり、動物のことについて)笑
幼稚園児としては普通の質問だと思いますか?
エマの子供部屋の動物についてですが、皆さんはどんな動物が好きですか?
最後に、今日の投稿はここまでです。次回はアンドレ、セシルがモロー家で勉強する展開になります。どんな雰囲気になるのかについて考え中です。完成次第投稿します。
それまで楽しみにしていてください。




