一ヶ月ぶりの再会
住宅街の並木道を抜けると、手入れの行き届いた前庭を持つ一軒の瀟洒な家の前にたどり着いた。
「ここだよ」
アンドレが門をくぐり、玄関のインターホンを押した。澄んだチャイムの音が家の中に響く。
少しの間を置いたあと、バタバタと小気味よい足音が近づいてきて、ガチャリと勢いよく扉が開いた。
「アンドレ!!」
扉の向こうから現れたのは、アンドレの姉、イザベル・モロー(24歳)だった。
彼女は弟の姿を認めるなり、弾けるような笑顔で飛び出し、アンドレの体を力いっぱいに抱きしめた。
「うわっ……ぐえっ……!? ちょ、姉ちゃん……!」
イザベルは身長177センチという抜群のスタイルを誇る女性で、弟のアンドレ(174センチ)よりも背が高い。アンドレと同じ系統の艶やかなブラウンのロングヘアだが、明るく華やかな色合いに染められており、太陽の光を浴びてきらめいていた。
勢いよく抱きしめられたアンドレは、姉の豊かな胸に顔が完全に埋まる形になり、もがくようにバタバタと両手を動かす。
「……んぐっ、むぐっ……し、窒息する……! 息が……!」
ひとしきり弟を抱きしめて満足したのか、イザベルはようやく腕を緩めた。
ぜえぜえと息を整えるアンドレの肩に両手を置き、彼女はまじまじと弟を見つめる。
「まあ! 背が少し伸びたんじゃない? それに前より肩幅もしっかりして、筋肉もついてきて……すっかり男らしくなっちゃって!」
「や、やめてくれよ、人前で……!」
顔を真っ赤にして照れるアンドレに、イザベルは腰に手を当ててからからと笑った。
「何言ってるのよ。久しぶりに可愛い弟に会えたら、これくらい当たり前でしょ?」
「当たり前って……寮に入ってから、まだ一ヶ月しか経ってないだろ!」
アンドレの必死のツッコミに、玄関先が一気に賑やかになる。
そこでイザベルは、アンドレのすぐ後ろで驚いたように目を丸くしていたセシルに視線を向けた。
「あら……あなたがセシルちゃんね? 初めまして! 私はイザベル・モロー。アンドレの姉よ」
イザベルは人懐っこく、けれどどこか大人の余裕を感じさせる爽やかな笑みを浮かべた。
(……かっこいい!)
セシルは目の前のイザベルを見つめ、思わず息を呑んだ。
長身で均整のとれたプロポーション、洗練された大人の女性の佇まい、そして何より快活で堂々とした雰囲気。自分にはない圧倒的なかっこよさに、セシルは「こんなに素敵なお姉さんがいるなんて、アンドレが羨ましいな」と素直に憧れを抱いた。
「は、初めまして! アンドレくんと同じクラスの、セシル・サルヴェールと申します……!」
セシルも慌てて背筋を伸ばし、丁寧に頭を下げた。
「今日は、お招きいただきありがとうございます、イ、イザ……」
緊張のあまり口がもつれ、「イザベルさん」と上手く呼べずに言葉を詰まらせてしまう。
そんなセシルの初々しい様子を見たイザベルは、ふふっと悪戯っぽく瞳を細めた。
「無理して硬くならなくていいのよ。呼びづらかったら――『お義姉さん』って呼んでもいいのよ〜?」
「えっ……!?」
突然飛んできた衝撃の単語に、セシルの思考は完全にフリーズした。お義姉さん? 義理の姉? つまり、アンドレと……!? 頭の中で回路がショートし、顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「ちょ、姉ちゃん!! 初対面の相手に何とんでもないこと言ってんだよ!?」
隣でアンドレが飛び上がらんばかりに叫んだ。
「あら、だってセシルちゃん、すごく緊張してたじゃない? 場の空気をほぐすための冗談に決まってるでしょ」
「冗談でも言っていいことと悪いことがあるだろ! セシルが本気で困惑してるじゃないか!」
「ふふ、アンドレったら顔を真っ赤にして怒っちゃって。昔からからかい甲斐があるんだから」
きょとんとした顔で言い返す姉と、必死になって抗議する弟のやり取りを見て、セシルは我に返った。
そして、赤くなった頬を押さえながら、恥ずかしそうに、けれどはっきりと微笑んだ。
「あ、あの……! 『今は』、イザベルさんでお呼びさせてください……!」
「『今は』ね! ふふっ、セシルちゃん、いい子ね! すっごく気に入っちゃった!」
セシルの絶妙な返しに、イザベルは嬉しそうにパッと表情を輝かせ、今度はセシルの手を取って大喜びした。
「……もう、セシルまで乗っからなくていいから……」
アンドレが頭を抱えて深いため息をつく横で、二人の女性はすっかり打ち解けたように笑い合っていた。
玄関先での和やかなやり取りで緊張がほぐれたところで、セシルは大切に抱えていた紙袋を両手で持ち直し、イザベルへと差し出した。
「あ、あの……! これ、みなさんで召し上がってください。兄と交際している女性が作ってくれたお菓子なんです。兄から『他人の家にお邪魔するときはお土産を渡すのが常識だ』ときつく言われておりまして……。娘さんもいるとアンドレくんから聞いていたので、子どもにも食べやすいようにと工夫してくれたものなので、お口に合えば嬉しいです」
少し早口になりつつも、まだ残る緊張を隠せないセシルの丁寧な挨拶に、イザベルはパッと表情を明るくして紙袋を受け取った。
「まあ! わざわざ気を遣ってくれたのね、ありがとう! お兄さんの彼女さんが作ってくれたの? すごく美味しそうな香りがするわ。エマのことまで考えてくれるなんて本当に優しいのね。さあさあ、玄関先に立たせておくのも悪いわ、入って入って!」
イザベルに快く招き入れられ、二人は靴を脱いで明るく開放的な廊下を進み、リビングへと案内された。
柔らかな自然光が差し込む広いリビングのソファーには、一人の男性が腰掛けていた。
「クロード、アンドレとセシルちゃんが来てくれたわよ」
イザベルの声に、男性が顔を上げてソファーから立ち上がった。
そこにいたのは、アンドレの義理の兄であるクロード・モロー(26歳)だった。
身長は180センチと高く、すっきりとした体躯に、爽やかに後ろへ流した黒髪のオールバックが実によく似合っている。知的で落ち着いた大人の色気を漂わせながらも、その目元には人を安心させる柔和な笑みが浮かんでいた。
「やあ、いらっしゃい。久しぶりだね、アンドレ君。元気そうで何よりだ」
「クロード義兄さん、お久しぶりです! お元気そうでよかったです」
久しぶりの再会に、アンドレもぱっと表情を明るくして挨拶を交わす。
続いてセシルは、背筋をピンと伸ばしてクロードに向き直った。
「初めまして。アンドレくんと同じクラスの、セシル・サルヴェールと申します。本日はお休みのところお邪魔させていただき、本当にありがとうございます」
ペコリと丁寧に一礼するセシルを見て、クロードはふっと目尻を下げ、温かく穏やかな声で応えた。
「初めまして、セシルさん。イザベルの夫のクロード・モローです。今日はわざわざ来てくれてありがとう。気を使わずに、自分の家のようにゆっくりくつろいでいってね」
紳士的で優しいクロードの歓迎に、セシルの胸の緊張もふわりとほどけていった。
アンドレは一ヶ月ぶりの家族の再会です。
イザベルが緊張しているセシルに言った「お義姉さんと呼んでもいいわよ」のセリフについてどう思ったか皆さんのコメントをお待ちしております。




