懐かしい思い出
車内に目的地の駅名を告げるアナウンスが響き渡り、電車がゆっくりとホームに滑り込んだ。
二人は席を立ち、秋の心地よい風が吹き抜ける駅のホームへと降り立つ。改札を抜けると、大都市リヨンの中心部とはまた違った、落ち着いた街並みが広がっていた。
「ここから歩いて15分くらいかな。案内するよ」
アンドレが歩き出し、セシルはその隣を並んで歩く。木々の葉が色づく閑静な住宅街を抜けていく途中、交差点の角に佇むお洒落な外観のブーランジェリー(パン屋)が目に留まった。ガラス越しには焼き立てのバゲットやクロワッサンが並び、香ばしい小麦の香りが漂っている。
「あ、あのパン屋さん……」
アンドレが懐かしそうに指差すと、セシルも足を緩めてその店を見上げた。
「すごく素敵なお店! アンドレ、よく行ってたの?」
「うん。姉ちゃんによくあそこまで買いに行かされたんだよ。『アンドレ、焼きたてのクロワッサン買ってきて!』って」
そう言ってアンドレはくすりと笑った。
「でも、その頃ちょうど姉ちゃんのお腹にエマがいた時期だったからね。つわりとかで大変そうだったし、少しでも力になれるならと思って、頼まれるたびに喜んで走って買いに行ってたよ」
「そっか……。アンドレ、本当に優しい弟さんだったんだね」
セシルが温かい眼差しを向けると、アンドレは少し照れくさそうに頭をかきながら続けた。
「姉ちゃんはちょっとマイペースで人使いが荒いところもあるけど、夫のクロード義兄さんは本当に良い人なんだ。すごく穏やかで優しくて、俺がベルギーからフランスに来た時も本当の弟みたいに温かく迎え入れてくれたんだよ」
「クロードさん、素敵な人なんだね。お姉さん一家に会うのがますます楽しみになってきたよ」
セシルが手にしたお菓子の袋を嬉しそうに抱え直す。二人は笑顔を交わしながら、アンドレの姉たちが待つ家へと向かって、さらに歩みを進めた。
いよいよアンドレはご家族の対面です。




