姪っ子へのプレゼント
カタカタと規則的な走行音を響かせながら、電車はリヨンの市街地を抜けて郊外へと走っていく。
週末の午前中ということもあって車内は比較的落ち着いており、並んで座った二人の間には、穏やかな時間が流れていた。目的地であるアンドレの姉の家までは、まだかなりの時間がある。
ふと、アンドレが鼻をくすぐる甘い香りに気づいて視線を落とした。セシルの膝の上にある紙袋から、ふんわりと香ばしいバターとバニラの匂いが漂っている。
「……すごくいい匂いがするね、セシル。その袋から」
アンドレが微笑みながら言うと、セシルは嬉しそうに袋を抱え直した。
「ふふ、わかる? 実はね、これお兄ちゃんに『お世話になってる友達の家に行くなら、お菓子くらい持っていきなさい』って言われて用意したものなの。前に話した、お兄ちゃんの彼女のナナミさんが作ってくれたんだよ。パティシエールを目指して大学に通ってるって言ってたでしょ?」
「ああ、ナナミさん! 覚えてるよ」
「うん。エマちゃんがまだ小さいって言ったら、子どもでも食べやすいようにって、甘さ控えめで口どけのいい焼き菓子をわざわざ工夫して焼いてくれたの」
「それはすごくありがたいな。姉ちゃんたちも、エマも絶対喜ぶよ」
アンドレは相好を崩すと、足元に置いていたリュックサックを少し引き寄せた。
「俺はね、ほら、今週の水曜日にセシルと一緒に本屋さんへ行っただろ? あの時に選んだ動物の絵本をエマに渡すつもりなんだ」
「あの絵本ね! カラフルでイラストもとっても可愛かったから、きっとエマちゃんのお気に入りになると思うよ」
セシルが頷くと、アンドレはどこか懐かしむような、それでいて少し照れくさそうな表情を浮かべた。
「あいつ、どれくらい大きくなってるかな……」
「そういえば、アンドレがエマちゃんに会うのはどれくらいぶりなの?」
セシルの問いかけに、アンドレは記憶を手繰り寄せるように少し視線を宙に泳がせた。
「俺がベルギーからフランスに来て、姉ちゃん夫婦の家に一緒に住み始めてから、ちょうど1年くらい経った頃にエマが産まれたんだ。でも、エマがまだ本当に小さかった頃の記憶しかないだろうし……あいつにとったら、俺と会うのは実質『はじめまして』みたいなものだと思うよ」
「そっか、今は3歳なんだっけ」
「うん、3歳。だから、俺の顔を見て泣き出したりしないか、ちょっとだけ心配なんだよね」
少し困ったように眉を下げるアンドレの様子に、セシルは思わずくすっと笑った。
「大丈夫だよ! あんなに素敵な絵本もあるし、こんなに美味しいお菓子もあるんだもの。それに、アンドレはすごく優しいから、エマちゃんもすぐに懐いてくれるはずだよ」
「……セシルにそう言ってもらえると、少し安心するよ。ありがとう」
二人は車窓を流れる秋の景色を眺めながら、これから会う小さな女の子と、家族と過ごす休日に思いを馳せて楽しそうに言葉を交わし続けた。




