待ち合わせ
土曜日の朝、サルヴェール家のセシルの部屋には、心地よい秋の光が差し込んでいた。
セシルはクローゼットの前で、丁寧に選んだ服に袖を通す。今日は友人であるアンドレのお姉さんの家へお邪魔する日だ。失礼にならず、かつ勉強もしやすいようにと選んだのは、柔らかなアイボリーのニットに、落ち着いたネイビーのプリーツスカート。足元は歩きやすいローヒールの革靴を合わせ、清楚で清潔感のある装いに整えた。
机の上からノートや筆記用具を詰めたバッグを手に取り、最後にもう一つ、昨晩ナナミが丹精込めて焼き上げてくれた手作り菓子の小箱を大切に抱える。リボンがかかった箱からは、ほんのりと甘いバターの香りが漂っていた。
「行ってきます!」
家族に明るく声をかけ、セシルは弾む足取りで家を出た。
一方、学生寮の自室では、アンドレが出かける準備を整えていた。
アンドレの私服は、爽やかな淡いブルーのボタンダウンシャツの上に、チャコールグレーの薄手カーディガンを羽織り、すっきりとしたチノパンを合わせた、彼らしい誠実で品のあるスタイルだ。
勉強道具をリュックサックに収めたあと、彼は机の上に置いてあった一冊の本を手に取った。色鮮やかなイラストが描かれた、可愛らしい動物の絵本だ。
(エマ、喜んでくれるかな……。リセに入って寮生活になってから、もう一ヶ月近く会ってない。あいつ、どれくらい大きくなっただろう)
小さな姪の無邪気な笑顔を思い浮かべ、アンドレの口元が自然とほころぶ。絵本を丁寧にリュックへと収めた。
部屋を出て一階のロビーへと降りると、土曜日ということもあって教員たちの姿はなく、受付には当直の職員が座っていた。
アンドレが声をかけようとしたその時、受付カウンターの前に一人の女子生徒が立っているのが目に入った。
彼女もこれから外出するらしく、当直員に行先と帰着予定を告げているところだった(なお、アンドレは気づいていないが女子生徒はペンを左手に持ちおそらく氏名と外出の理由と帰宅予定時間を記入している)。深くかぶったスポーツキャップのつばで横顔までは見えなかったが、キャップの後ろからは艶やかなアッシュブロンドの長い髪がすっきりと束ねられて覗いている。
身にまとっているのは、身体のラインに程よく沿った洗練されたダークネイビーのトレーニングウェアと、軽量のランニングシューズだった。
アンドレは邪魔をしないよう、彼女の手続きが終わるのを少し離れた場所で静かに待った。
手続きを終えた女子生徒が、エントランスのガラス扉へと歩き出す。
その瞬間、アンドレは思わず目を奪われた。
無駄のないすらりとした長身、ピンと美しく伸びた背筋、そしてブレることのない規則正しい歩調。その歩く姿は、まるでランウェイを歩くトップモデルのように凛としていて、それでいてどこか武道家のような無駄のなさを感じさせた。
(あのウェアにランニングシューズ……それにあの身軽さ。週末の朝のランニングか、どこかのトレーニング施設へ向かうのかな)
アンドレは彼女の後ろ姿を見送りながら、そんな推測を頭に浮かべた。
女子生徒が秋の爽やかな風の中へと去っていったのを見届けた後、アンドレは受付へと歩み出た。
「失礼します。外出の手続きをお願いします」
今朝あらかじめ提出していた外出届を確認してもらい、アンドレもまた軽やかな足取りで寮の玄関を後にした。
秋晴れの空の下、学校の最寄り駅の改札前へ向かうと、約束の場所にはすでにセシルの姿があった。
「セシル、待たせちゃったかな?」
「ううん、私も今着いたところ! おはよう、アンドレ」
お互いの服装を見て少しはにかみながら挨拶を交わした二人は、そのまま改札を通り、ホームへと滑り込んできた電車に乗り込んだ。ガタゴトと揺れる車内で、二人はアンドレの姉の家がある駅へと向かって出発した。
新しい章の始まりです。
一ヶ月ぶりに実家に戻ったアンドレ、セシルにとって初めて会うアンドレの家族
二人のこれからはどうなると思いますか?




