ついに来た約束の日!! そして大きな勘違い!!
ep16と同じ時間帯になります。
放課後、解けない謎を一つ残したまま、四人は荷物をまとめるために教室へと戻ってきた。デュポワ先生の「怪我をせず良い週末を」という言葉通り、激しい運動の後でもあり、今日は寄り道をせずにまっすぐ帰るのが賢明だ。
夕暮れの光が差し込む教室で、それぞれ鞄を肩にかけながら週末の予定の話題になった。
「ルイは今週末、何するんだ?」
アンドレが尋ねると、ルイは琥珀色の髪をかき上げて笑った。
「俺か? 先週買ってきたバイクの部品の組み立てか、さもなきゃ実家の手伝いだな。うち、親父が炭火焼きの店をやってるだろ? 週末は結構混むから、仕込みの肉運びとか炭起こしを手伝わされるんだよ」
「へえ、ルイは親孝行ね。手先が器用だから、お店でも重宝されてるんじゃない?」
マリアが感心したように言うと、ルイは「まあな!」と得意げに胸を張った。
「アンドレは? やっぱり寮で勉強か?」
ルイに聞かれ、アンドレは穏やかに答えた。
「いや、俺は明日、実家に帰る予定なんだ」
その言葉に、セシルが「そうそう、明日はアンドレの家に行くの」と屈託のない笑顔で言葉を添えた。
――その瞬間。
「「「ええええええっっっっ!?」」」
教室中にルイの絶叫が響き渡り、机がガタッと音を立てた。
ルイは目を限界まで見開き、信じられないものを見るような顔で二人を交互に指差した。
「お、おま……お前ら、ふたりでベルギーに行くのかァァァッ!?」
いつもならルイのオーバーなリアクションに即座に鋭いツッコミを入れるマリアすら、今回ばかりは完全に凍りついていた。冷静沈着なはずの灰色の瞳が激しく動揺し、口元を手で覆ったまま固まっている。
(せ、セコンデ(高校一年生)の男女ふたりが……週末に国境を越えてベルギーまで行くの……!?)
セシル自身の家での両親や兄とまったく同じ勘違いをされ、セシルは顔を真っ赤にして激しく両手を横に振った。
「ち、違う! 違うから! ベルギーまで行くわけないでしょ! 行くのはアンドレのお姉さんの家よ!!」
「「えっ!?」」
ルイとマリアの声が見事にハモった。
「アンドレの実家って、ベルギーじゃなかったのかよ!?」
ルイが目を白黒させて尋ねると、アンドレは苦笑いを浮かべて首筋をかいた。
「前にも少し話したけど、俺はコレージュ(中学校)の時にフランスに来て、リセに入るまではリヨンにある姉ちゃん夫婦の家でずっと暮らしてたんだよ。だから、リヨンにいる俺の家族の家に行くって意味さ。姉ちゃんが前々から『セシルちゃんに勉強を教えてもらってるお礼がしたい』って言ってて……水曜日に買い物へ行った時、今度の土曜日の午後にうちで一緒に勉強しようって約束したんだ。今朝、ちゃんと寮に週末の外出届も出してきたし、勉強会が終わったら夜には寮に戻る予定だよ」
「な、なんだよ……びっくりさせやがって! 国境越えの愛の逃避行かと思ったじゃねえか!」
ルイが胸を撫で下ろして安堵のため息をつくと、我に返ったマリアもコホンとひとつ咳払いをして普段の知的な表情を取り戻した。
「……確かに、アンドレのお姉さんの家ならリヨン市内だし、ご家族もいらっしゃるなら安心ね。ベルギーまで連れ去られるのかと思って、一瞬心臓が止まるかと思ったわ」
「もう、ふたりとも大げさなんだから……」
セシルが恥ずかしそうにはにかむと、ルイはニヤリと親指を立てた。
「へへっ、何はともあれ、お姉さん一家とのご対面、楽しんでこいよ! で、月曜日の朝にどうだったか報告よろしくな!」
「ふふ、私もその報告を楽しみにしてるわ。……それと、私はこの週末で、あの『ロシュフォール』という名前をどこで聞いたのか、記憶の引き出しを徹底的に探ってくるわね。何か分かったら、週明けに教えるわ」
マリアの頼もしい言葉に、セシルもアンドレも笑顔で頷いた。
「うん、ありがとうマリア! 楽しみに待ってるね」
「じゃあみんな、また来週。良い週末を!」
夕陽に照らされた校門の前で互いに手を振り、アンドレは歩いて五分の男子寮へ、セシル、ルイ、マリアの三人はそれぞれの実家へと温かな家路についた。




