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リヨンの高校生たちの群像劇  作者: Red Baron
四人の絆、そして裏で動く謎
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16/90

熱い想いと刻まれた契約(ディール)

1. 影の努力

金曜日の16時。放課後の静けさが漂い始めたルイ・ル=グラン高等学校の学生寮。女子寮の区画にある一室の床で、規則正しい呼気とともに、一人の女子寮生が黙々と腕立て伏せを繰り返していた。


乱れのないフォームで床すれすれまで身体を沈め、押し上げる。

先週実施された全校の体力測定で、彼女は同学年の女子の中でトップの数値を叩き出していた。その並外れた記録には同級生の女子はもちろん、男子たちすら目を丸くし、担当の体育教師からも「男子の平均値をも軽々と突破している」と惜しみない賛辞を浴びせられたばかりだった。

それだけではない。学業においても、彼女は常に学年の上位にその名を連ねている。


だが、彼女自身はそんな周囲の評価に微塵(じん)も満足していなかった。

『まだまだ、こんなところで立ち止まるわけにはいかない』

体力測定の驚異的な数値を維持すること、そしてトップクラスの学業成績を一歩たりとも落とさないこと――。何かに取り憑かれたかのようなストイックさで、彼女は寸暇を惜しんで勉学と肉体鍛錬に打ち込み続けていた。


――すべては私の将来のために。そして、あの子たちのために。


その固い誓いだけが、孤独で過酷な日々のなかで彼女の心を支える確かな矜持となっていた。


一時間後の17時。彼女は重要な場に臨むことになっていた。

女子寮の舎監であり自身のフランス語を担当するジラール先生、男子寮の舎監であるルフェーヴル先生、そして学生寮の最高責任者である寮長のモルヴァン先生――寮を取り仕切る三名の教員を前に、昨日ジラール先生へ打ち明けた「学生寮の規則を巡る相談」について、改めて正式に説明を行う約束が交わされていたのだ。


16時30分。腕立て伏せのカウントがちょうど「百」に達したところで、彼女は床からスッと身体を起こした。額に光る汗をタオルで拭い、冷たい水を一口飲んで荒い呼吸を整える。


――そろそろ準備を始めないと。


シャワーを浴びて清潔な服装に着替え、乱れのないよう髪をきっちりと結び直した。

机に向かうと、昨日から推敲を重ねてきたノートを開く。今日三名の指導教員へ伝えるべき論点、論理的な筋道、想定される問いに対する返答が、几帳面な筆跡で整理されていた。


もう一度最初から最後までノートを見返す。

言いたいことに漏れはないか。感情的にならず、条文の客観的な真意を的確に伝えられるか――頭の中で何度もシミュレーションを繰り返した。


ふとスマートフォンの画面に目をやると、時刻は16時50分を示していた。


彼女はノートと筆記用具、そして使い込まれて角の丸くなった寮の生活規則の冊子を手に取った。

自室のドアをしっかりと施錠し、鍵をポケットに収める。迷いのない足取りで、背筋をすっきりと伸ばし、彼女は約束の場所へと歩みを進めた。


2. 現場の声

彼女が向かった先は、学生寮一階の奥、管理室に隣接する「特別会議室」だった。普段は寮の運営会議や重要な規律審議にのみ使われる、重厚な木製扉で仕切られた部屋だ。


扉の前で一度立ち止まり、深く息を整えてから、三度静かにノックを入れた。

「どうぞ、お入りなさい」

中から落ち着いた重みのある声が響き、彼女は「失礼いたします」と礼儀正しく扉を開けた。


室内の長テーブルの中央に腰掛けていたのは、学生寮の最高責任者である寮長のモルヴァン先生だった。入学前の寮生活説明会で壇上に立っていた、豊かな白髪と穏やかな眼差しを持つ初老のベテラン教員だ。その両脇には、男子寮舎監のルフェーヴル先生と、女子寮舎監で彼女のフランス語担当でもあるジラール先生が、背筋を伸ばして着席していた。


「座りなさい」

モルヴァン先生に促され、彼女は向かい側の席へ姿勢を正して腰を下ろした。


モルヴァン先生は丁寧で、それでいて一語一語がはっきりと通る口調で切り出した。

「本日、時間を取ってもらった理由を説明しましょう。昨夜、ジラール先生とルフェーヴル先生の双方から、君が提起してくれた学生寮の規則に関する相談と見解について、詳しい報告を受けました。寮生たちの間で本来の趣旨とは異なる誤解が定着しているのなら、最高責任者である私が責任を持ってこの問題に向き合い、正しく解決しなければならないと考え、この場を設けました。……昨日ジラール先生へ話した内容と重複する部分も多くなるかと思いますが、寮長として、書類上の報告だけでなく、問題に気づいた寮生本人の生の声を直接耳にして判断したいのです。構いませんか?」


その言葉を静かに受け止めた彼女の口元に、心からの安堵と敬意が混ざり合った笑みがふわりと浮かんだ。

彼女は臆することなく、真っ直ぐにモルヴァン先生の瞳を見つめて返した。


「もちろんです。机上の報告だけで済ませず、現場の生の声を直接聴いた上で問題解決を図ろうとするその姿勢こそ……まさに私が将来、目指しているリーダーの姿そのものです。今日こうして直接お話しする機会を設けてくださったモルヴァン先生に、心から感謝と敬意を申し上げます」


彼女の淀みない言葉に、モルヴァン先生はわずかに眉を緩め、ルフェーヴル先生とジラール先生も頼もしそうに視線を交わした。


彼女は机の上に置いたノートを凛(りん)とした手つきで開いた。

モルヴァン先生も胸ポケットから取り出した老眼鏡をゆっくりと掛け、ペンを手に取り、彼女の主張を一言たりとも聞き漏らすまいと真摯に前を向いた。


彼女の整然とした、しかし熱の籠もった主張が終わった。

説明の最中、彼女は要点に触れるたび、左の人差し指をトン、トンと強くノートに押し当て、三人の教員へと真っ直ぐに訴えかけていた。感情に流されることなく、条文と言葉の定義を一つずつ解き明かしたその論理構成には、一切の隙がなかった。


(……ここまで規則の文言と成り立ちを深く読み込み、構造的に捉えている寮生など、私の長い教員生活でも初めてだ)

モルヴァン先生は老眼鏡の奥で静かに目を瞠り、心の中で深い感嘆を漏らしていた。


手元のメモにペンを走らせていたモルヴァン先生は、やがて顔を上げ、穏やかだが射抜くような眼差しを彼女に向けた。

「……素晴らしい分析です。では、君自身はこの問題の根底と、これからの影響についてどう捉えていますか?」


女子生徒は姿勢を微塵も崩さず、背筋をすっきりと伸ばしたまま、淀みのない声ではっきりと答えた。


「ルールを制定した先人たちの真意が、現場に正しく伝達されないまま形骸化し、誤った解釈だけが一人歩きしている状態だと考えます。このまま放置してしまえば、私たち生徒が不当な萎(い)縮を強いられるだけでなく、いずれ先生方の間でも指導基準の誤認やズレが広がり、学校という組織そのものが混乱を招くのではないかと危惧しています」


息を吸い、彼女はさらに言葉を重ねた。


「現に、学生寮にまつわるあの極端な『噂』は、いまや寮生にとどまらず、自宅から通学している生徒たちまでもが事実として信じ込んでしまっている事態に陥っています。

規則は絶対に遵守されなければなりません。しかし、何が正しくて何が逸脱なのかという明確な線引きや、『なぜこの規律が必要なのか』という本質的な説明を欠いたまま、歪んだ噂や誤解が広がり続けることこそが、最も取り返しのつかない事態を招くはずです」


彼女の瞳には、一切の迷いがなかった。


「私が先生方にお願いしたいのは、個人の特別扱いや融通ではありません。学校全体としてこの問題を正式に認識していただくこと、生徒たちへ真実と正しいルールを説明すること、そして……誤解を生む原因となっていた曖昧な寮則の表記を、明確かつ妥当なものへと修正していただくことです」


特別会議室に凛とした静けさが戻り、三人の指導教員は、自らの足で立つ一人の生徒の覚悟を真っ向から受け止めていた。


彼女の言葉が終わると、隣に控えていたルフェーヴル先生が、机の上に置いていたノートパソコンの画面をパタンと静かに閉じた。面談の全記録をタイピングし終えたことを示す合図を、中央のモルヴァン先生へと視線で送る。


それを受け止めたモルヴァン先生は、老眼鏡を外し、手元の資料を整えてから真っ直ぐに彼女を見つめた。


「……ありがとうございます。あなたがこの問題についてどれほど真剣に、そして深く学校の将来を考えてくれているか、その誠実な姿勢がしっかりと私に伝わりました。

いただいた提言とこの記録は、来週開かれる全体の職員会議に正式な議題として提出します。そして、寮生たちはもちろんのこと、通学している生徒たち全員に対しても、この規則の本来の趣旨と正しい解釈を説明する時間を必ず設けます」


モルヴァン先生の声には、学生寮の最高責任者としての揺るぎない覚悟が宿っていた。


「私たち教員一同も、この問題から決して目を背けず、正面から真剣に取り組みます。たとえそれが過去の運用の不手際や、学校側にとって不都合な事実であったとしても……決して隠蔽(ぺい)することなく、生徒の皆さんに誠実に公表していくことをここにお約束しましょう」


一息つき、モルヴァン先生は穏やかなトーンを帯びて付け加えた。


「それから、例(・)の(・)噂(・)の(・)引(・)き(・)金(・)と(・)な(・)っ(・)た(・)かつての出来事の真相についてですが……これについてはまた日を改めて、あなたに詳しくお話ししようと思います。もちろん、いずれ他の全校生徒たちにも隠さず真実を伝えます。……本日は貴重な意見と、長い時間をありがとうございました」


モルヴァン先生が言葉を結ぶと、両脇のルフェーヴル先生とジラール先生も同時に、一人の生徒に対して敬意を込め、深く頭を下げた。


その真摯な言葉と姿勢に、女子生徒の胸には温かく大きな歓喜が込み上げてきた。張り詰めていた表情がほどけ、心からの喜びが溢れる笑顔となって咲く。


「本当に……ありがとうございます!」


彼女は弾むような、しかし引き締まった声で感謝を伝えると、立ち止まり、背筋を真っ直ぐに伸ばして最も礼儀正しい角度で深くお辞儀をした。


机の上のノートと規則集を胸に抱え、彼女は席を立つ。乱れのない美しい所作で一礼し、軽やかで誇り高い足取りで「特別会議室」の重い扉を後にした。


3. 大人たちの覚悟

彼女が退出した後の特別会議室には、重厚な余韻が静かに漂っていた。

机の上には、ルフェーヴル先生が几帳面にまとめた面談記録と、彼女が残していった明快な論理の数々が広がっている。


「……信じられんな」

ルフェーヴル先生が低く唸るように口を開いた。普段の授業で彼女と接したことがなく、今回が初めての直接の対話だった彼とモルヴァン先生は、その言動の端々に受けた衝撃を隠しきれずにいた。

「規則の文言の成り立ちから本質的な矛盾点を突き、それを放置した場合に組織全体が受ける弊害まで客観的に予測してみせる……とても15歳の高校生が語る言葉とは思えません。どこかの国政を担う政治家か、一流の指導者の演説を聞いているかのようでした」


「同感です」

モルヴァン先生も深く頷いた。

「自分の権利を守るためではなく、組織の秩序と仲間のために筋を通す。あの毅然とした眼差しには、私のような老骨の教員すら圧倒されるほどの気迫がありました」


二人の言葉を聞きながら、ジラール先生は静かに視線を落としていた。

彼女のフランス語の授業を担当し、日々の記述課題に目を通しているジラール先生にとっても、彼女の精神的成熟は群を抜いていた。

「社会をここまで冷静かつ構造的に見つめている高校生は、私の教員生活でも初めてです。しかも、知識をひけらかすような背伸びの気配すら一切ない……。ですが、以前の授業で『親子関係』を主題にした小論文を課した際、彼女の提出物には、父親に対する言葉にし難い複雑な心情が滲み出ていました。ただの一過性の反抗期などではない、もっと根深い何かを……」


ジラール先生は、年度初めの九月、新学期の入寮手続きの日に交わした彼女の母親との会話を鮮明に思い出していた。


「あの子の両親は、子どもたちを極めて厳しく育ててきたそうです」

ジラール先生は、静かに語り始めた。

「教育方針は夫婦で明確に分かれていました。父親は徹底して子どもの『学業成績』を、そして母親は『礼儀・マナー・立ち居振る舞い』の躾を厳格に課したと。お母様はこう仰っていました。『どこへ出しても恥ずかしくない、立派な人間に育てるためです』と。その言葉通り、彼女は礼節を重んじる見事な生徒に育ちました。……ですが、この学校への進学を巡って、家庭内で大きな衝突があったそうなのです」


モルヴァン先生とルフェーヴル先生が真剣な面持ちで耳を傾ける。


「父親は元々、地元の別の名門校へ進学させるつもりでした。しかし、彼女自身が『ルイ・ル=グラン高校で寮生活を送りたい』と父親に強く宣言したのです。父親は、これまで通りのトップクラスの成績を維持し続けることを絶対条件として、渋々それを認めました。父親は妻に対し、『地方の生活がどんなものかを自分の目で確かめたいそうだ。“社会勉強”だな』と説明していたそうですが……」


ジラール先生は一度言葉を切り、母親の切実な訴えをなぞるように続けた。


「お母様は深く案じておられました。『あの子は昔から優秀ですが、夫とのあの約束が重荷になって自分を追い詰めているのではないか』と。そして……実家を出る朝、彼女はお母様にこう言い残したそうです。

――『ママ、私のことは気にしなくていい。その代わり、妹と弟のことは守ってあげて』と」


特別会議室の空気が一段と張り詰めた。


「お母様は涙ながらに私へ託されました。『先生、あの子を特別扱いしてほしいとは言いません。間違ったことをしたら厳しく叱ってください。でも……あの子に本当に必要なのは、限界を迎えて困った時に、手を差し伸べてくれる人たちなのです。どうか、あの子をよろしくお願いします』と」


その言葉を聞きながら、ルフェーヴル先生とモルヴァン先生は、手元に引き寄せた彼女の個人調書の家族欄に目を落としていた。

そこには、父親の氏名と現職が記されていた。


二人は息を呑み、静かに視線を交わした。

彼女がなぜ頑なに父親の話題を避け、自らの力だけで完璧であろうともがき続けているのか――その理由が痛いほど理解できた。


「……なるほど。地元の教育界や政財界では、知らぬ者のいない大物か」

「我々現場の教員、ましてや地方の分校の人間にとっては、文字通り雲の上の存在だな……」


背負わされた重圧の正体を知った三人の指導教員は、自立の誓いを胸に部屋を出ていったあの少女の後ろ姿を思い、深く、重い決意を瞳に宿していた。


4. 父娘の契約(ディール)

19時の点呼を終え、夕食と入浴を済ませて自室に戻った彼女は、静まり返った部屋のベッドの端に腰掛け、入学が決まったあの日の光景を思い出していた。


父親は、彼女のずば抜けた成績と明晰な頭脳を高く評価していた。

「お前は私と同じ高級官僚になれる器だ」と目を細める父親に対し、彼女もまた従順な笑みを浮かべて「パパと同じ官僚を目指すわ」と答えていた。官僚を目指すという言葉に嘘はなかった。ただ――父親のような冷徹な権力者ではなく、弱き者に寄り添い、制度の歪みを正すまったく別の官僚になるのだという誓いを、胸の奥深くに隠していただけだった。


しかし、父親の側には常に拭いきれない猜疑心があった。

優秀であればあるほど、こいつもまた一族の「家名」を捨てるのではないか――彼には過去に二度、我が子に裏切られた苦い記憶があったのだ。


一人目は、大手有名企業への就職を決め、名家の令嬢との婚姻まで取り付けた息子だった。それまでは何一つ逆らわぬ従順な駒だったにもかかわらず、婚姻届を提出した途端、相手方の姓を名乗って独立し、父親の前から完全に姿を消した。それは父親にとって生涯消えない屈辱とトラウマとなった。

二人目は、絵を描くことしか能がなく、父親が望む学業水準に一度も届かなかった娘だった。反抗ばかり繰り返すその出来損ないを、リセを卒業するまでは実家に住まわせてやったというのに、卒業と同時に「芸術家になりたい」などと低俗なことを言って家を出た。その後は音沙汰も途絶えていたが、大学を出て中小企業へ就職し、職場で知り合った平凡な男を連れて一度だけ実家へ挨拶に来た。彼は「その無能を引き取ってくれるなら結構だ」と冷酷に吐き捨て、二度と敷居を跨ぐなと縁を切った。


だからこそ、彼女が地方のリヨン分校へ行くと切り出した瞬間、父親の眼光は濁った不信に染まった。

「……お前もあいつらと同じように、私の期待を裏切るようなことを企んでいるのではないだろうな?」


彼女は父親を真正面から見つめ返し、落ち着いた声で返した。

「パパ、私は彼らみたいに家名を捨てるようなことは一切考えていません。中央しか知らない官僚ではなく、地方の実情を自分の目で直接確かめることこそが、将来のキャリア形成において不可欠な糧(かて)になると考えているのです」


父親は娘を試すように冷笑を浮かべ、条件を突きつけた。

「ならば、お前が奴らとは違うという証明を見せろ。学年順位は常に最上位を維持しろ。最低でも十位以内だ。一度でもそれを下回れば、即座に連れ戻し、私の指定した地元の高校へ編入させる」

「承知いたしました」

彼女は眉一つ動かさず受諾し、そして静かに告げた。

「ですが――私からも、一つ条件があります」


まるで上司と部下の職務交渉、あるいは狡猾な官僚同士の契約(ディール)のように、張り詰めた書斎で父と娘の契約が交わされた。

父親は眉を吊り上げ、「何だと!?……金か? それとも学校での特別待遇の手配か? それとも私生活の世話役か!?」と俗物的な推測を並べ立てたが、彼女は冷ややかに首を横に振った。

「どれも違います。私の条件は――」


契約を成立させ、リヨンへ発つ日の朝、実(・)質(・)的(・)な(・)長(・)女(・)として一家を支えてきた彼女の前で、二人の弟妹はぽろぽろと大粒の涙をこぼしていた。

「お姉ちゃん……本当にいなくなっちゃうの?」

13歳の妹が縋るように袖を掴み、11歳の弟がしゃくり上げながら訴えた。

「僕、姉ちゃんがいなくなるの……すごく寂しいし、パパが怖くてたまらないよ……」


彼女はたまらず二人を腕の中に引き寄せ、力いっぱい抱きしめた。

そして、二人の小さな耳元で、誓いを込めて囁(ささや)いたのだ。


「――私には、どうしても叶えたい夢があるの。でも、ここ(実家)にいたままじゃ、絶対に叶えられない。パパが反対して、邪魔してくるから。だから、私は行くの。パパが私の夢に二度と手出しできないほど、揺るぎない実績と力を手に入れてここに戻ってくる。

……でも、安心して。あんたたちのことは、私が何があっても絶対に守るから。ママにもお願いしたわ。あんたたちには、自分のやりたいことを見つけてほしい。誰にも人生を決められず、自由で幸せな学生生活を送ってほしいの。

そのために、私もあっちで死ぬ気で戦う。あんたたちには、私たちが受けてきたような理不尽な強制や縛り付けは絶対にさせない……! そのための約束を、パパと交わしてきたのよ」


三人の頬に熱い涙が伝い、固く抱き合って交わした別れだった。


「……っ」

ハッと我に返った瞬間、自分の頬を一筋の涙が伝っていることに気づいた。

彼女は乱暴に手の甲で涙を拭い去り、鋭く自分を叱責した。


――何をしているの、私は……!

自分の未来のため、愛するあの子たちの人生のために、ここで弱音を吐くことなど許されない。あの日、自分自身に、弟妹たちに、そしてあの冷酷な男に誓ったはずだ。私が一瞬でも気を抜いて転落すれば、その皺(しわ)寄せはすべて無防備なあの子たちに降りかかる。


洗面台で冷たい水を顔に叩きつけ、頭を冷やした彼女は、机に向かってノートを開いた。

現在、学年七位――。

「七位程度で満足している場合じゃない。もっと、もっと上げなければ……」


父親が課した「十位以内」などという低俗なボーダーではない。あの子たちの自由を守る盾となるため、そして何より、あの男の支配を完全に打ち砕き、その高みを超えてみせるために。


消灯のベルが鳴るその最後の瞬間まで、彼女はペンを走らせ、ストイックに復習の課題へと没頭していった。あの冷酷な男の顔を思い出すたびにペンを握った左手が進んでいったのだった。

皆さんはこの話をどう思いましたか? 皆さんはこの女子生徒の正体に気づきましたか?

このエピソードは急遽作りました。正直作っている途中、「こいつ本当に高校生か?」と思ってしまいました笑 ラストシーンはもらい泣きしました。

皆さんはどう思いましたか?

彼女の家庭環境や現在の考えまでに至る背景はかなり細かく考えました。彼女の思想についてわからない方は質問お願いします。

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