昼休みの雑談
金曜日の昼休み、中庭の木漏れ日の下で、四人はベンチを囲んで昼食をとっていた。
「それにしてもさ、昨日の放課後のジラール先生、『次のテストを楽しみにしてる』なんて言ってたよな。俺たちのこと、本当によく見てるよ」
ルイがお手製のサンドイッチを頬張りながら感心したように言うと、セシルも優しく微笑んだ。
「うん、普段は厳しいけれど、本当はすごく生徒想いの先生なんだなって伝わってきたよね」
そこでアンドレが、ふと思い出したようにフォークを止めた。
「そういえば……昨日、寮に戻ったらちょっと珍しいことがあったんだ。うちの寮っていつもは十九時きっかりに点呼を始めるんだけど、昨日戻ったら、ルフェーヴル先生から『男子の点呼を18時45分に早める』って言われてさ」
「へえ、あの鬼教官が時間を前倒し? なんでまた?」
ルイが身を乗り出すと、アンドレは続けた。
「なんでも、ジラール先生が急遽生徒からの相談を受けることになって、19時を過ぎるかもしれなくなったらしいんだ。それで、ルフェーヴル先生が代わりに女子の点呼も引き受けることになったんだよ。急に決まったことだったから、俺が早く戻ってたのを見て、先生もすごく安心した顔をしてた」
それを聞いたルイは、怪しい笑みを浮かべて目を輝かせた。
「おいおい……! あの筋肉モリモリの鬼教官が、女子の部屋をひとつずつコンコンってノックして回るのか!? 『点呼だ、開けろ!』なんつって……うわ、教師の特権かよ、すげえシチュエーションだな!」
「ルイ、そのたくましすぎる想像力を少しでも勉強に使ってくれたら、今頃学年トップよ」
マリアが即座に冷ややかな視線を浴びせてため息をつく。アンドレも苦笑しながら首を横に振った。
「いや、ルイ、そんな妄想するなよ。うちの寮、建物自体は男女共通だけど、点呼はいつも一階の共用ホールにみんなが集まって行われるんだ。先生が一人ひとりの部屋のドアをノックして回るわけじゃないよ」
「なんだ、集まるだけか。夢がねえな〜」
がっかりと肩を落とすルイをよそに、セシルとマリアは納得したように頷き合った。
「なるほどね。ジラール先生は相談が19時を過ぎて長引くと判断したから、ルフェーヴル先生にお願いしたのね」
「そうね。同じ19時に先生一人で男子と女子の両方の点呼を見るのは物理的に無理があるわ。だから男子の点呼を15分早めて18時45分に済ませて、そのあと19時ちょうどに女子の点呼を取ったわけね。すごく合理的で臨機応変な対応だわ」
マリアの明快な分析に、アンドレは「さすがだな」と感心し、寮の様子を知らない三人に言葉を補足した。
「一階のラウンジの奥に、寮生が親や先生と面談するための小さな部屋があるんだ。昨日そこを通ったら、ドアに『使用中』って札が掛かってた。たぶん、あの中で話してたんじゃないかな」
「へえー! なになに、一体どんな相談だったんだ? で、その相談相手って誰なんだよ!?」
ルイが前のめりになって勘繰りを入れるが、アンドレは両手を上げて苦笑した。
「いや、俺は知らないよ。ドアも閉まってたし、他人の相談を詮索するような悪趣味はないからな」
「まあ、間違いなく相談していたのは寮生でしょうね」
マリアがお茶を飲みながら、さらりと断言した。ルイが「えっ、通学生の可能性だってあるだろ?」と食い下がるが、マリアは人差し指をすっと立てて灰色の瞳を細めた。
「それはないわね。だって昨日、ジラール先生は私たちに『もうすぐ18時を回るから、家族が心配する前に早く帰りなさい』って言ってくださったでしょ? 通学している生徒なら、あの時間はとっくに帰路についていなきゃおかしいわ。それに、もし通学生が学校の先生に相談事をするなら、放課後の職員室か教室を使うはずよ。わざわざ学生寮の面談室を使う理由がないもの」
「あ……確かに! そりゃそうだ!」
ルイが頭を抱えて唸ると、セシルも深く頷いた。
「うん、私もマリアの言う通りだと思う。寮生だからこそ、寮の規則や生活のことでジラール先生にじっくり相談したかったのかもしれないね」
「ああ、そうかもしれないな」
アンドレも納得し、昨日の面談室の札を思い返しながら、午後の陽射しが注ぐ中庭で穏やかに昼食を終えるのだった。




