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リヨンの高校生たちの群像劇  作者: Red Baron
四人の絆、そして裏で動く謎
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四人の絆と教師の評価

木曜日の朝、セシルとマリアが教室の扉を開けると、すでに登校していたアンドレとルイが机を挟んで何やら熱心に話し込んでいた。


アンドレの机の上には、昨日ベルクール広場近くの書店でセシルと一緒に選んだ参考書が広げられている。


「へえー! なんだよこれ、めちゃくちゃ分かりやすいじゃん! バイクのシリンダーの仕組みと同じで、順序立てて図解してあると一発で頭に入るな!」


琥珀色の髪を揺らしながら、ルイが感嘆の声をあげていた。手先が器用で実習や工作などの実技は抜群に得意な反面、机に向かって文字を追う座学が大の苦手なルイ。しかし、自分の好きな機械や身近な物に例えて説明されると、まるで頭の中に映像や物語が浮かぶようにすんなり理解できる――それが彼独特の才能であり、覚え方だった。


英語の授業でも、文法は苦手でもジェスチャーと熱意だけでブラウン先生と心を通わせてみせる男だ。要するに、心に火さえつけば勉強だって決して苦ではないのだ。


(そうか……数学や理科の抽象的な公式も、ルイの好きな機械やパーツの動きに例えて教えれば、ルイだってスッと覚えられるんじゃないか?)


アンドレがそう思いついたところへ、「おはよう、ふたりとも!」とセシルが明るく声をかけた。参考書を見てやる気を出しているルイの姿に、セシルも目を輝かせる。


「おはよう、セシル! アンドレのこの新しい本、すげえいいぞ!」


「ふふ、本当ね! ルイまでやる気になってくれて嬉しいな」


放課後になると、四人は自然と机を寄せ合い、いつもの勉強会を開くことになった。それぞれが得意分野を活かして教え合う、息の合ったカルテットだ。


まずは数学と理科。

教えるのは得意なアンドレとマリア、教わるのは苦手なルイとセシルだ。

「ルイ、この放物線のグラフは、バイクがジャンプ台から飛び出した時の軌道だと思ってみてくれ」「うおっ、めっちゃイメージ湧く!」と、アンドレが思いつきの『機械・乗り物への例え』を繰り出すと、ルイの目がパッと輝いた。そこにマリアが「計算の過程はギアの噛み合わせと同じよ。一段階でも飛ばすとチェーンが外れて止まるわ」と的確な補足を入れていく。セシルも「なるほど、そう考えれば解きやすい!」とペンを走らせた。


続いて、フランス語と歴史・地理。

ここでは文系が得意なセシルが中心となり、マリアが要点をサポートする。歴史の流れを説明する際、ルイは歴史上の人物をドラマの登場人物や冒険活劇のヒーローに見立てて「つまりこの王様は、味方に裏切られて激怒したラスボスってわけだな!?」と独特の物語仕立てで飲み込んでいく。それに合わせてみんなで笑い合い、教室は大いに盛り上がった。


そして最後は、クラス中が頭を抱えている英語だ。

ネイティブであるブラウン先生の容赦ないオールイングリッシュに誰もが苦戦する中、頼りになるのは通訳役のマリアだった。彼女は分厚い辞書を引きながら、三人に重要な単語や文法の構造を噛み砕いて教えていく。


「それにしてもマリア、どうしてそんなに英語ができるんだ? 先生のネイティブの英語、俺にはまだ早口の呪文にしか聞こえない時があるのにさ」


アンドレが素直に感嘆の声を漏らすと、ルイも「そうだよな! マリアって実はイギリス人の血でも混ざってんじゃないの?」とおどけてみせた。


マリアは小さく首を横に振り、灰色の瞳を少し和らげて答えた。


「全然そんなことないわよ。私の発音なんて自信がないし、ブラウン先生に返してるのも小学生レベルの簡単な英語だけ。……実はね、私のファミリーネームの『ルッセ』って、イタリア系の名字なの。両親はフランス人なんだけど、私自身はナポリで生まれたのよ。すぐフランスに移住したからイタリア語はまったく話せないんだけどね」


「えっ、ナポリ生まれだったの!?」


三人が一斉に目を丸くする。マリアは少し誇らしそうに、そして少しはにかむように続けた。


「ええ。だからね、来年の選択授業でイタリア語を履修しようと思ってるの。自分のルーツを知りたいから。……でも、新しい言語を学ぶ基礎として、まずは今の英語を完璧にしておきたいのよ」


「すげえよマリア! 自分のルーツのために外国語を学ぶなんて、めちゃくちゃかっこいいじゃん!」とルイが素直に目を輝かせて拍手を送ると、セシルも「素敵……! マリアのそういう知的なところ、本当に尊敬しちゃう」と温かく微笑んだ。アンドレも「ベルギーから来た俺にとっても、言葉と自分のルーツを大事にする姿勢はすごく共感できるよ」と力強く頷いた。


その時、教室の引き戸がガラリと静かに開き、凛とした足音が響いた。


「皆さん、放課後も随分と熱心ですね」


現れたのは、四人の主担任でありフランス語を担当するジラール先生だった。細い銀縁の眼鏡をかけ、黒髪を後ろで一つにきっちりとまとめた、学校でも評判の厳格な女性教師だ。


「ジラール先生!」


四人が背筋を正すと、先生は机の上に並んだノートや参考書を見渡し、ふっと口元を緩めた。


「ランベール君。あなたの書くフランス語の表現は非常に真面目で誠実ですが、少し堅苦しいきらいがありました。そしてシャルボニエ君、あなたは文法を感覚で飛ばしがちですから、少し心配していたのですよ。……ですが、サルヴェールさんとルッセさんがいてくれるなら、次の定期テストが今から楽しみですね」


厳しいことで知られるジラール先生の思いがけない称賛に、ルイは嬉しそうに照れ笑いを浮かべ、アンドレも背中を押されたように表情をほころばせた。


次の瞬間、先生は懐中時計を取り出し、いつもの厳格な教師の顔に戻った。


「さあ、褒めるのはここまでです。もうすぐ18時を回りますよ。ご家族が心配する時間です。……それに、ランベール君」


ジラール先生は女子寮の舎監も兼任しており、学生寮の厳しい規律や門限の重さを誰よりも熟知していた。


「19時の寮の門限に遅れたら、いくら勉強熱心でも減点対象ですからね。早く荷物をまとめなさい」


「は、はい! ありがとうございます!」


先生のさりげない配慮と優しさに、アンドレは姿勢を正して深く頭を下げた。


「先生、さようなら!」「失礼します!」


夕焼けに染まる教室で先生に元気よく挨拶を交わした四人は、それぞれの家へ、そして温かな帰路へと歩き出していった。


アンドレたち四人が夕焼けの中を連れ立って校門を出ていくのを見届けたジラール先生は、小さく息を整え、背筋を伸ばして歩き出した。これから女子寮の舎監としての当直業務が控えている。校舎から寮までは歩いて五分ほどの距離だ。


静まり返りつつある校庭を横切ろうとしたその時、背後から凛とした声がかけられた。


「ジラール先生」


振り返ると、一人の女子生徒が真っ直ぐな視線をこちらに向けて立っていた。


「学生寮の規則のことで、どうしても確かめたいことがあります。寮の面談室でお話ししたいのですが、よろしいでしょうか」


その声は礼儀正しく落ち着いていながらも、自分の中で抱えきれなくなった疑問を打ち明けずにはいられないという、強い意志を帯びていた。


長年多くの生徒を見てきたジラール先生は、その瞳の奥にある真剣さを瞬時に感じ取った。


「……分かりました。私もこれから寮に入ります。18時30分から面談室を開けておきますから、その時間にいらっしゃい」


「はい。ありがとうございます」

皆さんは苦手教科・科目についてどんな方法で乗り切りますか?

そして、ラストに現れた女子生徒の正体は何だと思いますか?

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