包囲網
突然、広場の向かいに建つ建物の窓が、一斉に爆ぜるような音を立てて開いた。
十数――いや、それ以上。
開いた窓という窓には、一人ずつ男が立ち、こちらへマスケット銃を構えている。
……まずい。
しばらく前から張り詰めていた警戒心が体を先に動かした。
考えるよりも早く、俺は身をひねる。飛び込むか、転がるか、とにかく弾道から外れることだけを考えた。
理由なんて考えている暇はない。
遠くから、誰かが「撃て!」と叫ぶ声がかすかに聞こえた。
次の瞬間――
轟音。
火薬の炸裂音が空気を震わせ、叫び声など一瞬で飲み込んだ。
体勢を崩しながらも腕を胸元へ交差させる。
ほとんど反射だった。
その直後、無数の鉛弾が俺たちのいた場所を薙ぎ払った。
芝生は土ごと抉れ、石畳の遊歩道は砕け散る。
砕けた石片と鉛の破片が雨のように降り注ぎ、左腕と右脚に鋭い痛みが走った。
浅い裂傷が二、三か所。
致命傷じゃない。
素早く体を確認した、その瞬間だった。
誰かが制服の大きな襟を乱暴につかみ、思い切り引っ張る。
「うわっ!」
自分の足にもつれながら引きずられ、そのまま大きな鎧姿の女戦士像の裏側まで連れて行かれた。
……長髪の男だ。
男は像の土台へ背中を預けるように崩れ落ちる。
肩口には弾痕。
コートは破れ、その隙間から血がにじんでいた。
苦痛に顔を歪めながら傷口を押さえている。
……助けるべきか?
いや、待て。
こいつは俺を罠にはめた。
でも、そのこいつも別の連中に待ち伏せされていた。
つまり俺は、待ち伏せの最中に待ち伏せされたわけで……。
しかも、その待ち伏せしてきた本人に助けられた。
……頭がおかしくなりそうだ。
でも、結局助けられたのは事実。
だったら今度は俺が――
そう思って近づこうとした瞬間。
「そこで止まれ」
また拳銃だ。
「……それ、あと何回俺に向けるつもりだ?」
言い終える前に、新たな銃声が響いた。
だが今度は建物からではない。
白い布の仮面を被った連中だ。
広場の別々のベンチへ身を隠しながら、窓へ向かって反撃している。
……ん?
あれ、マスケットじゃない。
一人は回転式拳銃。
もう一人は……
あれは、連発式小銃か?
え、ちょっと待て。
この世界、そんな武器あるのか?
考える暇もなく、再び窓から一斉射撃。
石像へ鉛弾が叩き込まれ、石片が爆ぜる。
白仮面たちの方へも容赦なく降り注いだ。
その隙に、一人の仮面の男がこちらへ走ってくる。
向こうが再装填している間を狙ったらしい。
背が高く、大きな鞄を背負い……
なぜか仮面の上から巨大な丸眼鏡をかけていた。
……いや。
見えてるのか、それ?
違う違う。
今そこじゃない。
落ち着け。
状況整理。
結論。
最悪だ。
俺は助けられたのか、捕まったのかすら分からない。
長髪の男は相変わらず拳銃を下ろさない。
サーベルは広場の真ん中。
近そうで遠い。
さて、どうする。
本当なら戦争が始まるとか、天空城が落ちるとか、その辺りまで平穏に過ごす予定だった。
なのに何だ、この展開。
完全に予定外だ。
……いや。
予定外どころじゃない。
こんなの俺でも書いた覚えがない。
どうする……
「……考えすぎるの、やめるか」
「……何?」
長髪の男が怪訝そうな顔をする。
その瞬間だった。
また銃撃。
石像が激しく砕け散り、二人とも反射的に顔を背ける。
――今だ。
俺は一気に飛び出した。
「おい、待て!」
背後から声が聞こえる。
無視。
第一目標。
サーベル回収。
弾痕だらけの地面へ滑り込み、落ちていたサーベルを拾い上げる。
よし。
傷はない。
次。
建物へ突入。
走った瞬間、窓から再び銃撃。
鉛弾が耳元を裂き、頬をかすめる。
……俺が避けるのが上手いのか。
それとも向こうの腕が悪いのか。
いや。
肩を撃ち抜かれてる長髪の男からしたら、後者には賛成しないだろうな。
その間にも白仮面たちが援護射撃を続ける。
助かった。
入口はもう目の前だ。
閉まっている。
勢いそのまま蹴破る。
――そう思った瞬間。
ガチャッ。
扉が内側から開いた。
……しまった。
もう脚は止まらない。
「ぶっ!?」
全力の前蹴りが、ちょうど扉を開けた男の腹へ炸裂した。
男は悲鳴を上げる暇もなく吹き飛び、床へ転がる。
一人目、撃破。
……いや、完全に事故だけど。
しかし一階にはまだ敵がいた。
「うおおおおっ!」
叫びながらもう一人が突っ込んでくる。
マスケット銃を銃身ごと握り締め、銃床を棍棒代わりに振り下ろしてきた。
避ける暇はない。
俺は真正面から踏み込み――
素手で応戦するしかなかった。
――――X――――X――――
――あの人が来るまで、何としてでも持ちこたえなきゃ。
ヘレナはそう自分に言い聞かせながら、住宅棟の窓へ向けて連発式ライフルの引き金を引き続けていた。
ゴヴィックが拠点を出た直後から、周囲に不審な動きがあることに最初に気づいたのは彼女だった。
そしてエリアスと接触したことで、その気配は決定的なものへ変わる。
そこから先は、まさに一瞬だった。
怪しい伝令役が密書を受け渡す現場を発見。
即座に始末し、その足で通信拠点へ駆け込む。
アウリラへ情報を伝え、彼はすぐさま各部隊へ連絡を回した。
だが、情報はあまりにも少ない。
敵の数も目的も、襲撃地点すら確定できなかった。
だから彼らにできたのは一つだけ。
援軍が到着するまで、ゴヴィックたちを直接援護すること。
それしか選択肢はなかった。
おそらく、この待ち伏せを計画した張本人でさえ、ここまで混乱した状況になるとは予想していなかっただろう。
それでも結果は最悪だった。
ゴヴィックは被弾した。
だが、それでもまだ予定の範囲内だった。
二人が石像の陰に留まり続けてさえいれば、あとは援軍が到着するまで時間を稼げばいい。
それで終わるはずだった。
――そのはずだった。
「……うそ」
エリアスが石像から飛び出した。
ライフルの装填を最後まで終えることもできず、ヘレナは半装填のまま引き金を引く。
窓際へ立つ狙撃手を牽制するため、立て続けに銃弾を浴びせた。
少し離れた位置では、アウリラも同じように援護射撃を開始している。
エリアスは広場へ落ちていたサーベルを拾い上げ、そのまま建物へ一直線に駆け出した。
最悪の未来が頭をよぎる。
ヘレナも隠れていた場所を飛び出し、その背中を追った。
エリアスは助走をつけたまま入口へ飛び込み、扉を蹴破ろうとする。
だが、寸前で扉が内側から開いた。
勢いは止まらない。
全力の蹴りを受けた男は吹き飛び、入口へ倒れ込んだ。
そのままエリアスは建物の中へ突入する。
ヘレナは絶えず射撃を続けながら走る。
背後ではマスケットの銃声が鳴り響き、鉛弾が石畳を砕きながら追いかけてくる。
壁へ弾丸が食い込み、破片が頬をかすめた。
それでも足は止めない。
ようやく入口へ飛び込む。
目に飛び込んできた光景は混乱そのものだった。
入口のすぐ近くでは、一人が蹴り飛ばされて気絶している。
少し奥では、エリアスが別の男ともみ合いになり、床を転げ回っていた。
さらに階段にはもう一人。
マスケット銃を構え、エリアスへ照準を合わせている。
だが撃てない。
味方を巻き込むからだ。
その男がヘレナへ気づく。
重い銃身がこちらへ向く。
――遅い。
ヘレナは照準を合わせるより早く引き金を絞った。
轟音。
ライフル弾は一直線に飛び、男の胸の中央を撃ち抜く。
男は目を見開いたまま後方へ倒れ、階段を転がり落ちた。
銃声に驚いた二人が一斉に顔を上げる。
エリアスと組み合っていた男は、仲間の姿を見るなり叫んだ。
「アルベルト!」
駆け寄ろうと踏み出す。
しかし、その一歩目で終わった。
二発目。
銃声が建物へ響く。
弾丸は男の背中へ深々と突き刺さり、その体を前方へ吹き飛ばした。
男はそのまま動かなくなる。
一瞬。
建物の中が静まり返った。
エリアスは床へ座り込んだまま、目を大きく見開いてヘレナを見つめている。
驚きと恐怖が入り混じった表情だった。
ヘレナは軽く息を整えると、入口近くで気絶している男へ視線を向ける。
「こっちもまだ生きてる」
そう言ってライフルを向ける。
だが、その前へエリアスが立ちはだかった。
「……そいつは、もういい」
ヘレナは思わず眉をひそめる。
「何を――」
言い終えることはできなかった。
静寂は、一瞬で終わる。
二階から慌ただしい足音が一斉に響き始めた。
一人。
二人。
いや、それ以上。
階段を駆け下りてくる気配が、一気にこちらへ迫っていた。
こんにちは。少しだけお願いがあるのですが、大丈夫でしょうか?
まだ小説家になろうのことをよく分かっていないので、もしルール違反になっていたらすみません。
私はまだ小説を書くのに慣れておらず、この作品をどう展開していけばいいのか悩むことが多いです。そのため、物語を迷走させたり、台無しにしてしまったりしないように、もしよければアドバイスをいただけると嬉しいです。
エピソードの更新間隔が長くなってしまっているのも、「この先どうやって物語を進めればいいのか」で悩んでしまうことが大きな理由です……(´。_。`)
もしそういう悩みを乗り越えるコツなどがあれば、ぜひ教えていただけると本当に助かります!ヾ(•ω•`)o




