静寂の夜
今日は、この「終身パトロール」とやらの三日目だ。だが正直なところ、その仕組みがまったく理解できない。
最初はあまり気にしていなかった。“終身”なんて名前がついていても、本当に一生続くわけじゃないと思っていたからだ。それでも、かなり重い罰である可能性は捨てきれなかった。
だが――実際には、何も悪いことは起きていない。誰かが様子を見に来ることも、監視されることもない。むしろ、相変わらず距離を取られているように感じる。
パトロールについても、リアムから聞いた話では、もともと小規模ながら行われていたらしい。
まったく頭が痛い話だ。どうやって俺たちがちゃんと仕事をしていると分かるんだ? 何か仕掛けがあるのか、それとも――本当に俺たちの行動なんて大して気にしていないのか。
できれば後者であってほしい。
なぜなら今まさに、俺はボルレンと一緒に、彼の巡回ルート上にあるパン屋でケーキを食べているのだから。
「制服は、基本は赤だ。でも細部の色が違う」
「うん……」
「色が違えば、役割も違う」
そう言うと彼は一度言葉を切り、目の前に並んだ三切れのうちの一つをさらに何口かで食べ進めた。
別に俺が誘ったわけじゃない。ただ、道に迷っている途中で偶然出会っただけだ。
せっかく機嫌が良さそうだったので、前から気になっていたこと――この“寮”と呼ばれるものについて聞いてみることにした。
「オレンジは配達、灰色は戦闘向き、黄色は治療……あとは城に住んでる連中がいて、あいつらは金の装飾だな。……他は忘れた」
そう言って、次のケーキに手を伸ばす。たぶんチョコレートだと思うが、確信はない。
なるほど、だいたい分かってきた。
この“寮”っていうのは、いわば“騎士団”みたいなものだ。それぞれに役割があって、それが服の細かな装飾で見分けられる。
だが、そうなると当然、疑問が浮かぶ。
「じゃあ、俺たちは? 何の役割なんだ?」
「……ない」
「は? マジで? なんでだよ」
「知らない」
……がっかりだ。
ちょうどそのタイミングで、注文していたケーキとコーヒーが運ばれてきた。代金はボルレンが払うらしい。なんていいやつだ。
まあいい。今度セドラームか、あるいはブレナルに会ったときに聞けばいいだろう。あいつらなら、何か知っているはずだ。
それにしても今回は、“寮”なんて名前をつけるみたいな、妙な発想をしたのが俺じゃないだけマシか。
その後も一日はゆっくりと過ぎていった。いつも通り、やたら遅く、そして不快な視線にさらされながら。特に外れに近い区域ではその傾向が強い。
極端な暑さも少し和らいだ気がするが、気候自体が変わったわけじゃない。単に体が外の環境に慣れてきたのだろう。
そろそろ戻る時間だ。このままだと帰りが遅くなる。そう思った矢先――
「そこの兵士!」
無視してそのまま帰りたい衝動が強く湧き上がる。だが、いずれ何かしら問題には対処しなきゃならない。
……よりによって、今か。
「……俺に言ってるのか?」
振り返ると、長い黒髪に疲れた目をした男が、大股でこちらへ近づいてきた。
「この辺りはよく歩くか? 行きたい場所がある」
「まあ、それなりには。でも全部知ってるわけじゃない。ここは来たばかりだ」
「それでいい。――ここ、分かるか?」
男はコートのポケットから紙を取り出し、こちらに見せてきた。
「読めない。見せられても分からない」
「宿だ。ザルリムの像がある広場の近くだ」
……ああ、分かる気がする。
「ちょっと遠いぞ。それでもいいのか?」
「一日中探している。見つかればいい」
重い口調だ。本当に一日中歩き回っていたのかもしれない。
「……分かった、案内する」
兵士になったと思ったら、今度は案内役か。次は何になるんだ、俺は。
それにしても、この男……貧しいわけでも、かといって裕福そうでもない。服は質が良く、古びてもいないし、ひどく乱れてもいない。
……一日中歩き回っていたにしては、妙に整いすぎている。
――嫌な予感がする。警戒しておくべきだな。
「出身はどこだ?」沈黙を埋めるように尋ねる。
「北の男爵領だ」
「へえ。そこで何を?」
「……事務だ。足りないものが出ないよう管理していた」
「大変そうだな……」
「……ああ」
――事務だと?
ふざけるな。辺りが暗くなり始めているとはいえ、気配で分かる。――尾けられている。
特に視線だ。これまで向けられてきたものとは、明らかに違う。
……どうする?
まだ何もしていない相手を攻撃するわけにもいかない。尾行している連中を振り切れる保証もない。援軍も呼べない。
頼みの綱は、広場が人で賑わっていることだった。そこで場所だけ教えて、さっさと離れるつもりだったが――
……最悪だ。
広場には、誰もいなかった。
というより、しばらく前から通り自体が徐々に人の気配を失っていた。そして今、この広場は完全に無人だ。
夜になっていた。街灯に照らされた広場を横切る。宿はこの先の通りにある。
だが広場の中央――大きな戦斧を持った、鎧姿の女の像の近くで、俺は足を止め、男に向き直った。
「ここでいい。この先の通りを進めば着く」
そう言って指し示す。
「最後まで案内してもらう」
周囲を見回す。建物ばかりで、窓も扉もすべて閉ざされている。
「……何が起きてるのか分からないが」
腰のサーベルの柄に手をかける。
「もう二度と、待ち伏せなんかに遭う気はない」
男は反応しない。……はったりだと見抜かれているか。
「……先走るな。話をややこしくしている」
「答えろ。何が目的だ? どうして広場に誰もいない?」
「皆、闘技場で見世物を見ている。知らなかったのか?」
「本当か? 今日来たばかりかと思ってたが」
そのときだった。
建物の陰――まるで影の中から、次々と人影が現れる。
どれも普通の服装だが、顔には白い布の仮面をつけている。
危険を感じ、迷わずサーベルを抜く。だが構えを取る間もなく、目の前の男がコートの内側から小さなフリントロック式の拳銃を取り出し、こちらに向けた。
「……もう一度だけ、楽な道を選ばせてやる」
……なるほどな。選択肢は、ほとんどない。
「……降参だ」
サーベルを手放し、両手を上げた。




