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英雄登場

翌日はすぐにやってきた。というより、夜が一瞬で過ぎたような感覚だった。十分に休めた気はしないが、まあ仕方ない。


ブレナルの家で働いているセリスさんという年配の女性が、洗面用のたらいと水の入ったガラスの水差し、そして数枚のタオルを用意してくれていた。俺とデリクはそれを使って簡単に顔を洗い、そのあと朝食を取りに向かった。


家を出る前に、推薦状をブレナルに見せておいた。


「うーん……うちの役所から出たものかと思ったが、この印はヴルヴの機関のものだな。向こうで手続きできるか確認したのか?」


あ……しまった。そこまでは考えていなかった。


まあ目的は王都だったし、問題はないはずだ。


「この手紙には王都で出頭するように書かれていると聞きました」


「形式的なものだ。王都までの距離は人によって違うからな。こういう召集状にはある程度の柔軟性がある」


「なるほど……」


少しだけ恥ずかしくなった。きっとこいつ、俺のことを田舎者のバカだと思ったに違いない。……まあ、間違ってはいないけど。


ほどなくして家を出た。ブレナルは仕事へ向かい、デリクは少しだけ俺に付き合ってくれた。


「さて、エリアス。ここでお別れだな」


「そうですね。とても楽しい旅でした」


「いやいや、そんなことはないだろ。ははは……。まあいい。この通りを進めば“ロープ通り”に出る。そこを左に曲がれば“籠の大通り”だ。川の横を通る大きな通りだよ。兵舎は川の真正面にある」


「分かりました。本当にありがとうございました」


そう言うと、デリクは左に曲がり、荷馬車とともに人混みの中へ消えていった。


……なんだか、あっさりした別れだった。


まあ、昔からこういうのは苦手だ。書くのも、実際にやるのも。


とにかく、これで街をゆっくり見られる。朝の街は活気に満ちていて、人通りも多い。昨日エルフや獣人を見かけたあと、自分が作った種族のことを思い出そうとしたが、結局ほとんど思い出せなかった。情けない話だ。


建物の建築様式は、どこかヴィクトリア時代のヨーロッパを思わせる。しかも一階建ての家はほとんど見当たらない。どうやらこの街はかなり混み合っていて、上へ上へと建て増しているらしい。


二十分ほど歩きながら街を眺めていたが、ふと気づいた。


――ロープ通りってどこだ?


どうやら迷ったらしい。案内板のようなものは見当たらない。陶器の壺を売っていた男に「籠の大通り」への行き方を聞いてみたが、


「この街に通りの名前なんてあるのか?」


と返されてしまった。


とりあえず最初に見つけた路地を左へ曲がったが、そこは行き止まりだった。戻って次の路地へ入る。だが奥で左、さらに左と曲がり、元の通りに戻ってしまった。


次の通りでは、色とりどりの石のブレスレットや首飾りを売る女性に尋ねた。


「真っすぐ行けばいいよ」


と言われたが、道はどんどん狭くなり、最後は袋小路に行き着いた。


そのとき、背後に二つの影があることに気づいた。


「おい兄弟、ばあさんがまた一匹連れてきたぞ」


「だな。しかもこいつ、荷物をいっぱい持ってそうだ」


俺は時間を無駄にせず、戦う構えを取った。腰の後ろに手を回し、短剣でも抜くような仕草だ。


「おっと、武器持ってるみたいだぞ」


「気をつけろよ。親父の時のこと覚えてるだろ」


二人はそれぞれ鉈のような刃物を抜いた。刃渡りは大人の前腕ほどもある。


その瞬間、頭に浮かんだのはただ一つ。


――ああ、くそ。


二人はゆっくり近づき、俺を壁際に追い詰めていく。


ここで物語のヒロインの誰かが現れて助けてくれたら最高なんだけどな。確か何人かいたはずだし……。


……なんでこういう時に限って、変なことを考えるんだ俺は。


とはいえ、構えは崩さなかった。周囲も観察する。どうやらここは最初から獲物を仕留めるための場所らしい。


いよいよ一か八かで突っ込もうとした、その時。


後ろから声がした。


「いい表情してるじゃないか」


二人が振り向く。


……男の声?


振り向いて見えたのは、金色の長い髪の青年だった。意味もなく風に揺れている。兵士と似た制服だが、緑色のマントを羽織っている。


「お前、誰だ」


「俺はミロ。この王国の英雄さ!」


ミロ?


「ミロ? 聞いたことないな」


俺は聞いたことがある。というか、覚えがある。


「ともかく、武器を捨てて降参してもらおう」


「へへ……断ったら?」


青年は少し錆びた剣を抜き、二人に向けた。


「その時は、正義を執行する」


兄弟は顔を見合わせ、笑い、鉈をしまった。


そして――全力で殴りかかった。


「え? ちょっ、待――何してるんだ!?」


最初の男の拳をミロは何とか避けたが、続いたもう一人の拳が腹に命中した。ミロはよろめきながら四歩ほど後退する。


「おいおい、剣使わないのかよ」


「もっと正義を見せてほしかったな」


俺も見たかった。


「ふん! まだ俺は――」


「もう我慢できん!」


「?」


「?」


「?」


「これ振り続けるの疲れた!」


……お?


「誰だそいつ!?」


現れたのは巨大な男だった。父よりもずっと大きい。乱雑に束ねた髪、そして異様なほど筋肉質な体。兵士の制服を着ているが、サイズが桁違いだ。


「ずっと扇ぐ必要はなかったんだぞ!」


「そんなこと言ってなかった!」


「言う必要なかった!」


……ああ、思い出してきた。


「紹介しよう。こっちは相棒のボルレンだ」


「こんにちは。……で、こいつら壊していいのか?」


……喉まで出かかってる。


ああ、思い出した!


「もういい! ふざけるな!」


その瞬間、「ポンクッ」という音がして、片方が倒れた。


忘れられていると、殴るのは簡単だ。


もう一人はすぐに鉈を抜いたが、その瞬間、ボルレンの平手打ちが飛んだ。男はそのまま壁まで吹き飛ばされた。


「うわ……」


「これで一件落着だ。君!」


ミロが俺を指差す。


「こいつら運ぶの手伝ってくれ!」


俺は大男の方を見るが、


「後ろの奴らはあいつが運ぶ。あいつ一人だと怪我させかねない」


……それもそうか。


「いいですよ。ただ、軍に入隊する場所を教えてほしいんですが」


俺は手紙を取り出して見せた。


「うーん……なるほど」


彼は手紙を返して言った。


「読めないんだ。でも入隊手続きする場所には連れていける。俺たち、そこに住んでるから」


……まあ、いいか。


二人を手伝いながら、思い出していた。


忘れていた設定を、この二人が思い出させてくれた。


一つ目。

ボルレンは、俺が作った種族の一つ――北方の巨人族だ。正直、あまり独創的ではないが。


二つ目。

ミロについて。


――そうだ。

俺、こいつの死を書いた。


……どうやって死ぬんだっけ?

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