紅い土の道
あれから七日が経った。
どうにか状況を“部分的に”整えることはできた。
最初こそ、母との関係はぎこちなかった。
だが日が経つにつれて、ミアは少しずつ折れてくれた。
完全ではないが、少なくとも顔を合わせるたびに刺すような空気はなくなった。
友人たちはというと、やけに盛り上がっていた。
中には不安そうな者もいたが、翌朝には俺を“誘拐”し、
何があったのか根掘り葉掘り聞いてきた。
親たちは口を揃えて、
「子どもが首を突っ込むことじゃない」としか言わなかったらしい。
この一週間で最も大きな出来事は、
ボルジェス家での正式な婚約の食事会だった。
数日前の妙な緊張は、ひとときだけ霧のように消え、
その夜は温かい食卓を囲むことができた。
テオもバルトロメウも、
この間に見た中では一番穏やかな表情だったと思う。
二人は、食卓で最も元気だった
ミアとアナスタシアの会話をただ静かに眺めていた。
未来の話。
孫の話。
助言や冗談。
リリヤは終始照れていたが、
嬉しさを隠しきれていなかった。
セリンはというと、
隙あらば半目でこちらを睨んでくる。
……あれは何の目だ。
それでも、ミアが少し持ち直してくれたのは本当に救いだった。
体を壊すのではないかと本気で心配していたからだ。
強い女性として描いたつもりだったが、
こうして実際に強く立ち直る姿を見ると、
少しだけ誇らしかった。
多くの会話が交わされ、
多くの約束が生まれた。
タレンは「でかい剣を頼む」と言い、
ライレンは「騎士の兜を」と真顔で言った。
紙があれば書き留めただろうが、
この世界の文字も書けない身ではどうにもならない。
父は旅立ちの準備を引き受けてくれた。
「心配なく出ていけるようにするのが親の役目だ」と。
バルトロメウも物資の準備を手伝ってくれた。
家同士の友誼の証らしい。
用意されたのは、旅用の食料、
替えの衣服、
少量の銀貨と指輪などの小さな宝飾。
ボルジェス家も数か月後には王都へ向かう予定だ。
王都で再会する約束も交わした。
挙式については、
両家で改めてゆっくり話し合うことになった。
正直、
世界の終わりの予兆も含めて、
すべてがもっと穏やかな方向へ流れてほしいと願っている。
本気で祈っている。
俺は英雄向きじゃない。
――そして、出発の日の朝が来た。
デリクが馬車を出してくれる。
村と各地を行き来する行商人だ。
背は低く、丸々と太っているが、
決してたるんではいない。
丸太のようにがっしりしている。
頭は完全な禿。
それを麦わら帽子で隠している。
顎ひげはないが、長く整えられた立派な口髭がある。
馬車には穀物や小麦粉らしき荷が積まれていた。
家の前。
ミアは何度も俺の服を直す。
羊毛のシャツ、短い革の上着、麻のズボン。
彼女の目には、まだどこか歪んで見えるらしい。
リリヤも来ていた。
今日は一つ結びの三つ編み。
いつもの二本ではない。
想像していたほど劇的な別れにはならなかった。
この数日が、すでに長い別れの時間だったのだろう。
テオが近づき、両肩に手を置く。
何か言おうとして、唇がわずかに動いた。
だが結局、苦笑を浮かべて肩を軽く叩き、
「馬鹿な真似はするな」
それだけだった。
ぎこちない別れの言葉を交わし、
俺は馬車に乗り込む。
出発前、リリヤが小さな茶色の包みを差し出した。
「あなたの好きなもの」
村を出る。
まだ読めない門の看板を横目に、
赤土の道を北へ進む。
王都ヴィレデンへ。
……王都と王国が同じ名前なのは、
完全に俺の手抜きだ。
他の王国を増やしすぎたんだ。
道中、デリクがぽつりと言う。
「ブレイデンの連中、寂しがるだろうな。
お前は人気者だった」
――ブレイデン。
そうだ。
ここが物語の始まりの村だ。
こんな名前、覚えられるか。
当時の俺は何を考えていたんだ。
だが今は少し楽だ。
もう“最初のエリアス”を演じ続けなくていい。
物語終盤の彼の姿は、まだかすかに覚えている。
あの頃とは別人だ。
それでも――
少なくとも、
できるだけ傷を残さずに村を出るという最初の目標は達成できた。
完璧ではないが、
今は静かだ。
これからの道を考える時間はある。
―――×―――×―――
同じ朝。
ブレイデン村。
テオ、ミア、リリヤは、
馬車が地平線に消えるまで見送っていた。
見えなくなった瞬間、
二人は崩れ落ちる。
ミアは泣き崩れ、夫に抱きつく。
テオは無言で彼女の髪を撫でる。
言葉は少ないが、それが彼なりの慰めだ。
リリヤはその場に座り込み、
膝に顔を埋めて涙を堪えきれない。
バルトロメウとアナスタシアは少し離れて見守っていた。
この瞬間だけは三人の時間にしたのだ。
そしてその朝のあと、
村はまた、
いつも通りの日々へ戻っていった。
一日、また一日と。




