漆肆話 町案内を楽しくする工夫はどうすればいいんだ?
『ここからあっちの方へまっすぐ進むと、そこにほかの区画へ行く列車が用意されている。君たちはまず、わしが書いた推薦状を車掌に見せ、そこで目的の区画まで下りてもらう。言っておくが、目的以外のところへ向かおうとは思うな。土精族には君たちの様子を知る方法などいくらでもあるからな』
と、いうことで
「うわ~、零ちゃん。窓の景色がすごいね」
「そうだな。どこもかしこも鉱山を開拓している様子しか見えねえよ……」
俺たちは今、刀鍛冶や銃器製造のある区画に行くため、移動用の列車に乗っている。
ルカスさんの書いた許可書らしきものを見せるとあっさりと乗せてくれました。
席は二人ほど座れる横長い椅子を向かい合わせにした形で、俺達はお互いに向かい合うように座った。
特に混んでいるという訳でもないので、他の誰かと相席ということにはならなかった。
それで列車の窓から外の景色を見続けているのだが……いかんせん地下世界だからどうにも町と炭鉱の二種類しか見られず、限度というものがある。
まあさすがにこのまま過ごすのもどうかと思うので、少しだけ千代と世間話でもするか。
「そう言えばお前、俺と初めて電車に乗ったとき、たまたま見かけた痴漢に銃を出そうとしたことがあったよな……」
「銃? ええと確か……」
おい、あれだけ強烈な出来事があったのになんですぐに思い出せないんだよ。
「……あ、そうだね。あの時の零ちゃんがとても怒っていて、私はいったいなんで怒られているんだろうって、あの時はよくわからなかったけど……」
「わからなかったのかよ……」
本当にあの頃のこいつは危ないとしか言いようがなかったよ。それも、自覚が足りないという厄介な意味でだ。
まあ今はまったく危なくないのかと言われると…………うーん………………
「でも、今は違うよ。無闇に誰かに銃を向けてはいけないって、大切なことを教えてもらったから」
「当たり前だ。そもそも始まりの時点でいろいろと危うかったし、今でもお前の突拍子のなさには驚かれるけどな」
「そう?」
「そうだよ」
しかし、そういえばそんなこともあったな。
昔の千代は自分に危機が及んだり、女性にひどいことをする男性を見ると、よく反射的に銃を抜き取ることがあり、そのたびに俺が止めに入らなければならないことがあった。
女性限定ではあるがもともと正義感の強いところもあるからこそ、なおこのと難儀なことでもあったんだがな。
ふと、過去のことを思い出していくと、自然とあの事務所のことも思い出してきた。
「……零ちゃん?」
俺たちが幻界に迷い込んでからいったいどれほどの時間がたったのだろう。
所長、元気にしているかな……
いや、所長だけじゃない。不破さんも、春房さんも、親父も、みんな長いこと待たせてしまっている。
今頃何をしているんだろうか。今でも俺たちは行方不明のままなのだろうか。それとも……
「…………?」
そう考えていると、ふと手に温かく柔らかい感触を感じた。
目を向けると、千代が心配そうにこちらの顔をうかがいながら俺の手に自分の手を握っている。
「……大丈夫?」
「なにがだ?」
「もしかして、ラネットさんたちのこと、心配している?」
「いや、別に。まあルカスさんの区画で待ったままなんて申し訳ないとは思う。キノサキを好きにさせるとろくでもないことが起きるって、改めて痛感するし」
次に会った時は反省しているといいんだけどな……
まあ、あいつのことはいくら悩んでも仕方ないけどね。
「それじゃあ、もしかして青江さんのこと?」
「…………」
こいつ……どうしてこう時々鋭いことを言うんだろうか。
それとも俺がわかりやすいだけなのだろうか。
「零ちゃんも私も、青江さんに太陽道さん……他にもたくさんの人に心配をかけています」
「……そうだな」
それに俺の場合、親父も心配させてしまっている。
さすがに千代の前でそれを言っていいかどうかは少しだけ迷った。
「前にも零ちゃんがそれで悩んでいるときがあったね。私が風精族さんの里に行く前に……」
「あの時は、ただ元の世界に帰ることを一番の目標にしていたからな。……昼江が現れる前にな」
前に、夜……当時は昼江だと思っていたが……のことを知りつつ彼女を放って元の世界に帰るか悩んだことがあった。あの時は千代の言葉で、やるべきことを終えてから元の世界に帰ろうと決意を固めた。
しかし、火蛇族のことが終わって、夜と一時休戦をして、そして俺はまだ元の世界には帰らず、刀を探しに土精族の里にいる。
まだ目的はある。しかし、それで元の世界を考えてなにも苦痛に思わないことはない。
「千代、あの事務所。毎日俺達に割り当てられる依頼は少なかったけど、それでも依頼人を護るために二人して奮闘したな」
「うん……そうだね」
ストーカーの撃退とかあったし、依頼人から金を搾取する暴力団幹部との激闘を繰り広げたし、人間関係の拗れから予期した計画殺人を未然に防いだこともあった。
先輩の補佐として同行し、依頼人の命を狙う殺し屋と戦ったこともあった。
そして用心棒という職業柄、依頼とは違って逆恨みで命を狙われることもあったし、とばっちりで巻き込まれることも多々あった。
どんな理由であっても、一方がもう一方に理不尽を強いることは日常の中でたびたびあった。
それはいろんな形で展開され、そのたびに用心棒は東奔西走していった。
「零ちゃん。もしかして、元の世界で仕事ができないことに苦しんでいる?」
「……そうだな。所長に怒鳴られるどころの話じゃないよ」
どんな理由でも俺たちがいない間、あの事務所には数々の依頼が舞い込んでくる。
事務所自体小さいし知名度も正直疑問だから、仕事量はそこまで多くないと思うが、それだけ……
「春房さんや不破さんに負担を強いることにもなるからな。心配かけてしまう上に、無理までさせてしまう」
「零ちゃん……」
っと、いけね。つい千代の前で言わなくていいことまで言ってしまった。
そんなこと話してもしょうがないことだ。悩みなんて、話して何とかなるものじゃない。
それに、
「だからといって、この先やることを諦めるわけすぐに帰るわけにはいかない。刀を手に入れて、昼江が言っていた人さらいの件を確かめて、それで…………」
昼江を呼び戻し、本当の夜に戻ってもらうためなら、いくらでも探しに行く。
そのためならたとえ……
「大丈夫、零ちゃんならできるよ」
「……あっさり言うよ、お前は」
「私も一緒に頑張るから、大丈夫。それに、不破さんも太陽道さんも青江さんも、わたしたちよりずっと強いから、問題ないと思うよ」
「……確かにな」
こんなことを聞いたら不破さんあたりが『ええ? そんなことノープロブレムだよレーにゃん。後輩たちに心配されるほど僕は弱くないニャ!』とか言いそうだな。いや、語尾は勝手に付け足したものだが
『ところでいまだに僕のことを名字で呼ぶの? いい加減名前で呼ぶニャ!』
ちょっと、想像なのに出しゃばらないでください。空気を読むって知らないのですか。
まったく、なんかどこかで似たような性格を思い出すよ。
「零ちゃん? 頭でも痛いの?」
「なんでもない。既視感が起きただけだ」
「そう? でも、そんなに悩まなくても零ちゃんがいま考えていることだって大事なことだから、その大事なことのために頑張ろう」
「……そうだな」
ちょっとどこか能天気に見えるけど、こいつもこいつでちゃんと考えている。
どうしようがなかろうと心配になる俺にもお構いなく、だがな。
なんというか、そういうところは見習うところでもあるかもしれないな。
「千代。もうこの話はおしまい。だからそろそろ手を放してくれないか?」
「え? あ、そうだね」
話が終わったところで、いまさらだが千代は俺の手を握っていた両手を離した。
それとほぼ同時に、車両と車両の間の扉が開く。
「お客様。当駅に到着されましたので直ちに降車の準備をしてください」
「あ、はい。わかりました」
どうやら千代と話している間にいつの間にか目的の区画に到着したらしく、係りの者が下りるように促してきた。
このまま乗り越しはさせてもらえないようで(するつもりはないが)俺と千代は素直に列車から降りることにした。
2
列車から降りてきた俺達に、ある土精族の女性が待っていた。
「あ、あなたさま方が~ルカスさまからの連絡にあった、ハクレイさまと~……クロチヨさまですね~」
「ん?」
ふと、列車から降りてある程度こんでいる中から、一際澄んだ女性の声が、俺たちの耳に届いた。
「零ちゃん? 誰かがこっちの方へ走ってくるよ」
「もしかして……」
声のした方へ見ると、土精族の女性らしき人物が、俺たちのことをあらかじめ知っているのか、一目散に駆けつけてきた。
どうやらあの人がルカスさんの言っていた案内人……
「あ、ああ~」
「え、おい!」
そう思った矢先にその女性は、道の端にある柱らしきものになぜか足を引っかけてしまい、前のめりになって転びそうになる。
俺はあわてて女性のもへ駆けつけると、倒れそうになった体を抱きかかえて支えた。
「だ、大丈夫ですか……?」
「あぅ~……すいませ~ん」
転びそうになった女性は、間延びした声で、こちらに謝罪をしようと慌てて俺から離れようとして
「あ、おい。どこを見ているんだ!」
「あああっ! す、すいませ~ん!」
後ろの土精族のおっさんに思いっきりぶつかってしまい、さらに謝っている。
「え、ええと……それじゃあ…………あああ~!」
「ちょっと!」
ぺこぺこと頭を下げておっさんが去って行った頃にもう一度こちらに体を向けようとすると、回転の時に足元がもつれてしまい、再び転びそうになってしまい、もう一度俺は転びそうになる相手の体を抱きとめる。
「あ、重ね重ねすいませ~ん!」
「……いえ、もう少し落ち着いてください」
……なんだろう。すごく面倒くさそうな感じがする。俺が今まで知り合った中で、一番面倒くさそうな感じがするのは気のせいなのだろうか。
「もう立てますから、大丈夫ですよ~」
「……本当にですか?」
「だ、大丈夫ですから~! 離してください~!」
「あ、す、すいません」
俺はあわてて抱きかかえていた相手の体を離すと、相手はひっかけた右足を見て改めてこちらの方へ振り向いた。
意外だな。なんか案内人と聞くと、もっと警戒をしてしまうような相手を連想してしまうが……
先ほどか駆けつけて転びそうになった土精族の女性。
土精族に共通して例外なく低い身長で、俺の胸の下ほどしかないのだが、見た目からして俺達とそう歳は離れていないだろう。
ただ、柔らかそうな目元や物腰と、そしてどこかのんびりとした雰囲気が大人びた印象を与えている。
……ただし、さっき迂闊にも転びそうなところだったのでどこか抜けているところもあるようだが。
「あなたがルカスさんが仰られた、案内人さんですか?」
あわてて駆け付けた俺に追いついた千代が質問をすると、相手は柔和な笑みを浮かべて答える。
「はい~。今日一日、あなたさま方の、案内人を務めさせていただく~…………ええと…………」
と、相手はそれから続く言葉が何かゆっくりと思い出しながら静かに口に出していくが……
「土精族町内、安心管理に……ん? ええと、安全観光…………案内監視…………案内管理…………」
……はっきり言ってくれよ。
「……案内人の、ソフィです。どうか、そうかしこまらずにソフィと呼んでくださ~い」
「用心棒の、金斬白零です。こちらもよろしくお願いします」
「用心棒の三咲黒千代です。ソフィさん。以後、よしなにお願いします」
とりあえずお互いに自己紹介を終えたところで、長話よりも早いところ目的の場所にでも行こうと、ソフィさんに俺たちの目的を話した。
そのため、まずは俺の刀のために鍛冶屋、千代の弾丸の補給や銃整備をする場所を案内してもらうことにした。
「それでは、お二人が行きたがっている鍛冶屋のなかで、町一番の鍛冶屋を紹介しますので、どうぞついてきてわっ!」
俺たちの方を見つつ前を見ずに歩いていくせいで、またも前方の土精族のお兄さんにぶつかりそうになり、またも謝るようになるのだった。
……本当に大丈夫なのだろうか。
「なんだか、不思議な人だね」
「……そうだな」
……お前がそれを言うんだな。
まあ、心の中で思っただけで言わないけどね。
2
「へえ、ハクレイさんとクロチヨさんは、人間界でボディーガードをやっているのですか」
「はい、まだ私たちは新参者で、未熟でありますから、まだ厳しいことも多々あります」
「へぇ~」
案内の途中、ソフィさんと千代は思いのほか打ち解けていた。
もともと似たようなタイプでもあるんだが、なんでもソフィさんはこれまでに何度か土精族に対して迷子の相手になったりほかの区画からきた土精族に道案内としていたそうだ。しかし、今回の人間相手に町を案内するのは初めてらしく、好奇心も手伝ってこちらにぐいぐいと質問をしてくる。
穏やかな性格の割には結構積極的な人だ。
ちなみに、はじめは『ハクレイ様』だの『クロチヨ様』だとの、かしこまって呼ばれてたけど、そんなの慣れてはいないのでもう少し砕けて呼んではくれないかと言ったら、今の形になった。逆もまた然り。
「そうですか~。お二人はまだこんなに若いのに、苦労されているのですね~」
ソフィさんは質問に答える俺たちの言葉を聞くと、うんうんとうなずいて感想を口にしている。
「ちなみに、ハクレイさんとクロチヨさんは、付き合いは長いのですか~?」
「そうですね……私は零ちゃんと一緒に用心棒をはじめてもう四年ほど一緒ですから、誰よりも頼りになります」
「へぇ~。いいですね~。私、頼りになるパートナーとかいませんから、ちょっとだけ~うらやましいです~」
そうは言うけど、ソフィさんとパートナーを組む人は、いろいろと大変そうなことにあうかもしれないな。
もっとも、そんなこと決して口には出さないが。
「ソフィさんは、こうして町を案内することは好きなのですか」
「はい~。私、知らない人に説明することが好きで、この町のことはちゃんと知ってほしいんです~」
確かに、第一印象はのんびりしているところがあるが、町への説明の能力は高い。
先ほども、
「たとえば、土精族の技術力の発展は、先々代の族長さまが、地下坑道を利用した運搬車両を開発したことが始まりで、それから次の世代の族長に技術のことについて教えていったそうですよ~」
とまあ、こんな感じで俺たちはソフィさんに土精族の歴史や地下世界の成り立ちについていろいろと教えてもらった。
結構説明好きなところがあり、結構熱心に話してくれた。
「そのために、今回の案内で人間であるハクレイさんやクロチヨさんを案内したかったので、私から区画長にお願いをしたのです~」
「え、ソフィさんが自らお願いをしたのですか?」
「はい! 私、人間のことについてもいろいろと知りたいことがありますから~」
「そうか」
どうやらソフィさんは説明好きに加えて好奇心旺盛なところもあるようだ。
はじめはおっとりしているところもあったが、こうして嬉々として説明しているところを見ると、幾分幼くもかわいらしく見える。
俺たちが人間であるにもかかわらず、恐れることも遠慮することも一切なく、自分に知ってほしいことを次々と話していった。
そうして、しばらく歩いていると……
「ちなみに~、ハクレイさんもクロチヨさんも、新しいものを買う手持ちはあるのですか?」
「手持ち? ああ、そのことなのですが……」
実はこの里を訪れるにあたって一番懸念していることがある。
新しい武器がほしい以上、それは決して只で手に入ることはできないということだ。
いつまでもラネットに甘えるわけにもいかず、だからと言っていまの俺達ではそれを手に入れるのは難しい話だろう。
とするとどうするかなのだが……
「手持ち自体はそんなにないので、どうにかしてそれを稼ぐ方法を探すか、手持ちに見合う仕事をしようか考えているんだが……」
「あら~、そうなのですか?」
まあ、いくらでも方法は思いつくけど、それが実際に通じるか話は別だ。
とりあえずいくらかの可能性を考えあげ、それらの検討を一つひとつ行っていく予定なのだが……
「それでしたら、いくらでも手段はありますよ?」
「え、本当ですか?」
「はい~。たとえば、土精族は珍しいものに目がありません。他種族の道具でもいいですし、ここにないものでしたら人間界の物でも、中身次第では取引となるんですよ~」
「取引……」
つまり、物々交換でもあり、ということなのか?
確かに、この街中にある技術力の塊を見ていると、結構貪欲というか、並々ならぬ熱意のようなものを感じる。
地下世界があり、列車があり、街灯がある。おそらくまだまだいろんな技術が開発されていくのだろう。
「もっとも、私たち土精族は荒事は好まない性分ですので、火蛇族のような危ないところや、獣人族のようなところにもいけません~」
「なるほど……」
極力ほかの種族と関わりに行くことはしない、というわけか。だから風精族も、土精族の技術力はあまり知れ渡ってはいないというわけか。
そうなると間に立っている火蛇族の領地は、良くも悪くもフィルターみたいになってしまっているんだな。
つまり俺たちのようにほかのところからこの地下世界へ行くことは、珍しいケース、というわけか。
「それに、もしも土精族には全くない珍しいものを見せれば、交渉や道具次第で破格の取引になるんです~」
破格の取引、ね……
『白髪ねぎー! 修行パートしようぜ修行パート!』
……一瞬キノサキの顔が浮かんでしまったが、やめよう。いくらなんでもあいつの体を交渉に出すのは人としてどうかと思うし、いろんな意味で大変なことになりかねないあのオートバイもしかり、だな。
だとすると、いま手持ちの道具でなんとかするって手段は限りなく不可能に近いが……
「零ちゃん、私いくつか交換ができるかもしれない道具を持っているよ」
「え?」
千代はそういうと、さっきルカスさんに出したグローブ型拳銃を取り出した。
いや、グローブだけじゃない。一見してナイフみたいなものや化粧道具みたいな銃器が見える。
「私、普通の銃器以外にもこんな扱いづらい変わった形の銃も持っているから、それをいくつか出せば零ちゃんの刀や私の銃を補充するには足りると思うけど……」
「……いや」
いろいろとつっこみたいところがあるけど、要するに千代でも扱いにくい銃器を、交換に使うようだ。というか、そんなものまで仕込んでいたんかよ。こいつのキャパシティどうなっているんだ。
とはいえ、役に立つんならいいんだが、それを俺のためにも使わせるには少し申し訳がない。
「これはお前のために残しておけ。どれくらい弾薬が残っているのか知らないが、下手に分けて中途半端な結果になってしまったら、お互いあまりいいものは引けない」
「そう……」
新しい銃ならとにかく、弾薬ぐらいならさすがに銃ひとつでいくつかまかなえるだろう。
だとするならば千代の方はほぼ問題ないと考えるとして、あとは俺の刀だが……
「ソフィさん。いくらか手段があるといったが、ほかにもあるのか?」
「はい。他にも簡単な仕事斡旋所もありますから、手堅くいくにはおすすめで……」
……ワァァァァァアアアアアアア!!
「ん?」
「あれ、いまのは……?」
「え、これは~!?」
何か今、悲鳴のようなものが聞こえたような……
「うわ~! 今日も出たぞ! 奴が出やがった!」
「早く! 今のうちに離れるんだ!」
「…………なんだ?」
すると、俺たちの進行方向が妙に騒がしくなり、土精族の大声が聞こえてくる。
結構遠くから聞こえてきたようで、遠目で見ても何が起きているのかよくわからない。それにしてもここまで聞こえるようなこの騒ぎ用はいったいなんだ?
すると、唐突にジャージの袖が引かれ、振り返るとソフィさんが俺のジャージの袖をつかんでどこかへ連れて行こうとするように引っ張る!
「おい、ジャージを引っ張るな! 緩んだらどうするんだ!」
「あ、ハクレイさんにクロチヨさん。向こうで喧嘩が起きてしまったので、別の道を行きますよー!」
「え、いえ……喧嘩? 喧嘩なのですか? それにしてはその……」
「早くいきますよ~! ほら、こっちの道を通って回るといいよ~!」
「いや、ちょっと待ってくれ。なんか急に焦りだしていないか?」
騒ぎを聞いた途端、ソフィさんの顔が明らかに心当たりを思い浮かべた顔になっていたぞ。
どうみてもこの騒ぎのこと、なにか知っている。そのうえで俺達を強引に別の道に進ませようとしている。
俺の後ろで千代も「ソフィさん?」と疑問符を浮かべて首をかしげる。
「なんでもありません! ほんの些細な喧嘩のようなものですから~!}
「や、そうだとしてもこのあわてようは尋常じゃないというか……」
「こういうのは、警備の方が止めてくださりますから、私たちは離れますよ~!」
「…………?」
……おかしい。ほんの少しの騒ぎを聞いただけで、ソフィさんが急にあわてているんだ?
なんか俺達に見せたくないものがある?
それにこの騒ぎは本当に大したことがないのか?
千代も不安そうに、俺とソフィさんを交互に見ている。
「零ちゃん……?」
「いや、無理はしない。けど、ソフィさん。本当に大丈夫なのか?」
せめてこれだけは本当に確認したい。本当に大事に至るようなことはないのか。
ソフィさんは不安そうに、気弱な感じではあるが視線はこちらをそらさずに、迷わず答える。
「はい。何も問題ありませんから、放っておいてください~!}
「…………わかった」
「零ちゃん。でも……」
「ソフィさんの言うとおり、こっちのことはこっちに任せるとしよう」
正直、気にならないというわけではない。どうしても自分の目で確認しなければ気が済まない。
けど、いまの俺たちはまだ右も左もわからないし、ソフィさんにはソフィさんの立場がある。
勝手なことをしてソフィさんを困らせてはいけないと判断し、俺たちはソフィさんの言うとおりに別の道を通ることにした。




