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漆参話 一番の味方も敵も、仲間かもしれない

 幻界の大陸中央に住むある種族の里でのこと。

 他種族への干渉を極力嫌うその種族は、何者も踏み入れることなく、ましてや踏み出すものもなくただただ日が過ぎるだけの毎日だった。


 その里の全体を彩る白く寒い世界の中で、あるひとつの大きな聖堂がその存在感を表している。

 曇り空の影響により、日の光が今一つ届かない聖堂の中。

 聖堂の中央には、特に祈るわけでもなく、だらしなく足を投げ出しながら地に座る男がひとりいる。


「…………」


 男はボサボサの髪と無精髭を生やしただらしのない格好をしており、覇気のない淀んだ瞳でなにもない中空を見つめている。

 しかしそれ以上に特徴的なのは、背中に風精族シルフィ特有の透明な羽が生えているのに、里に住んでいる者とは違い、無残にも右側が根元からちぎれており、左側にも虫食いのような穴がちらほらとある。

 まるで色褪せた写真のように退廃的な雰囲気の男は、手のひらの中にある道具をくるくると回してもてあそんでいく。

 それは、いまここにいる場所にはにつかわない道具、回転式拳銃だ。

 男が拳銃を弄っていると、背後の方から凛とした澄んだ声が響く。


「またそんな物騒なものを出して、いつもの暇潰しか?」


 そう言って現れたのは、目の前の男に劣らず奇妙な容姿をしている女性だ。

 人間に似た容姿を元に身体中に鱗が生えており、重厚さと色彩のある見た目が爬虫類とも魚類ともつかない曖昧さを醸し出している。

 しかしさらに目立つのは、彼女の肌の色が青の部分と赤色の部分に分かれおり、水面に垂らした色水のように身体中を二色のまだら模様が占めている。

 継ぎはぎとは違う大理石マーブル模様のそれは異色の存在であることを主張するが、容姿に合わない凛とした声が、なおのこと異色感を際立たせる。


「邪魔をしないでくれ。別に周りを壊すようなことはしない」

「じゃあ何をするつもりだ、フラッツ」

「こうする」


 フラッツと呼ばれた男は、手の中でいじくり回していた拳銃を、銃口を密着するように自分のこめかみに向けて……


 ガチッ!!


 躊躇いもなく男は拳銃の引き金を引いた。

 しかし、中に弾が入ってはいないようで、撃鉄の落ちる音を出したまま、なにも起こりはしなかった。

 自殺行為らしきことを起こしたにも関わらず、フラッツは眉ひとつも動かさない起伏のない表情で呟く。


「ああ……あんまりおもしろくない」

「だからどういうつもりだ」


 女が呆れたように訊くと、フラッツはただ淡々と事務的な物言いでいま行ったことの説明を始める。


「これは、六つの弾倉に五つだけ弾を込めて適当に回し、自分に向けて発砲するって運試しなんだ。うまくいけば撃たれることはないんだが……」


 フラッツは残り五つの弾が入った拳銃を見下ろし、つまらなさそうに息を吐く。


「やはり、撃たれなかったのに何一つ興奮しない。おかしいな。話を聞いたときは楽しみにしていたが……」

「またあの女に教わったのか。毎回毎回懲りないな」


 特に珍しくないいつもの光景を見ているために、ため息がひとつ漏れる。


「アナス、なぜお前がため息をつくのだ」

「ため息ぐらい、つきたくもなる」


 アナスと呼ばれた女は、もうすでに何度も聞いたやりとりにいつものように飽き飽きしつつ、無駄だとわかりつつも現状をどうにかする方法を提示する。


「ならばさっさと除霊されればよい。いつまでもこんなところに留まるからおまえは退屈なんだろ?」

「冗談。番人がそう易々と除霊されないのはお前が知っていることだろ」

「だからさっさと後継者を見つければよいと、あたしは口を酸っぱくして言っているのだが?」


 いつものように、圧力をかけながらフラッツに動いてもらうように促すが、当の本人は全く動じない。


「こんな役割を引き継ぎたい物好きはいるか? いいや、確かいなかった気がする」

「まったく、現状を退屈と嘆いている癖に、それを改善する努力もせず、そんなくだらない遊びをする」


 返ってきた答えはいつものことなので、それ以上追求せず、すぐに話題を切り替えることにした。


「それで、あの女はどうした。下の方にいないが、知らないか?」

「いつもの所に行った。また問題事を引き起こすんじゃないか?」

「またか……」


 もう一つ、“いつもの”ことに対して、先ほどのことよりもうんざりした顔でうめく。


「“迷い魂”のくせして、勝手に動き回る。いい加減諦めがついたらどうなんだ」

「俺は、番人の代わりを連れてくれるなら、なんでもいいがな……」


 アナスとは違い、事を深刻にとらえていないフラッツになにも期待を寄せていない。

 結局自分がどうにかするしかないと決める。


「死んだものは死んだものらしく、おとなしくしろと、いつになったらわかる」

「……連れ戻すのか、アナス」

「連れ戻すに決まっている。お前は後ろのそれから離れるなよ」


 そう言い残し、アナスは急いで聖堂の外へと出ていった。

 取り残されたフラッツはもう興味がない拳銃を放置し、常に言われていることに対して常に返している言葉を出す。


「わかっている。そのための番人だ」


 いつも言われている台詞に、自分はそんなに信用がないのかと甚だ疑問に思いながらも、次はどうして暇潰しをしようかと思考を巡らせていった。



      2



 連帯責任という言葉がある。

 集団の中でひとりがミスをしたら集団全員が責任をとると言うことだ。

 一人のミスが全員の処罰に繋がるから、全員は一人のために、一人は全員のために動くことになる。

 つまり何を言いたいのかというと、


「身内が大変迷惑をかけました」

「大変、申し訳ありませんでした」

「本当にすいませんでした」


 キノサミという人物を怠慢で見逃してしまったことに、俺達全員が謝らなければならないことだ!


「身内? いやだなー白髪ねぎ、別にこちらは白髪ねぎの養子縁組に入った覚えは……」

「キノサキ! 張本人のおまえがまず最初に謝ることだろうが!」

「いやいや、謝るということは行為自体を悔いることだけど、今のこちらにそんなものはない!」

「ヒャッハー! 下げぬ! 言わぬ! 謝らぬ!!」

「こいつら……」


 原因はこいつらキノサキとヘルメスのせいだ。

 いったいなにを考えているのか、こいつはヘルメスを乗り回して町中を走り回り、周りの土精族ノーム達をパニックにさせやがった。

 で、俺も千代もラネットも大慌てでなんとかキノサキを止めようとしたんだが、速いし、危ないし、なぜか煽るし、散々だ。

 千代に狙撃して止めさせようと考えたが、流れ弾が他の土精族ノームに当たるかも知れないし、走っているヘルメスがどこかに衝突してしまうかも知れない。

 で、キノサキ達を止める決め手となったのは意外にもラネットで……


「あいつでも感知されない方法があるのよ。隊長ほどうまくはできないけどね」


 見えないままの姿になってキノサキを止めてくれたようだ。こういう時に精霊術は助かる。

 で、キノサキ達を捕まえた俺たちは、そのまま土精族ノームの方達に危険だと認識され、今に至るということだ。

 まあ幸い、怪我人がひとりも出なかったのは本当によかったことだが……


「クスクス、知らない所に来たからって町中巻き込んではしゃいじゃって……まるでお子様ね」


 一切キノサキを止めようとはしなかった夜が、愉快そうに笑んでいる。


「とんだよそ者がこの里に来てしまったなぁ、まったくなあ!」


 俺達の目の前にいるのは、当然謝罪の相手である土精族ノームのおじさんがいる。

 初めは大人数の土精族ノームに囲まれるのかと思ったが、意外にもたった一人だけが相手になっている。

 ちなみに、見た目がそのまま年齢に繋がるとは限らないが、目の前の土精族ノームは、貫禄のある中年の男性であることが伺える。おそらくこの町のまとめ役のような人物だろう。


「うむ、許すかどうか答える前に、まず君たちの素性と事情ぐらいは聞かせてもらおうか」


 一応事情聴取らしきことはしてくれるそうなので、特に断る理由もないし素直に自分の素性を明かす。


「俺の名前は、金斬白零。人間で、用心棒をやっています」

「私は三咲黒千代と申します。私も同じく用心棒をしています」

「私はラネット。風精族シルフィで、調査隊をしているけど、いまは里を離れてハクレイに同行しています」

「あたしは浮空昼江。人間よ」


 と、一通り自己紹介と素性を話したところで、


「こちらはガンスロット=キノサキ! それで、こっちはヘェェェェェルメェェェェェェスッ! っだ!」

「ヒャッハー! よろしくぅ!」

「おい」


 すごく元気そうに自己紹介してるけどお前ら反省する気ゼロだろ。


「ちなみに職業は殺し屋だ!」

「なに、殺し屋だと!」

「おい、キノサキ!」


 なぜそう余計なことばかり言うんだ! 本当のことだけど!


「いえ、問題ありません。キノサキさんは私たち用心棒が同行している以上何も起こさせることは……」

「御しきれていない結果が今の状況にあたると思わないか?」

「……はい、その通りです」


 千代のフォローも不始末の事実に打ち消されてしまう。

 そうだよな。そんなこと言われてもそれができないからここにいるのに説得力は感じられないだろう。

 ああもう、今さら悔いても仕方がないとはいえ、どうして里に来た直後にこうなってしまうんだ


「まったくなあ、とんでもない人間が来てしまったが、いったい何の用でこの里に来た」


 とは言え、嘆いても仕方がないしとにかく敵対しない意思を見せなくちゃならない。


「俺たちがここに来たのは、幻界の中で技術者の集まりである土精族ノームの方に造っていただきたい物があって……」

「なんだ」


 さて、口で説明するのもいいけど、折角だから実物を出してみようか。

 だとするなら、


「千代。あれを出してくれないか。お前が御守りにもっているあれ」

「え、あれ? それって……」


 千代は俺の意図に気づいたか袖の中に手を忍ばせて中から……


「もしかしてこれのこと?」

「ちがう」


 中から手の甲に銃器を搭載したグローブ型拳銃を取り出してきた。

 そんな革新的な武器初めて見たぞ。


「確かにこれはまだ試作のままで実践に使ったことはないけど」

「それじゃなくて、最近お前が紙に包んで入れたものだ」

「あ、あれだね。わかった」


 まったく、そういういらん小ボケは挟まなくていいから。

 グローブ型拳銃を仕舞った千代は、今度は紙に包まれた物を出した。そして、紙の包みを開くと……


「ほう」


 現れたのは、刀身が半ばほどで折れた日本刀。

 そう、俺のかつての愛刀だ。


「なかなかいい武器だ。人間界の物だな」

「はい」


 銘はないが、長いこと世話になった刀だ。カルリトロスから風精族シルフィの村を護るために無茶をした結果こうなってしまったが、惜しんでも仕方がない状況だった。


「先ほども話しましたが、俺は用心棒という仕事柄、武器を所持してはいたがいろいろあってこんな姿になった。そのため、今の俺は丸腰です」

「つまり君は、この武器に代わる新しい武器を造ってもらうために、この里に来たと」

「はい、そういうことです。他にも旅に必要な道具もいくつか揃えるつもりです」


 もっとも、土精族ノームに対する興味というのもあるが、あんまり長いことこの里に留まるつもりはない。

 いや、この里で出来ることならいろいろと調べたいところだけど、目的は別の種族の方にあるし……


「俺たちがここに来た目的はそれだけで、それ以上のことはありません。目的を果たしたらすぐにこの里を出るつもりです」

「君たちが言わんとしていることは、よくわかった。さて……」


 土精族ノームのオジサンが一息つくと、より表情を鋭くして俺達のことを見据える。

 これは怒りとかそういう類いのものじゃない。まるで値踏み、いや、真価を見るような感じだ。


「わしはルカス。この区画の長をしている」

「区画?」


 この里一帯をまとめているというわけではないのか?

 俺の疑問をそのまま感じとったようでルカスさんはそのまま説明を続ける。


「君たちは見ただろうが、この土精族ノームの里はとても広く、いくつか複数の区画に分かれている。わしはこの区画をまとめていると言うことだ」


 一応まとめ役ではあるものの、答えは想像してたものより少し違っていた。

 千代も同じようで直ぐに疑問としてルカスさんに尋ねる。


「つまり、ルカスさんは族長と言うことでしょうか?」

「いや、違う。族長は里全体を統括する存在だ。わしはこの区画のみを纏める者、つまりは補佐ということだ。他の区画に行く許可もわしが出さなければ意味がない」

「許可……」


 ルカスさんの言いたいことが伝わってくる。

 千代やラネット、それに夜も感じたようで、俺はそれを口にして改める。


「あなたが許さなければ、俺達は他の区画へ行くことができない」

「そうだ。その上、君たちの目的である武器の製造なら、二つ跨いだ先の区画にある。この区画に留まっても目的は果たされないなぁ」


 なるほど、この場所に刀を作ってくれる店は存在しない。

 そうなると今後の活動はルカスさんの判断次第と言うことになる。


「今の俺達のことをどうお思いですか」

「ふむ、少なくとも武器を求めに来たことが本当だということは認めようとしても、だ」


 ルカスさんの鋭い瞳は俺達を通り越してある一点のみ見続けている。

 その先にいるのは言うまでもなく


「まだわしはそいつから謝罪の言葉を聞いていない」


 キノサキとヘルメスだ。


「ほえ、こちらかな?」

「う」


 それはごもっともな意見だ。一番痛い所を突かれた。

 連帯責任とはいっても、そもそも当の本人がまったく反省する気がないくせに俺達だけが謝ってちゃあ、そう簡単に許してもらえるはずが、


「すいませんでしたあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ヒャッハー! ごめんなさい」

「いきなり謝った!?」

「キノサキさん?」

「あら、節操がないわね」


 なぜここで急に手のひらを返す!?

 それともさっきルカスさんが言ったことに不都合なことでもあったのか?

 いや、そんなことよりいくら謝ったとしてももうこの状況じゃあ……


「いいや、もう遅い」

「なんと!」


 ですよねぇ……

 キノサキが衝撃を受けたようにのけ反るけど、お前こうなることは想定してなかったのか?


「仮にも興味本意で街中を走り回り、大勢の迷惑になるような人間に他の区画へ行く許可を出したとなれば、わしの信用が疑われる。困った話だと思わないか、まったくなあ」


 正論過ぎる。

 確かに今でもキノサキは俺の中で要注意人物のままだからな

 とは言え、キノサキが原因で俺達が他の区画に行けないのは困ったことだ。さて、どうしようか


「お言葉ですが、そのことでしたら考えがあります」

「え、ラネット?」

「ほう」


 と、ここで静かにしていたラネットが、なにか考えがあるのかルカスさんに意見を提示していく。

 流石、早くから職場で働いているのかいつもより堂々としている。


「この里に来た主な目的はハクレイとクロチヨにあります。許可をハクレイとクロチヨの二人にだけ出して、私たちはこの区画に留まらせるのはどうでしょうか」

「…………!」


 さすがに口にはしなかったがラネットが付いていかないことに千代が若干残念そうな顔をしている。

 ここに来てまた分断か。確かに悪くはない方法だが、これをどう受け取ってくれるのか……


「問題視するキノサキをあなた方の目の前に置けば問題ありません。キノサキだけで不安でしたら私やヒルエをここに留まらせても問題ありません」


 そうなると、自由に行動できるのは俺と千代だけだ。

 俺だけじゃなく千代も含まれているのは、千代の武器をと現状を知ってのことだろう。逆に言えばラネットや、一応夜も当てはまりはしない。

 キノサキは、まあ自業自得だな。


「ええー、白零君と離ればなれになるなんて、ラネットちゃんの提案に従うわけでも……」

「わかってて放置してたあんたも連帯責任よ」


 不満を溢す夜を即座に小声で牽制する。

 うん。俺も同じことを思ったぞ。

 お前もお前でちゃんと反省しろ。


「いいだろう。折角の客人を帰すわけにはいかんだろうし、ならばこちらもこちらで妥協案を出そう」

「妥協案?」


 つまり、ラネットの意見は通される可能性はあると言うことだ。

 ならばあとはその内容次第だが、いったいその内容は……


「君たちはこの里に来たのは初めてだろう? ならば向こうの区画の長にはわしから連絡を入れておく。君たちが着く頃には案内人を出すようにこちらからお願いしよう」

「案内人」


 確かに、この地下世界は広いし迷子になる可能性だってある。案内をしてくれる土精族ノームがいれば、心強いことだ。

 若干監視の可能性もあるけれど、余計な詮索よりは頼もしいことに越したことはない。


「それはつまり、私たちの二人だけなら他の区画へお伺いしてもよろしいということでしょうか?」

「当然、そこの小僧はここに停留、少なくとも様子見ぐらいは必要だろう」

「うう、そんな……」


 キノサキ……

 まあ、これを機にキノサキが大人しくしてくれるなら願ったり叶ったりだ。


「もし他の区画にも行きたいのなら向こうの長と話をつけるといい。ただし、その時も案内人が付くと思うが、楽しんでいけ」

「ルカスさん、ありがとうございます。ラネットも本当にありがとう!」

「い、いいのよハクレイ……感謝するならちゃんと目的を果たしなさいよね!」

「でもラネットさん。本当にこれでいいの?」


 しかし、喜ばしい反面逆にラネットや夜を置いていってしまうことに少々心苦しく思ってしまう。

 それでもラネットは特に悲嘆するようなことはない。


「問題ないわ。私はあんまりこれといった強い用事はないし、それに……」


 ラネットの視線が千代からキノサキの方へ移る。

 そこには非難や恨みのようなものがない。もはや、困った問題児を見るような、仕方がない感じだ。

 しかもなぜかスマイルを浮かべているキノサキにさらにため息をついてしまう。


「……私がいなかったら誰がこいつらを見ないといけないのよ。ヒルエ」

「あら、あたしに振られても期待通りの答えなんて来ると思う?」

「本当にね」


 前々から思ったが、ラネットって結構面倒見がいいほうだよな。

 ただ相手が相手なだけに苦労ばっかりしているけど。


「言っておくけど、苦労する相手にはあんたも入ってるからね」

「え!?」


 ラネットが明らかにこっちを見て分かったように言っている。

 こいつエスパーか!?


「ですが、キノサキさんのためだけにラネットさんがどこにもいけなくなるのは」

「大丈夫よ、クロチヨ。だって……」


 するとラネットが千代の耳元に顔を寄せて何かを言った。

 なぜそこでわざわざ耳元で言うのか?


「わかった。ラネットさん」


 しかも通じた! いったい何を言ったのか気になるところだけど、わざわざ耳元で話したことだから聞かない方がいいだろう。

 しかし、ラネットや夜が同行できなくなったのは予想外だが、一応まるくは収まったようだしあまりわがままは言えない。ここは素直に千代と二人で土精族ノームの里を回ることにするか。


 それにしても千代と二人きりか。実は結構久々なことだよな。

 特にこの町で問題事があるわけでもなさそうだし、たまには穏やかに過ごせるよう心掛けてみるか。



          2



 さて、ハクレイもクロチヨもあのあとルカスさんに案内されて、列車に向かったところだし。

 嘘はついてないけど、やっぱりこっちはこっちで大変そうだね


「残念だったわね。はしゃぎすぎるからこんなことになっちゃうのよ。ねえ分かってるの? ねえ」

「ヘェェェェェルメェェェェェェスッ! 心なしか隣の金髪娘が腹立たしく煽り属性に入りかかろうとしているぞぉぉぉぉぉ!!」

「ヒャッハー! 前々から思ったけどお前って若干S寄りな気がするんだが、どうなんだあ!?」

「ふふ、なにいってるのよ。だって白零君はいったい何様のつもりであたしのことを制限すると言うの? もう腹立ってもしょうがないからラネットちゃんや黒千代ちゃんとは違って特に可愛いげのないあなたならなに言ってもいいかな」

「ヒャッハー! 大変だキノサキ! もしも好感度システムが存在するならばいまキノサキは最下位だぞ!」

「嘘だろぉ! あの夜会話を得たなら次のチャプターには好感度が一つ追加されるはずだぞ!」

「だってあなたからあたしの一番嫌いな臭いがするんだもん。次なんてないわ」

「ヘェェェェェルメェェェェェェスッ! 改造人間サイボーグなのに体臭のことを言及されているぞ!?」

「ヒャッハー! どう聞いても根本的な部分で嫌われている気がするんだが!」

「…………」


 いくらかかるか知らないけどしばらくこの子達の面倒を見るのか……

 まったく、嫌と言うほど統率力が鍛えられそうなチームだわ。


「……ああ、そう……久々の…………だ」

「?」


 今、ルカスさんの声が聞こえたような気が

 もしかして、もうハクレイとクロチヨを送り届けたの?


「あら、やる気かな? クスクス、別に構わないけどもしかして勝てるとでも思っているの?」

「小娘、あまり甘く見るんじゃないよ。超人ならまだしもただの人間に博士の作ってくれたこの義体が負けることがない!」

「あたしが負けたら、白零君と黒千代ちゃんは確実に敵に回る」

「な、なに!」

「ヒャッハー! これは心理戦だ! 言葉に惑わされるんじゃない!」


 後ろでなにか騒いでいるけど、そんなこと気にかけている余裕はない。

 私は言葉の内容も含めルカスさんのことが気になり、先程聞こえた声をたよりに部屋を出ていった。

 すると、意外と近くに玄関近くの部屋の中から声が聞こえた。

 扉が少しだけ開いており、隙間からルカスさんの姿が見える。


「現在向こうに人間が二人向かっているところだ。丁重にもてなすのだ」


 ルカスさんが耳に何か紐が延びたようなものを当てて、なにかしら機械みたいなものに向かって話しかけている。

 もしかしてて風精族わたしたちの風聞石のように遠くの者と話ができるものかしら。

 だとしたらほんと土精族ノームの技術力って信じられないようなものばかりね。答えられる範囲で私からいろいろと質問してみようか。


「ああそれと、その人間のことだが気を付けてもらわねばならないことがある」


 ……ん? なに?

 人間って、もしかしてハクレイとクロチヨのこと?

 ……まだ二人のことを疑っているというの? だとしてもまさか早まったことはしないはずよね……


「長いこと我々を悩ませている指定危険種のことだが……」


 指定危険種!?

 確かそれって里に甚大な被害を及ぼす可能性のある怪物や災害のことじゃない!

 そんな大事な話、どうしてハクレイやクロチヨに話さなかったのよ……


「その指定危険種に似た面影と、同じ格好をした人間が混ざっている」

「…………!」


 ……え?

 どうして指定危険種と二人が結びつくのよ。


「まだその人間の素性については知らない。ただの偶然の可能性もあるから、気にとどめる範囲で接してくれ」

「…………?」


 それって、ハクレイのこと? それともクロチヨのこと?

 よくわからないけど、危険視されていると言うこと?

 いったい、どういうこと……?

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