漆弐話 油断したらすぐにこれだよ……
確かラネットはこう言ってたな。
土精族の技術力は相当らしく、火蛇族が安易に攻められないのも、その技術力あってゆえのものらしい。
土精族さん。技術力が発達ってどれくらいのものかと思ったのだが……
境界線付近からラネットの風方角を頼りに進んでいると、意外なものが目に入った。
周囲と比べて比較的なだらかな地形に、地下へと続くような大きいトンネルがある。
ここまではまだいい。ここからだ。
そのトンネルの地面から俺達が来たのとは逆方向に見渡す限りの鋼鉄のレールが見える。
地下へと続いていくトンネルの大きさから、トロッコなんてものよりも遥かに大きい。
とどめに、
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
「!?」
「わぁ…………」
「へぇ」
とてつもなく巨大な鋼鉄の乗り物が、レールの上を走ってトンネルの中へと吸い込まれるように入っていった。
俺達が来たのとは反対の方向から来たそれは、いくつもの連なるように取り付けられた車輪を回し、一定のリズムのような音を出していた。
さらにその乗り物は一つではなく、いくつかの車両に分けられており、それらを縦一列に連結している。
つまり俺の知識が正しいならば、それは間違いなく……
「列車じゃないか……」
「列車ですね」
「列車だわ」
「列車だぜェェェェェェェェェェェェェェッ!!」
「ヒャッハー! 列車だな!」
「え、あなた達これを見たことがあるの?」
逆に人間界の事情をあまり知らないラネットには、俺達が列車を知っていることにかえって意外そうだ。
いや、そんなことはどうでもいい。
「ラネット。あの穴がもしかして……」
「ええ、土精族の里に通じる地下世界の入り口よ。今は列車が通るときだから開いているけど、外的などの緊急時とかには自在に閉じたり埋めたりすることが出来るらしいのよ」
それ、逆に生き埋めになって危険じゃないかとも思えるが、土精族って言うからにはいろいろと何かあるんだろう。
火蛇族といい、こっちの考えを上回るようなことばかりあったんだしな。
「あそこの穴から入って行ったから、みんなあの穴に入って行くよ。さっきの列車は余所からの物資を運んでいるから、途中で閉じていることはないわ」
「ちょっと待て。線路の上を歩いて行って大丈夫なのか? 行きなり向こうから列車が来たら大変なことになるぞ」
「大丈夫よ。ほら、トンネルの内部のレールの横に、歩行用のスペースがあるでしょ?」
ラネットに言われて、トンネルに近づいて内部の様子を見ると、確かに柵を設けられた横幅二人分の狭い歩行用の通路がある。
まあ確かに考えてみれば、トンネルの途中で列車が止まったときとかに、歩けるスペースぐらいは必要だ。
「それと、通路があるからといって横が狭いから、ふざけたりとかして線路に落ちないようにしてよ。特にキノサキ」
「えぇ!? なんだよラッちゃん。いくらこんな走りがいのある線路の横で歩くからといって、そこまで厳重に注意しなくても大丈夫だし」
「ヒャッハー! そうだぜ、キノサキだってそう言ってんだからさぁ!!」
「あんたたちが一番心配なのよ……」
なんかもう途中から遠足にいく子どもたちを注意する先生みたいだな。
まあ真面目でしっかりしている反面、心配事は放っておけないだろう。
「じゃあ先に行っておくぞ」
こんなところでグダグダしても始まらないし、俺は一番にトンネル横の通路に向かおうと、
「じゃああたしは白零君の隣ね!」
「え、うぉ!?」
夜!?
いきなり夜が俺の横側に回り込んで腕に抱きついてきた!
「夜! と、唐突に抱きつくんじゃなぁ!? か、関節を極めるな……昼江っ!」
こいつ、本当に何がしたいんだよっ!
「ちょ、ヒルエ! 言ったそばからハクレイに抱きつかない! 困ってるでしょうが!」
「ラネット……これが抱き着いているだけに見えるか……?」
「ええ? あたしはただ白零君の隣で歩きたいだけって要望を言っだけよ。ねぇ、白零君」
「いや、要望を言うのはいいけど別に抱きつく必要は無いだろ……!」
「そうよ、早く離れなさい! それと先頭は感知が必要な私が行くから」
ラネットが怒るように注意をしたあと、腕にとりついた夜を払い除け……
「ちょっと待ってラネットちゃん。いま、あたしを払い除ける必要があった?」
「あんたがふざけているからでしょうが。ほら、ハクレイ。さっさといくよ」
夜を払い除けたあとに、俺の手をとってトンネルへと一緒に向か……
ん? ちょっと待てラネット。俺の手を取る必要ある?
「あら~、ラネットちゃんったら、あたしには抱きつくのはダメって言ったくせに、手を繋ぐのはいいって言うの?」
「え?」
夜も同じことを思ったのか、避難と言うかまるでからかうような口調で言うと、ラネットが視線を手元に寄越し、
「~~~~~~~~~!?」
今さら気づいたかのように顔を赤くして驚いている。
無意識にやったのかよ!
「もぉ、ラネットちゃんったら本当はあたしが羨ましく思ったんでしょ? だったら難しいこと言わないで素直にそういえばいいじゃない」
「ち、違うわよ! これはたまたまハクレイの手が近くにあったから、コップの飲み物を取るようについ手がのびて……」
いや、その言い訳は苦しすぎるだろ。俺の手はコップ扱いかよ。
そうツッコミたかったが、言ったらなにかまずいような気がした。
「クスクス、いいのよ。さっきのことはもう怒ってないからさ、それよりも白零君の隣がいいって言うなら素直に譲ってあげるよ」
「なに言ってるの! そんなこと一言も言わないから!」
「じゃああたしが白零君の腕に抱きついたり、背負われたりしても構わないわよね」
「どうして怪我もしていないのにハクレイに背負われるのよ!」
「…………」
まずい。
なにがどうまずいかと言われると言いにくいけどとにかくまずい! 俺が余計なことをしたら起爆するほどに!
事態がより面倒な方向へ進んでいる! さっきまでキノサキが余計なことをしていないかなんて心配が些細なことになってしまっている!
「キノサキさん、駄目ですよ。ラネットさんが見ていないからって、線路の方へヘルメスさんを走らせたら……」
「止めないでくれクロチー! 線路走りなんてまだ人生で一回しか味わってないんだ! だからもう一回だけヘルメスを線路の上で走らせてくれ!」
「ヒャッハー! さすがに新幹線に乗った標的始末するのに苦労したぜ」
とかおもったら結局こっちも心配事が起きているよ!
というかバイク、その発言は倫理的守秘義務的にどうかと思うぞ!
「キノサキ! これ以上面倒事増やすつもりなら無理矢理にでも止めるぞ!」
「白髪ねぎ! ちぇ、さすがにこれ以上無理は通れない」
俺が来ると、意外と素直にキノサキはヘルメスから降りて、
「じゃあ真っ先にこちらが行ってくるぜ!」
「ヒャッハー!」
かとおもいきや、キノサキは降りた横でヘルメスを押しながら、トンネルの横の通路へ走っていきやがった。
こいつ、あんな重量のあるバイク押しながらなのに、走るの速すぎないか!?
さすがにここで見失ったらまずい!
「千代。こっちも早く行くぞ!」
俺は千代の手を掴んで走り出そうとするが、
「あっ!」
すると、驚いたように声を挙げてしまい、足を止めてしまった。
いかん、いくら慌てていたとはいえいきなり手を引っ張るのはないな。
「ごめん、急だったから痛かったか」
「……ううん、大丈夫だよ。早くいこう」
「よし」
ふと千代の顔を見たが、こんな時なのになにが可笑しいのか少しだけ笑んでいるように見えた。
俺はあまり深く考えずに千代の手を引き、急いでキノサキが入っていったトンネルの方へと向かっていった。
2
「白零君。勝手にあたし達前からいなくなるなんて、どういう神経をしているの?」
「まったくもう、結局手間かけさせたじゃない。一言ぐらい言いなさいよ」
「……悪かった」
トンネルに入ってあまり進んでいない所でキノサキ達を捕まえたのはよかった。
しかし、いかんせんキノサキのことに気をとられていたせいで、ラネットと夜のことをすっかり忘れて……
……いや、どちらかと言うと逃避のような気もしたが、
「ラネットさん、零ちゃんはキノサキさんを止めようとしただけですから、あまり怒らないでください」
「そうだよラッちゃん。怒ると折角のフェアリーフェイスも台無しだぜ」
「ヒャッハー! 健康も美貌も台無しだぜ!」
「そうね。クロチヨのいう事に一理あるけど、あんたらには言われたくないわよ!」
「ラネット。とにかく落ち着け。それとキノサキは、ちゃんと反省しろ」
まったく……こんな調子だと気が全く休まらない。
そんなこともありしばらく何も言えないまま、ただ黙々とトンネルの中を黙って進んでいく。
すると、ほんの少し曲がった道を進んでいくと強い光の差し込んだ出口らしきものが見える。
「あれが……」
「かもしれないわ。行くよ」
俺達は揃って通路の出口に差す光に向かい、一直線に向かう。
そして……
「!?」
「わぁ……」
「へぇ……」
「おいおい……」
俺達ほぼ全員、地下へのトンネルを抜けた先の光景に息をのんだ。
地下空間だという事実を認識から薄めてしまうほどの迫力。
等間隔に壁などの土に埋め込まれた一際光る石が、日の光のように明るく広く、地下全体を照らしており、暗さなど微塵にも感じられない。
高いところから広大な街を見下ろしているかのように、どこまでも広く空間が広がっており、限界までの壁が遠すぎて遠近感が狂ってしまいそうだ。
さらに、空間を囲う土にはトンネルの壁のような荒々しさとはない。遠目で見ると、どれもこれもまるで研磨でもしたかのように滑らかで緩やかで、なおかつ平たい壁と天井が空間を柔らかくしている。
そして、その広く明るく柔らかい空間の下側、つまりトンネルの出口の崖から見下ろすと、コンクリートとは違うような硬い物質で作られた建造物が、大小様々な形で乱雑そうに、なおかつ全体的に整えられたような感じに見えた。
「ラネットさん……ここが、土精族さんの里なのですか?」
「そうよ。私も隊長に話を聞いただけだけど、実際に見るのは初めてよ。こんなの初めて見たけど、まさかここまで……」
ラネットも、初めての他種族の里に興奮しているようだけど、俺は別の意味でも驚いている。
地下空間なのに建物の室内だと思わせるほどまったく地下空間を感じさせない。
それにトンネルを抜けたレールの先を見ると、レールが入っている建物が見える。あれって駅だよな。
しかも建物のほうも、所々壁や屋根に機械みたいなものが取り付けられている。
この世界、なんかファンタジーっぽいから科学技術とかそういうの乏しそうとか思っていたが……
想像以上にすごいもの作っているじゃないか。
「っと、風景に見惚れているのもいいけど、今の私たちは余所から来た者だから、まずは里の案内を……」
「ところでラネット。お前はとにかく俺達に至っては完全な人間だ。土精族は俺達をどう見ているか懸念に思うが……」
火蛇族に至っては出会い頭に不法侵入扱いされたしな。
「そうね……けど、水妖族だって風精族だって人間には寛容だし、むしろ火蛇族のようなのは稀な方よ」
「そうか」
確かに、里から離れたキャサレス村では、知らない存在故に警戒することはあっても、あからさまに敵意を向ける者はいなかった。
少なくとも話くらいは通じるものだと期待したい。
「けど、これだけの技術力があると刀は当然だが、お前の銃も何とかしてくれるかも……」
「零ちゃん!」
「ん? どうした千代?」
振り返るとなぜか千代が不安そうな顔をしてこちらをみている。
「え、どうしたのハクレ……あれ…………よく見たらキノサキたちがいないんだけど!?」
「は!?」
ラネットに言われてすぐに周囲を見回す。
本当だ! 辺り一帯を見回すが、あのはっきり目立つ格好の男とバイクが見えない!
「千代! あいつらがどこにいったのかわかるか!?」
「ううん。私も気づいたときにはキノサキさんがどこにもいなくて……」
千代が自分の迂闊さを責めるように弱々しくなっていく。
こいつも今さっき気づいたばっかりと言うことか。
すると、視界に入った夜が、やれやれとでも言うように大げさに頭を振りながら言ってくる。
「あーあ、白零君ったらやっと気づいたの?」
「おい夜! お前これいったいどういうこどおおおおおおおおおぉぉぉぉぉまてまてまて首はやめろってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「れ、零ちゃん!」
く、首はやめろ……!
「だから何度いったらわかるのかしら? 白零君?」
「ちょっとやめなさいよヒルエ!」
「ひ、るえ……はな、せ…………」
お前……なんだか最近キレキャラっぽくなってないか?
だめだよそういう変更は大概受け入れてもらえないようなものなんだから……
「ゲホッ……で、やっと気づいたってどういうことだ」
「そのままの意味よ。白零君とラネットちゃんと黒千代ちゃんが街に見惚れている間にあの機械、バイクを押して走っていったよ」
「は!? あいつこんなときになぜ単独行動するんだよ!」
あいつ! 少し大人しくしていると思った矢先にこれかよ!
いくらなんでも自由すぎるだろ! と言うかそれ以前に気づけよ俺!
「昼江! お前なんですぐに俺達に教えないんだよ」
「えー、自分の不手際を棚にあげてそんなこと言うの? そんなの決まってるじゃない」
いかにも面白そうだったからみたいなニヤニヤした笑顔を向けてきやがる。
くっ……確かに、キノサキたちから目を離したのは俺のミスだ。警戒するとかなんとか考えておきながら自分が情けない!
「ハクレイ! とにかく事が起きた以上早く探しにいくわよ!」
「ああそうだな! じゃあラネット! お前は空を飛んで上から探してくれないか」
「分かったわ、上ね」
「あとの三人はそれぞれ手分けして捜す。なにか伝えたいことがあったらラネットを中継にしてくれ!」
「うん、わかった」
「ええー、あたしもやるの?」
「お前もだ。お前は黙って見てただろうが」
「はーい」
やる気の無さそうな返事をする夜にこれ以上なにか追求することなく、俺達はそれぞれ分かれてキノサキを捜すことになった。
まったく、ただでさえ知らない場所だってのに……!
3
白零たちがキノサキとヘルメスの消失に気づいた頃。
当の本人は、そんな気持ちも知らないまま、呑気にヘルメスを町中で派手な音がでない程度に静かに走らせていた。
「イェア! ビクトリイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィィィィ!!」
「ヒャッハー! 用心棒二人とその他の目を掻い潜って単独行動に成功したキノサキ・ユンケル!」
「なんか約一名見て見ぬふりをしていたけどこれって結果オーライだよね!!」
周囲の目も気にすることなく叫び続けるキノサキたちだが、当然周りの土精族たちは明らかに不審な目でキノサキたちを見ている。
そしてやはり、そんなことにもお構いなしに叫び続ける。
「白髪ねぎの事だからこちらがいつも叫んでわめいて動くばかりだと思ったら大間違いだぜ!」
「ヒャッハー! クロチーが少し懸念であったが、ほんのすこしだけ視線を町に集中したのは助かったぜ!」
「まったくもう、浮かれすぎちゃってオマヌケさん」
「ヒャッハー! キノサキに言われたらおしまいだな!」
と、相変わらず言いたい放題に喋りながら緩やかに走っていくキノサキたちであったが、
「動くな! 怪しいやつめ!!」
「ん!?」
「ヒャッハー!?」
街角から唐突に現れた人影に、キノサキは轢くか止めるか考えた結果ヘルメスを止めることにした。
その様子から反射的に止められたものだと思い、周囲からどんどん人影が集まっていく。
「おや~、もうちょっと観光してから見てみたかったのになあ」
「ヒャッハー! あっという間だったな!」
賑やかにしているのもつかの間、キノサキ達はあっという間に取り囲まれることになってしまった。
容姿から言動まで明らかに周囲から浮いているキノサキたちを囲い、戸惑うように言葉が飛び交う。
「こいつ……火蛇族ではない。風精族に見えるが、背中に特徴的な羽がない!」
「人間だ! この世界にはいない人間が里にやって来た!」
「しかも見るからに怪しい! 怪しさが服を着て歩いているようだ!」
「そりゃあ服を着ないと余計に怪しくなるからね」
(ヒャッハー! 揚げ足をとっている場合じゃないよ!)
キノサキは周囲を取り囲まれつつも、取り囲んでいる者たちの姿を観察する。
この里に来て初めての、第一どころではない住人たちだ。
(じ~~~~~~~~~)
「な、なんだね!」
相手に失礼だろうと知ったことではない。
体格から、肌の色から、服装から、何から何まで隅々と観察する。
そしてふと、キノサキの口からポツリと言葉を漏らす。
「ふむふむ、もしかしたらこれが土精族という一族か。またもなかなか特徴的な姿がしているねえ」
「…………!?」
観察の結果キノサキ達が土精族に抱いた第一印象は、体が小さいことだった。
平均よりも若干大きいサイズのヘルメスとたいして変わらないくらいの身長だ。誰もがヘルメスに乗っても、地面が足に届きはしないだろう。
取り囲んでいる者は全員共通して体全体を引き締めるような黒いスーツに身を包んでいる。あとの者はマチマチだ。
また、遠巻きに見ている一般人を含めて顔を見ると、男性らしきものは皆髭やもみ上げなどの毛がとても深く、女性らしきものもとても重量のある長い髪がよく目立つ。
それでいて体が全体的に丸っこく、なおかつ肥満体を感じさせない体格が、短身ながらも完成させた肉体であることを印象づけた。
「土精族と聞いて、動物に似たなにかを想像したが、どちらかというと小人に近い感じだな」
「お、おい! しゃべっていいとは言ってないぞ!」
取り囲む土精族達の中で比較的若い声が、怯えを抑え込んだように大声を出した。
それと同時に、両手で支えている武器をほんのすこしだけキノサキに突き付ける。
(小さい体躯ながらも力は結構ありそうだな)
(ヒャッハー。しかもこいつらの持っている武器……)
(少なくともここにきて間違いはないよいだね)
キノサキ達はもうひとつ、土精族がキノサキに止まるように突きつけている武器について気になっている。
小柄な体を上回るほどの大きさの小銃とその先端に取り付けられたナイフ。
キノサキの世界では銃剣と呼ばれる代物が土精族の手元にあり、キノサキ達の期待をよりいっそう膨らませる。
キノサキ達は声を出さずにそのまま黙って周囲一帯を見渡す。
土精族の者達はよりいっそう警戒を強め、取り囲んでいる者たちの中から一際位の高そうな格好の男が前に出る。
「君、見るからに人間でありそうだが、いったいどのような目的で……」
男は恐る恐るキノサキの正体や用件を確かめるべく慎重に言葉を選んでいく。
しかし、キノサキの意識は半分以上目の前の男に向けられず、体内通信でヘルメスと意思を疎通していた。
(ヘェェェェェルメェェェェェス! 新しい人外だぜ人外! また博士の興味を引き付ける材料をゲットしてきたぜ!)
(ヒャッハー! その上、ラッちゃん曰く技術者の種族。まだ見たことがあるばかりの技術だが、こちらの想像を上回るなにかを出してくれないかなあ!)
(今はまだ、技術どころかファンタジーの一面も見えないし、この状況ピンチと呼ぶには早計だよねぇ)
「おい、聞いてるのか! 名前ぐらい名乗ったらどうだ」
目の前で怒鳴り声が挙がろうと、彼らは全く怯むことはない。
ただただ己の興味に基づき、効率的な方法を探る。
(だったら、無理にでも引き出しちゃう?)
(ヒャッハー! 血生臭いことは禁止だし、無理は禁物だろ?)
(もちろん! ここで危険なことをしたらクロチーに立つ顔はないぜ。しかしさあ……まだ、走れるんだろ?)
(ヒャッハー! ほんの少しなら余裕だぜ)
(ふふふ、人間……に限らず、生物というものは危機感と恐怖感が焦りを生み出し、その者の持ついろんなものを引き出していくからなあ)
(ヒャッハー! なら、決まりだぜ!)
「おい、さっきから黙ってどうした! こちらから聞いたことは別にしゃべっても構わないから……」
「ガンスロット=キノサキだぁ!」
「はぁ!?」
喋ってもいいと言われた途端、唐突に名乗り上げられたことに、一瞬だけ虚をつかれたように返事を出した。
その男の様子に関わらず、キノサキはヘルメスのハンドルを掴み直し、挑発的な言葉を土精族たちに投げかける。
「ヘェェェェェェェエエエエエエエエエルメエエエエエエエェェェェェェェェェスッッッ!!!」
「ヒャッハー! キノサキィィィィィ!! 全速力で逃げるぜ!」
「捕まえられるものなら捕まえてみろやぁ!!」
「な、なにを! うおぁ!?」
ヘルメスは唐突に加速し、驚いて反射的に道を開けてしまうと、すぐ近くにある民家の壁の方へと突進する。
数秒後、民家の壁に激突すると誰もが想像したが、キノサキたちは想像を上回る動きを土精族に見せつける。
「アィィィィィィィィィィィィッ!!」
「ヒャッハー! 壁面登りィィィィィ!」
キノサキがヘルメスの全論を持ち上げると、前輪が壁に接触した瞬間、重力を無視するように前輪が真上を向き、後輪がギリギリ壁の方に接触した。
その瞬間を狙い、後輪近くににある噴射口から炎が迸り、ヘルメスの機体を浮き上がらせた。
そして、新しい地面に吸い付くように建物の壁を走り上がるヘルメスは、そのまま屋根を伝って他の建物へと跳んでいった。
「に、逃げた!? あんな乗り物、精霊石でも積んでいるのか!」
「そんなことを言ってる場合か! 追え! 追うんだ!」
一目見て尋常じゃない相手だと理解した瞬間、そのま放置しておくわけにもいかず、土精族はいくつかのグループに別れてキノサキたちを追いかけていった。




