陸肆話 銃器凶器は正しい使い方をしましょう。
「あの、すいません。朝のようですので起きてくださいませんか?」
「ん……んん…………」
強烈な眠気と微睡みを引いて、眩しい光が僕の目に入ってくる。
……朝だ。
しかし、今俺を呼んでいるのだ誰だ? 近くに誰かいる気配がいる。
俺の家には俺と親父しかいない。こんな可愛らしいような少女の声が聞こえるなんてことがあるなんて……
ふとそう疑問に思いながら目を開けると……
「…………!?」
驚いた。驚きすぎて声が出てこない。
だって俺の目の前で、襦袢姿の少女が不思議そうに俺の顔をじっと見つめながら、拳銃を俺の額に向けて構えているんだもん。
寝起きからもう不意打ちなんだけど…………なにこれ。
「……おはようございます?」
……そうだ、思い出した。
そう言えば連れて帰ったんだ。この人。
でもこんな強烈な形で思い出させられたのは初めてだ。しかも向こうはなぜか疑問形で言ってるし。
「……おはよう。それとなんで拳銃を俺に向ける」
「お母様が言ってました。『もしも身に覚えがない上で隣に男が眠っていましたら、とりあえず銃を向けてなさい』と」
「そうか。だったらまず昨夜の事を思いだせ。銃を向けるのはそれからだ」
変に取り乱したらはずみに撃たれそうだから、とにかく落ち着いて冷静に対処しないといけない。
向こうは落ち着いてるんだ。落ち着いてるのに銃を構えるって神経がちょっとあれだけど……
「うんと………………」
三咲さんが銃を構えたまま首を傾げている。
冗談でも銃口を向けられると硬直するしかないんだが……
「…………」
「…………」
「…………」
「…………そうでした。たしかあなたについて行ってこの部屋にお泊りしていました」
「思い出したか。思い出したらその銃をしまってくれ」
「はい」
思い出してくれた三咲さんは拳銃から指を離し、下へと降ろしてくれたことで内心ほっとして胸を撫で下ろす。
そして三咲さんは銃器を袖から襦袢の中に……
「……なぜ襦袢の中にしまうんだよ。あぶないだろ」
「お母様が『自分の身を護る武器は肌身離さず持ちなさい』とおっしゃってましたので」
「文字通り肌身離さずじゃないか」
確か襦袢って寝間着のようなものだから下って裸だよな?
いったいどうやって銃器を収めているのかすごく気になる。
「お前その服の下に銃仕込んでるの、さっきの一丁だけか?」
「え? いえ、違いますよ。確か……」
「おい、服をはだけるな!」
いきなり襦袢のあわせを開いて中を見ようとする三咲さんを、俺は止めに入る。
「お前……男に対して警戒したり変に無防備になったり一体どうなってるんだ」
「?」
ため息をつきながら呆れていると、ふと昨夜の時とは違って襦袢姿の三咲さんが目についてしまう。
凝視すれば下手をすると透けて見える薄い布地と、無防備に緩んでいる胸元や足元。おかげで白い肌が大胆に見えかかっている。
この状況で決してドキドキしないわけがない。しかし朝から拳銃を突きつけられているせいで違う意味でドキドキした。本当にどうなっているんだこの娘?
いや、今はあんまり深く考えなくていいや。今日は土曜だし、青江さんのところに行こうか……
だとすると着替えていかなければならないが……
「白零、起きているのかい? なにか聞こえたような気がするが……」
「!?」
「?」
すると引き戸の向こうから親父のくぐもった声が聞こえてくる。
いかん。今親父に三咲さんの姿を見せるわけにはいかない。確実に面倒くさいことになる。
しかたがない!
「おい、隠れろ!」
「え?」
とりあえず俺は三咲さんの手を引いて布団が入っていた押し入れに入れようとするが……
「え、あっ!」
「え゛え゛っ!?」
手を引いた勢いで俺が床に転がされ、さらに足裏で首を抑えるように踏まれた上に銃を構えてきた!
おい……こんな時に変な合気道発揮するな! しかも襦袢姿で俺の首に足を乗せるな! み……見えてしまうって!?
と言うかこいつ、見た目はお淑やかなのに防衛力が半端ない!
「が、く……れろ…………ここ、に!」
「え? わ、わかりました」
不意に俺を転ばせたことに戸惑っていたが、俺の指示には素直に従ってくれた。
本当に意味わからん。
「白零?」
「ああ、なんでもないぞ親父! 俺は至って普通だ」
幸い親父は部屋に入ってこない。声も十分聞こえているわけじゃないからまだごまかしがきく。
俺は大声を出して戸の向こうにいる親父に問題がないことを伝える。
だが、親父の声は全く晴れる様子がない。
「白零、昨日もまた夜遅くから外へ出ていただろ?」
「…………」
ばれていらっしゃる。
……もっとも、これは一度目ではない。
昼江の夢……毎晩俺が悩ましいことを抱えていることと同じように、親父も俺に対して辛い思いをしている。
だから……戸の向こうでも親父が辛そうに俯いているのが透けて見える。
「あまり……心配させないでくれ。辛いことは全部聞くから、父さんに頼っていいんだよ」
「…………」
あの日以来、親父は俺にあまり深入りすることがなくなった。
親父が涙を流しながら説教をしたあの時、親父自身にもなにかしらの後悔と言うか、後ろめたいことと言うか、親父のわからない俺に対してどうすればいいのか戸惑っているように思えた。
夜回りは良くないと思う。しかし、俺がそうしないといけないことを知っているために無理に止めることができない。だから必要以上に踏み込んだりしないか、勇み足になってしまう。
「……今日もあの場所に行くのかい」
「そうだ」
「……父さんにできることはないか」
「悪いけど、親父にできることはない」
「……そうか」
そう言うと親父は足音を鳴らして、戸から離れて階段を降りていった。
俺が拒絶をすれば親父はこれ以上入り込もうとしない。それが俺にとってありがたいことなのかダメなことなのか……親父以上に俺がわからない。
どうにかしたいのにどうにもできない。
「お父様と仲が悪いのですか?」
「……たぶん、違うと思う」
いつの間にか三咲さんが押し入れから出てきているけど、もう親父は下に降りているから問題ない。
親父とはその……仲がいいとかそう言う訳じゃない。俺も親父も今のままでいいわけじゃないんだ。
たぶん、わからないんだと思う。
俺も、たぶん親父も仲良くと言うか、前のように何事もなく話し合えるようになりたいんだと、そう願っているんだ。
少なくとも今の、相手の距離感を図り切れずに戸惑い、つい本心とは違う事を言ってしまうようなことにはなってほしくないんだと思う。
「どうにかしてほしいと願っているんだけど、それは自分でどうにかしろと、そう思われないとなかなか動けなくて……」
「…………」
「?」
しかし相槌も返事もしない。
三咲さんの様子を見ると、なぜか顔を下に向けて何かに堪えているのだが……ん?
「おい、なんか小刻みに震えてないか? 具合でも悪いのか?」
「いえ、実は……」
三咲さんが俺に顔を向ける。その表情はやはり何か深刻そうに歪める。
遠慮してはいけないと感じとったのか、三咲さんはその理由を正直に話す。
「お手洗いはどちらでしょうか? それともまだお父様に見つかっては言えないのでしょうかと……」
「…………おい」
結構深刻な事だった。
「早く言え! 口よりも案内するからついてこい!」
「あ、はい」
まったく、こんな状況じゃどうすればいいのかわからないのも無理はないが、手がかかる。
けど……親父から見れば俺も手のかかる人間なのだろうか……
2
親父が家を出ていった頃を見測り、俺と三咲さんはやや遅めの朝食を取る。
で、特に何もなく淡々と準備を揃えて俺と三咲さんは外へと出た。
「あの、いったいどちらへ向かうのですか?」
「昨日俺が言ってたビルの所だ」
実家からさほど遠くない。電車でほんの二駅ほどだ。
俺と三咲さんは階段を昇り少ない人とすれ違いながら券売機へ向かう。
「これは…………?」
なぜか三咲さんは切符販売機を興味深げに見つめるのを背後に、目的地の駅への切符を俺と三咲さんの分の二人分買う。
俺が切符を手渡すと、これをどう使うのかと切符をまじまじと見つめる。
こいつってもしかして……
「ええと……」
「なんだ。電車は乗ったことないのか?」
「はい。知識としては知っているのですが『千代、電車には乗ってはならない。見も知らぬ他人と手が届くほど接近するほど狭い。卑劣な男に物を盗られ体を触らえれるぞ』と、実際に乗ったことはないので……」
「……そうか」
その母親、男性限定の人間不信なのだろうか。
まあ、痴漢もスリも珍しくはないから用心するのは当たり前だけど、極端すぎないか?
「改札の通り方は知ってるよな」
「はい。それは一応わかります。他の人が通るのを見たことがありますから」
「そうか、なら安心した」
一応か。まあ、「なんだこれは」なんてベタなことがなくて安心した。
「じゃあ行くぞ。どの電車に乗るかは俺についてこい」
「……あ、はい。お願いします」
「…………?」
ホーム内に入ると三咲さんが案内板や周囲を興味深げにキョロキョロ見渡しては、妙にそわそわしている。
もしかして、
「電車に乗るのは楽しみか?」
「え? えっと……そうですね。電車に乗るのが初めてですので少し楽しみです」
ただ電車に乗るだけなのに、変わった子だ。
いや、母親がいろいろと娘に行動を制限したことが、こんなふうに反動となっているのか。
そう思うとこいつがいったい今までどう生きていたのか、想像できないことだ。
「あんまりはしゃぎすぎるなよ」
乗り違えは当然、はぐれたりしないよう俺がしっかり見ないとな。
ま、こんな目立つ和服姿見逃すことはそんなにないし、そうそう問題も起きないか。
3
「お前……一歩間違えれば警察に捕まる所だったぞ」
「なぜでしょうか、私は何か悪いことをしていたのでしょうか」
「ああ、普通拳銃持っている時点で十分悪い」
目的地の駅へ無事降りられたは良いものの、危うく俺達は警察のやっかいになるかもしれなかった。
それなのに危ないことをした当の本人は納得がいかない顔だ。
「ですけど、あの男の人はひどい事をしました。やめようとすることは間違っていません」
「いや、お前の心情的には悪いことじゃないんだ。ただ手段が悪いだけで……」
痴漢に遭った。
俺や千代じゃない。たまたま近くで立っている女性と女性に触る男の姿が目に入ったのだ。
嫌そうに顔を俯かせて唇をかむ女性の姿を見た三咲さんは、女性を触る男の方へと近づいた。
横で見た俺は度胸があるなと感心し、三咲さんに任せようと思ったし、口で注意して行くものだと思った。そう思ったんだが……
「なんでそこで拳銃を出そうとするんだよ。いや、そこじゃなくても拳銃を出すなって」
「ですがお母様が『千代、男は許されざる存在。中でも痴漢と強姦魔は悪逆無道のごとき存在よ。そういう存在は股間を撃ち抜きなさい』と……」
「怖っ!? というかお前殺人でもする気だったのか!?」
い、いや……拳銃ならどこを撃っても死にかねないから危ないことには変わりないが……
そんなことより自分の娘になんてことを教えるんだその母親!?
「俺が止めに入らなければ電車内はパニックだったぞ」
「……これってそんなに危ない物なのでしょうか」
「危ない物だ! お前はもう少し危険物を取り扱っている自覚を持て!」
で、袖の中から拳銃を取り出そうとする三咲さんの腕を俺は慌てて押さえ、俺がはっきりと口で痴漢に注意した。
痴漢は駅員に突き出され、女性は俺たちに感謝したが……まったく生きた心地がしないせいで素直に喜べなかったし。
「いいか、嫌なことをする男は大声で注意するだけでいいんだ。大事なことは大人に任せて無茶はするな」
「え? いえ、私あの距離なら問題なく当てられましたけど?」
「射撃の命中率じゃねえよ!」
まったく……こいつはいったいどういう環境で育ったんだ。
このズレた人は放っておくわけにはいかん。どうにかしないと……
と、しばらく話し合いながら歩いて行くうちに目的地にたどり着いた。
「さて、目的地に着いたぞ。ここだ」
「ここは……」
俺が視線を向けたのは、車道と歩道の前に立ちはだかる堂々とした立派なビルだ。
一回が喫茶店、二階が占い屋、そして三階が俺達の目的地となる場所。
「『青江用心棒派遣事務所』。俺が働く予定の事務所だ」
「事務所…………ですけど、用心棒ですか?」
「時代錯誤って思えるか? まあ、現代で用心棒って聞くのは珍しいところだからな」
けど、小さい事務所ではあるが入ってくる仕事は多い。
どういう内容かはまだ外部者の俺には詳しくわからない。メンバーの構成とか仕事の様子など簡単な様子ぐらいだ。
ただ、その事務所にある書物は参考になる。
「口で説明するよりも実際に仕事の様子を見た方が話が早い。行くぞ」
「はい」
俺は三咲さんについてくるように言い、ビルの階段を昇って行く。
結構急な階段であり、足元を踏み外さないかといつもそう思ってしまう。
階段を昇ったところで、同じ事務所名の書かれたドアが目に入ってきた。
「あいさつはしっかりしてくれよ。無愛想なのはいろいろと悪印象だからな」
「はい」
「それとこの中では……いや、この中では限らないか。とにかく拳銃を出すんじゃないぞ」
「はい、気をつけます」
…………大丈夫だろうか。
ドアをノックし、返事がしたところでノブを回して入る。
中に入ると、テーブル、ソファ、作業机、さらに奥への室内へ続く扉と次々室内の様子が目に入る。
そして、所長用の机と椅子に座っている人物に、僕はいつもの挨拶をする。
「おはようございます、青江さん」
「白零か。おはよう。毎週いつも熱心にここに来るな」
「はい、今日も用心棒たるものを学ぶためです」
「ふん、ここに来ても何も面白い物はない。早いところ心変わりした方がおすすめじゃ」
相変わらず青江さんは手厳しい。
毎週ここに来る俺に待ち構えるのは、挨拶と辛辣な突き放しだ。
青江さんは俺が用心棒になることを望んでいない。実力的な意味ではなく、まだ俺のような若造がこんな危険な職に就くことが許せないようだ。
もっとも、初めはただ門前払いするしかなかったのだが、長いこと懸命に頼み続けた結果、仕事の邪魔をしないことを条件にこの事務所に置かせてくれた。
また、四階の住居ビルも必要なら空けてくれるとのこと。今は金銭的なことがあり仮に泊まっている程度だが、将来的にはここに住もうかと考えている。
さて、余談はさておき、この事務所には他にもメンバーがいる。
一人は青江さんの相棒で。デスクワークとして身を引いた青江さんの右腕である大陽道春房さん。
そして……
「おはよ! ダッ、ピョーン! レーにゃん。今日も律儀に来てくれたねえ! 僕は嬉しいぞ!」
「……おはようございます。不破先輩」
そして俺に抱き着いてきたのは、俺の二つ上であり、この事務所のメンバーである先輩。
この人の名前は不破雷道。明らかに偽名っぽい名前だが、本人は秘密とのこと。男性、職業は立派な用心棒。若くして青江さんからいろいろと仕事を任されている。
しかし、動物耳のパーカーとジーンズも履いており、すっごくチャラチャラしている。チャラチャラしている上に軽い。しかも口調と合わせて動物耳を合わせているため、今日はうさ耳だ。
見た目に反していろいろと侮れない。侮れない云々以前にやっぱり威厳が感じられない。
「あの、この人たちが用心棒……ですか?」
「んん?」
後ろの事務所のドアから三咲さんが顔を出してきた。
あ、あんまり長いこと放置しちゃいかんな。
「あ、紹介します」
俺は半歩横へずらして三咲さんの姿をはっきり見せ、三咲さんに挨拶するようアイコンタクトを送る。
三咲さんはそれを受け取り、理解した。
「三咲さん。この人がこの事務所の青江堅一郎さんと、メンバーの不破雷道さん。で、この子は俺の知り合いの三咲黒千代さんです」
「ほう、白零の知り合いか。わしは青江堅一郎と申します」
「初めまして。三咲黒千代と申します」
「おー! 可愛い子じゃないか!」
三咲さんがあいさつをすると、先輩の不破さんが元気そうに三咲さんに近寄って話しかけてきた。
そう言えば、この事務所男しかいないのかって、愚痴をこぼしていたな。不破さんって軟派だし。
ここは不破さんに任せて、と
「白零。これはどういう事じゃ?」
三咲さんが不破さんの方へ興味を向けている間、所長が小声で訊いてきた。
言葉の上では平静でも視線では少しだけ威圧感が感じられる。
そうだよね。ここは仕事場だからあんまりそう言うのは連れてきちゃいけないことだって
「所長。実は俺、夜回りをしていたときに偶然見つけたんですけど……」
そこで俺は所長に、三咲きさんとあった時のことについて話した。
俺が夜に町を回っていたときに逢ったこと、家や資産はあるものの孤独に耐えず外へ出て行ったこと、つまり三咲さんが今はたった一人でしか生きてはいないということを表していた。
「つまりこの娘を事務所の上の居住区へ住まわせてくれないかと?」
「本人曰く資産に問題はないが、一緒に暮らせる人はいない。それが原因でひとりで夜の町に出たんです。どうにかできませんか」
つまりは寂しくないように、近くの人と交流を持ちやすいこのビルの上の階で住まないかという事だ。
もっともいきなり生活環境を変えるのは無理があるから長期的に見るし、俺は時々実家に住みつつもこのビルに通っている上、いざというときは青江さんもいるから頼りになる。
三咲さんの知り合い、つまりは地縁が少しでも増やせるようにしていこうかと思うんだが……
「わざわざここに頼らずとも、施設に入れるという考えもある。それでも三咲さんという娘をここに住まわせる理由はあるのか?」
「それは……」
確かに所長の言うことにも一理ある。将来につい考えるならば、ただ住むところとなるここよりはきちんとしたところへ行った方がいいだろう。
しかし……まだ所長に報告してない部分がある。
『お母様がおっしゃってました』
『男は醜く汚く、決して許されない存在だと』
『だから男から身を守るためにお母様から託されました』
どう考えてもおかしい銃火器所持。
正直言っていいかどうか悩ましい話だし、それこそ別のところのプロに任せた方がいいかも知れない。
しかし……そうなると彼女はなにかしらの……えっと……なんというか…………
「三咲さん、人付き合いがその極端に苦手でして……いえ、苦手と言うより無自覚にとんでもないことがありまして……」
「……つまり、白零にとってそれはダメという事じゃな」
「はい、そういうことです」
「まあいい。今はその理由について追及するのは後にして、じゃ」
オホン、と咳払いを一つして、別の問題点を浮上する。
「しかし、住居のほうはお前の方を入れてもまだ空いている方じゃが、無料と言う訳にはいかない。君が言うように三咲さんの資産とやらがあれば問題ないかもしれないことじゃが……そもそももそれ以前に学校とかはどうするのじゃ……」
「所長、そのことなのですが……」
所長の言っていることは正しいが、俺もちゃんと考えを纏めている。
俺は所長にある考えを述べようと……
「やめてください」
「うわっとぉ! なーに!?」
!? 今の声はまさか……!
また出したのか!?
「不破。フレンドリーなのもいいが初対面の人間にあまり馴れ馴れしくは……」
まずい。所長が振り向いてしまう!
その前に俺は所長の横を通って、所長に見せないよう前に立つ。
「おい白零、なにをする! 見えないじゃろうが!」
「あ…………」
しかし、想像していたのとは少し違う結果が見えた。
拳銃を握っている三咲さんの右手首。
不破さんがそれを左手で掴み取り、天井に向けるよう高く引き上げている。
しかも手首だけではなく肘の部分をもう片手で掴み、振り払えないようにしている。
「おーいダメピョン。そんなおもちゃを人に向けたら」
……不破さんが冷静というより呑気にそんなことを言っている。おもちゃと思っているのか……
「あ、あの……離して…………!」
「あ、ゴメン」
右腕が痛いのか、辛そうに息を漏らす三咲さんを前に、不破さんもやってしまったと言うように腕を話す。
俺はもういろいろと言わずにはいられない。痛そうにするにも関わらず三咲さんに怒鳴ってしまう。
「だからそれは出すなっていっただろ!」
「す、すいません……肩を触られると反射的に出してしまって……」
三咲さんが少し怯えたように視線がそれている。少しは申し訳ないと思っているのか。
それと……
「不破さん! 初対面の子にいきなりボディタッチはないでしょ! それも女の子に!」
「ピョーン……ごめん………………ネ☆」
「ネ☆ じゃねえ!!」
くそ……二人は謝って(不破さんは若干ふざけてるけど)るけど、もう時すでに遅し。
三咲さんの拳銃所持を見られた。
よりにもよってこのタイミングで、後々いろいろと覚悟した上のはずがこの時に……
「……白零」
「なんですか」
「今そこにいる嬢ちゃんが持っている物は…………本物か?」
「…………はい」
……さて、どうしよう。




