陸壱話 もしもを考えてもしょうがない
状況説明うんぬんよりも、唐突に現れた生首とバイクに驚くことになったが、本人曰く何ら問題ないようだ。
なにが問題ないのかさっぱりわからないんだが、もういろいろと言いたいことが多すぎて何も言えないからひとまず後回しだ。
「いやー、キノサキの体を動かす動力部が怪我をしちゃったってさあ、いま胴体は本機が応急手当をしているところなのさ、ヒャッハー!」
「つまりは同居ってことだ!」
「ヒャッハー。キノサキの胴体と頭は別物でね、駆動系の胴体と命令系統の頭と分かれているから、生命維持でもある頭部の動力源をどうにかすれば、存命は可能なのさ」
「というわけでこちらガンスロット=キノサキは今、頭部だけでヘルメスにお邪魔して、ヘルメスの動力で生きているのさ!」
「…………そうか」
後回しだ!
とのことなので、どうやら機械の体らしい殺し屋は、首をバイクに移すことで生きているようだ。
ってか、バイクも殺し屋もおかしいだろ。技術が謎すぎるし、いきなりすぎて訳が分からん。
「キノサキさん。ヘルメスさん。怪我人がいますから、騒ぐのはやめてください」
「おお、すまないねクロチー! じゃあ、こちらは大人しく部屋を出るとするぞ」
しかもなんか知らないうちに危険人物の殺し屋が千代と知り合いになってて、しかも妙に親しんでいる。
複雑な気分だ。いったいなにがあったんだよ千代。
とにかく、千代の一声で殺し屋たちは部屋を出て行った。
この病室らしきところに、俺と千代と夜が残る。
千代は、背もたれのない簡素な円形の椅子で、ベッドの横で座ってこちらに目を向けている。
まだ俺も夜も寝てなきゃいけないようなので、ベッドに横になった状態で千代の話を聴くことになった。
隣にいる夜は、千代に目は向けていないが耳はこちらに向けられているようだ。
ならば早いところ確認しなければな。
「それで千代。ここはいったいどこで、なぜ俺たちがここにいて、それで……火蛇族の里はいったいどうなったんだ。答えてくれ」
「……それは…………」
……? 千代?
なぜか千代が瞳を揺らして頼りなさ気に顔を伏せている。まるで話すことをためらっているみたいだ。
どうした? お前がそんな表情をするなんて……
「その話、自分が話した方が早いのであります」
「!」
いきなりまた別の声が聞こえたかと思うと、部屋に見覚えのある蛇人が入ってきた。
「ガルシャード! 無事だったのか!」
「ハクレイさんこそ、よく御無事でしたであります」
お前結局牢を抜けてから再会できないもんだから、いったいどうなったのかと思った。
けど、お前がここにいるってことはつまり……
「ガルシャード君……」
「ヒルエさん。あなたが御無事で何よりであります。こんな形で再会することに、自分は遺憾に思うでありますが……」
残念そうに目を伏せるガルシャード。正確にはこいつは昼江ではないが、後で説明しよう。
ガルシャードが沈痛な面持ちでこちらを見ている。まるで俺がいったい何を言いたいのか、大体察しているようだ。
いや、ここがどこなのかはわからないが、もうすでに時間が過ぎていることだけはわかる。
「……ハクレイさん。積もる話はたくさんあるようでありますが、自分はハクレイさんが知りたいことをすべて知っているわけではありません」
「構わない。お前の知っていることだけでいいから教えてくれ」
「了解したであります」
つまり、もうすでにあの里でのことはもう終わっていることなんだろう。だったら覚悟して聴かなきゃならない。
ガルシャードは口を開く。俺も夜も千代も、こいつの言葉に静かに耳を傾けた。
いったい俺に何が……
2
キノサキは上機嫌だ。
現在胴体がついてないにも関わらず、気分は高揚しており、軽く弾んで声を出す。
「しかしまあ、なかなか面白そうな男だ。クロチーの仲間なら楽しそうな奴だと思ったけど……本当に期待できそうだ」
「ヒャッハー、のんきなことを言うけどキノサキ、お前の身もかなり危ないところだったんだから感謝しろよ」
白零のいる部屋から出たキノサキ達は、そのまま廊下を進みながらある所へと向かう。
今のキノサキには首から下がない。首の部分をヘルメスの座席に設置し、ヘルメスに運ばれる形で廊下を進んでいる。
自分の命の危機だったことなどまるで遠い事のようにのんきしているキノサキに、ヘルメスは少々呆れる。
「お前の命はお前だけのものじゃない。ヒヤヒヤしたもんだぜ、ヒャッハー」
「なに、そう簡単にこちらが死ぬことなん得ない。だからこそ博士が作った体だろ?」
「ヒャッハー。キノサキがそう言うなら、そういうことだね」
そしてヘルメスは機体の横から伸びる鋼のアームが、ある一室の扉に手をかけ、開いた。
白零とは別の室内に、首と一機が入っていく。
「それでも、本当にあの時は危機満載の状況だった」
室内に入った途端、すぐに扉を閉めて鍵をかける。
物置のような部屋だ。窓のないその室内には、家具らしきものや工具や骨とう品らしきものであふれかえっており、ほんの二~三メートル程の狭さのため、人が動けるスペースはほんのわずかになっている。
その部屋の中央に、周囲の物を隅に除けて、所々に破壊跡のある首のない人型の機械が無造作に置かれていた。
左胸に開いた穴が致命的であり、指が斬りおとされた両手も銃が使えないことを暗示しているようだった。
「ヒャッハー、やれやれ。回収して逃げるのにどれだけ手間がかかったか」
「いやー、お前には負担をかけた」
ガンスロット=キノサキの身体だ。
正確には首から下の全身であり、所々火に当てられた跡と細かな傷の跡、そして左胸の穴と指のない手が印象的だ。
ヘルメスの横から伸びた鋼のアームが、キノサキの元胴体の応急処置にかかる。
アームの手の平に当たる所の中央から伸びた針が電熱で高温となり、溶接の要領でキノサキの元胴体の傷を塞いでいる。
さすがにずっと首が座席に居続けるのも問題があるため、軽い応急処置を施しているところだ。
指のない手の切り口に指を繋げ、針の先端に当てられた切断面が溶けて癒着している。
その様子を見ることができず、ヘルメスの座席に設置されたキノサキ(頭部)は、後々の事を考えてしみじみとなる。副腕も副胴も破壊された。銃器もほとんど弾丸を使い果たした。残っているのは、喋って歩いて生活するぐらいの最低限のエネルギーだ。
もうあまり激しい動きと言ったことはしない方が良いと判断する。
「しかしヘルメス。応急処置が終わったとして、その身体に無茶な戦いはできない。安静が一番だろうな」
「ヒャッハー。まあ、動力源は復活できるかどうか……できなかったら本機のお世話すればいいじゃん。レッツ、同棲生活!」
「なんと! これが本当の一心同体!」
……しかし、そこに悲観した様子はなく、むしろある意味目的を達したことに満足感を覚えるくらいだった。
なにせ、戦闘自体が本来の目的ではない。人格と記憶を司る頭部に納められたデータは、決して元の世界では得られない貴重な情報として残っているからだ。
「データは十分取れた。あの強かった剣士も博士は興味を持つだろうな」
「ヒャッハー。『完全なる人間』それを目標としている博士にとって、あの強すぎる人間は興味の対象に入るだろう」
「あー……だったら、余裕があったら捕獲してもよかったんじゃないか? よき実験体にはなるんじゃない?」
「ヒャッハー、すでに『固まっている』人間を改造する気はないんじゃないか? もっとも、参考のデータにはなるだろうな」
自分たちの事ではなく、あくまで自分たちが仕える組織のために行動する。
それがキノサキにとっての行動原理であり、たとえ自由を自称しても自然とその方向へと進んでいくのだ。
「しかしキノサキ、無茶をし過ぎだぜ。破壊されてデータが持ち帰れなくなったらどうするんだ、ヒャッハー」
「まったくだね。一応脳は破壊されないようにしたが……まあいいじゃん」
「ヒャッハー。そうだな! 今生きているし」
しかし、自分たちが死にかけたことに対する危機感は、データを持ち帰れないと言う意味であり、死ぬことそのものに対する恐怖とは全くの別物だ。
それは自分たちが仕える主に対する忠誠。そして裏切ってしまう事への忌避。
ただそれだけを護ることがキノサキ達の行動基準であり、それ以外の優先度は低く見ているのだ。
「ヒャッハー、だが生き延びたら今後どうする気だ。まだ小娘について行く気か?」
「そうだな。やはり単独行動はいろいろとリスクが多い。元の世界の住人と一緒にいた方が何かと便利だ。それにクロチーの仲間、白髪ねぎの奴とあと……あとよくわからん金髪もいる」
「ヒャッハー、あの女か。どこか情緒不安定に見えるが?」
「ま、なんかしらんが白髪ねぎの知り合いっぽいだろう。とにかく、人数が多いほどこの世界に干渉したときの相互作用とか、いろいろと面白いデータだって見れる」
キノサキ達は、自分らではこの世界で生きるには困難だと判断した。
風精族の隊長とやらに、わけのわからない力で縛りつけられたあの時の事だ。
改造人間としての強力な力はキノサキに自信を与えていたのだが、あの不思議な力は思考を冷静にさせる機会となった。
あれでもまだ世界の一部、世界は広いことを思い知らされた。
とにもかくにも、この新鮮な世界で生きるには協力者がいるに越したことはない。
「ヘルメス。それにもう一つこちらが期待していることがある」
「ヒャッハー?」
だが、生存率以外にもキノサキはある過程をひとつ立てている。
「それにもしかしたらこの世界に毒されて人間が変質する可能性だってある。それもまた、有用なデータとして見れたら幸いだ」
「ヒャッハー! 意外なことだな!」
キノサキがふと思っていたこと。
この世界は不思議な所だ。科学的数値では説明がつかないような現象が、キノサキの記憶の中に数々の姿を現している。
ならばもし、黒千代たちがこの世界の深いところにまで触れて、人間でなくなることがあったら?
羽の生えた妖精がいる。鱗のある人魚がいる。二足歩行ヤモリだっている。
そしてまだまだこの世界の仕組みを知らない。何らかの形で、異界の住人が変質をすれば……?
「ヒャッハー。それが第一の目的か? クロチー達がなにかになってしまう、と?」
「機械ゆえの好奇心だ。それに博士じゃないんだから、こちらは行動するのみだよ」
ヘルメスのアームから溶接の火花が散る。
応急手当は進み、キノサキの胴体は傷のほとんどがふさがれてきた。
もう指や全身の軽傷は終わり、動力部の深い切り傷も半分以上塞いできている。
「ヒャッハー、仕上げにかかるぞ」
「頼むぜヘェェェルメェェェス。我がマイボディの調子!!」
「ヒャッハー! 任せろ!」
話は終わり、そろそろ仕上げにかかろうと、ヘルメス集中に入る。
それ以降この部屋で一人と一機の会話は全く訪れることなく、作業は終盤にまで進んだ。
すでに自分の行動の方針は決まり、なにをするべきかはもう決めている。
あとは自由に動けるための体を治すのみだ。
3
「以上が自分の知っている限りのことであります」
「…………そうか」
いろいろと言いたいことがあるが……多すぎる。
……ガルシャードからの話を整理すると以下のようになる。
・結局のところ、夜のいた所の火蛇族の隊はほぼ全滅。隊長の将軍はどうなったか不明。
・しかし皇帝側の隊も無視しきれない損害。決着がついたと言うより、お互いこれ以上戦えなくなって終わってしまった。
・つまりは夜の目的だった状況の改善やら皇帝の打破やらは不可能に終わってしまった…………はずだった。
「ガルシャード君……本当のことを言ってるの?」
「本当であります。本当に、原因は分からないがなぜか結界が破られたであります」
「…………誰かが何かをした?」
・しかし原因不明の結界の破壊。これに便乗してガルシャードは下層部の蛇人を里の外に出した。長年不満を募らせた里から脱出できる唯一のチャンスってことだ。
・とはいえ、いくらなんでも劣悪環境だからって住処を捨てて何もないまま外へは出られないんじゃないのかと思ってはいたが……
「もうすでに戦場と化したあの街に、危険だとわかって戻ろうと思う者はいるでありしょうか。いいえ、いないであります」
・里から脱出した蛇人は今、領内の各村々に行っている。連れ戻そうにも兵士はほとんどまともに動けないからどうにもできない。
・結果、火蛇族の里は疲弊により鎮静してしまった。ある意味夜の望みは叶ったってことか?
・どちらにしてももう火蛇族は風精族を襲う事はしばらく来ないだろう。
「…………」
「零ちゃん……」
……何も言えない。素直には喜べない結果ではある。
けど、惨事に対して俺は何もできなかった。たかだか一人にできることなど限られてはいるが、それでも俺は……
……そういえば、まだ気になることがある。
「ガルシャード君。銀生さんはどうしたの」
「銀生、でありますか?」
そうだ。あいつとは結局あの地下牢以来一度も会っていない。
戦火に巻き込まれて負傷するほど弱くはないはずだ。
「あたしと同じ殺し屋……ほら、一度だけ見たことがあるでしょ? 全身黒装束の男だけど、見なかったの?」
「い、いいえ。自分はそのような姿の人間は見かけなかったであります」
「……そうか」
ということはあいつ、どこかで生きているのか?
……ラネットの仲間を斬ったことについてはまだ話がついていない。
要検討、だ。すぐに遠くまで行けるとは限らないし。
「あ、それともう一つ」
「ん? まだ何かあるのか?」
「はい。戦いが静まったと言ったでありますが、その時の火蛇族の兵士たちは、なぜか致命的ではないもののどれも戦闘が続けられないほどの傷を負っていたのであります」
「? それは普通に戦って傷ついたという事じゃないのか」
「違うであります。どれもこれも、体に穴を開けられたような傷があったのでありますが……」
「穴を開けられたような傷……」
そんな傷、思い至るとしたら……
まさか……
「キノサキさん、ですね」
「千代」
キノサキ……あの生首の殺し屋か。
一瞬、千代の銃器ではないかと頭をよぎったが、あいつがそんなに無闇に傷つける真似はしない。
そもそも、今それどころじゃないとスルーしていたことなんだが……
「そう言えばお前訊き忘れていたが、いったいなんであの殺し屋がお前と同行しているんだ」
「え? それはね……」
「こちらが同行してくれって頼んだらOKしてくれたんだよ」
「!」
すると、今度は生首じゃなくて完全に胴体がくっ付いたあの殺し屋がこっちに戻ってきた。
完全体だ。胴体の修理とやらが終わったんだろう。手も足も動かしている。
「キノサキさん……もうお身体は大丈夫なのですか」
「問題ない。ヘェェェルメェェェスの修復がうまくいった。大丈夫だって……」
「でも、ヘルメスさんに寄りかかっているのは、まだ無理をしているのでは……」
千代の心配はぬぐえない。
しかし、キノサキはヘルメスとやらのオートバイに乗って体をもたれかかっている。
まだ万全じゃない。無理のない動きはできないということだろう。
「……なに、大したことじゃない。動けるという事に変わりはないし、機械に間違いなどない」
そう言うとキノサキはオートバイから降りて、ベッドの方へ……俺に視線を向けて近づいてくる。
千代の前でもあっていきなり妙な動きはしないと思うが、それでもこの得体の知れない相手への緊張感から警戒してしまう。
そう思いながらキノサキは、俺の寸前にまで接近すると……
「やあ、白髪ねぎ。お前がクロチーの仲間って奴か。まあ、いろいろあるけどこれからもよろしく!」
「…………?」
意外なことに、握手のためなのだろうか、手袋をはめた手を伸ばしてニッコリと笑みを向けてくる。
こいつ……
「お前がクロチーと同じ用心棒だってことは聞いている。こちらを警戒する理由は大体わかるが、こんな摩訶不思議世界だ。協力しましょう? そうしよう?」
「…………」
この男の顔……目元がゴーグルみたいなので見えないが……敵意は感じられない。なにかを含めたような感じはするが、それだけで危険と判断するのは早計か。
だが、さっきガルシャードが言った火蛇族の兵士が戦闘続行できないほどの負傷を与えたのがこいつなら……
こいつがなにを考えて行動しているのかわからない。けど、変に疑いすぎていてもしょうがない。
とにかくここは素直に手を取ろう。
「……わかった。そう言うなら協力する」
俺はキノサキの手袋をはめた手を握る。妙にぶよぶよしているかと思えば変にゴツゴツした感触だ。機械とか言ったが想像とは違った奇妙な感触だ。
いろいろと不思議な奴だが、こいつも含めてこれまでの事を振り返るのはもういいだろう。
それじゃあ今この状況を把握しないといけない。
窓のない、外の様子がうかがえないこの室内はいったいどこなんだ。
「それで、ガルシャード。里の事は大体分かったが、今俺達がいるここはどういうところなんだ」
「ここはキャサレス村というところであります」
「キャサレス村?」
それって確かガルシャードが火鰐で移動するために交渉したあの村のことじゃあ……
意外だな。人間をここへ泊めてくれるなんて……
「うん。この村のパルデロさんって人が、零ちゃんを安静にするために家を貸してくれたの」
「パルデロさんが!?」
パルデロさんって確か、あの時俺のジャージを褒めてくれたあの善良な火蛇族のおっさん!?
おいおい、意外な所であの人の名前が出てくるとは正直思わなかった。
つまり俺はあの人のおかげでここにいるってとこなのか。
「もっとも、長居はできないであります」
「と言うと?」
「ええと……もうすでに知っているはずでありますがキャサレス村では人間を快く思っていない火蛇族が多くいるであります。ですがそれ以上に里からの難民も多くここにきているのでありますので…………」
「場所塞ぎのこちらは邪魔ってことか?」
話しづらそうに喋るガルシャードの言葉を続けるようにキノサキは言う。
遠慮ないキノサキの物言いに千代は困惑し、キノサキを窘める。
「キノサキさん。それは……」
「まあ、困っている人間と困っている同族を秤にかければ、同族に傾くのは無理のない事だろ」
「ヒャッハー! 二兎は追わないで一途に絞った方が確実なわけだ」
しかし、
「……なるほど。いいとか悪いとかより、どうしようもないって事ね」
「夜……」
「仕方のないことね。……なにかされるよりはまだましって事よ」
こいつはそう言ってるけど、実際には哀しいと言うかやるせない表情だ。
自分らに対する仕打ちに思っているんじゃない。そう考えざるを得ない状況に苦い表情をしている。
差別思想もそうだし、難民が来てしまわざるを得ないこともそうだ。
理不尽、不条理、どうしようもないとしか言いようのないということに、煩わしく感じているんだ。
「そ、それはあんまりじゃないですか……」
千代もそれが不服で、どうにかできないかと抗議する。
「他の火蛇族さんを受け入れるために場所が必要なのはわかります。ですけど、まだ零ちゃんも夜さんも安静にしないといけませんし、キノサキさんやヘルメスさんだってまだ……」
「いいや、こちらもヘルメスも、疲労なんざ割とどうでもいい」
「ヒャッハー。バイクは疲れないしね」
でも、キノサキとヘルメスの方は特に問題がない。だからこの状況に対する文句を言うつもりはないんだ。
つまりあとは俺と夜ってことになるな。
だとしたら……
「いや、わかった。早く出ていけって言われるならすぐに出ていく」
「零ちゃん……」
千代が心配してこっちを見るが、別にここにずっといなくてはならないと言う訳じゃない。
とはいっても性急すぎるだろう。今すぐという訳にもいかない。
「だけど、いきなりは無理だ。だから…………ガルシャード、今いつぐらいだ? 日は沈んでいるのか?」
「そうですね。夕方ぐらいであります」
「じゃあ明日になったら出ていく。それまではもうしばらくゆっくりさせてくれ」
「え?」
ガルシャードが意外そうに声を出している。
長くいることにじゃない。意外と早く出るという事に、ガルシャードはいいのかと言いたいように困惑しているようだ。
「いいのでありますか?」
「俺的にはもう体は動かせるし、いつでもいい。心の準備だってなくてもいいが……」
さて、俺はそれでいいが夜はどう思ているのか。
「…………」
……勝手に時間を指定しても夜は何も言ってこない。
いや、文句を言う気力すらない。せめてもう一晩だけは静かにしたいところだ。
ゆっくりと話したいことがあるし、それならばここでしかないだろう。
「しかし、やっぱりもう少し余裕を持たせてくれ。約束は必ず守るからよ」
「……わかりましたであります。もう少しだけ時間を持たせるように交渉していくであります」
「……ありがとう」
なんだかんだでお前にも結構助けられたな。
いろいろと感謝したいところだ。
「ところでガルシャード。お前はどうするんだ? どこかへ行くつもりなのか?」
「自分は、離れた家族を探しに行くであります」
「そうか……」
火蛇族の里に住んでいた、ガルシャードの家族。
番人に連行された時、横から悲痛そうに叫んでいたあの蛇人のこと。
里が戦火にのまれて、今は何処に居るかわからない。
それをガルシャードは探しに行くんだろう。
「それでは自分は、交渉に行ってきますので、お気になさらずゆっくりしていってくださいであります」
「わかった……頼んだぞ」
「はいであります」
ガルシャードは勢いよく返事をすると、部屋の扉を開けて外へ出ていった。
「…………」
さて、この部屋に残ったのは俺、千代、夜、キノサキ。
共通して全員元の世界からこの世界へきてしまった“迷い子”だ。偶然にもこの室内に全員居る。
「……なあ、千代。夜。キノサキ」
「なに?」
「なにか?」
「なんだ?」
さて、これからの事について話をするか……




