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伍伍話 俺がいなくてもいろいろ動く

 キノサキさんと火蛇族さらまんどらさんの領内に入ってから、もう何日が経ったのでしょうか。

 運がよく親切な火蛇族さらまんどらさんのおじさんに会えたおかげで、今火蛇族さらまんどらさんの里へ続く火山の中を走っています。

 とても暑いですね……

 でも、暑がっている余裕は実はありません。


「あ、あの……キノサキさん。もう少し速度を遅くしてもらえませんか?」

「ナッシング! これでも抑えている方よというかこの速度でも大丈夫って言ってなかったか?」

「い、いえ……足元が……危険ですけど…………」


 ヘルメスさんが走っている道……踏み外すと溶岩に落ちる仕組みなのですが、それなのになんで飛ばすように速く走れるのですか? 私がもしヘルメスさんから振り落とされたら大変なことになります。

 零ちゃんを探しにまさか火山まで入ることになったのは、完全に予想外ですね。


「ヘェェェェェェェェエエエエルメエエエエエェェェェェェェスッッ!!」

「ヒャッハー! なんだぁいキノサキ!」

「マグマの上の道を走るこの感覚! まるでどこかの電撃イライラ棒を思いだすぜぇ!」

「ヒャッハー! まさしく燃える挑戦者ぁ!」


 ……こんな時でも叫んでいるキノサキさんはすごいと思います。


 私は今、キノサキさんが運転するヘルメスさんの後ろに乗って、火蛇族さらまんどらさんの里に向けて走っています。

 崖の中に入ったり、狭い道を走ったり、溶岩に落ちそうなのに平気で走るのは少し怖いですけど……


「おい嬢ちゃん。本当に大丈夫なのかこの変な人間たちは……」


 ヘルメスさんが走る横で、大きな鰐に跨った蜥蜴のおじさんがキノサキさんを心配しています。

 確かに、キノサキさん達は難しい人たちではありますけど……


「大丈夫…………です?」

「いまいち信憑性に賭けるぞ。もっと自信を持って言わないのか」

「お、じぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! こちらとヘールメースに踏み外す道なんてないぜ!!」

「ヒャッハー! 心配無用!」

「…………」


 おじさんが心配……を通り越して疑惑みたいにキノサキさんを見ています。


 このとかげのおじさんはパルデロさん。

 キノサキさんと寄った火蛇族さらまんどらさんのある村で私に話しかけた人です。

 とても友好的で火蛇族さらまんどらさんの中で珍しいようです。


 前に私とキノサキさんで、零ちゃんの手掛かりを探すために村の中を歩き回っていた時の事です。

 冷たい火蛇族さらまんどらさんたちに負けずに、


「あのあんちゃん、嬢ちゃんの友達か。誇らしげに衣服のことを喋ってたから面白いあんちゃんだったよ」


 この人、零ちゃんと会っていたようです。意外です。

 ジャージの説明をすることは間違いなく零ちゃんですね。


 それで私が零ちゃんたちの事を訊いたら、火蛇族さらまんどらさんの里に向かうと聞いたので、私とキノサキさんで里へ行こうとしたら……


「お、おい待ってくれ。お前もあんちゃんに続いて里へ行くつもりかい?」

「はい。と言うより零ちゃんを探すために里へ行くのですが……」

「待て待て! 全く人間二人でそう簡単に行けるところじゃないぞあそこは」


 と、そう心配されて、パルデロさんが里まで案内すると申し出たようです。

 でもキノサキさんたちが、


「えー…………」

「ヒャッハー…………」


 …………あんまり乗り気ではないようです。

 たしか一度捕まりかけたことがあって、それで戦ったのですね。

 私も、違う意味で正直遠慮する気持ちもあったのですが……


「なに、ちょうどヒマじゃったんだ!」


 とのことで、押しに負けて渋々おじさんの提案に乗ることにしました。

 キノサキさん達も、なんだか許してくれたようです。


 ですが、いざ行こうとした時にさすがにヘルメスさんに三人は乗れないので、パルデロさんは大きな鰐に乗ってついてきてくれました。

 パルデロさんのおかげで火蛇族さらまんどらさんの里へ行く方法がわかり、キノサキさんの運転でその場所へ向かったのです。

 正直、進み方が豪快でびっくりしましたけど……

 特に崖に入るときはもうほとんど落ちているとしか言いようがない状態でした。

 それなのにヘルメスさんがきちんと崖の壁に沿って走っていたり、地面に着地した時に衝撃を感じなかったのはすごいと思います。


 そうして、キノサキさん達と共にとても暑いところへと出たようですが……


「しっかしおかしいな。さっきから里の番人が一向に見当たらないのだが……」


 こんな時も楽しそうに叫んでいるキノサキさんの横で、パルデロさんが先ほどからなにか釈然としない様子で考え事をしています。

 番人とは確か……


「さきほどパルデロさんが言っていた里を守る人たちの事ですか?」

「ああ。里に近づく者を通さずに跳ね除けると同時に、里の結界を通して渡れる方法の一つだ」


 パルデロさんが言うには、里に入るためには番人と言う人が許可を出して同行するようにしないと里に入れないらしいのです。

 つまり、私とキノサキさんが番人の人を捕まえて里を通らせてもらうとういう事でしたけど……


「小僧の事は知らぬが…………もしかしたら里の方で何かが起きているかもしれない」

「え? なにかって、誰かが争いに攻めてくるのですか?」

「いいや、もしかしたら内部からの崩壊もあり得ることだが……」

「?」


 なにかパルデロさんが難しい顔をしてなにか小言を言っているようです。


「パルデロさん?」

「わしが里を出たのはもう何年振りかな。ごたごたが重なって族長が変わった時から、もう里は……」

「…………?」


 パルデロさんの声は小さくて聞き取れないのですが、なにか重たい様子です。

 火蛇族さらまんどらさんの事情についてははっきりとはわかりませんが、今深刻な事態にあることがうかがえます。

 昼江さんの事もありますし、もしかしたらその里は現在危ないかもしれません。

 レイラさんが里へ行く理由も、その点からだと間接的に聴きましたし……


「…………おや」

「ヒャッハー?」

「え?」


 突然どうしたのでしょうか、キノサキさんがヘルメスさんを止めて、なにか向こうの方へ眼を凝らしているようです。

 パルデロさんもいきなりではありますけど鰐を止めます。


「……おい、どうしたボウズ。まだ里に着くまで距離があるぞ」

「…………」

「キノサキさん? ヘルメスさん?」


 まだ目的地まで距離があるのに、二人ともいったいどうしたのでしょうか。

 パルデロさんの言うとおり、まだ向こうには何も見えてはいないようなのですが……


「ヒャッハー。本機もキノサキも気づいているが、前方から人影が見える」

「え?」


 人影……誰かいるのでしょうか?

 火蛇族さらまんどらさんではないのでしょうか?


「なんかヤモリじゃねえな。人間か? どう見ても人間だ」

「ヒャッハー。しかも人担いでやがる。力持ちそう」

「え…………」


 それって…………


「キノサキさん。すいません」

「あ、おい。ちょっと……!」


 私はヘルメスさんから身を乗り出し、狙撃銃すないぱーらいふる遠視道具すこーぷて真っ先に前の方へと目を向けます。

 目を凝らすと……確かに、かなり遠目ではありますけど何か人の影のようなものが見えます。

 あれは…………!


「……キノサキさん、行ってください」

「クロチー?」

「もしかしたら、私の知っている人かもしれません」

「…………わかった?」


 私のお願いに、キノサキさんは応えてくれました。

 止まっていたヘルメスさんが再び動きだし、前へと進んでいきます。


 もう一度、キノサキさんの後ろから前方の方へと目を凝らしてみます。

 あれは…………やっぱり!


「止まってください!」

「ヒャッハー!? わかった!」


 突然ですけどすぐにヘルメスさんが止まってくれました。

 私は足元の溶岩に気を付けて急いでヘルメスさんから降りて目の前にいる人の所へ駆けます!


「おい、クロチー!」

「嬢ちゃん!?」


 あの人影は……

 あの感じはもしかして…………!


「零ちゃん!」


 間違いありません!

 あの服も、あの髪も、あの感じも……

 間違いなく……零ちゃんです!


 やっと……会えました!


「零ちゃ………………」

「…………」


 ………………………………あれ?


「零……ちゃん…………?」

「……クロチー?」

「ヒャッハー? どうした」

「嬢ちゃん?」


 あ、れ…………?

 零ちゃん一人だけ? レイラさんは一緒じゃないの?

 それに、なんでそんなに怪我だらけなの?

 肩に背負っているのは……もしかして、昼江さん?


「…………」

「…………?」


 零ちゃん……?

 なんでそんなにボロボロなのに平気で立っているの?

 なんだか無言でこちらを見ているけどどうしていつもの優しい感じがしないの?

 それになんだか後ろが大変そうなのに、なんで振り向いてすらいないの?


 ……零ちゃんはこんな怖い顔をした人だったの?


「お前は…………あの小僧の隣の女か」

「!?」


 この人……零ちゃんの声で喋っているけど……

 零ちゃんじゃない…………


「…………誰?」

「信じることなく、すぐに見破るか」


 なにか、違う。

 目の前の人、零ちゃんにそっくりな格好をしているけど、なんだかいつもの零ちゃんのような感じがしない。

 零ちゃんみたいで……違う人…………


「クロチー、さっきから黙ってどうした。あれがクロチーの仲間って奴か」

「あんちゃん……なのか?」

「ヒャッハー、どういうことだヤモリのおっさん」

「いや、前に話したあんちゃんとはなんだか雰囲気も話し方も全然ちがう……」


 パルデロさんも何だか不審に思っています。

 私もなんだがこの人が……


 ……やっぱり、零ちゃんじゃない。

 零ちゃんに似た誰かは私の後ろにいるキノサキさんを不審そうに見ます。

 警戒している、という事でしょうか。


「何か知らないものまで増えているが、まあ信用していい者であろう」

「……誰ですか。本当の零ちゃんはどうしたのですか?」


 この人は……なにか不思議な感じがします。

 零ちゃんの姿をした別人だからでしょうか。いえ、多分違います。

 いったい何かと言われても曖昧なのですが……


 零ちゃんに似た人は私を見てなにかため息みたいなものをついています。


「……勘違いするな。己は小僧の体を借りているにすぎぬ。今は己が主導権を握っているが、間違いなく貴様の言う小僧だ」

「え? 零ちゃんだけど、零ちゃんじゃない?」


 いったいどういう事でしょうか? 零ちゃんによく似た人じゃなくて零ちゃん?

 いえ、主導権とかどうとか言ってますけど、つまり別の人が零ちゃんを動かしている?

 ……やっぱりどういう事でしょう?


「……零ちゃんを操ってどうする気なのですか?」

「操る、か。この小僧の体がかなり危険な状態にもかかわらずいい加減に安全地帯へ退かぬから無理やり動かしているに過ぎぬ」

「危険…………!?」


 よく見ると確かに零ちゃんの体が大変なことになっています。

 全身がボロボロですし、左肩から血が流れた跡がありますし……


「だ……大丈夫ですか…………!?」


 一気に血の気が引いてしまいます。

 た、立っているのもままならないのではないですか…………!?


「ところでクロチー」

「え……何でしょうか?」


 この時でも冷静にキノサキさんがなにか指摘しするようです。

 いったいなんなのでしょうか……


「何かよくわからん会話しているが、そこの奴が肩に担いでいる少女の事はスルーか?」

「ヒャッハー、そいつも人間の様だが?」

「え?」


 あ、そう言えば零ちゃんの事でいろいろと衝撃的すぎてよく見えていませんでしたけど……


 肩に担がれているのは、間違いなく昼江さんですよね。 

 零ちゃんはとうとう成功したのでしょうか……?

 意識が何だか感じられないようですけど……


「……昼江さんの方も、無事なのでしょうか」

「この小娘は一時的に気を失っているに過ぎん。しばらく時間を経てば…………ん!?」

「?」


 どうしたのでしょうか。

 零ちゃんを動かしている人がなにか自分の体を見ては、なにか怖い表情になって小言で何かつぶやいていますけど……


「まあいい。いずれ小僧の精神が戻ってくる。その時まで待て」

「いつまでですか」

「焦るな。まずは小僧の体を治すことが先決だろ」

「…………」


 戻ってくる……?

 本当の零ちゃんが…………?


「……さて、いつまでも己はここにいるわけにはいかぬ」


 なんだか、零ちゃんを動かしている人の表情がだんだんと薄れていくように見えるのですが……


「小娘、よく聴け。小僧はこちらに戻るにはこの娘を離してはならん」

「え? 昼江さんと零ちゃんを、近づけたままにするという事ですか? どういう……」

「それと、もうすでに小僧の体は限界に近い。目を覚ましても動かすな」

「は、はい…………」


 それはたしかに言うとおりにしないといけません。

 零ちゃん、またこんな酷い怪我をして……


「それと、後ろにある里だが……」


 零ちゃんを動かしている人が、後ろ指を指してなにかを言います。

 里って……火蛇族さらまんどらさんの里ですね。

 やっぱり、なにかが起きているのでしょうか……


「現在、皇帝に与する軍属とそれに対抗する反乱が起きている。結界は破った、どうするかは好きにしろ。ただし、小僧は巻き込むな……」

「!」

「結界を、破っただと!? おいお前さんそれは……!」


 結界のことがどれほどすごい事かは分かりませんが、パルデロさんが動揺しています。

 ですが、もうすでにこの人は限界を迎えるようで……


「さらば、だ…………」

「待ってください! 一緒に行ったレイラさんは!」

「知る、ことか……」

「おいっ!!」


 ……………………。

 ……とうとう零ちゃんを動かしている人は、私の方に向けて体を倒してしまいます。

 私は、倒れる零ちゃんと昼江さんの体を受け止めます。


「零ちゃん……昼江さん…………!」


 ……零ちゃんも昼江さんもぐったりとしているけど大丈夫なの?

 息は……


「…………」


 ……呼吸は、しています。

 よかった……まだ安心はできませんけど大丈夫の様です。

 ですが……


火蛇族さらまんどらさんの里が、大変なことに……」


 零ちゃんはそこで昼江さんと戦って……大けがをして…………

 でも、もう零ちゃんは動かすことはできません。動かしてはいけません。

 だから……


「おいクロチー! さっきからなんか話が全然見えないぞ! 結局そいつはクロチーの仲間だったのか!」

「はい、正真正銘仲間の零ちゃんです」

「ヒャッハー! だったらもう目的は達成ってことで変えていいってことか?」

「いえ…………」


 私は例の火蛇族さらまんどらさんの里があるところを見ます。

 そこには零ちゃんを動かしている人が言うように争いが起きているという事ですね。

 それに確か、レイラさんも零ちゃんと一緒にいたはずでしたのに今はいません。


「零ちゃん……」


 零ちゃんが起きていたらどうしていたの?

 仲間を置いて逃げるのは、やっぱり嫌?

 それとも仲間より大切な人を護るためなら信じて任せる?


 私は……


「……パルデロさん。零ちゃんと昼江さんをお願いしてもよろしいでしょうか」

「え?」


 私は受け止めた零ちゃんと昼江さんをパルデロさんに預けます。

 パルデロさんなら大丈夫だと思います。


「待て嬢ちゃん。君はいったいなにを……」


 パルデロさんが、私が今何かするのを予測してきたようです。

 その上で私ははっきりと言います。


火蛇族さらまんどらさんの里の所に行ってきます」

「嬢ちゃん、君は自分が何を言っているのかわかっているのか!?」


 パルデロさんが信じられないように驚いています。

 キノサキさんも怪訝な顔をしていますし。


「え、クロチー? お前自ら危険な所に行くのか?」

「ヒャッハー? どういうつもりだ」


 キノサキさんがヘルメスさんから降りて、こちらへと寄ってきます。

 近いですから後ろへ引きそうになりますけど、正面を見据えたままゆっくりと話します。


「零ちゃんとは別にもう一人、レイラさんって言う水妖族おんでぃーぬさんのお姉さんがいるはずなのです」

水妖族オンディーヌ? 人魚マーメイドみたいなものか?」

「え? いえ、よくわからないのですが……」


 その認識はよくわからないのですけど…………


「もし、零ちゃんに似た人の言うとおり里で争いが起きていて、レイラさんがそこで戦っているならば……」


 零ちゃんはひどい状態ですけどそうまでして昼江さんを止めたのですね。

 でしたら今度は……


「力を貸して、里の争いを止めに行ってこようと思います」

「……ちょっと待てクロチー」


 ……キノサキさんは不満があるようで、前に出て意見を言います。

 少しだけ怒っているようにも見えます。


「おっさん。悪いけどここからはこちらに任せてくれるか?」

「ヒャッハー。本機たちがわからなら早く説得してやる」

「あ……ああ、分かった」


 いったんパルデロさんに断りを入れてキノサキさんは再びこちらを向けます。

 少し怖いとは思いますけど、退くことはできません。


「お前自分が何を言っているのかわかっているのか? もう一人の仲間とかなんかよく知らねえけど他に争い? を止めるなんてこと本気で言ってるのか?」

「ヒャッハー。個人でどうにかなる問題じゃないし、そんなことを考えている以上お前はいろいろとうぬぼれすぎだ」

「……それは」

「あのさぁ!」

「!」


 私の言葉を遮るようにキノサキさんが次々と言葉を重ねています。

 やっぱり……怒っているのでしょうか。


「可能不可能もそうだけど、お前が争いを止めた後の事を見通しているのか」

「え?」


 争いを……止めた後?

 キノサキさんが珍しく深刻な表情で言います。


「強制的に争いを止めたとして、戦った者同士がすぐに和解するとでも思っているのか? また同じことが繰り返さないと思っているのか?」

「ヒャッハー! ハッピーエンドが訪れたからといって、その先がハッピーとは限らねえんだよ!」

「……考えなくてはいけないことがたくさんあります。しかし、考えている間にも、争い事は続いています。ですから……」

「考えるのは後にして、今は戦いを止める。なんでそこまでするの? 仲間の心配するならそいつの方を止めるべきだろ」

「ヒャッハー。だからあくまで協力するの? なんでかちゃんと言え」

「それは……」


 風精族しるふぃさんの所を襲う火蛇族さらまんどらさんは敵でしかありませんでした。

 でも、同じ種族同士でなぜ戦わないといけないのでしょうか。

 そんなにお互い譲れない“理想”があるのでしょうか。


「やっぱり、辛いですよ。争いなんて、里が壊れたら風精族しるふぃさんみたいに楽しくなくなりますし、辛いものが残るだけです」


 ……零ちゃんは言いました。理不尽な暴力に苦しむ人はみんな護る、と。

 でも私はそんな零ちゃんの理想を、叶えさせたいと思うから……


「零ちゃんが起きた時に安心できるように、せめて一人でも争いから遠ざけるべきです」


 零ちゃんはこんなにボロボロになっても、頑張りましたから……


「苦しんでいる人を護る用心棒が何もしないで去るなんて、できません」


 退きたくはありません。

 確かにレイラさんの事も心配ですし、いろいろと思うところはありますが……

 私も、火蛇族さらまんどらさんといろいろとお話をしたいこともありますから……


「なるほどね……」

「ヒャッハー。呆れるしかないね」

「けどまあ仕方がない」


 キノサキさんがやれやれというように頭を振りながら私の方に向けて微笑んでいます。

 もしかして……許してもらえるのでしょうか?


「クロチー。だったら今からこちらのいう事を一つだけ聴け。そしたら里とやらへ向かわせることを許す」

「え? あ、はい。なんなのでしょうか…………?」


 キノサキさんが私になにかをさせるようですけどそれはいったい……


「クロチー。手をかざせ」

「え…………?」


 キノサキさんが突然手を前にかざしてそう言います。

 いったい何なのでしょうか?


「ほらほら早くしろ」

「は、はい。こうでしょうか…………」


 私はキノサキさんに向けてゆっくりと右手を伸ばしました。

 いったい何をするつもりなので……


「やれ、ヘルメス」

「ヒャッハー、了解」


 ガシッ!


「え…………!?」


 ヘルメスさんから伸びた手みたいなものが私の腕を掴んで……!


「あの、ヘルメスさんこれは……!」

「ヒャッハー! スタンアームズ!」


 バチッ!!


「!?」


 痛っ!?

 電……気…………!?


「冷めろ。バーカ」

「ヒャッハー、冷凍庫!」


 ………………!

 キノサキ、さ……………………!

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