伍陸話 え? おいちょっと待て……
不意を突かれて気絶してしまう黒千代に……
折角の黒千代の決心は、意外な形であっさりと崩れ落ちた。
電撃によるショックで落ちていく意識。
どれだけ気丈ではあっても不意の一撃には抗えない。
「お、おい嬢ちゃん大丈夫か!? おい、なにをした!」
意識を失い倒れ込む黒千代の姿を見て、パルデロは顔全体にしわを寄せて憤り、どういうつもりかキノサキを糾弾した。
ヘルメスが鉄のアームをしまいつつ、キノサキは受け止めた黒千代の顔を眺めながらニヤニヤと笑う。
「安心しろ。今ヘルメスがしたのは高圧電流を流してショックを与えて気絶させただけだ。肉体的損傷はない」
「?」
キノサキの科学的な説明は、パルデロには全く不明の者だったが、少なくとも命に別条ではないことは伝わった。
それで納得をしたかどうかは別ではあるが。
「傷はないって……もっと優しくする方法はないのか」
「いやいや、こいつは想像以上に頑固者でね」
かつて風精族のある所で対峙した時の印象は、ただただ呆れるしかなかった。
キノサキは思いだし苦笑いをしつつ、意識のない黒千代をパルデロの方へと軽く投げた。
「受け取れ」
「え、おい!?」
急に来たが、パルデロは慌てて両腕で軽くキャッチをすることに成功した。
受け取った黒千代を、白零や昼江と同じく火鰐の背中へと乗せる。
「さぁ~ってと、今回のキノサキさんの心情ですが……」
キノサキは口調はふざけた感じだが、表情はどこか真剣に言う。
「はいそこの視聴者さん。あなたはこの少女を戦場へ向かわせたいと思ったのか?」
「…………」
何言ってるのかさっぱりわからないパルデロだがいちいち反応しても無駄かと学習し、真剣に答える。
パルデロにとっても黒千代のことでは、さすがにそんなつもりはないので本人には悪いが否定的であった。
なんの思想であれ、嵐に自ら突っ込むようなその行いは褒められたことではない。人ひとりがどう頑張っても嵐は止められないものだ。
「真摯なのはいいが、いかんせん思慮がたらん。確かに里が壊滅状態にあってほしくないのは誰でも思っているもんだ。けどよぉ……」
「そのレイラっつー水妖族? の仲間とやらも気がかりだが、いかんせんついでのスケールがでかすぎるって」
キノサキはうんうんと他人事みたいにうなづく。
パルデロは見えないが、キノサキやヘルメスの遠視の機能だからこそ見える。確かに外から見る限り里は大変な状況に落ちている。あの中に人ひとりが突っ込もうなど無謀にもほどがある。
「もうどうにもならない。前々からあの里は不安しか感じられなかった。直接見なくても里の者たちがどれほど歪なのかわかる……」
「どうにもならない…………ね」
キノサキはそこで何か思案をしながら里のある方角へ見つめ、そして黒千代が言っていたことを頭の中で反芻するように駆け巡らせる。
ヘルメスもさっきから何も言わず、ただキノサキからの指示に待ち焦がれている。
それを知らないパルデロは怪我をした白零や昼江、そして黒千代を火鰐に乗せて帰る準備をし、火鰐の体の向きを後ろへと方向転換する。
「戻ろう。早うあんちゃんやこの人間の傷を治さないと手遅れになる」
「…………」
「ボウズ?」
しかし、なぜかキノサキに帰ろうとする気配がしない。ずっと里の方角を見つめたまま無言で立ち続けている。
ヘルメスの方向も里の方に向けたまま微動だにしない様子だ。
そしてキノサキはどこか他人事みたいにあっさりと衝撃的なことを言う。
「そうか。じゃあ頑張ってね」
「え?」
「こちらとヘルメス。まだやるべきことはあるのでね」
キノサキはパルデロと同じ方向を向かずにヘルメスを里へ向けたまま、調子を確かめるべくヘルメスの機体をチェックして、ひとつ指示をする。
「ヘエェエェエェルメス! あれの準備頼む!!」
キノサキが指を鳴らしながらなにかの準備を行う。主に自分の所持する銃器や兵器のチェックだ。
ヘルメスはようやく指示が来たかと喜んで声を上げる。
「ヒャッハー。了解だぜ!」
「お、おいボウズ……お前いったい何をするつもりなんじゃ……!」
「決まっている」
キノサキはゴーグルのついた顔でパルデロの動揺した表情を見据え、はっきりと言う。
そこには迷いなんて感じられない。むしろ清々しくて逆に見切り発車の様で怖い表情だ。
「こちらとヘェルメェスが、その里とやらにお邪魔しに行くんだよ。まさしく、お邪魔(物理)」
「!?」
「ヒャッハー! 乱射連射の活殺劇!!」
「ちょ、ちょっと待て!」
キノサキが懐から、腰から、至る所から銃器を出して動作のチェックを始めた所、パルデロが慌てたようにテンションの上がるキノサキ達を止めてどういうつもりなのか問い詰める。
せっかく黒千代を押さえたのに何でこの迷い子がそんなことを言い出すのだろうか。
「君はあの里に入ること自体否定的ではないのか! そのために嬢ちゃんを止めたんじゃ……」
しかし、パルデロの考えに反し、キノサキは頭を振って否定する。
「ちがーう。おじさん、そっちの他の仲間からどう思われてるのか知らないけど、仮に怪我をした人間三人を抱え切れる余裕があるのか? 人間を嫌う火蛇族の村の中でさあ」
「……いや、それはそうだけどだから嬢ちゃんを止めたんじゃないのか!」
「違うね」
一通りの銃器のチェックを済ませたキノサキはそれを元の場所に戻し、意外にも普通に流暢に話す。
冷静に物事を分析に見て、後々の事を予想し話す。
「クロチーは里の事よりも大切な役割がある。そこで怪我した仲間とやらを見守るためにだよ。そうでもなかったらもしかしたら違う判断をしていたかもしれないし、しなかったかもしれないだろう」
「ヒャッハー、どっちにしろあの小娘は折角のファンタジーワールドの同行者だから、死なせるわけにはいかないんでね」
「あとあと!」
キノサキは緊張感のかけらもない声で、舌を出しそうなおちゃめな顔しておどける。
「クロチーの言う人魚とやらがどんなもんか、ちょっと興味を持ってね」
「ヒャッハー! レッツマーメイド! ファンタジーの醍醐味でしょこれ!」
「博士も喜んでくれるよこれ!!」
「ボウズ…………」
軽い感じで言ってのけるキノサキだが、当然それが主体の目的ではない。
他にもただ自身の好戦的性格から自由に暴れたいとか、セヴェリーニ殺しができなかった腹いせとか、元の世界で待っている『博士』のためのデータ収集などいろいろとある。
黒千代とはまた違う確固とした意志。それはどのような結果をもたらすのか、違う意味でパルデロは不安を感じずにはいられない。
「だからよぉおっさん。先に帰ってくれ。こちらがいろいろと面白い事でもやったら後で追いつくから」
「お、面白い事だと……!」
しかしそうは言っても素直に去ってくれるパルデロではない。
こんな時でも緊張感に欠ける発言をするキノサキどうも腹立たしく見える。
「ボウズ、お前そんなこと言ってるがあんなところに行って戻って来れる保障など…………!?」
「野暮なことは言うなよ」
なお心配そうなパルデロにキノサキは声音を低くして、本気の空気を出した。
一気に緊張する空気の中、灼熱の溶岩の熱気に負けず、キノサキの声はパルデロの元へよく通る。
「おっさん。こちらがいったい何なのか知らないそうだから教えてやるが……」
キノサキとヘルメスは方向をパルデロの方に向けて、自信に溢れた感じに言う。
「元の世界では意外に危険人物と呼ばれている人間を捨てた殺し屋、ガンスロット=キノサキ!」
「ヒャッハー! 安全から逸脱した免許剥奪不可避の戦闘用自動二輪車! ヘルメス!」
「こちらとヘルメスが二つで一つ!」
「ヒャッハー! 故に敗北など存在しない!」
「…………」
キノサキもヘルメスも自信満々に大声を上げて勝利を確信する。
なぜこんな時にテンションが上がるのだろうかさっぱりわからないが……
これだけ自信にあふれる人間を、パルデロは止められないことを悟った。
名乗られてもなおよくわからない単語が飛んで、正体がわかりづらいが……
いったいなぜこの嬢ちゃんは、このボウズと知り合いに慣れたんだろうか。
そう不思議に思うしかないパルデロであった。
「……本当に戻って来れるんだよな……死ぬな」
「そっちこそ気をつけろよ。おっさん」
「ヒャッハー。そいつらは任せたぞ」
この場はキノサキたちに任せようと、そう判断した。
パルデロは火鰐に黒千代と白零と昼江を乗せて、里とは逆の方向へと走り去って行った。
「……………………」
後には人工知能搭載のオートバイと、改造人間の殺し屋が残る。
「……で、キノサキ。プランはどうするんだ? ヒャッハー!」
「ん~、そうだね。要約すると戦いをやめてくださいだから……」
キノサキ達の目的を改めて整理すると二つ。
一つはもう一人の仲間である水妖族の安全の確認。
もう一つは黒千代の要望を少しだけ助けるという事で争いを鎮圧させること。
前者はともかく、後者はどうすればいいのか難しいのだが……
「とりあえず争うやつらを片っ端から撃って撃って撃ちまくろうか」
「ヒャッハー! なんて野蛮な!?」
「なぁに!! ヤモリたちは頑丈だったし、あの時と同じくとりあえず頭と胴以外をぶち抜けばいいんだよ!!
よりにもよって選んだ方法が武力介入だった。
ヘルメスは野蛮と口走っているが全く止まる気配がしない。
おそらく白零や黒千代よりも過激になるだろう。
「というわけで……」
キノサキはそう言って野戦服を上から下まで脱ぐと、改造人間としての黒い異質な身体が露わになり、脱いだ服をヘルメスの横に装着された道具入れにいれて大声で命令を叫ぶ。
「そんじゃあまあ、本気で行くぜええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ヒャッハー! キノサキィ!!」
「あれをやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ヒャッハー! 了解ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
キノサキはヘルメスに跨ったまま両腕を横に広げて大声で叫び続ける。
「副胴、射出!!」
「ヒャッハー!」
キノサキの合図とともにヘルメスの座席より後部からキノサキの胴体と同じほどの大きさの、長方形の四角い箱のようなものが射出される。
それを鉄のアームで器用にキャッチしたヘルメスは、黒く硬い鋼の四角い箱をキノサキの背面にある接合部へと接続させる。
「副腕、射出!!」
「ヒャッホイ!!」
箱が背中に付くと、今度はヘルメスの側面から六本もの義碗が射出された。
鋼の芯と人工的に作られた筋肉で構成された左右三組の義碗が、背面に接続した箱の側面に接続する。
「ヘェェェェェェェェエエエエルメエエエエエェェェェェェェスッッ!!」
「ヒャッハー!」
「合☆体!」
「キノ×ヘル!」
キノサキの頭部に付けたマルチセンサーの両の耳当てからコードのようなものを取出し、ヘルメスのメーター機器に接続する。
ヘルメスの側面から出た指三本関節付きの鉄の腕が、キノサキの背面の箱の底部へと接続する。
キノサキとヘルメス。同時に叫び声を挙げる。
「リンクスタート! 《神経拡張》!!」
「ヒャッハー! 《電流操作》!!」
キィィィィィィィィィィィィンッッ…………!!
バリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「ヘヴンンンンンンンンンンンンンンンンンンッ!! ヒャッハー!」
キノサキの意識とヘルメスの意識が同調され、さらにはその神経系を拡げる。
ヘルメスのアームから流れる高圧電流がキノサキの背面の箱に流れ、側面に接続された六本の義手が精密に指を動かしはじめる。
「副腕チェック! A1、A2、問題なし! B1、B2、問題なし! C1、C2、問題なし! 全腕、問題なし!」
「ヒャッハー! いい感じに世界が緩やかに流れて見えるぜ!!」
キノサキとヘルメスの体は接続しあい、ひとつの脅威となる。
風精族のある男は目撃した。
かつて自分の里が火蛇族の部隊に襲撃された時、偶然にもある迷い子が里の“月の口”現れ、火蛇族に絡まれては本気を出して暴れまわった。
未知の技術である銃を使い、乗り物を乗り回しては駆け回り、さらには異形の姿となって、将軍を圧倒するほどの力を発揮した。
……その姿が、あたかも“怪物”のごとき姿だと。
「人機一体! シンクロナイズ!」
「単人戦車! ヒャッハーヒャッハー!」
キノサキとヘルメスは一体化し、人の姿からかけ離れた怪物に変わった。
従来の位置とは別の背面の副胴から出た六本の腕がヘルメスのアームを通して生き物のように動く。
キノサキの耳当てのようなところから伸びたコードが、ヘルメスに繋がれて神経系を同調させる。
人間一人には複雑な操作を、ヘルメスと共有した意識と拡張した神経回路によって、キノサキとヘルメスの両方の演算処理により複雑高度に稼働する。
「本日の獲物は……こいつらだ!」
副腕と称される腕には、回転式拳銃、機関銃、突撃銃、短機関銃、散弾銃、榴弾発射機が凶悪に持たれている。
従来の腕はヘルメスのハンドルの握り、高速走行の負荷に耐える。
まるで本気で殲滅に向かう格好だ。
「ヒャッハー! キノサキ、正直ただでさえ補給のあてもないのにこんなことしていいの?」
「なぁーに! 弾だってもうそんなに残ってないし、残したら残したであとあともったいぶった戦い方しかできねえ!!」
殺しにかかるときは本気で殺せ。
最後の最後まで油断なく進め。
相手の力量を測り、出し惜しみも晒しすぎもするな。
脳内にインプットされたそれらの信条など知ったことはなく、全力で暴走気味に走る。
「いっそのこと清々しく使い切るために、特急で暴れるぜ!!」
「ヒャッハー! ご利用計画もへったくれもねぇぜ!!
「敵は、燃える里にあり! ヘェェェェェェェェエエエエルメエエエエエェェェェェェェスッッ!!」
「ヒャッハー!
暴れるな 半殺しだぜ サイボーグ。
キノサキイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィ!!」
キノサキもヘルメスも、相乗で上がる喧騒共に現在反乱粛清真っ只中の里の方へとヘルメスを走らせて行った。
煮えたぎる溶岩の音に負けない叫び声を響かせながら、今人間界の脅威が嵐の戦場へと向かう。
キノサキ、突貫




