伍肆話 未練が全くないなんて、あるのだろうか。
うぅ~……なんだか、変な気分……世界がぐるぐるにまわるわ~
これがお酒で酔うってことなのかな~
あ、がるしゃーどくん? あなたまだここにいるの?
だったら……ちょっとでいいからわたしの話を聞いていい?
あぁ、聞いてくれるんだねえ……ありがとう、はははっ
……むかしね……えっと……わたしたちはある理由で周りからいじめられていたの。
……えぇ、信じられない?
……わたしたちね、他とはちがってちょっと変わっているの。
それはいえなーい。秘密だよ……
でも……それが原因で、わたしたちは親に虐待されながら育ったの……
あ、でもべつに暴力をふるわれたり性的なことはされなかった。でも……
両親はわたしたちのことを気持ち悪いものを見る目で見ていたの。
『異常者』とか『頭おかしい』とか、そんな心無い言葉でわたしたちは拒絶されたの。もうほとんど情けと言う意味でわたしたちは育てられた。
……あぁ、不思議な気分。なんでこんなに話すのかな…………?
あたまがぼーっとする……
……ねえ、がるしゃーどくん。
わたしたちの世界にはね、学校ってよばれる子どもを集めて学問を学ぶところがあるんだけどね……
ええ、わたしたちはふたりだけだったの。
たくさんのなかの、たったふたり。
でもね、辛くないと言うのは嘘だけど、それでもあの子は常に笑っていようと努力したわ。辛いことも哀しい事もわたしたちはともにがんばって……
でもね、ある日、出会いがあった。
またいつもどおり周りからひどい目に逢わされていた時にね、あの人が現れたの。
最初見た時は、何だか頼りなさそうな感じがした。
それにあの人、わたしたちを助けた時点でまだわたしたちの事を知らなかったの。だからね、話したの。そしたら、なんていったとおもう?
あの人はね「もっとおかしい人を知っているし、こんなの大しておかしくは思わない」って言ったの。
……何打か微妙な返しだと思った。
でも、不思議だった……
あの人は、こんな私たちを変だとは思わなかった。それにね
あの人は私たちの事を友達って言ってくれたの。
「今日から友達だ。よろしく」なんて……もう無茶苦茶。
けどそう、初めての友達。
そう言われて……そしたら、無理してまで笑っていたわたしたちが……
……笑ったの。
心の底から……おかしくて……おかしくて……
だって笑えるよね。そんなこと口にする人間を信じられると思う?
嬉しくて。
こんなわたしたちを……友達って呼んでくれたの。
それで、あの人はどんな時もわたしたちを護ってくれた。
……女の子の扱い方が残念だけど、あの人はかわいいし、強いし、優しかった。
なぜか体操着ばっかりなところもあったけど。
あの人は、どんなときもわたしたちを護ってくれた。
でもそれは……よくないことになったの。
2
ああ……なんだろうこの感覚…………
腕が……足が……へんにふわふわした感覚だ…………
なんだろうな……俺、昼江の熱凝石の光に撒きこまれて…………
「……っ。なんだ……ここは…………」
……あれ、俺ってたしか火蛇族の里の中層部あたりで昼江と戦ったはずだよな。
なんだろうかこの何もないようなまっさらで幻想的な空間は。
なにもない。なにもないのにこの感覚はいったい……
「それに……不思議と身体が軽い」
肩の傷がない。体中が不思議と痛く感じない。
あの千枚通しの麻痺毒で痺れていたはずが、なんだか今は感じない。
それに……
「何で俺、今裸なんだよ。誰もいないから別にいいけど……」
俺視線。腕や足に腹。どこからどう見ても何も身に着けてません。
おいおい、風呂と着替え以外でジャージが俺から離れて行くなんてことはありえな……い…………
…………まさか!?
「俺……死んだ…………!?」
まさか俺、昼江の爆発に巻き込まれて、昼江もろとも死んだ……!?
確かにあんな近距離で爆発が起きてしまったら即死ものだと思うけど…………
「……嘘だろ。俺も……おそらく昼江も……死んだってことなのか…………!?」
という事はここは、あの世ってことになるのか……
それで、今の俺は魂的な物になっていてこんなところで……
そんな……未練が、多すぎる。
千代……所長……みんな……ジャージー……
そして…………
「……昼江」
こんなのってないだろ……
結局あいつには、なにも言えなかった。
ただぶつかるばかりで、結局なにも……
「…………くそっ」
本当に、もうだめなのか……
もう…………
…………ん?
「なんだろう。声が……聞こえる…………」
なんだこれ……まるで子供の泣き声のような…………なにか引きつけられるような声が……
……あっちからだ。行ってみよう。
3
火蛇族の里の中層部、結局大きな爆発は起きなかった。
浮空昼江と金斬白零は、先ほどから棒立ちのまま少しも動いていない。
いや……
「…………」
突然動かなくなった昼江の前に、白零は静かに立ち上がった。
動かない昼江の左手を無理やり開いて、中にある熱凝石を乱暴に奪い取った。
その様子は白零の行動としては粗暴であり、知る人が見ればどこかおかしく見える。
「……貴様が死ねば主は困ると言ったはずだ」
白零が吐いた言葉は昼江に対してではなかった。
自分自身の体を見下ろしながら、まるで自分に言い聞かせるように戒める。
「小僧、貴様の精神は小娘の中に送り込んだ。あとは己が勝手にさせてもらおう」
この少年は金斬白零ではない。
かつて白零の心の中に問いかけた謎の声は、いったいどういう手を使ったのか、白零と昼江の意識を落とし、その上白零の体を動かしているのだ。
とにかく謎の声は白零の体を動かし、右手に握った熱凝石をぱらぱらと粉々に砕いて地面に落とした。
石はたしかに先ほどまで光り輝いていた。しかし白零の右手にも包まれた石はそのまま何らかの干渉を受けて、爆発することなくそのまま不発に終わった。
「さて、これ以上ここにいれば小僧の体は危険だ」
そう言うと謎の声は横で虚ろな目をして意識がおぼろげな少女の体を右肩で抱え、刀を背中にしまい、里の下層部の方へと跳躍して行く。
白零の体であるはずなのに、謎の声はまったく構うことなく、はるか上空へと跳躍する。
眼下のや背後には、荒れた火蛇族たちの争う光景が映る。
「……野蛮な者め」
謎の声は白零の声で忌々しげに呟く。
敵も仲間も何一つ構うことなく、里の外へと飛んで行く。
すると……
ガンッ!!
「むっ?」
……空中へと跳んだ謎の声は急に見えない何かにぶつかり、下の方へと落ちる。
肩に抱いた昼江を傷つけないようゆっくりと着地し、冷静に自分のぶつかったところを観察する。
そこには、不可視ではあるがこちらと向こうを遮断する何かが張られている。
「そうか。確か火蛇族の里の周囲は結界が張られていたな」
そう言うと謎の声は昼江を一度抱え直して、動かないはずの左手を動かして唯一残った刀を抜刀する。
「こんなもの……」
謎の声は左手に持った刀を、結界に向けて軽く振り薙いだ。
ただそれだけで……
パリィン!!
「……張り方が甘い」
火蛇族の里全体を覆う強固な結界は、跡形なく崩れてしまった。
そして、左手に持った刀はもともと謎の声が作ったもののため、粒子のように細かくなって消えた。
もうここに用はないと言うように、振り返ることもなく里の入り口から外へと出た。
白零にとってまだ外へ出るときではないのに、そんなことなど知ったことではないように里の外から溶岩の海に浮かぶ道を歩いて行く。
肩に抱えた昼江は全く動かず、謎の声はただただ足を進めるのみなのだが……
『――――――――――――ッ!!』
「…………ん?」
しばらく道を歩いていると、前方からなにか奇妙な鳴き声のようなものが聞こえた。
溶岩のたぎる音しか聞こえないはずだが、謎の声は気のせいだと決めてそのまま足を進めた。
「!」
しかし、しばらく進んだところで前方からこちらへ何かが来る様子が見えてきた。
遠目で何なのかは分からないが……
『―――――――――――――――――――!!』
近づいてくる何かが、大声で叫んでいる。
先ほどの奇妙な声と同じだ。気のせいではない
警戒心を高め、眼前を見据える。
謎の声に近付いてくるのは……
3
本当に、何なのだろうかここは……
泣き声ばかりが聞こえ、ずっと歩き続けても同じ空間ばかり。
なんかこう、目印みたいなものはないのか。矢印的なものがあってさあ。
ノーヒントで漠然とした空間を進み続けるってのはどうなのかと……
しかし本当にここはあの世なのか? それともなんかこう……またも走馬灯的な物か?
けどそんなとこに行くようなことをした覚えは……
「……これは」
なんかすごい不自然な物を見つけた。
扉……なのか…………?
なんか変に仰々しいな。けど泣き声はここから聞こえてくる。
ゴォォォォォォォ…………キィィィィィィィィィィィィィィィィ!!
「!?」
扉がひとりでに開かれる……!
この中に泣き声の大本が……
扉の中を進む。
おお……なんかさっきまでの幻想的な空間とは大違いだ。なんか不気味という感じる。
なんだろう、この感じ……
悲しんでいるような、怒っているような、嘆いているような、叫んでいるような……
なんかこう、強烈な感情の渦みたいなものが感じる…………
……あんまり長居したくないな。なんというか、勝手に踏み入っていいところじゃない感じが……
「…………ん?」
なにか……見えてきた。
それと同時に、泣き声が段々とはっきり聞こえてくる。
さらに足を進めると……
「女の子…………?」
女の子が向こうを向いて顔を伏せながら泣いて……
……ちょっと待て、向こうも裸!?
はっ!? ちょ、待てよ! まさかこれ例の人と人との対話のシーン!? おいおいいつのまに俺は……!
待って! これはディレクターズカット版に…………!
「…………ん?」
…………あれ?
この少女……顔は見えないけど…………
なめらかで白いのに、傷跡だらけの肌と、人為に染められた金色の髪。
それにこの泣き方…………
まさか、こいつ……
「…………誰?」
泣き声の元である少女が、うつむいた顔を弱々しい瞳でこちらへと向けてくる。
笑えば光り輝くような顔が今では哀しさで染まっている。
こいつは…………
「昼江…………だよな」
「え……まさか……白零、君?」
……この反応、間違いない。ここだけは確信できる。
四年前、あいつらのせいで合えなくなった……本当の浮空昼江がここにいた。




