伍壱話 意外な再会は意外な縁が呼ぶ
長い事時間をかけたが、なんとか間に合わないか…………!
刀馬走法で必死に通路を走り、追ってくる火蛇族の攻撃や目を掻い潜り、別の建物へ続く通路のようなものが見えた。
そこから、先ほどまで俺がいたあの建物に入り、見覚えのある階段を探した。
途中、火蛇族の兵士に、没収した俺たちの武器がいったいどこにあるのかを問いただし、レイラさんたちの前にその場所へと向かった。
鍵はかかっていたが、破壊して強制的に入らせてもらいました。案の定武器はちゃんとあった。
そこから、レイラさんが持ち歩いていた薙刀の入った包みを取り出し、それを持って階段を下まで降りた。ちなみにカルリトロスの剣はあったけど結局取りませんでした。
いよいよレイラさんとガルシャードが捕まっている階段の最下の階についたのだが……
……なんであいつがこんな所にいるんだ!?
「銀生…………!」
後ろ姿しか見えないけど間違いない。
全身真っ黒な出で立ちと、あの特徴的な黒い刀。
宇城銀生……お前までこの世界に迷い込んでいたのか…………!
…………こいつも昼江に次いで厄介な存在だ!
音も気配も感じさせない虚無のような感じと、目視では追いつかないほどの速さで、多くの人間を“暗殺”してきた殺し屋。極度の接近恐怖症により、近くにいる者は誰彼構わず一瞬のうちに切り捨てる。
暗殺も得意だが、強襲もまた厄介な男だ。
こいつの動体視力と剣の腕は半端ない。俺と千代が二人がかりでも止められるかどうか……
銀生の肩越しにレイラさんが見える。その更に背後に、なんか破壊された牢らしきものまである。いったい何をしたんだ? あと、銀生に集中しているせいかこっちには気づいていない。
さて、どうする? 本当なら助けに入りたいが、相手が銀生になると対策を考えない限り入ったところでどうにもならない。
だけど、このままレイラさんを放っておくわけにもいかない。ただでさえレイラさんは丸腰なんだから…………
…………ん?
よく見ると向こう、レイラさんしかいない。ガルシャードの奴はどうしたんだ? まさかあいつもどこかに……
……いや、今はガルシャードもそうだが目の前の銀生を何とかしないといけない。
幸い銀生もレイラさんも、俺に気が付いていない。どういう風に入り込んで、銀生をなんとかするかだが…………
2
……レイラさん、すげぇ。
あの銀生相手に、あそこまで渡り合えるなんて……
銀生の『隠居合』が出たときはすぐに飛んで助けに行こうかと思ったが、その後すぐに精霊術でも使ったのか銀生の居合抜きを防いで、投げ飛ばした。
レイラさん、本気で戦っているところを見たことはないが、こんなに強いのか……
いや、ここは水場じゃないし水妖族の名前の通り、水があればさらに本気が出せるのか?
しかも成人男性をあんな豪快に投げ飛ばすなんて、レイラさん意外に……
「! ……やばっ!」
……銀生が、抜刀した!
まずい、あいつが抜刀したってことは本気を出すってことだ。
……さすがにこれ以上は見てはいられない!
「待て、銀生!」
「!」
俺は構わず背中と腰の刀を確認し、銀生が動き出す前に先に前へと出る。
よし、俺の声に反応したのか銀生はすぐには跳びかからずこちらを静止したまま見ている。
今の内に俺は銀生を警戒したまま、レイラさんの所へ駆け寄った。
「白零殿! 無事であったか!」
「レイラさん、俺は大丈夫だ。ガルシャードはいったいどこに?」
「ガルシャード殿は、取り調べに呼び出され、以来戻られてはおらぬ」
……そうか。だとするとこれは意図的に切り離されたということになる。
これは明らかに俺たちの警戒されているようにしか思えない。アルバロス将軍といい、いったいいつから俺たちの事が……?
「それと白零殿。ガルシャード殿がいなくなった直後に、白零殿が話された昼江殿という御仁に会ったぞ!」
「! 昼江に会ったのか!?」
俺じゃなくてレイラさんの所に来ていた! なんで!?
と言うか完全にあいつにもバレてしまっているじゃん!
「白零殿、実は……」
「いや、待ってくれ! 積もる話はあるがまずは……」
なんか気になることを聞いたが、まずはこいつをどうにかしないといけない。
向こうの殺し屋は幸いまだ攻撃に出ていない。刀を下げたままじっとこちらを見続けている。
相変わらず表情が読めない奴だ。
「…………身刀流……久しい、男だ」
「……ずいぶん意外な再会だな。宇城銀生」
よく考えてみれば、レイラさんひとりの為に銀生がここにいるというのもおかしいことだ。
それに……
昼江が言っていた自分以外にも迷い込んできた殺し屋。
ラネットが言っていた、外部に連絡を取ることもなく、誰にも気づかれずに国境警備隊を滅ぼした存在。
それがもしもこいつだったら……
「…………斬り殺す」
こいつ、いつもの近づくなじゃなくて殺す気満々じゃないか。
まいったな、こんな狭いところじゃむしろ向こうが有利じゃないか。
ただでさえ面倒なことが先々にあるっていうのに……
「…………斬られろ」
銀生が抜いた刀を手にこっちへ突っ込んでくる!
くそっ、こうなったら…………!
「…………む」
「え…………?」
銀生が…………止まった?
持っている刀を下げたまま、足だけを止めている。
いったい……
「白零殿?」
「…………?」
なんだ?
銀生が耳元に名を当ててなにかぶつぶつと呟いている。
耳に何かつけているのか? だとしたら話しているのは……
「…………どけ」
「え? うおおおおおっ!?」
「ぬっ!?」
銀生がいきなり止まって独り言をしたかと思いきや、今度は唐突にこっちに向かって突っ込んできた!
しかも途中に立っている俺たちを切り捨てるように、居合しやがった。
ぎりぎりで避けられたからいいものを……
「白零殿! あの迷い子…………いったい、どうされたのか」
「……おそらく、誰かに呼び出されたということだろうか」
もうあっという間に銀生は階段を上り、どこかへと行ってしまった。
俺は疑問に思いつつも、まずは横で立っているレイラさんに安否を確認しなきゃいけない。
銀生に何度か斬られたようだし、大丈夫かどうか……
「……レイラさん、大丈夫なのか。あいつに結構斬られたようだが……」
「問題ない。この程度の傷で動かなくなる私ではない」
レイラさんは心配が無いように気丈な態度で断言している。
どうやらいらない心配のようだ。強がりでもなんでもなく、素っ気なくそう言えるのがすごい。
逆にレイラさんはこちらを心配した様子で見ている。
「それよりも白零殿こそご無事だったか? しばらく見ない間に重武装と化しているようだが」
「……俺の方も大丈夫だ。脱走ついでに武器を回収した。受け取ってくれ」
俺は布に包まれたレイラさんの薙刀を取り出し、それをレイラさんに手渡した。
「かたじけない」
レイラさんがお礼を言うと、手渡した薙刀に傷などがないか、様子をしっかりと見る。
……どうやら問題なく使えるようだ。
一応、薙刀を包みに仕舞って所持するレイラさんを確認し、俺は改めて先ほどの状況を思い出す。
「さて……これからどうするかだけど…………」
先ほど銀生は誰かに呼び出されてどこかへと向かった様子だが、俺やレイラさんの事を放っておくほどのことなのか?
先ほどのことといい、一体なにが起きているんだ?
「そう言えばレイラさん。先ほど俺に、昼江が来たことについてなにか話そうとしなかったか」
銀生の存在感により、話を聞く余裕はなかったが……
「そうだ。実は…………」
レイラさんが深刻な表情になって口を開く。
実は…………!?
「昼江殿がここで何を企んでいるのか、その全貌を私に対してうち明かしたのだ」
「え…………えぇ!?」
な、な、なんで…………!?
なぜあいつはレイラさんに対してこう気を許しているんだ!?
「昼江がなにをしようとしているのか、レイラさんに話したのか!?」
「うむ、私を仲間に引き入れる為、たとえ敵対するにしろ話さなければならないと、
「いったい、その話は…………」
「白零殿、待たれよ」
話が気になるというのにレイラさんに止められてしまった。
なぜ?
「白零殿。残念ながら話す内容も長い。この塔をのぼりながらでも構わないか」
「あ……ああ、わかった! こんな所でじっとしちゃまたいつ面倒なのに遭遇するかわからないからな」
どうやら長話になりそうだから進みながらになるようだ。
俺は刀四本の存在感を把握し、体に異常がないか確認。
……問題ない。この先何があっても戦える。
「……ところで白零殿。いったいそなたはいかなる方法にてここへと向かわれたのだ?」
「疑問に思うのはわかるが、大したことはないから余裕があった時に話すわ」
「うむ、了解した」
まあ、謎の声の存在なんか話しても信じてもらえるかどうかは疑問なんだが……
俺は武器の確認をした後に、レイラさんと出口へ続く階段を昇るのだった。
2
白零とレイラが奮闘する一方で、ガルシャードは理解できない状況の中にいる。
僅かしか光の差し込まない密閉された空間と、息をひそめて何かに耐え続けている火蛇族の下層部の住人たちがいる。
天井よりも上から怒号と絶叫と崩壊音が聞こえ、それがさらに下層部の火蛇族を恐怖で震えさせた。
その中でただ一人、住民たちを護るように唯一の出入り口で必死に耳を澄ましているガルシャードは、全く状況を理解できなかった。
(なぜ……なぜこんなことになったのでありますか…………)
白零やレイラと共にこの里に戻ってきてから唐突に軍に捕まってしまう事になった。
牢屋にとらわれている中、白零が誰かに呼び出され、更には自分もレイラとも分断されることとなった。
カルリトロスの件もあり、もしかしたら自分に罰が待っているかと思ったが実際は違った。
昼江は余計な言葉もなく自分にあることを頼んだ。
『ガルシャード君。あなたは下層部の住民たちを護ってくれないかしら』
本当によくわからない話だ。
さらにはアルバロス将軍からも……
『あの迷い子と水妖族と合流しなければこれまでの事を不問とみる』
……とも言われた。
その後反論の暇もなく、案内されたのが里の下層部の大通りから大きく外れたとある商店から地下へとつながる、このシェルターのようなところだ。想像以上に規模が大きい。
こんな場所の事などガルシャードは知らない。
それに住民たちを護れと言われておきながらこの場所に案内されるなど、悪い予感しかしない。
「なにがどうなっているのでありますか…………?」
いくら疑問しようと答えは返ってこない。
反論する事もなく強制的に閉じ込められたからなにもわからない。
地下にはなにやら里の外へと出られる抜け道のようなものがある。しかし、里のある構造により出られない。
いったい何のために作られたのかさっぱり分からない。いったい何を想定してこんなものを作り出したのだろうか。
時間感覚もわからなくなる程しばらくして、前もってその場所を知っていたのか、しかし慌てたように避難された下層部の住民たちの護衛を、ガルシャードはよくわからないまま護衛することとなった。
なぜならば避難してきた住人は尋常じゃないほどに取り乱しており、更には開いた扉から怒号と破壊音が聞こえてきたからだ。
「……ハクレイさん。レイラさん…………」
正直、置いてかれた白零やレイラの事が心配であり、いくら恩人の頼みだろうと素直に応じるには無理がある。
だが、渾沌としたこの状況に一般住民を放っておけず、どうしようもないジレンマがガルシャードを苛めていた。
「……いったい、なにが起こっているのでありますか…………」
この中には身内だっている。うかつに動くことはでいない。
外に出られないと言うのなら、ガルシャードはせめてここになにか災厄が来たりしないよう願いつつ、気を張って警護に努めるのだった。




