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伍零話 道を覚えるのは大変。ましてや行きと帰りじゃ見えるものが違う。

 厳重にとらわれていた白零が牢から脱し、レイラの元へ駆けている頃、レイラもまた違う方法で牢から出ようとしている。


 ガルシャードから託された熱凝石を使い、手枷を破壊した後に、得意の精霊術で檻から脱出する手はずであった。

 しかし、人間の殺し屋である浮空昼江の計らいにより、もう一人の殺し屋である宇城銀生が監視に置かれたせいで、うかつに動けないままでいた。

 檻の前でじっと綺麗に座り、常にこちらの様子を見続けている銀生に、レイラは絶えず警戒し続けている。


(……この迷い子、虚脱感を装いながら私を常に監視し続けている)


 一部の隙もない直立した綺麗な正座。

 まったく揺れることのない研ぎ澄まされた精神。

 そして、いつ動いてもおかしくないのわけではなく、動き出すかどうかも悟らせないほどの静かな呼吸。


 レイラにとって油断ならぬ存在である銀生を前に、少しでも隙が生じないかと様子を伺い続ける。

 対して銀生は、物置に座る人形のごとく、何の興味も関心もなくただレイラを凝視し続けている。


 だが、こちらが動き出せば向こうもすぐに動き出すのだろう。だからこそ、うかつに動くことが出来ない。

 いったい、どうやってここを抜けだせばよいのか、まだ手枷の破壊もできていないのに……


『…………。…………!』

「…………?」


 すると、静かで無音とした空間に、銀生の方からほんのかすかに、なにか声のような音が聞こえた気がした。

 それに気づいているのかそうでないのか、のっぺりとしたような無表情のままレイラから視線を外そうとはしない。

 だが、次の瞬間ほんのわずかだが銀生の眉が意外そうに跳ね上がる。


「!」


 レイラはそれを見逃さなかった。

 レイラにとって、突如としてそれがなんなのかはわからないが、それを好機と見て速攻で行動に出る。


(ガルシャード殿、お願い申す!)


 レイラは足下にしまっていた熱凝石を使い、手早く自らを拘束する手枷の破壊に取り掛かる!


「…………!」


 銀生が牢の中でレイラの行動に気づいたが、特に何もせずただ静かに立ち上がった。

 すぐに行動に出るわけではなさそうだが、レイラは急いで石を手枷に当てて、そして合図。


「発動、【熔解フシオン】!」


 石は瞬く間に強く光、レイラの両手に掛かった手枷を一瞬で解いた。

 それも、あえて手枷にはめられた熱凝石を巻き込む形でである。


「!?」


 そして、熱感知とは別の石が反応し、拘束の意味を失った手枷の残骸が光り輝き……

 牢内を埋め尽くすかのように、爆炎と閃光があふれ出した。

 柵の前に座れば巻き込まれると思った銀生は、正座から綺麗に横へと跳び上がり、巻き込まれぬように逃れた。


「…………」


 いきなり何のつもりなのか、突如自爆してしまった。

 銀生は、自らの左耳に差した補聴器のような通話機から聞いた現在の状況にほんの少し動揺しつつも、すぐにそこから思考を遮断し、すぐに爆発跡の牢を遠目から眺める。

 そして、炎の影にゆらりゆらりと揺れる影が、銀生の警戒心を跳ね上げる。


「………………」

「……なかなか強力な術……危ないところだ。枷の解放から術を使わなければ即死だった」


 燃え盛る炎の中から現れたレイラの肌に、傷などが一つもない。

 そのかわりにレイラの全身を包むようにほんのかすかに水の膜が覆われている。


「…………出たか…………」


 言葉に反し、少なくとも表面上では大したことが無さそうな銀生は、冷静にゆっくりと立ち上がり、牢の外へと出してしまったレイラと対峙する。

 レイラの進行方向、雑居房のある部屋から上へ向かうための階段への道を阻むように銀生が立っている。


「……近づくな。……近づけば…………斬る…………」


 レイラがこの場所から出る以上、目の前の人間を無視することはできない。

 銀生は左手に納刀された黒い刀を握り、右手は添えることなくだらりと下がっている。

 一見すれば隙だらけ。しかし、深く覗いても得体が知れない。ただ、戦うと言う事だけははっきりとわかっている。


(こんな火蛇族サラマンドラの里の地下深くでは、地中にも大気中にも水があまりない。つまり、ほぼ素の力で戦わねばならないということ……)


 内心、レイラは少し焦っている。

 水の少ないこの環境では得意の精霊術はあまり使えない。

 最終手段として、ある方法により精霊術を使うことは可能だが、それも本当にギリギリの時まで使うわけにはいかない。


「……………………」


 幸いなのか、向こうからこちらに攻めてくることはない。

 レイラは一度自分を落ち着かせるために、ひとつ深く呼吸をした。



          2



「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」


 現在、俺は後ろから追ってくる少数の火蛇族サラマンドラから必死に逃げながらレイラさんたちの元へと走っている最中だった。

 いや、戦ってもいいんだけど時間と体力の無駄だ。


 俺の足の速さはなんとか追いつかれることはないようなので、よほどのことが無い限り掴まることはないはず。

 さて、レイラさんの所もそうだがその前にこの半分にわれた錠を何とかしないといけない。

 それに、俺はまだいいがレイラさんの武器だってそうだ。どこかにその部屋がないか……


「よし、そのまま挟み込むぞ!」

「やばっ! 回り込まれた!」


 ……でもなかったな。

 どうやら向こうはどこかの通路から回り込んだらしく、走り続ける俺の数メートル先の所を集団で待ち伏せていた。

 廊下は狭い。無視して突っ切るには無理がある。

 ならばっ!


「身刀流・刀足かたあしの段! 刀馬走法とうばそうほう!」


 俺は、腰の二本を抜刀しそれを中空にむけて投げつける!


「!?」

「なにを………!?」


 そして俺はその刀に向かって跳躍し、それぞれ二本を両足でキャッチして掴む!

 刀身の刃の部分が前方に向かうようにして着地!


「「「…………」」」


 ……前方も後方も意味が分からないような目で俺を見ているよ。

 けどそんなことは知ったことではない!


「お前等、とっとと道を開けろ。さもないと……」


 地面に刺さる二本の刀の柄の上に立つ俺は、足で刀を掴んだまま目の前に向かって真っ先に走る!

 俺の刀の長さは火蛇族サラマンドラの身長よりやや低い程度。つまり……


「近づけば斬られちまうだろうがぁ!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」」」


 下手に走行中の俺に近づけば、巻き込まれて斬られちまうと言う事だ。

 いくら勇敢な奴がいても一瞬だけ隙が出来れば、後は走って逃げるだけ!


 じゃあな、火蛇族サラマンドラ! 俺はこれにて……


「【焔弾ギャマブレッテ】!」

「え?」


 今後ろから不吉な言葉が聞こえたような……


「うわっ!」


 直感的に横へ避けたら、本当に後ろから炎の弾がこちらに向かって飛んできた!

 危ない!


「このニンゲン……剣をわけのわからん使い方する」


 そうか、精霊術があったな。

 いくら刀馬走法でも飛び技は防ぎきれない。

 さて、なんとかしないと…………



          3



 銀生はまったく動かない。

 それは、動作という意味で動かないだけではない。上へ続く階段を背に、レイラと向き合う形で、狭い通路を直立している。

 一切の揺れも振れもなく、無機物な柱のようになんの気配も感じさせずに立っている。

 左手に握られた、納刀された黒い刀も、なにも持っていない右手も、何もしないように下まで下げている。

 だからこそうかつに近づくことはできず、そのままただただ時間を浪費し続けていく。


 しかし、レイラは十分、考える事を終えた。


(…………行く!)


 レイラは、銀生の全身をくまなく視界におさめたまま、まずはまっすぐ相手の方へと突撃していく。

 ある程度抑制が効くほどの速度で距離を詰め、そして手を伸ばせば触れるほどの距離になった途端……


「…………近づくな」


 銀生が動き出す。

 刀を握る左手は腰の高さまで上げられ、右手はその刀の柄の部分に伸びていく。静から動へ、突如とした無駄のない動きは、たとえ正面を切っていても不意を突くような速さで武器の方へと伸ばされていく。

 しかし、あらかじめ攻撃が来ることを予測していたレイラは、銀生が動き出した瞬間に間髪を入れず、接近を急停止し、すぐさま背後の方へと跳び下がった。

 目算ではあるが、もうすぐ抜刀されるであろう刀の間合いの外へと避難する。

 速度と反応の問題もあり、かなりギリギリな回避となるだろう。


(ただ、あの剣の間合いではこの通路には長すぎる。いくら腕の良い剣士でも満足に戦えないはずだが……)


 レイラは懸念する。銀生の持つ刀は相当な長さであり、狭いところで戦うには適していない。

 壁や天井に引っかかればその分動きも鈍くなる上に、刀自体もただでは済まない。

 そう思いつつも油断はせずに距離を取っているのだが……


 そう思いながらも、銀生の右手に掴まれた刀は、鞘から瞬時に抜刀される。

 その瞬間だ。


 ザッ!!


「!?」


 刀に不利な地形である。そんなことを考えたレイラは甘かった。

 いや、考えが甘いと言うより全く予想できないことである。

 銀生の右手に持つ鞘から抜かれた鋭く黒い刀は、その隣の壁を、空を切るように抵抗なく切り裂く。


「なっ…………!?」


 まったく勢いも速度も落ちずに近づいてくる刀身は、完全な軌道を描いてレイラの首筋を一直線に狙ってくる。

 その上、間合いの外にまで退いたつもりがなぜか目の前に、


「いつの間に……!?」


 目を動かして少し下を見ると、そこには地面の上を滑るようになめらかに足運びする銀生の足が見える。

 恐らく、抵抗なく壁を切る刀に目を奪われたせいで、一瞬だけで来た虚を突かれ、気づかぬうちに半歩だけ前に滑らしたのだ。


(……だめだ、想像以上に速い! このままでは……!)


 一か八か、レイラは首の部分を全力で後ろへ傾けようと体全てを後ろへ逸らした。

 迫る黒い刃の切っ先は…………


 …………ヒュン!


「!」


 レイラの首筋を紙一重で外し、虚しくも空を切った。

 銀生は追撃をしなかった。


「…………!」

「…………」


 双方、なにも言えることなく沈黙している。

 だが、感嘆もなにもない銀生と、敵の想像以上の速さと意外性の驚愕によるレイラとでは沈黙の意味は大きく違う。

 たった一瞬の攻防、それだけなのにレイラにとっては瞬くどころではない時間の長さを感じ取った。


 ……シャリン!


 今までいったい何があったのか、再度それを認識しようとする最中に鍔なり音が鳴る。

 銀生の抜刀した刀が、同じ速さで鞘に納められた音だ。


「…………これは警告だ。…………次近づけば…………本気で、斬る」

「…………」


 レイラは悟った。

 この迷い子は、試しなどをして生き残れる相手ではない。

 本気でぶつからなければ勝てる相手ではない。


(……こんな強い人間がいるのか。人間の世界は、奥が深い……)


 斬れた壁をよく見ると、軌道の途中にひねりを入れて斬られている。

 先ほどの芸当は、ただ単に折れず曲がらずよく切れる刀だけでできることではない。

 刀に限らず、正しい軌道と正しい振り方、適度な力の入り方と抜き方、斬る対象の特質を見る目など、諸々の要素が合うことで、刃物の真価は発揮する。

 結果からすれば壁ごとレイラを斬ろうとしたが、


(先ほどの回避も、向こうはわざとぎりぎり外れるようにした……)


 こちらがなんとか回避することが出来たわけじゃない。

 警告の言葉通り、向こうはレイラの回避も計算に入れて刀を振ったのだ。


 本当の目的がレイラを殺すことならば、さらに深く踏み込んでいたかもしれない。

 だが、あくまで監視と足止めであるために一度は外したのだ。


 それがレイラにとって好機となるのか。


(今の独特の剣技……もう一度よく見る必要がある。しかし、単純にもう一度突撃する訳にはいかない。今度は向こうから接近する可能性もある。だが、丸腰の私には接近以外に戦えるとすれば…………これだ)


 レイラは足もとに落ちている瓦礫の破片を、予備動作なしで、足に乗せるよう銀生に向かて蹴り出す。

 ふわりと足から離れていくように飛んで行く破片は、まっすぐに銀生の方へと飛んで行き……


「……来るな」


 銀生は素手で飛んでくる破片を弾いた。

 刀で弾けば隙ができるだろう、たいして無駄のない動きではあるが……


「【水矢スィチィエ】!」

「…………」


 ほんの少しでも生じればそれで十分。

 レイラは、自らの体内の水を使い、体表から出した水分を小さな矢のように細く鋭く、多量に銀生のほうへ飛ばす。

 水分ではあれ、凝固することで殺傷力を高めた小さな水の矢が、銀生の全身を襲う。


「……近づくな」

「!?」


 カキンカキンキンキンカンキンキンッ!!


 しかし、銀生は全身を細かく動かしながらも、右手で刀を抜刀し、迫りくる水の矢をほぼ全て弾き落とした。

 半分近くを回避し、必ず当たる部分を刀で防いだのだ。

 叩き落された水滴は銀生の足元の床や横の壁などに飛び散っていく。


(……まだだ!)


 しかし、レイラはこれだけで終わらせるつもりはない。

 ここで怯んでいてはまた同じことになる。


「【水棘スェイチー】」

「…………!?」


 今度は、飛び散って離れた水の矢を遠隔で操作することで、銀生の足元や天井と横の壁から、いくつもの飛沫が針として飛び出し銀生を襲う。

 今度は正面からではなく、足元や横からの攻撃。その上、


「【水矢スィチィエ】!!」


 もう一度、体内から絞り出した水分を使い、矢にして放つ。

 前、横、上、足元と、ほぼ逃げ場のない攻撃。

 これで攻撃が通るはずだが、


「…………近づくなと、言っている!」


 銀生は、そうやすやすと攻撃を許さない。

 銀生は、後ろに跳べば水の矢の餌食になると判断し、前方へと地面を滑らすように滑らかに前方へ進む。

 レイラの方に近づきながらも、矢をほとんど回避し、神速の居合抜きによりまたも叩き落される。

 それでもまだ、レイラの攻撃の手は終わっていない。


「【水盾シィトゥエ】!」


 そしてレイラは、残る自らの水分をさらに引き出し、一つの小さな盾を作り出した。

 それは盾と呼ぶにはあまりにも手のひらほどに小さく、そして丸みのあるフォルムをしている。

 それを左手に、回避のためにこちらに向かっている銀生の元へと突撃する。


「!」

「これが最後だ。存分に行く!」


 手を伸ばせば触れるほどに近づいた途端、銀生はもう一度レイラに向かって刀を抜刀した。

 混じり気のない純黒の刀身が見え、今度こそ二つにするべくレイラの元へと吸い込まれるように放たれる。

 とてもではないが、レイラの出した小さな盾では防ぎきれない。そのはずだが……


「!」


 その途中、レイラは最後の手段に出る。

 銀生が弾いた水の矢の飛沫……銀生の方に散って付着した水を動かして再度矢を形成し、それを銀生の身体に刺す!

 飛沫程度の量の水でできる矢のダメージなど大したことはないが、相手の気を一瞬でも惑わすには十分。


「…………斬る」

(……ここだ!)


 その結果、ほんの僅かではあるが銀生の刃が少しだけ遅くなった。それこそがレイラにとって好機。

 銀生の刀が抜ける瞬間に合わせ、まだ完全に抜け切れていない刀の柄を、レイラは盾を持たない右手で押し、抜刀を防いだ!


「! ……近い」


 刀の柄を押さえつけられ、抜刀できなくなった銀生のもとに、いよいよレイラは渾身の一撃を当てに掛かる。

 レイラの左拳を握り、強力な一撃を盾ごと銀生に殴りつける。


「これで…………!」


 ……はずだったが、


「……無駄」


 ヒュッ!


「…………え?」


 そんなレイラの目に不可解な行動が映り、耳に不明瞭な風切り音が響いた。

 銀生の右手が刀の柄から放れ、なにも持たないままレイラの胸元の寸前を横に薙いだのだ。

 特に触れたわけでもない。目の前の空を切っただけの、ただそれだけの行動だったはずなのに……


「!?」


 次の瞬間、レイラの胸元に真横一線の切り傷が生じ、そこから水妖族オンディーヌの身体を動かす、深く青い血液が飛び出た。


(…………斬、られ…………!?)


 目の前の惨状と、レイラの理解が追い付いていない。

 しかし、非情にも銀生の刃は動き出す。


「……近づくな」


 ほんの少し距離の離れた所為で、十分居合の間合いに入ってしまった。

 すぐに戻された右手により刀が抜刀される。抜かれた黒い刀は煌きを持ってレイラに襲いかかる。

 対し、レイラは深手を負ってしまった上、体勢的にももう回避はできない。


(……まだ完全とはいかないが、やるしかない)


 一か八か、レイラは緊急の手に出る。


「【流化イォファ】」

「!」


 だが、今度は銀生にとって予想外の事が起きた。

 銀生の抜刀された刃が、確かにレイラの身体を横一線に通った。それなのにレイラ自身が傷を負った形跡がない。

 傷を負うはずの部分が、一瞬だけ完全な水分と化したのだ。


(……とはいえ、かなり危ないところだった)


 あまり長時間かつ全身に行う事は不可能であり、いつ、どこに攻撃が来るかがわかるからこそできる回避技。


 ぶつかったのはたった二度ではあるが、それだけでレイラは銀生の居合の軌道をある程度見切ったのだ。

 とはいえ完全とまではいかずあくまで掴んだのはタイミングであり、いくら抜刀が速かろうが、相手の右手が刀を掴んでから抜刀されるまでのタイミングが計れただけであり、後は抜かれる刀の角度から斬られる位置を予測し、瞬時に斬られるであろう部分をあらかじめ液状化したのだ。

 半分賭けには近い形であったが、結果攻撃を避けることはできた。


「私に同じ技は効かぬ!」


 一瞬だけ液状と化したレイラの胴体が再びもとの形状へと戻る。

 それと同時にレイラは銀生の右手首を掴む。


「…………!」


 右手を封じられた以上、銀生は居合をすることもできず、膠着状態に入る。


「……触れるな!!」


 接触により滅多になく声を荒げて、もう一度銀生は左手で何も持たずにレイラの左腕の寸前を薙ごうとする。

 先ほどレイラに傷を負わせた技だ。


(…………来たか!)


 こちらの技はなんなのか、まだ見切るどころか理解すらしていない。

 回避よりも先に攻撃で防ぐ!


「はあっ!」


 レイラは、掴んだ右手首を上へ上へと限界まで持ち上げ、それを肩に担ぐようにする。

 その上、銀生に背を向けて、相手の足を蹴りつけバランスを崩し、止めに掴んだ左腕を振り薙いで、銀生そのものを投げ飛ばす!


 投げられた銀生は、先ほどまでレイラがいた所、牢屋跡の床に身体を打ちつけた。


「…………!」

「…………ふぅ!」


 投げた方、レイラは息を荒くゆっくりと呼吸をしていた。

 水の矢を作り出してからここまでの一連、数秒の空白もさほどない戦闘の中、相手の技を見取り、たった二度で瞬時に自分の次にすべき行動を考え、今の流れに至った。


 とはいえ、やはり無傷ですむにはいかなかったようだ。


「…………っ!」


 レイラは、また新たな痛みに顔をしかめ、自分の左腕を見る。

 そこには、先ほどよりも深めの切り傷が垂直に走り、目視はできないが背中の部分にも四つほどの切り傷が感じられる。

 左腕は投げる直前、背中はおそらく投げる方向へと体を向けた時に斬られたのだろう。


(……念のため首を部分液化したが、危ないところだった)


 投げる瞬間に感じた首の部分の通過も、おそらくは斬撃だったのだろう。

 投げられそうになっても瞬時に五回も斬られるとは、よほどの早業だ。


「…………痛い」


 すると、そんな静かな声が聞こえ、レイラは静かにそちらのほうへ視線を向ける。


 投げられた銀生は、むくりと静かに起き上った。

 もともと、位置を逆転するために投げた訳であり、銀生と階段を阻むようにレイラが立っているようになる。

 ここからレイラが銀生に目を向けず階段を目指せば、ここを出ることは可能だ。

 しかし…………


「…………逃がさ、ない」


 銀生はここで初めて、居合ではなくそのまま刀を抜刀した。


(! そのまま抜いた……!)


 銀生が抜いた刀を下げるように構え、ゆらゆらと揺れている。

 今度は向こうから攻撃にかかるということだとレイラは理解した。


さすがにこれ以上は不利か、痛む背中と胸元と左腕の切り傷に苦悶するレイラだが……


「待て、銀生!」

「!」


 その時、レイラの背後から声が聞こえた。

 その聞き覚えのある声は……


「白零殿…………!」


 目の前の殺し屋とは対極となる用心棒の少年、金斬白零が大声をあげて階段を下りてきた。


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