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肆玖話 長話もあれなので……

白零、とうとう自分から行動に移ります。

 謎の声のよくわかんない宣告からほぼ二十四時間後。

 微量のくせにハイカロリーな食事と狭いけど何とかした軽い運動と退屈すぎる時間を得て、やっとここまできた。


『ふむ、時は来た。火の山のいただきから輝かしい満ちた月が見える』

「…………」


 いや、本当に待った……

 一日何もしないで待つだけがこんなにも長く感じるとは……

 いや、


『……どうした、小僧。せっかく時は来たというのに、浮かばれぬ顔をしておる』

「本当に、一日だけ待ったのかなって……」

『む?』


 なんだろうか、ずいぶん待ったというか待たせたというか、そんな気がしてならないのだが…………


『小僧、考え事もいいが時間は限られている。早いうちにこの牢を出るがよかろう』

「あ、そ、そうだな。難しいことは後にしてここを出ることに専念しよう」


 現在、俺の両手首の手枷にある片方の意志が光り輝かなくなっている。

 体温感知の効果が切れたんだろう。しかし……


「こんなときに看守がいないなんて、ずいぶんと警備がザルじゃないか?」

『うむ、ただでさえ危うい均衡の上にいる状況だ。なにかが起ころうともおかしくはない』

「…………」


 嫌な予感がする。

 早いところこんな牢から出てこなくては……


 ……とは言っても、


「ところで、ここを出るにしろなんにしろ、まずはこれをどうすればいいかだが……」

『小僧、貴様は確か剣で戦うはずだったな』

「え? そうだが、なにを今更な事を聞いているんだ?」


 細かいことを言えば刀だけどな。

 せっかく用意したカルリトロスの剣もまったく出番がなく敵に没収されるという哀しいことになるし、

 今の俺は完全に丸腰だ。


『だが、今の貴様には剣がない。故に満足には戦えない』


 うん、そりゃあそうだけど…………

 だからなんで今その話をするんだ?


『己の力を使い、小僧がかつて使っていた剣を再現し、具現化することが可能だ』

「なに!」


 刀を作り出せることが出来るだと!

 どうやって……


『ただし、今の己には無から有を作り出すには無理がある。だから小僧のイメージを借りて作り上げる』

「俺のイメージから……?」


 カルリトロスの戦いで無残に折れてしまった日本刀。

 身刀流の無理に今まで付き合ってくれた俺の愛刀…………


『小僧のイメージなしでは何もできぬ。これぐらいできぬようなら力は貸してはやれぬぞ』

「…………わかった」


 ……力を貸してくれるとは言ったが、まさか武器を作り上げてくれるとは予想外だ。しかもイメージだなんてなお予想外だ。

 だけど好都合。


 少しでも余計なものが入らないように目を閉じ、姿勢を正して、心を静かにする。

 俺の刀とは…………


『さあ、イメージしろ。長さ、重さ、切れ味、質感、強度、匂い、味、または鞘のことも、そしてそれ以上のものを……』

「…………」


 刀……刀…………

 俺の刀は………………


 長さは約二尺……振るには結構力がいる。

 重さは……図った覚えはないけど、一キロは越えていた。

 切れ味は……前に千代がそれで大根をスッパリ切っていたから鋭い方。ちなみにちょっと怒ったなあの時。

 質感は、木の芯のある堅さと編んだ紐の凸凹した柄。そして刀身が冷たくざらざらする。

 強度なら硬さもしなやかさもどちらもある。

 匂いは……鋼の無機質さと、ほんの少し染みた生臭い血の匂い。

 味は…………味? わかるわけないだろそんなもん。多分鉄だろ。


 鞘も鞘で、多く役に立った。なにせ、深手を与えずして無力化するのに幅広く使った。

 鞘もあってこそ一つの刀、それらに身体を含めてひとつの身刀流だ。


『小僧。貴様は何を祈り、剣を振るう。何を望み、敵と戦う』


 俺は……俺は……

 俺自身を護るため、

 千代やラネットなどの仲間を護るため、

 敵を斬り伏せるも、決して一線は越えないため、


 そして、俺自身にできないことを可能させる為。

 だからこそ…………必要なんだ!


『もう良い、目を開けろ』

「………………?」


 俺がゆっくりと目を開けると…………

 ………………!?


『ほんの一部が曖昧だが、だがなかなかよい業物ができた』

「…………ほ、本当に……」


 本当に、刀が出てきた…………!?

 それも俺がこれまで使い慣れた日本刀にそっくり……!

 ご丁寧に鞘まである……!


『己が力を貸せるのはここまでだ。あとは小僧自身の力でどうにかしろ』

「……謎の声、ありがとう」


 予期しないことだが、これは願ってもない好機だ。


「よし、行くぞ!」


 まず俺は目の前の刀を掴み、牢の狭さに気を付けながらも、口と手を使って抜刀。

 次に抜刀した刀を、刀身に気を付けながらうまく動かし、刃がこちらを向くように地面を垂直に立てて、脚で固定する。

 枷で封じられた手で軽く刀に触れ、ぐらついたりしないかしっかりと確認する。

 少しぐらついたため、今度は柵の部分に引っ掛け、そこを脚で固定。大丈夫、ぐらついてなんかいない。

 さらには鞘を、刀身の上の手錠の上に配置。挟み込むように配置。


 よし、準備ができた。


 俺は、枷で封じられた両手を思いっきり引く!


「はぁ!!」


 手首と手首の間の枷の部分を、地面に立ててしっかりと固定した刀の刃に強く引いて擦る!


 シュッ!


「! …………硬いな」


 枷の中央は、ほんの少し削れただけであまりひびが入っていない。

 だが、少しでも削れてはいる。


「刀がもつといいが……」


 頭を使って鞘を押し、刀身と鞘で枷を挟み込み、強く押し付ける。


 間違えて手を切ってしまったらしゃれにならん。集中しろ。


 シュッ!


 ……まだだ。まだまだ!


 シュッ! シュッ! シュッ!


「すぅ…………」


 シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!

 シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!

 シェッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!

 シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!

 シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!

 シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!


「…………ふぅ」


 よし、八割がた削ることが出来た。

 もう少しだ。

 けど……


「こんだけ音を出して本当に誰も来ない……?」


 牢が厳重なのに看守がいないって、それどうよ。

 ……余計なことを考えてないで、急がないと、


 シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!

 シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!


 …………もう少しだ。


 手枷の中央は八割がた削れている。

 あとは強い衝撃を与えれば…………


 最後の止めを刺すように、俺は手枷を限界まで上げて、刀の刀身に振り下ろす!


 ガンッ!! ………………パキッ!


「…………よっし!」


 何とか手枷の中央を破壊することが出来た!

 枷の中央が破壊されたことで、俺の両腕は自由に動かすことが出来る!

 ただ、枷にはまだ爆発する方の石がある。鍵を見つけて外さないと安心できない。


 とはいえ、なんとか自由には動けるようになったんだ。

 あとは……


『……小僧、いくら己が作り上げたものとはいえ、始めからその使い方はないだろう』


 おや、謎の声が若干怒っているよ。

 まあ確かに今のは刀の使い方としては乱暴だが……


「大丈夫だ。刀には罅は入っていない」


 やっぱり頑丈だなこの日本刀。

 謎の声の補正も入っているかもしれないが、やっぱりすごいや。

 あ、そうだ。


「謎の声、こんなことを頼むのは図々しいが、あともう三本作ってくれないか」

『なに? 貴様、刀四本など欲張りすぎではないか?』


 そりゃあそうだよな。武器はたくさん持っていればそれでいいとは限らない。重いし動きづらいし、刀を何本も持つなんて意味はないと思うだろう。

 けど、


「身刀流の真髄、それに連なるものを見せることが出来るようになる」

『……ほぅ、いいだろう。元の一本を雛形にすれば造作もない』


 ……よかった、謎の声の許しは得られたようだ。


「さてと、次は……」


 この牢屋をどうやって脱出するのかだが……

 今、俺の手元には一本の刀。

 手枷はついたままだが自由に動かすことは可能。

 そして、柵の外側にはびっしりと熱凝石がある。

 おまけに牢は高い天井から鎖一本で宙づりにされた鳥かご型、しかも下は溶岩。

 牢屋から壁際にある足場までだいたい二十メートルぐらい。


「どうやってここを出るか……」


 考えろ、考えろ俺……


 …………。

 ………………。

 ……………………。


「……ある!」


 俺は牢屋の足元の部分をよく見る。

 そこに熱凝石は……ない。

 ならば行けるか?


「…………はっ!」


 俺はまず刀の先端を地面に向け、全力をかけて突き刺す!


 ガッ!!


「よし!」


 振り下ろした刀は折れることなく鳥かごの牢の底を突き抜けた。

 そしてそれを動かして地面を円型に刳り貫く!


「上手に斬れました!」


 俺の足元に円形型の穴が生じた。

 爆発は…………しない!

 次にその地面の穴の縁に手をかけ、ひび割れて壊れないように確認する。


 ……いけるか?


 俺は刀を鞘に納刀し背中にかけて両手を空ける。そして、穴の縁に片方の手をかけて穴の中へとゆっくりと降りる。……落ちないように気を付けないといけない。


 手を上に、体の半分以上が外へと出たところで、俺は空いているもう一つの手を斜め上……外側の柵の間の所へと伸ばす。

 穴の縁を掴む手がしびれる。距離は、ギリギリだ…………


「届け…………!」


 ………………よし、届いた!

 俺のもう片方の手で牢の外側を掴んだ後、それがしっかりと握られることを確認したら今度は穴の縁を掴んだ手を放す。

 その時、俺の身体は一気に下へと引っ張られそうになるが……


 まだ大丈夫。あと少しだ!


 放した手を上に伸ばし、さらに上側の柵を掴む。

 そして次にもう片方の手で上へ、さらに上へ、上へ、

 そして…………


 着いた。まずは脱出できた。


 やっとのこと俺は、牢の外側の天辺、天井から伸びる鎖の接点の部分に辿り着いた。

 牢から出られたあとは、ここから壁際のわずかな足場へ行く方法だ。

 俺は鎖を両手でつかみ、体全体を使って思いっきり足場の方へと体を傾けていく。

 すると、牢屋がほんのわずかだけ動いた。ほんのわずか、たった一センチにも満たないほどだ。

 だが、今度は逆方向に全体重を傾け牢屋を動かす。……今度は先ほどよりもほんの少しだけ大きく動いた。

 さらに俺は、もう一度足場のある方向へと全体重をかける。

 牢屋は一回目よりもわずかに大きく動いた。


 これを繰り返せば……!


 振り子の原理……またはブランコを加速するように、前へ、後ろへ、前へ、後ろへ、前へ、とにかくひたすらに全体重をかけ続ける!

 ほんの僅かずつでも、だんだん運動量を増していけばどれだけ重い牢屋でも加速していく!


 …………そろそろか!?


 時間をかけたが、牢屋はいい感じに扇の形のように、振り子のごとく振られていく。

 あとは、次に牢屋が足場のある壁際へと迫り切った瞬間……


 …………ここだ!


 俺は振り子の力に合わせるように、牢屋の天辺から鎖から手を放して、壁際の足場へと跳ぶ!


 間に合うか? 間に合うか!?


「いっけえええええええええええええええええええ!!」


 どうだ、あと十六メートル……十四……十二……十…………

 八……六……四……二…………だめだ、ほんの僅かだが足りない!

 けど、


「まだ手はある!」


 幸い、足場よりやや下の壁には届いた。

 俺は急いで背中の刀を抜刀し、それを壁へと突き刺す!


 ガギギギギギギギギギギギギギギッ!!!!


「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 止まれ! 止まれ!! 止まれぇ!!


 ギギギギギギギギギギギギ……ギギ……ギ…………!


「……はぁ、危ないところだった」


 なんとかギリギリのところで落下は免れた。

 しかし、足場の所まで結構上だ。さて、どうするか……


『小僧、お前もなかなか無茶な脱出を試みるものだな』


 謎の声もさすがに見かねたのか、呆れたように言うよ。

 確かに今のはかなり危なかったけど、


『それで小僧よ、お前が頼んだ残り三本の刀、今ならばすぐに具現化できるが?』

「この状況を見ろよ。どう見てもそこで出されても…………」


 ……いや、そうでもないか?

 あと一本あれば……


「謎の声、あと一本だけ出してくれないか?」

『……いいだろう』


 謎の声はこの状況で俺がしようとしていることがなんなのか察したらしい。

 謎の声の了承の後に、壁に突き刺した刀を持っていない方の手に、もう一本の刀が現れた。

 重さも長さもそれ以外も、元の最初の一本目と全く同じ刀だ。模倣と言うやつだろう。

 俺は納刀されたそれを、鞘を咥えてなんとか抜刀する。

 そして、その刀の中ほどの所へと持ち替え、しっかりと握る!


「…………っ!」


 痛がるな。多少手が切れたぐらいだ。

 身刀流にとって、刀は体の一部。刃を握る事もまた然り!


「うまく行け……!」


 ガッ……!


 俺は、刃を握った刀を、先ほど刀を刺した地点よりも上の所に刺す!

 とにかく深く、簡単に抜けないようにしっかりと刺す。壁が間近にあるのに柄を持っていたら長さと距離的に真っ直ぐ刺さらないからな。


 とにかく、刺した刀がしっかりとしたことを確認した後、今度は落下を止めるために刺した刀を抜き、こちらも刀身の中ほどの所を握って、さらに上の所を突き刺す!


「……ふぅ……ふぅ…………」


 このまま繰り返して足場の所まで登る!


『……小僧、お前はその剣を剣とは思えぬ使い方をする。具現化したのは己だが、生きた者が作る武器ならば、そのものに同情せざるを得ない』

「ははは、まったくだ……」


 ちゃんと手は止めないように気を付けつつだが、そんなことを言われると苦笑いをせざるを得ない。

 これ自体もそうだが、なにぶんねえ……


 俺の親父は、身刀流を作った人なんだけど、普段から変な人で、道具を道具とも思わない使い方をするからさ……


 そうこういろいろと思いながら壁に刀を突き刺して上り続けている内に、時間をかけて……


「…………よし、着いた!」


 どれくらい登り続けたのだろうか……

 ようやく足場までついた……


『よくぞここまできた。最後に己の力を貸すことになったが、ここまでくれば大したものだ』

「……結構、疲れた」


 だが、休んでいる暇はない。

 早くここから離れないと……


「…………はっ!」


 俺はとにかく体を起こし、背中に背負った日本の刀を確認した後、いそいでこの部屋の出口へと走る。

 お、扉らしきものがあった。

 とにかくゆっくりと、外の様子を覗いてみるが……


「……? 変だな、まったく火蛇族サラマンドラの姿が見えないぞ」


 部屋の外には右や左へと長く続く廊下がある。

 とても人が隠れられそうなところは見当たらず、看守どころかまったく火蛇族サラマンドラの姿が見えない。

 どうなっているんだ……?


 いろいろと思う所があるが、考えてもわからないだけならば進むしかない。


「謎の声、あと二本出してくれ」

『よかろう。有効に使え』

「ありがとう」


 謎の声によって出された残り二本の刀を、背中ではなく腰の所に掛ける。

 背中に二刀、腰に二刀の重装備だ。

 少々動きづらくなるが構わない。


 さて、記憶を頼りにレイラさんやガルシャードがいるはずの牢は何処だったか……

 …………あっちか。


 とにかく廊下を走り続けるしかない。

 レイラさんもガルシャードも無事だったらいいが……


「……しかし、謎の声のおかげで刀を出せるんだったら、カルリトロスの剣を持ってきた意味はあったのだろうか……」


 結局、一回も使うことなく没収されたし、まったくもって意味もないまま新しい刀が出てしまったな。

 もちろん、ここでのことが終わったらちゃんとした刀を探すか作ってもらうが……


『言っておくが小僧、そいつは何の代償もなくできる物ではない。戦いが終われば消滅することを肝に銘じておけ』

「……わかった」


 ま、やっぱり思った通りだな。

 それ以前に、こんなにも火蛇族サラマンドラがいないならそんなに使う事はないと思うが、


『おい、大変だ! 例の迷い子が脱走したぞ!』

「ん?」


 おや、後ろの遠くで声が……


『なに! ちくしょう、ただでさえこちらがいろいろと大変だってのに……!』

『人手が足りないからと集中し過ぎて目を離すべきではなかった。今すぐ追うぞ!』


 ……おいおい、今気づいたのかよ。大丈夫かここの兵士?

 けど、外でいったいなにかあったのだろうか、別のことに気を取られていたらしいようだが……


『気をつけろ、押収した武器から奴はカルリトロス将軍の剣を持っていた! ということはあの迷い子がカルリトロス将軍を殺した犯人かもしれん!』

「…………」


 え? なにそれ?

 それって濡れ衣じゃね?


『すぐに入口の奴に連絡を取れ! 決して奴を外に出すな!』

『ここにいる者だけでもいい、今すぐ火蛇族サラマンドラの兵士を集めて止めに掛かる!』

『ああ、殺し屋の奴が警戒していた相手だ! 今日一日だけやけにおとなしいかと思っていたはずだが、この時を待っていたのか……!』


 まさか、この流れって……


『全力で奴に掛かれ! 半殺しですませろ!』

『『『了解!!』』』


 あれ? あれえ?

 俺一人なんかの為にみなさん頑張りすぎじゃないですか?


『小僧。貴様が持ってきた剣が役に立ったな』

「役に立ってないどころか、とんでもないマイナス効果じゃん」


 ちくしょう、無茶苦茶すぎていったいなにがどうなっているのかさっぱりだ。えっと、まずは手錠の鍵を探して……


「…………」


 レイラさん、ガルシャード。無事でいてくれ……!

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