肆漆話 知らないところで動く人たち
白零達が捕らわれの身になっている一方で……
脱走したキノサキさんが何とかすると言ったり、でもそれが心配でラネットさんがキノサキさんを追いかけてなんとかしたり、色々なことがあったその次の次の日ぐらいです。
もどってきたラネットさんから衝撃的なことを聞きました。
「リュンピさんが、水妖族さんの里からここに訪れている……?」
「ええそうよ。私もびっくりしたけど、隊長曰く私達がロビィの仲間を探しているときに使節を送っているらしいの」
「でも、だったらなんでリュンピさんがこの里に来ているの? 族長だから離れられないんじゃ……」
「リュンピ様が里にきた用件は一つ。族長と話し合いに来たらしい」
「え、風精族さんの? なんで?」
「それは…………」
なにか言いたくなさそうに口元を動かしているラネットさんですが、もしかして言いづらそうなことなのでしょうか。
そうあまり重くは思っていなかったのですが、それが次のラネットさんの言葉が衝撃的に聞こえました。
「……風精族は火蛇族に里を襲った報復をするため、戦争を始めるつもりらしい。その上、同盟の水妖族にも戦う意志があるのか、こうして会談の場を設け、意思確認に来てもらった」
「!?」
風精族さんが、火蛇族さんに……?
折角、里が助かったのに……また争いを…………!?
「そんなの……!」
「ええ、いくらなんでもそんなのはあってはならない事よ。まだアローン将軍の隊に襲われた里の傷はまだ完全に癒えていない。騎士団だってまだ満足に戦えない様子よ」
「……止めることはできないのですか?」
そんなことが起きたら今度こそ風精族さんが大変なことに……
「……少なくとも、私がなんと言おうと、それで里の上層部である宮廷術師が考えを変えるとは思えない」
「きゅう、てい?」
「族長の次に偉い、里を護る精霊術師よ。結界とか気候とかいろいろと調整していて、十数人はいるわ。だからたとえ今回の事が族長の考えに合わないことでも、無理に意見を否定することもできない」
……そんなに偉い人なのですか。
でしたらなおさら何で争いごとなんてことを……
「……族長は種族間の争いに関しては消極的で、少なくとも自分の方から戦い出すなんて言うはずがない。でも、族長が否定してもその次に位が高い宮廷術師の全てがそうだと言えば、いくらなんでも無視しきれない」
「…………」
それはとても不安な事です。もしもそんなことになったら、私や零ちゃんだけではどうにもなりません。
でもラネットさんは全く弱気にならずに、力強く断言します。
「大丈夫よ。私は族長が戦いを起こすことはしないと信じる。私も隊長も、そんなの認めはしないし、できることは必ずあるわ」
「ラネットさん……」
……信じるしか、ないのですか。
私には、このことを止めることはでき……
「でもねクロチヨ。話の主眼はそこじゃないの。本当はこのことは話したくないつもりだけど、どうしても話さなくちゃならない理由があるわ」
「え? 話さなくちゃいけない理由……?」
まだなにかあるのでしょうか?
ここからラネットさんにとって本題が話されます。
「そうよ。ただでさえ面倒くさい迷い子の問題で頭を悩ませているのに、もっと面倒くさいことが起きているかもしれないのよ」
「?」
もうキノサキさん達は危険なことはしないでしょうが、それよりも大事とは何なのでしょうか。
「実は隊長経由でリュンピ様から私に伝言があったの」
「え? という事はリュンピさんからラネットさん宛にですか?」
「ええ。いなかったら言わなくてもいいが、いた場合は伝えといてくれ、という注意もあったけどその内容が…………」
「?」
リュンピさんが、ラネットさんにでしょうか。
この時点でどのような内容なのか全く想像が付きませんでした。
「『レイラが今、火蛇族の里に向かっている。多分小僧たちを巻き込んでいるかものう』と言われたわ」
「…………?」
リュンピさんが小僧と呼ぶのは……零ちゃんの事ですね?
確かにそれは驚く事ですけど……
「え、そうなの? やっぱり?」
「…………あれ?」
零ちゃんのことだから、そんなことが起きても不思議ではありません。
「……もうちょっと危機感を抱きなさいよ。私がバカみたいじゃない」
「でも零ちゃん、昼江さんが火蛇族さんのところに居るとか言っていたから。いずれ火蛇族さんの所に行くのは予想しています」
「……あらそう」
でも、零ちゃんが今、火蛇族さんのところに居る?
退院した所は見ていませんし、刀もないですし、それじゃあ…………
……危険な予感がします。
「ラネットさん。零ちゃんが心配です。すぐに火蛇族さんの里へ……」
「ごめんクロチヨ。私、今回は無理」
「え?」
ラネットさん、無理って……
一緒には行けないのですか?
「この里の今後の事について結構ざわついているから、まだ決まったわけじゃないけど調査隊はいろいろとやらなくちゃならないことが多いの。私はもちろん、隊長も争いは起きてほしくないから何かできることがないか模索してみるわ」
「じゃあ……」
「ごめん。私はついて行けないわ」
……ラネットさんもラネットさんでやるべきことがあるようです。
無理強いはできません。でも私だけで火蛇族さんの所へ行くのは……
「でも代わりに、頼りになるかは……微妙だけど助っ人っぽい者は用意したわ」
「え?」
「そろそろよ…………来なさい!」
「はぁ~い!」
「ヒャッハー!」
「!」
その時、ラネットさんの合図でキノサキさんとヘルメスさんがひょっこりと出できました。
……すこし意外でした。
「キノサキとヘルメスとで、何とか説得には成功したわ。問題を起こさないならもう里の外に連れて行っても大丈夫よ」
「ほ、本当ですか!」
先ほどよりもさらに驚きました。
まさか認めてもらえるとは思わなかったからです。
「そういうことクロチー! 同行よろしく!」
「やったねヒャッハー! 一緒に旅ができるぜ!」
「キノサキさん、ヘルメスさん……」
大丈夫です。今のキノサキさんとヘルメスさんには危険な感じがしません。
ラネットさんは渋々ですけど、キノサキさん達を見て仕方がないように言います。
「本当はまだあんたらを信用しきっていないし、クロチヨが心配だけど……どうしてもってあんたらが言うから、隊長に頭下げたりなんかして必死に説得して……」
「ありがとうラッちゃん! この恩は忘れないよ!」
「ラッちゃんって呼ばない! あと気安く触らない!」
あ、キノサキさんその呼び方気に入ってるのですね。
ラネットさんには不評ですが……
「ヘェェェェェェェェエエエエルメエエエエエェェェェェェェスッッ!! さっきからラッちゃんの態度がつれないよ! もしかして嫌われてるの!?」
「そうよ」
……いえ、どちらかと言えば正確には警戒しているように見えますが、
「ヒャッハー! 気にするなよ! ああいうのは嫌よ嫌よも好きの内って言って、つまりなにが言いたいかと言うとツン…………」
「意味がよくわからないけど、それは絶対違う!」
まったくもう、とラネットさんは疲れたように私を見てキノサキさんから露骨に目をそらします。
……大変そうですね。
「クロチヨ。ハクレイの事もそうだけど…………あんたも気を付けて」
「はい。ラネットさんも気を付けて」
「もちろんよ。ロビィたちからは私が言っておくわ」
いろいろと突然ですし、いきなりロビィさんたちやアデルさんに挨拶なく分かれるのは忍びないですが……
「おおい! まさか始まるのか! こちらガンスロット=キノサキとヘルメスの、醜くも美しい世界への旅が!!」
「ヒャッハー! いざゆかん、新たなる大陸へ!!」
「……いちいちつっこんだら駄目よ私。事情を知らないとはいえ暢気すぎるとか、目的が違うとか、そもそも別の大陸じゃないとか……」
……早く里を出た方がいいですね。
2
いろいろと疲れることもありましたが、なんとかして、キノサキさんやヘルメスさんも連れて、まずはオーリエ村に真っ先に戻りました。ヘルメスさんはとても速かったです。
そして診療所に駆けつけたら……零ちゃんがいなくなってました。
その上、置き手紙がありましたが……
『すまん。ちょっと火蛇族の所へ行ってくるわ。お土産は友達連れて帰ってくるから』
やっぱり、零ちゃんは零ちゃんだね。
こんな時でも心配を掛けさせない零ちゃんに、なぜか少しだけ笑えます。
「クロチー。いったいどうしたんだ? 持病の水虫?」
「ヒャッハー。もしかしたら偏頭痛? お大事に」
「…………」
……心配、しているのでしょうか?
他にも、一応村の皆さんに話を訊いたところ、村長のディオンさんがなにか言伝を預かっていました。
ディオンさんが言うには、もしも私やラネットさんがここに来たら言わなくちゃならないことだけど……
「『すまん。ちょっと火蛇族の所へ行ってくるわ。お土産は友達連れて帰ってくるから』だそうだ」
……なんで二度も言うのでしょうか。念には念を入れるという事ですね。
でも、私たちが戻ってくるのが遅かったから何とも言えません。
だから……
「キノサキさん。ヘルメスさん。お願いがあります」
「ん?」
「どうした。ヒャッハー」
もう里からは出てしまっていますが、改めてキノサキさん達に確認します。
仮にも危険そうなところへ行きますので、どうしても確認しなければなりません。
「私はこれから、火蛇族さんと言う種族が住んでいる所へ行くのですが、ラネットさん曰く危険な所です。それでもキノサキさん達はついて行ってくれますか?」
「…………」
本当はここでキノサキさんは自由に動いてくれるのならばそれでもかまいません。危ないことはいけませんが…………
ですが、もし私について行くのなら、その前に言わなくてはなりません。
「それでも、私について行ってくれますか?」
私が、キノサキさんとヘルメスさんに確認をすると……
「……クロチー。お前がこちらを拒絶しない限り、こちらはクロチーについて行くぜ」
「キノサキさん……」
「ヒャッハー。第一それを言ったらお前の方が大丈夫なのかよ。他人の心配より自分の心配をしやがれ」
「ヘルメスさん……」
……迷いなく答えてくれました。
とてもありがたい事です。
「ありがとうございます。ではキノサキさん、ヘルメスさん、行きます!」
「ラジャー!」
「ヒャッハー!」
もうすでに用事はありませんので、ディオンさんに御詫びもかねて挨拶をした後に、私たちは、風精族さんと火蛇族さんの間にある国境砦に向かいました。
そして、国境警備隊の皆さんに、零ちゃんたちの事を訊いてみましたが、それらしき人物が国境を通った形跡はないようです。
しかし、通ってはいませんが、門前払いされた迷い子と水妖族さんの姿が確認されたようです。特に迷い子は珍しい白色の髪だったらしいです。
間違いありません。零ちゃんとレイラさんです。
国境を通った後はなくても、もしかしたら抜け穴を通るように、火蛇族領へ足を踏み入れたかもしれません。レイラさんがいますから海から渡った可能性もあります。
でしたら、多少無理はありましたけど、あらかじめラネットさんから受け取った通行証らしきものを出して、国境警備隊の皆さんに頼んで火蛇族さんの里へと通してもらいました。
私もキノサキさんもヘルメスさんも、明らかに怪しく見られてていましたけど最後には許してくれました。
3
その後、私とキノサキさん達は火蛇族さんの領内を走っています。
走ってはいるのですが……
ブオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォ!!
は、速い……です…………!
周りの景色を見る余裕がありません……!
「キノサキさん……もう少し遅くできませんか…………!」
「おいおいこれでも減速中だぜ! もっとしがみつかんかい!」
「ヒャッハー! しがみつかんかい!」
「そう言われても……!」
今の私は、キノサキさんと同じく、ヘルメスさんに乗って走っている状態であり、かなり速い速度で走っているヘルメスさんに振り落とされないように、キノサキさんにしっかり掴まっています!
風精族さんの里からオーリエ村までもそうでしたけど、私には辛い速さです…………!
なぜキノサキさんは平気なのでしょうか? 私はしがみついているのに精いっぱいで、とてもではありませんが耐えきれる速さではありません……!
「ヘールメース。そんなに早いか?」
「ヒャッハー。キノサキは動体視力も加重負荷耐久も並みじゃないから、一般人の感覚がよくわかってないのさ」
「そうなのか? それじゃあ……」
あ…………
ヘ……ヘルメスさんが助けに入ったおかげで、キノサキさんは渋々減速してくれました。
た、助かりました……
「これくらいでどうだ。結構遅くしたぞ」
「あ……ありがとうございます……危うく振り落される所でした」
「んもう、軟弱だぞ! そんなに早かったかヘールメース」
「ヒャッハー。一般人には早いぞ。さっきのは時速百二十キロは振り切っているんだからこれでもクロチーは頑張った方だぜ!」
「そ、そんなに速かったのですか…………」
キノサキさんと一緒にヘルメスさんに乗るのは大変です。
「しかしキノサキさん。こんなにヘルメスさんを飛ばして、疲れないのですか?」
「ええ? いやいや大丈夫。今のヘルメスはエコノミーモードだから、騒音なんか出さないし、加速はそんなに早くないが最高速度は変わらないし、燃料に気を遣う状態の今なんかにはぴったりだ」
「ヒャッハー。その割には結構な速度だね!」
「はあ……そうですか…………」
……まったくよくわかりません。ヘルメスさんは本当に自動二輪車でしょうか?
そんなこともありましたけど何とか一緒にヘルメスさんに乗って、火蛇族さんの領内を走っています。
今は月明かりが目立つ真夜中でありますが、それでも前があまり見えない状況でありますので、ヘルメスさんが灯りで前方を照らしています。
また、今は里を目指しているわけではなく、村の方を探しています。
というのも……
「クロチー。火蛇族とやらの里がどこにあるのかわからないのか?」
「はい。ここに来るのは初めてですし、案内してくれる風精族さんはいませんから」
「そうか……」
皆さんとても忙しそうでしたから、いきなり里の外に連れ出すことはできません。
ですからどうしても自力で見つけだすより他がないのです。
「なるほど。自分で走って見つけだせ、か。その為にまずは第一の村を探せと?」
「はい。村の場合はどこにでもあるから見つけること自体は問題ないです。でも、そこで里の情報がちゃんと手に入るのかどうか……」
私もキノサキさんも人間ですから、火蛇族さんに問題なく里の場所を教えてもらえるのかわかりません。
少し不安です。
そう思っていると、キノサキさんが何かに気づいたようでこちらに話しかけます。
「おい、クロチー。そろそろ前方になにか村らしきものが見えてくるぞ!」
「え?」
村? 前方に村があるのですか?
しかし、目の前は真っ暗闇で何も見えません。ヘルメスさんが灯りで前を照らしているけど、やはりなにも見えません。
しかしキノサキさんが嘘をついている様子でもありません。
「こんな暗い中なのにわかるのですか?」
「わかるぜ! このマルチセンサーは暗視機能も付いているんだぜ!」
「それは、すごいです。キノサキさんだからできることですね」
「いやいや、そんなに褒めんなよ!」
キノサキさん、褒められて照れているのでしょうか。
ちょっと可笑しいです。
「…………ふふっ」
「……ヒャッハー。おいおい、浮かれているんじゃねえぞ」
「あ、そうですね」
逆にヘルメスさんがちょっと怒っています。キノサキさんと一緒に叫ぶことはあっても、ヘルメスさんの方がしっかりしているのですね。
不思議な二人組です。
「あの、キノサキさん、ヘルメスさん。大切な事なので聴いてください」
「え?」
「ヒャッハー?」
でしたら村に入る前に関らず言わなくてはならないことがあります。
大事な事、ですので……
「実は火蛇族さんは人間に対して、あまり友好的ではなく、それどころかむしろ嫌っている人が多いようです。もしかしたらとんでもないことをするかもしれません。ですが……」
すべての火蛇族さんがそうだとは言いません。
ですけど、浜辺で初めて会った時やラネットさんの時がありましたから、安心し切れるわけではありません。
でも……
「何があっても絶対に攻撃しないでください。私たちの目的はあくまで里への情報を訊きだすことです。でもどんなに不快なことを言われたりされたりしても、ひどいことはしないでください。お願いします」
「…………」
私は、ヘルメスさんに乗っていますから真正面でもありませんし頭も下げられません。でも、どうしてもこれは大事なことなのです。
すると、キノサキさんは胸を張るように自信をもって言います。
「大丈夫だクロチー。今のこちらやヘルメスは、誰も危害を加えるつもりはない。少なくともお前の目がある限り、ね」
「目がなくても、キノサキさんにいけないことをさせません」
「…………おや、そう」
少し予想外の答えが出ましたけど、とりあえず手を出すつもりはないようです。
……それを聴いて安心しました。
信じましょう。キノサキさんなら大丈夫です。
過去の事は関係ありません。
「ヒャッハー! ちょっと待ってクロチー! 本機の事は信じてあげないの!?」
「え?」
あ、いけません。ヘルメスさんのことも信じなくてはいけません。
「ヒャッハー! 嘘だろ!? お願い信じてっ! キラッ!」
「あ、はい。ヘルメスさんの事もひどいことはしないと信じます」
「ヒャッハー! やったぜ!!」
「よかったなヘールメース!」
ヘルメスさんは自動二輪者ですけど、信じたいと思われるとは不思議です。
自動二輪車でも、信じられたい気持ちはあるのですね。
ヘルメスさんだからこそでしょうか。
「約束、守ってください」
「当然」
「ヒャッハー、男に二言はノー!」
「……男?」
ヘルメスさんが男なのかどうかは疑問ですが、大丈夫なようですね。
あ、向こう側になにか…………
「キノサキさん。あれ……」
「見えた。おそらく火蛇族の村!」
「あれが…………」
ヘルメスさんが照らした明かりの向こうに、石造りの建物が群がる集落があります。
あそこに……
「零ちゃんを知っている人がいるといいですが……」
「クロチー。さっきから誰だそいつ?」
キノサキさんは零ちゃんを知らないので訊いてきました。
そうですね。もしかしたら零ちゃんとも長く付き合うかもしれませんし……
「私と同じ用心棒で、大切な仲間です」
「へぇ、クロチーの仲間か……会ってみたいものだ。あ、着くぞ」
「はい!」
目的地に到着しました。私もキノサキさんもヘルメスさんから降ります。
火蛇族さんの里の場所について、うまく訊けるといいのですが……
この村は……




