肆壱話 密入国なんか、しちゃだめだぞっ!
さてと、俺とガルシャードとレイラさんという、奇妙な面子でオーリエ村から出た俺たちは、右からレイラさん、俺、ガルシャードと横に並んだ状態で、風精族の国境砦に向かっている。
いったい、なんでレイラさんがここにいるのだろうか、歩きながら俺達は、その理由を聞いた。
「つまり、リュンピさんの命令で、レイラさんは火蛇族の里へ行くことになったのか」
「そういうことになる。なにやら火蛇族の様子がどこかおかしいと、リュンピ様がおっしゃられたので、そのために私が選ばれたと言う訳だ」
「……レイラさん、確か親衛隊の隊長とかなんとか、そんなんじゃなかったっけ?」
……どうやら、風精族の里の事を知って、そこでなぜか火蛇族を不審に思ったリュンピさんがレイラさんに命令して、火蛇族の里へと向かわせたようだ。
というか、レイラさんはリュンピさんの親衛隊なのに、そんなに簡単に主のそばを離れてていいのか?
そして大丈夫か里?
「そうではあるが、リュンピ様が命令されれば私はただそこへ向かうのみだ」
「……だとしても、命令されてからいきなり里の外に出されたんだろ? なんかこう……意見? することとかないのか?」
それに、火蛇族の様子がおかしい気がするのは分かるが、それですぐに火蛇族の里へ直行させるなんていきなりすぎる気がするし……
けど、心配する俺とは違ってレイラさんの表情は真剣だ。
「……どんな命令であろうと、リュンピ様が間違ったことをおっしゃらないと信じる。信じる以上、従うのが私だ。なにより、私はリュンピ様からの一番の信頼を持つ者。故に重大な指令を受けるのは当然の事だ」
「すげぇ……言い切った」
迷うそぶりもなくスラスラとそんなこと言えるのがすご……
「だが……いくらお気に入りとはいえ、リュンピ様も少しはあれを控えてくだされば、私もまだ安心できるのだが…………」
「…………」
なんだろう……レイラさんからなにか不穏そうな感じが発せられたのだが……
……知らなかったことにしよう。
「……あと、こうして白零殿に会いに来たのは、ちゃんと無事に動いていられるかどうかの確認でもあるからだ」
「確認……」
「そうだ。その様子だと特に問題はないようだ。無事でよかった」
「レイラさん…………」
どうやらレイラさんは、リュンピさんの治療により俺がキチンと、動いていられるか確認したかったからだな。
そうだ、だったら治療の時のお礼、レイラさんでもちゃんと言っておかないと……
「しかし……」
「ん?」
「それにしてはどうも…………」
俺が治療りてくれたリュンピさんにお礼を……もといそれをレイラさんにも示そうとはしたのだが、なぜかレイラさんが訝しげに独り言をつぶやきだした。
いったいなにが……
「あの……よろしいでありますか?」
「ん?」
すると、話を聞いていたガルシャードが、なぜか感心するように話しかけてきた。
「なんというか……ハクレイさんは、水妖族の、それもあの族長を守護する一番の兵士と付き合いがあるのでありますか……」
「いや、まあ俺達がこの世界に迷い込んだのは、水妖族の里からだしな」
「そうでありますか……」
と、ガルシャードが話に入ってきたところで、今度はレイラさんが不思議そうに視線をガルシャードに向ける。
そりゃあ、ここ風精族領に、堂々と火蛇族がいれ、しかも俺と行動を共にしているからな……
「それにしても白零殿。さきほど殿の話から、この火蛇族が無害という事はわかったが……」
レイラさんは、もう警戒する様子のない瞳をガルシャードに向けてきた。
こいつの諸事情は、ある程度話したのだが……
何に呆れているのか、ため息をつきそうな表情で言う。
「隊の長に切り捨てられ、その上敗北し、置いて行かれたと言うのか。……まったく愚かしい話だ。ろくな隊長ではない」
「え……そ、そうでありますか……?」
「そうだ。それに有効でもなんでもなくただ切り捨てただけならば、その将軍はいろいろと無能すぎる」
「はあ……そうでありますか」
レイラさんが、カルリトロス将軍の事で怒ってはいるんだが、ガルシャードの反応はイマイチだ。
複雑と言うか、なんといえばいいのか分からなさそうな表情をしている。
「そういえばカルリトロス将軍は、今どうしているのでありましょうか。風精族に捕まったと言うのならば、いろいろと不安がありますが……」
「…………」
そうか……こいつはずっと診療所内にいたから、ずっと外がどうしているのか分からないんだな。
あの時、こいつの説得や情報収集いろいろと駆けまわったが、その時オーリエ村の警備兵から驚きの事実を聞かされた。
曰く、カルリトロス将軍が何者かに殺害された、とのこと。
しかも、確証はないがその日にちは、俺が入院中に起こってしまったことで、むしろ知るには遅すぎたくらいだ。
「ガルシャード殿は、自分を切り捨てた隊の隊長でさえ、心配をするのか?」
「あ……いえ。……確かに、自分は将軍には切り捨てられたでありますが、もとはといえば自分が不甲斐ないことを言ってしまってせいで…………」
「そうか……」
ガルシャード……あくまで自分の上司を悪くは言わないつもりなんだな。
しかし、ガルシャードはそう言っているが、俺にとってはあいつは腹が立つタイプだし、そもそももうこの世にはいない。
死因は、なにか分厚い刃物の類で、体中を割断されたそうだ。
風精族に心当たりがないというのなら、こんなことができるのは一人しかいない。
昼江……
この世界で再会したタイミングとかも考えて、あいつしか思い浮かばない。
いかにもあいつが嫌いそうなタイプだったしな。
とはいえ、妙だ。
いくらあいつが悪を嫌うようなとはいえ、自分の雇い主を殺すようなことをするとは思えない。
それ以前に雇われたくない、と拒絶をするはずだ。
いろいろと、矛盾していることも多い。
いったいあいつは何を考えてあんなことを……
「ところで白零殿。ひとつお聞きしたいことがあるのだが」
「ん? なんだ?」
俺が頭の中で考えごとをしていると、横からレイラさんが入り込んできた。
「白零殿の背中に背負っている剣はいったいなんだ?」
「ああ、これ?」
レイラさんが差しているのは、俺の背中に背負っている剣の事だ。
折れた日本刀ではなく、根元からは片刃で先端は両刃の、長く湾曲した剣だ。
「そういえばハクレイさんの剣、ずいぶんと大きい剣でありますね。まるでカルリトロス将軍が使っていた剣にそっくりであります」
「そうだよ。だってこれ実際カルリトロスが使っていた剣だから」
「…………え?」
ガルシャードが目を丸くして、見つめてきた。
そんなに驚く事か?
「……もしや白零殿。その剣はたしか白零殿のお腹に刺さっていた剣ではないのか?」
「あれ? なんで知って……ってそうか。俺を治療してくれたのはリュンピさんだからレイラさんもいたのか」
だとするなら俺の腹に剣がぶっ刺さったショックな所も見せてしまったかも。
「な、なんでカルリトロス将軍の剣を持っているのでありますか!?」
「ああー……実はな……」
オーリエ村襲撃がなんとか起きないまま終わった後、火蛇族の大多数はオーリエ村または里の風精族に連れていかれた。
そんでもって、その時火蛇族の武器も没収されたのだが、なぜかカルリトロスは捕まっていなかったのにカルリトロスの剣は没収されていた。
でもってそれが、オーリエ村にある外敵を一時収容するところにあったので、少々無理を言って貸してもらった。
そりゃまあ、いろいろと面倒な準備であったけど何とかなりました。
「そうでありますか……しかしなぜカルリトロス将軍の武器だけが……」
「…………」
こいつには言っていいだろうか。
カルリトロスが死んだことなど……
「白零殿、見えてきたぞ」
「え? …………あれは!」
どうやら頭の中でいろいろと考えながら歩いていたら見えてきた。
そこには、横一直線に広がる、巨大な石造りの壁のような建物だった。
壁には窓やら大きな扉やらついており、壁の上からもこちらを見ることができるようだ。
「あれが、風精族と火蛇族を繋ぐ国境砦だ」
「……あれが…………」
……さて、最初の難関だ。
人間と火蛇族と水妖族の、風精族を含めないこのパーティで、どうやって風精族領から火蛇族領まで移動するかだ。
なにせ、ガルシャードは敵対種族だからそう簡単に帰せるかどうか疑問だし、けど同盟の水妖族のレイラさんがいるけど……
……ああもう、ややこしい。
「悩む前に、まずは行くか」
「はいであります」
「わかった」
とにかくこのよくわからん面子のパーティで、風精族領国境砦へと向かったのだった。
2
そして、一時間後。
「……やっぱり駄目だったな」
「まあ、当然でしょう」
「駄目でありましたか……」
結果はご覧のとおり駄目だった。
国境砦を護る風精族のお兄さんに正直に用件を話したんだが、『ただでさえいろいろと緊迫して不安定な状況に、怪しい奴らの出入りを許さない』とのことで、突っぱねられた。
もちろん、ガルシャードは隠してみたんだが正解だったな。火蛇族を故郷の里へ帰すといったら止められかねん。
いや、今でも十分ダメなのだが……
「どうするでありますかハクレイさん。このままでは火蛇族領へは行くことができません」
「そうだな……どうするべきか……」
強行突破は……問題外だ。
顔覚えられたら千代にも迷惑がかかりそうだし。
かと言って、ゆっくりするなんてことはできないし……
同じ風精族に頼むにしろ、ラネットとディオンさんぐらいしか知り合いはいないし、そもそも頼めねえ。
同盟種族で偉いレイラさんがいても、所詮は同盟だから、あくまで風精族の事には深く干渉できない。
…………どうする?
「…………仕方がない。白零殿」
「ん? なんだ」
と、ここでいったいどうするべきかガルシャードと考え事をしていたら、なにか思いついたのかレイラさんが前に出た。
表情は常に真剣そうではあるが、今の状況だともっと真剣そうな気がする。
いったい、なにを……
「裏のやり方で私たちは国境を潜るとする」
「え?」
う、裏のやり方?
「レイラさん、そんなことができるの? それに裏ってことは、危険があるのか?」
「はい。少なくとも私は大丈夫だが、白零殿とガルシャード殿は無事で済むかどうか……」
「「え!?」」
俺とガルシャード!?
い、いったいなんなんだそれは……!
そんな危険な方法なのか……!
「どうする? お二人にリスクのある方法であるが、私にはこの方法しか考えられないと思う」
「そ、そこまで言うのか……!」
「い、いったいなんなのでありますか……」
すると、レイラさんは真剣な表情で、俺とガルシャードの顔を交互に見ながらその内容を言った。
それは……
「私の精霊術で、海から迂回する」
「「…………」」
…………え?
海から迂回?
3
と言う訳で……海中!?
「お二人とも、しっかり掴れ!!」
「がぼがぼがぼがぼがぼがぼがぼ!!」
「ぶぼぶぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ!!」
ちょ、ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
精霊術って言っても、ただ単に泳ぐレイラさんにすごい速さで引っ張られるだけじゃねーか!!
なんか速えーよ!! 何この速度!!
俺もガルシャードも息を止めている余裕が……
「………………………………」
「がふがぁーご?」
「…………………………ごぽっ」
「が…………がぶがぁーごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
意識が落ちているぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?
しっかりしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……………………」
「白零殿? 白零殿!? しっかりせよ、白零殿!!」
あ、もう……だめ…………
4
「……きろ…………殿…………!」
………………。
……………………。
…………………………。
「白零殿。起きろ!」
「ぶはっ!!」
はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……
…………あぁ?
「よかった……無事だったか……」
「レイラ……さん?」
あ……あれ……どうしちゃったんだ俺…………
なんか全身ずぶ濡れだし……見たことないところで寝っころがっているんだけど……
…………って!!
「俺を殺す気かぁ!!」
「すまない。しかし無事で何よりだ」
「なによりだじゃねーよ!!」
ったく……もし体中銃を仕込んでいる千代がいたら、どうなっていたか……
というか、俺は無事だからいいが……
「……もういい。それで、ガルシャードはいったいどうした? 大丈夫なのか?」
「ガルシャード殿なら、あちらの方に……」
「ん?」
レイラさんが指を指した方へ見ると、そこには地面に体育座り(?)をしているガルシャードの姿があった。
とりあえず命の危機はなさそうだけど…………
「…………」
すげーがたがた揺れているぞこいつ。
こっちに背中を向けて何かつぶやいているよ。
大丈夫か…………?
「おーい。大丈夫かガルシャード」
「……であります……であります……であります…………」
「……重傷だなこりゃ」
そら火蛇族があんなに水を浴びるようなことになったら、こうなるのも無理はないが……
すこしそっとしておくか。
「レイラさん。それでこんなことまでしたけど……」
改めて俺は周りを見渡す。
そこにあるのは見渡す限りの山、山、山……
それも、木が生い茂ってなんかいない。皆、山肌をむき出しにした状態だ。
全く見たことのないこの光景……
「本当に、国境砦を越えたのか?」
「そうだ。遥か後ろに、見えてくるはずだ」
「…………」
確かに……後ろの方に風精族の国境砦らしき建物が小さく見える。
ということは、今目の前に広がっているこの光景…………
「ここが……火蛇族領……」
国境砦を越えた先に見えた風景は、風精族領とはまったく違う光景……
風精族領の、草と岩と風のある平原とは違う。
見えてくるのは猛々しい数々の岩山と荒々しい大地。
荒んでいる……とは違う。どこか力強さを感じさせる風景だ。
「……よう、こそ……であります。……ハクレイさん」
「ガルシャード。お前はもう大丈夫なのか?」
「はい、であります。なんとか……」
なんかヘロヘロな状態だけど、なんとかガルシャードも立ち上がってくれた。
なんか死にそうな顔しているけど、本当に立ち上がっているよ。
「この先にあいつが……昼江がいるのか」
「はい。……とはいえ、里までまだだ遠いのであります」
「このまま何も問題がなければ、そのまま進めればいいが」
とはいっても、目立つようなものはまるでないな。
本当に山、山、山ばっかだよ。
しかも噴火している火山まであるじゃん。
「……気を付けた方がいい。この先、敵となる火蛇族に遭遇する可能性もあるから」
「わかったガルシャード。再び案内頼む」
「は、はいであります…………。まずは、ここから一番近い…………キャサレス村へ案内するであります」
「村?」
目的地はどうやら里ではなく村の様だ。
確かに日は暮れてはいるけど……
宿にでも泊まるのか?
「ちょっと待ってガルシャード。そのまま進むんじゃなく、村の方へ寄っていくのか?」
「ええ? はい、それはそうであります。実はその村には移動に便利な火鰐と言われるものがあります」
「火鰐?」
なんだそりゃ?
「火鰐とは、自分たち火蛇族の軍が移動手段に使われる大型の生き物であります」
「それって……まさかカルリトロスが攻め込んだ時に出てきたあの走る鰐のことか?」
「あ、はい! そうであります」
まさかあの鰐に乗って進むというのか……?
「火鰐は火蛇族の移動手段に使われる鰐で、あらゆる地形の移動に優れ、なおかつ速く、その上スタミナも高いのであります。自分たちがここから里へ移動するにはまず、飼育で乗用に慣らされた火鰐をキャサレス村から調達しないとなりません」
「ちょっと待て。お前の言う、キャサレス村とやらはその乗用に教育された火鰐がたくさんいるってことなのか?」
「はいであります。実は、キャサレス村の近隣に、野生の火鰐が多く生息する箇所がありますので、それを捕まえて里に売って生業にしている者がいるであります」
「なるほど。つまりガルシャード殿は、その村で火鰐とやらを調達し、それで私たちを乗せて急いで里へ向かうという事なのだな」
「はい。そう言う事であります」
へぇ……なんとまあ、そんな移動手段の確保があるとは……
……ん? ちょっと待てよ?
「なあ、ガルシャード。いったいどうやってその村から火鰐を仕入れるのか知らないけど、大丈夫なのか?」
「大丈夫であります。自分、ちゃんと当てがあるからこうして提案しているのであります」
「そうか……」
だったら問題はないか……
「問題なく火鰐の確保はできますので、ハクレイさんもレイラさんも安心して自分を信じてくださいであります」
「……よしわかった。頼むぞ」
ガルシャードが自信満々なので、そこはガルシャードに任せて、とにかく火蛇族の村へと向かったのだった。
5
「見えてきました。あれがキャサレス村なのであります!」
「ようやくか」
「案外遠くはなかったな……」
と、いうわけで時刻は夕方、火蛇族領のある所にて。
ガルシャードから風精族領に最も近い、火蛇族領のキャサレス村って所に到着した。
特徴としては、なんか、屋根も壁も全て石……いや、煉瓦か? まあ、そんな感じのつくりの建物だ。
とりあえず、距離的には遠くはないが、国境砦から迂回やら何やらで、すっかり夕暮れになってしまった。
早く村で一休みしたい気持ちがあるのだが……
「ハクレイさん。レイラさん。一つ気を付けておきたいことがあります」
「なに?」
「なんだ?」
村の入り口が見えた所で、ガルシャードが振り返ってなにかを言ってきた。
気を付けておくこと? まあ、大体予想はつくが……
「自分たち火蛇族は、そのほとんどがその……あまり迷い子や水妖族に対して、友好的とは言い難いのであります。特に迷い子に対しては、外見は風精族に酷似するものの、やはり根から異邦人に対してはその……」
「……つまり、俺やレイラさんは正体を隠して村の中を歩け、と?」
別に俺は構わないが、隠しきれることができ……
「いえ、違うのであります」
あれ、違うのか?
じゃあいったい……
「正体を隠したところで、今の火蛇族には、自分たち以外の種族を快くは思いませんから、正体がどうであれ、隠す時点で怪しまれるのであります。どの道正体がばれるのではないかと思うのであります。ですから……」
ガルシャードが、どこか躊躇いがちに言葉を出してくる。
なんか、とても言いにくそうな感じが……
「ハクレイさんやレイラさんには、たとえ村の火蛇族にどんな酷いことを言われても堪えてください。理不尽なことだとわかりますが、その……」
「…………わかったよ、ガルシャード」
なるほど、そう言う事ね。
嫌われても怒らないでくれ、無駄に争い事を起こさないでくれ、と。
「レイラさんは、それでいいのか?」
「構わない。よほどの事がない限り耐えるとしよう。しかし、三年前と比べて随分と変わったな……」
「そ、そうでありますね……昔はこんなこと言わなくても大丈夫なのでありますが……」
……俺には三年前と言うのがどういう事かは知らないが、なんつーか、そんなところにまで人間嫌いが広くなっているんだな。
やれやれ、保守的というか、それとも別の要素か、ここに迷い込んだ人間の事を思うと難儀としか……
……そうだな。
「なあ、ガルシャード。変なことを訊いていいか?」
「なんでありますか?」
「そう言うお前は、初対面の俺に対してはあんまり嫌悪する様子はなかったな」
「え?」
「いや、失礼な考えだと思うが、お前は人間の事を悪く思ったりはしないのか?」
「それは……」
なんつーか、行く先行く先、こいつ以前にろくな火蛇族に会ってないんだよな。
まあ、いちいち不審になんてなったりはしないが、こいつはいったいどう思うのか少々気になることで……
「…………不思議にと、思っているからであります」
「不思議?」
「はい」
返ってきたのは、どうも曖昧な返事だった。
嫌っているわけでもいないわけでもない、変わった返事だった。
ガルシャードも、本当の事は分からないのか、言葉を濁しながらも言う。
「自分たち火蛇族は、確かに他種族もそうでありますが、迷い子の事を悪しざまに言うであります。しかし三年前の時点では、そう思う物は今よりも少ない方でありましたし、それにそういう火蛇族自体、どこか怖く感じられるのであります」
「自分と同じ種族に、恐怖しているのか?」
あれか? 『あいつが悪いぞ』『あいつに話しかけるな』って強制的に言わされて嫌になる、いじめっ子みたいなものか?
変なたとえだけど。
「はい。自分はその人間に何度も救われたことがありましたから」
「……そうか」
少なくとも、ガルシャードは人間を嫌ってはいないようだ。
俺は……ほんの少しだけほっとした。
言いたいことは終わったか、ガルシャードはこれ以上は何も言う事はなく、先へと進んだ。
「ささ、それよりもハクレイさん、レイラさん。村に入るところ申し訳ないと思うでありますが、自分の約束を守ってくださいであります」
「ああ、わかった」
「了解した」
とりあえず俺たちは積もる話を後にして、火蛇族の村へと入ったのだった。




